守護霊
そんなこんなで村の復興が進んで来て、建物が増え、賑わいを見せて来たある日の事ですぞ。
「この村周辺で謎の魔物の目撃がされている?」
「ええ、村の子供達や派遣された兵士達がちらほら見たとの話が来てますね」
樹がお義父さんに報告しますぞ。
「元康くん、ガエリオンちゃん、何か分からない?」
「そんな話ありましたかな?」
俺が首を傾げているとライバルが何か分かっているかのように答えますぞ。
「お? そろそろ見つかるなの?」
「ガエリオンちゃんは心当たりがあるの?」
「なの」
「どうせ碌な事じゃないんじゃないですか? どうも僕達をおもちゃにして遊んでいる節がありますし」
「そうだな。お前と元康の所為でどれだけ俺達が大変なのかわかってるのか!」
錬と樹からの信用が落ちていますぞ。暴れられるより前に、早く覚醒させた方が良いかもしれませんな。
「ガエリオンの所為じゃなくて槍の勇者の所為なの」
「あなたも共犯みたいなものですよ。まったく」
「で、何かあるのか?」
「なんでも答えを知ることだけが全てじゃないなの。とにかく、なおふみとサディナは村の者達と一緒に調査に向かうなの」
ライバルが勝手に指示を出しますぞ!
「お義父さん、従う義理は無いのですぞ!」
「この場合、元康さんに敵対する形でガエリオンさんに賛同するのが良いかもしれません」
「いや、関わり合いに成らない様に逃げるのはどうだ?」
錬と樹が間に入ってきて邪魔ですぞ。
「まあまあ……俺とサディナさんを御指名かー」
「あらー何かあるのかしらね?」
ちなみにお姉さんのお姉さんは機嫌よく自分のお腹を撫でるようになって来てますぞ。
酒を飲む量も減ってきているとお義父さんも仰っておりますな。
とても幸せそうなお姉さんのお姉さんですぞ。今までのループ内でも一番お義父さんと仲良くしておりますな。
「ガエリオンちゃん、錬や樹に迷惑が掛かる結果になる?」
「今回はならないって約束をするなの」
「今回はってなんですか!」
「じゃあ調査に行ってみようか」
「お義父さん! ライバルの言う事に従うのですかな!?」
「悪い話じゃないみたいだからね」
「むしろ槍の勇者。お前、ワザと忘れているんじゃないなの? あ、お前はショックを受けていたから知らなくても不思議じゃないなの」
ブツブツとライバルが訳のわからない事を言ってきますぞ。
とても歯がゆい事を言いますな!
「もったいぶらずに何があるのか言えですぞ! 黙っていて人をからかうのはいけないですぞ、ライバル!」
「ここは突っ込むべきでしょうね! 元康さん! 貴方が言うな!」
「そうだそうだ! お前の説明はいつも妙なタイミングで入っていて俺達は察するのに苦労するんだぞ!」
「あなたも味わうべきなんですよ! 因果応報なんですから!」
錬と樹がやかましいですぞ!
いい加減この二人にパラライズランスで動きを封じてフレオンちゃんとブラックサンダーとの絆を確かな物にする為に衣装チェンジさせてやりますかな!
俺が殺気を放った所でお義父さんがため息をしましたぞ。
「まあまあ……とにかく、今回は流れに乗ってみようよ。何が起こるか分からないのが人生なんだしさ、なんでも元康くんやガエリオンちゃんに聞いていたら面白くないでしょ?」
「いえ、事前に何が起こるか分かっていたから僕たちは道を踏み外さず自分を保てているんです! ウザキャラとして道化を演じずに済んで居るんですよ!」
「ああ! 身勝手な行動で酷い目に遭うより攻略本のある人生が欲しい! 予知された決められた運命? 大いに結構だ! 覚醒なんてごめんだ!」
「はぁ……錬も樹も大分病んで来てるなぁ……と言うか何も信じる事が出来なくなってきていると言うか……」
「ワイルドなおふみ化が進んできてるなのー」
「それもどうなんだろ……」
「相変わらず勇者達はボッケボケだねぇ……」
などとパンダが呆れたように言った所で錬と樹は我に返ったように小さく咳をしたのですぞ。
「ガエリオンがループしてからますます変になってきちゃった」
助手も嘆いてますぞ。ライバル、お前はどんどん周囲の評価を落として行ってますぞ! ざまあみろですぞー!
なんて感じで話をした後、お義父さんとお姉さんのお姉さんを先頭にして村の者達を連れて件の魔物退治へと俺達は揃って行く事になったのですな。
そうして……村周辺の地形をザックリと歩き回り、海岸沿いの墓地近くへと来た所ですぞ。
霧の様な物が立ちこめてきましたな。
「なんか出そうな雰囲気ですね」
「村の者達の墓地近くだな」
錬と樹が周辺を警戒しながら周囲を見渡しますぞ。
墓地……ふと、フィロリアル生産者の牧場がタクト一派に襲撃を受けた後の事を思い出しますぞ。
おそらく、あの時ユキちゃん達が倒した者達はフィロリアル様の成れの果てだったのでしょうな……。
この世界にはアンデッドがありますぞ。
幽霊などの類も魔法で殲滅する事が出来ますな。
あの時はユキちゃんに感謝ですぞ。
俺は思わず連れてきたユキちゃんの頭を撫で撫でしますぞ。
「元康様……嬉しいですわ」
ですがこの場所でこの様な現象が起こるのはありましたかな?
なんとなくですがこの霧の様なもの……お姉さんやラフ種が魔法を使って幻覚を見せる際に見る様な気が……。
「どうやら出会えそうなの」
ライバルが言った所で俺達の先……霧の先から青白い陽炎の様な物で構築されたイタチ……コイツ見覚えがありますぞ!
「お義父さん! この魔物は見覚えがありますぞ! このループでお姉さんのお姉さんの島で見ましたぞ!」
よく確認するとイタチを大きくした様な魔物だったのですな。
「このループ?」
「ユキちゃん、覚えがありますな?」
「もちろんですわ! サディナさんの島で元康様と林を歩いていると藪から出てきた魔物ですわ!」
俺の問いにユキちゃんが頷いてくれますぞ。
「元康様が攻撃しようとした所で凄い逃げ脚で逃げたのですわよ」
「今度こそ逃がしませんぞ! エイミング――」
「槍の勇者ストップなの!」
ここで何故かライバルが制止しますぞ。
ユラァっと青白い陽炎で構築されたイタチは前にあった時と同じく立ち止まり狸姿に変わりました。
「この魔物は一体……」
警戒をする俺達を余所に魔物は俺やお義父さん、錬や樹ではなく、お姉さんのお姉さんや村の者達、そして村の方へと静かに顔を向けてから静かに頷くように頭を下げましたぞ。
「あれは……?」
「……あれ?」
村の者達が首を傾げているとお姉さんのお姉さんが警戒しながらお義父さんと一緒に魔物に近づいて行きますな。
フッと霧が晴れて行きますぞ。
「――――!」
声に成らない声を一鳴き、謎の幽霊の様な魔物は遠吠えをするとお義父さんとお姉さんのお姉さんの前で霧散して消えました。
そうして消えた所には人影……幼い姿の……なんと!
そこには幼い姿のお姉さんが姿を現し、そのまま前のめりに倒れ始めましたぞ。
「危ない!」
お姉さんのお姉さんが飛び出してお姉さんを抱きとめ、お義父さんが続きました。
「ラ、ラフタリア……ちゃん?」
「え? あの魔物がラフタリアちゃんに?」
村の者達が揃ってお姉さんのお姉さんに抱きとめられた意識の無いお姉さんを見て驚きの声を上げております。
「知っている子の様ですね」
「確かラフタリアって……」
「ええ、尚文さんの運命の相手と言いますか、右腕にしていた子のはず」
「生きていたのか!?」
驚く周囲の者達を気にせずお姉さんのお姉さんはお姉さんを抱きしめて呼吸を確認していますぞ。
「ああ……ラフタリアちゃん、生きていたのね……」
お姉さんのお姉さんの目から涙がこぼれております。
普段の楽しげな様子は微塵も無く、心の底から喜んでいるのが見ている俺達の目にも一目でわかりますぞ。
そんなやり取りをしている合間にライバルは何故か両手を広げて何やら魔法を唱えていたのですぞ。
何をするつもりですかな?
などと思っていると周囲の何かがライバルの手に収まり結晶化しました。
その結晶には見覚えがありますぞ。
確か以前のループでお姉さんを模したラフーな魔物に入れている守護霊とかなんとかですな。
「守護霊回収完了なの。危うく霧散してしまう所をどうにか出来て良かったなの」
そう言い終わるとライバルは結晶を仕舞いますぞ。
「ガエリオンちゃん、もしかして……」
「なの」
お義父さんの疑問にライバルはコクリと頷きましたぞ。
「でも、なんで……確かラフタリアちゃんの記述は死んだって……」
「死体は見つかってなかったはずなの。それとなおふみ、野生の世界では擬死を行う魔物は珍しくないなの。だから不思議でもないなの」
死んだフリという奴ですな。
息を殺すのはもちろん、この世界では魔力や魂を利用した手もありますぞ。
タクトのホムンクルスなども広い意味では同様の事が出来ますな。
「そんな事が出来る、このラフタリアさんって何の亜人なんですか?」
「なおふみ達の基準だとラクーン……ラフーはタヌキの亜人だって話なの」
「なるほど、タヌキですか。つまり擬死、タヌキ寝入りをして死を偽装する事が出来た訳ですね。ですが病気まではどうにもならないはずでは?」
「まあ、そこは色々と生きる意志が介在したと思ってくれて良いなの。せめてラフーに生きてほしいと願ったリファナが魂を賭して助けたと思って良いなの」
ライバルが分かった様な物良いで言いました。
そう言えばお姉さんのご友人も既に亡くなっていらっしゃるのでしたな。
「とはいえ、保護出来ただけなの。なおふみ、回復魔法を施しながら急いで安静に出来る所へ運ぶなの!」
「そ、そうだね! みんな! 急いで帰るよ!」
「うん!」
お義父さんの指示で村の者達は頷き、急いで俺達は村へと帰り、幼いお姉さんの手当てを行ったのですぞ。
お姉さんのお姉さんはお姉さんに付きっきりで容体を見守っております。
幸いにしてお姉さんは衰弱こそありましたし、時々強く咳をする事がありましたがお義父さんがイグドラシル薬剤を服用させた事で容態は急速に良くなって行ってますぞ。
「ガエリオンさん、リファナさんとは……この村の者ですか?」
「なの。ラフーの友達でラフーの目の前で亡くなった村の者なの」
「うん……リファナちゃんは村の仲間だよ」
村の者達が頷きますぞ。
「リファナちゃんも……亡くなってるんだよね」
「なの……正直に言ってリファナを助けるのはループしている槍の勇者でも召喚された当日にループして問題を解決しながら迅速に助けに行かなきゃ無理な相手なの」
「そうなんですか……」
「本来だとこの次のループで槍の勇者が上手く立ちまわってラフーのついでに助けた相手なの」
「ああ……そういや元康に尚文とサディナが頼んで居たもんな。上手く行ったのか」
懐かしいですな。
この次のループでお義父さん達の頼み通りお姉さんを助けたのですぞ。
まさかこのループで生きているとは思いもしませんでしたな。
「ガエリオンちゃんは知っていたんだね」
「なの。実はなおふみがガエリオンと相思相愛になったループで後日調べたら、サディナとラフーが再会していたのがわかったなの。どうやらサディナが村の者達を連れてエクレールが統治するこの地にしばらく戻った所で出会えたって話だったなの」
そんな事があったのですな。
あの頃の俺はお義父さんへの反感からフィロリアル様と一緒にしばらく旅に出ていましたからなー……。
「だからガエリオンちゃんは村の復興に関して協力的だったの?」
「お姉さんにも勧めて来たわよね」
「なの。どうなの? ガエリオンのサプライズなのー」
胸を張るライバルにお義父さんとお姉さんのお姉さんが嬉しそうに微笑んでおりますぞ!
騙されてはいけませんぞ!
素直に言えば良いだけなのにライバルはお義父さんを狙っているのですぞ!
「ライバル、お姉さんのお姉さんからお義父さんを寝取ろうとしたってそうは行きませんぞ!」
「あらー? なおふみちゃん。お姉さん、ガエリオンちゃんになおふみちゃんを寝取られちゃうの?」
「されないされない。ちょっと回りくどいけど、ガエリオンちゃん、ありがとうね」
「ありがとう、ガエリオンちゃん。今度宴に招待するわ」
「いや、それはちょっと……」
「なのーん!」
お義父さんの笑みが苦笑いに変わりましたぞ!
「は、はは……」
「う……う……ううっ……」
なんてしているとお姉さんから声がしてゆっくりと目が開かれましたな。
「ここは……」
「ラフタリアちゃん、目が覚めた?」
「さ、サディナお姉さん……? あれ? わたし……」
一体何があったのかよくわからないと言った様子で起き上がろうとするお姉さんをお姉さんのお姉さんは寝るように肩に手を置きますぞ。
「まだ起きなくて良いわ。ラフタリアちゃん」
「でも……わたし……確か……」
「ええ……大変だったわね。でももう大丈夫よ」
「すごく……ぼんやりとしてて……よく思いだせないけど、わたし……一緒に……村を探してて……」
「ここは村よ。お姉さん達が再建したのよ。だから安心して、お姉さんもラフタリアちゃんに会えてとても嬉しいわ」
「そう……」
お姉さんの手をお姉さんのお姉さんは優しく握ってお姉さんの頬を撫でております。