再会祝い
「サディナお姉さん、隣の人は?」
お姉さんはお義父さんに顔を向けて尋ねますぞ。
「君がラフタリアちゃんだね」
「この人はね。盾の勇者様であるナオフミちゃんよ」
「え? 盾の……勇者様?」
「ええ」
「ラフタリアちゃんだね。俺は盾の勇者の岩谷尚文って言うんだ。会えてうれしいよ。これからどうかよろしくね」
「リファナちゃんが……会いたがっていた。盾の……」
「うん……凄くつらい経験をしたのは知っているよ。よく耐えたね。とても立派だったよ。もうこれからは君を傷つけさせたりしないから……」
お義父さんがお姉さんにやさしく語りかけておりますぞ。
お姉さんはぼんやりとした瞳でお義父さんを見つめておりました。
「今はゆっくりと休んで。大丈夫……もう、誰もラフタリアちゃんを傷つけることはないから……」
「波はナオフミちゃん達が終わらせたわ。ラフタリアちゃん、またこの村で一緒に住みましょうね」
「はい……」
お姉さんは頷き、お姉さんのお姉さんを見つめてからベッドで大人しく休んでおりましたな。
それからお姉さんのお姉さんはお姉さんにいろいろとやさしく語っておりましたぞ。
やがてお姉さんはまだ疲れが取れないのか静かに寝息を立て始めました。
「……次に目が覚めたらおなかが空いているだろうから、少しずつ元気になれるように料理を作っておかないとね」
「そうね……」
お姉さんのお姉さんがとても優しげにお姉さんが静かに寝られるようにお姉さんの手を握っておりましたぞ。
ちなみにお姉さんのお姉さんはお姉さんがわかりやすいように獣人姿でおりますな。
何か理由があるのでしたかな?
「眠ったみたいだな」
「その様ですね」
外野で邪魔だと自ら判断した錬と樹とライバルが戻ってきましたな。
「生きていてよかったですね。サディナさん」
「ええ……奇跡って本当にあるのね」
やがてお姉さんのお姉さんは朗らかにお義父さんに笑いかけたかと思うと。
「ラフタリアちゃんとの再会祝いでパーッとお酒飲みたいわー」
錬と樹があきれたようにガクッと肩を落としますぞ。
「なんでも酒を飲む理由にしてるでしょうがあなたは」
「本当……空気が持たないやつだな尚文」
「あはは……サディナさんらしいね。ただ、気持ちはわかるような気がするよ。あんなに落ち込んでいて死んだと思っていたラフタリアちゃんと再会できたんだもの。祝いたいよね」
「ええ! それでナオフミちゃん。ほかにも考えなきゃいけない事ができたわよ」
お姉さんのお姉さんがお腹をさすり始めましたぞ。
「ラフタリアちゃんと再会できたって事だからこの子が女の子だったら名前どうしようかしら?」
「あー……そうだね」
「なんですか尚文さん。もしかしてサディナさんとの子供で女の子が生まれたらラフタリアと名付けるつもりだったんですか?」
「理解はできるな」
どうやらお義父さんとお姉さんのお姉さんは生まれる子供の名前をお姉さんの名前にする予定だったようですな。
「まあね。サディナさんと話をして決めてたんだ」
「男の子だったらどうしたんですか?」
「そっちの名前もサディナさんは決めてたよ」
「ま、改めて名前を決めればいいだろ。いや、元康かガエリオンにでも聞くのも良いかもしれないぞ。尚文とサディナの子供がいる並行世界があるならだけどな」
「あるなの。でもそれを教えるってのは無粋だと思うなのー」
お義父さんとお姉さんのお姉さんの子供の名前ですかな?
どんな名前でしたかな? お義父さんとお姉さんの子供の名前すら俺は曖昧ですぞ。
「なんでも元康くんやガエリオンちゃんに聞けば良いってことじゃないでしょ。それも決めていけばいいよ。時間はまだあるんだからさ……ラフタリアちゃんとも会えたんだしね」
「それで尚文さん。この子を育てて肉欲の宴へと招待するんですね。運命の方なのですからやりますよね」
「あらー……」
ここで樹がお義父さんに尋ねますぞ。
「樹……君は相変わらずだよね。いい加減にしないとそろそろ本気でハゲヘッドホンをむしり取ってフレオンちゃんの音波で正義に覚醒させるよ?」
あわわですぞ!?
お義父さんがコウを叱りつける時と同じくらいの殺気を放って樹を脅しておりますぞ。
「冗談じゃないですよ! 言って良い事と悪い事があるんですからね!」
「言ったのは樹でしょ! そもそも元康くんにリーシアさんに童貞をフォーユーって言われて怒った癖によく言えたもんだよ!」
こんな幼い女の子に手を出すとか……と、お義父さんがあきれておりますぞ。
「そもそも好きになった人の妹に手を出す訳ないじゃないか」
「ですがイミアさんの例がありますからね……ラフタリアさんが尚文さんに好意を抱くのも時間の問題かもしれませんよ。それくらいの覚悟はすべきではないんですか?」
「うっ……」
お義父さんは助け船にとばかりにお姉さんのお姉さんに視線を向けました。
確かにお義父さんは子供に手を出す様な人ではありませんな。
事実、お姉さんと結ばれた最初の世界ですら、恋人関係になるのに時間が掛かりました。
以前の俺がお義父さんとお姉さんがそういう関係でない事を驚いていた位ですぞ。
つまりお義父さんはお姉さんや虎娘の様な者と結ばれるのはレアケースなのですぞ。
とはいえ、この世界ではお姉さんのお姉さんがいる関係で自分の感性を信じられない様ですな。
「くっ……」
「大丈夫よ。さすがにラフタリアちゃんを誘ったりはしないわ」
「うん、あれだよ、盾の勇者補正があってもさ、義理の妹という路線でお願いね」
さすがのお姉さんのお姉さんも今のお姉さんを巻き込んだりはしないみたいですな。
とはいえお姉さん自身がぐいぐい来る最初の世界みたいな状態だったらわかりませんぞ。
まあこの世界のお姉さんはどうなのかわかりませんがな。
「義理の妹ですか……元康さん、貴方から何か言う事があるんじゃないですか?」
「お義父さん、義理の妹では恋愛関係になってしまいますぞ!」
「いや、元康くんの過去がそういう感じなのは知っているけどね? 姉と結婚しているのに、その妹に手を出すのはどうかと思うよ?」
そうなのですかな?
昔の俺は双子の豚と仲良くしたものですが?
他にも妹を名乗る豚が星の数ほどいましたな。
しかし、やはりお義父さんの貞操観念は強固ですな。
これを壊した最初の世界の虎娘は中々のモノですぞ。
とはいえ、最初の世界のお義父さんも分別は出来ていたと思いますがな。
「樹、お義父さんをからかうのはほどほどにしないと俺が怒りますぞ」
「元康さんには一番言われたくないですね。こっちがどれだけ迷惑を被っているか……」
俺の威圧さえ受け流しておりますぞ。
いい加減、フレオンちゃんの正義に目覚めさせたほうが静かで良いのではないですかな?
「錬はわかるよね!」
「俺にその話を持ってくるな。最初の世界をなぞらなくてもいい。ただそれだけだろ、なぞることを強要するのはどんな理屈だ!」
おお、錬がお義父さんを擁護しますぞ。
ですが最初の世界の錬がこの錬の言葉で悲しげな表情を浮かべるような気がするのは気のせいですかな?
「そりゃあ錬は独り身だけどさ……ウィンディアちゃんとも進展ないし、エクレールさんともね……うん。最初の世界を全部なぞらなくてもいいんだ」
「錬さんの場合、ブラックサンダーさんも仲間であって恋人にはなりたくないそうですもんね。恋人がいると生活に潤いができますよ」
ちなみに樹は一応リースカの世話をしているのですぞ。
だいぶリースカも元気を取り戻しておりますな。
俺達の知識をもとにリースカの強化も徐々にしていく予定ですぞ。
「うるさい! 黙れ! 最初の世界が絶対じゃない!」
逆に錬は助手やエクレアと特に何事もない状況ですからなー。
やはり運命のフィロリアル様であるブラックサンダーと楽しく過ごすのが良いのではないですかな?
「俺は……いや、なんでもない」
「開き直るとブラックサンダーさんを呼び寄せますもんね。一人が好きとか孤独を愛するとか孤高なんだとか言いそうでしたね」
「俺はどうしたらいいんだ……こんどエクレールにフラれるために花束でも担いで突撃しよう。それがいい。かっこ悪いしな」
「巻き込まれるエクレールさんが困ると思うよ……」
「お姉ちゃんも剣の勇者は眼中にないし……誰か良さそうな恋人を新たに作るなの!」
などと錬が一人黄昏ておりました。
「う……うう……」
「おっと、ラフーがうなされ始めたなの。なおふみとサディナはしっかりと世話するなの」
そういえばこの次のループで出会ったお姉さんが苦しそうに夜泣きするのでしたな。
どうやらその症状が出るようですぞ。
「僕たちがここで騒いだからじゃないんですか?」
「まったく否定できないからみんな解散してね」
「あらー」
ともかく、お姉さんがこうして村に戻ってきたのでした。
それから一週間ほど経過しました。
村はほぼほぼ復興しましたぞ。
お姉さんはお義父さんとお姉さんのお姉さんの手厚い介護のおかげで徐々に元気を取り戻しておりますな。
そんな日のことですぞ。
「槍の勇者ー!」
ライバルが前にも見たようなテンションで俺のもとへとやってきましたぞ。
「なんですかな、ライバル! 俺は忙しいのですぞ」
俺はユキちゃんの村での走り込みの手伝いをしているのですぞ。
まだまだ世間ではユキちゃんの活躍が広まっていませんからな。
ユキちゃんは走るのが大好きなので、その足の速さをアピールしてどんどんレースに出場させるのですぞ。
もちろん、今までのループでもユキちゃんは大活躍でしたぞ。
「ユキちゃーん! ドライブモードで練習相手をしますかなー?」
フレオンちゃんと再会したループでユキちゃんが喜んだ並走をユキちゃんに提案しますぞ。
「け、結構ですわ、元康様! ユキは元康様に見守ってもらうだけで百人力ですわ!」
おや? ユキちゃんに断られてしまいました。
いずれやりますかな?
「なのなの。ユキも色々と受け入れがたいってことなの。わかったなの」
「何がわかったのですかな?」
「いやな予感がしますわね!」
ですな!
ライバル! お前は何を企んでいるのですかな!?
「この話は良い話なの。良いから聞けなの。前にやったから覚えているはずのコレなの」
そういってライバルは毛髪を出しますぞ。
この流れには覚えがありますな。
「またお姉さんの毛ですかな? この世界のお義父さんが喜ぶのですかな?」
フレオンちゃんと再会した世界でのお義父さんにラフ種を作って差し出したらとても気に入ってくださいましたがこの世界のお義父さんは喜んでくださるでしょうか?
そもそもバイオプラントが無いので代用植物での作成ですぞ。
やや難易度があがるのですな。
一応、考えますぞ。考えてみればこの次の世界でのお義父さんが最初の世界のお姉さんが化けていたラフ種を拾ってきた時がありましたぞ。
かわいらしい魔物だとおっしゃっていたので気に入ってくださるような気はしますな。
「あのなおふみ程は喜ばないと思うけど作ってあげると良いなの。ほんと、守護霊はこっちを望むけど、よくわからない性質なの。先祖の血とかなの?」
「元康様! 聞き入れてはいけない気がしますわ!」
ユキちゃんの意見ももっともですな。
ライバルの言っていることがよくわかりませんぞ!
「なの? そういえばユキ、お前は空を飛ぶとかに興味は無いなの? ついでに槍の勇者に改造してもらえば空を飛べるなの。フィーロは望んだなの」
「ユキは走るのが好きなのですわ! 空に興味などありませんわ!」
「どこの世界でもユキは変わらねえなの。今度サクラに聞いて見たほうが良さそうなの」
「サクラちゃんに何をするつもりですかな!」
「わかってるくせに聞いているなの。やるのはお前しかいないなの」
「あ、いた! こっち! はぁ……はぁ……はぁ……」
なんてやり取りをしていると幼い姿のお姉さんがお義父さんとお姉さんのお姉さんを連れてやってきました。
何やらお姉さんは慌てた表情をしていますな。
「待ってラフタリアちゃん」
「あらー?」
お義父さんがやってきて俺とライバルを見つめますぞ。
「ガエリオンちゃん、ラフタリアちゃんから聞いたんだけど……」
「あのね。この子がさっきわたしの後ろでゴソゴソと拾って『ラフーの毛、ゲットなのー!』って走って行ったの。だから急いで盾の勇者様とサディナお姉さんに報告したの」
お姉さんのお姉さんの後ろに隠れるようにお姉さんが事情を説明しました。
おお! さすがお姉さん!
状況分析と即時対応が素晴らしいですな!
この様な状況であればお義父さんを呼んでくるのが大正解ですぞ。
フレオンちゃんと初めて再会したループのお姉さんは気付いてすらいませんでしたがな。