パワーアップ
「ササちゃんが嫌ならーガエリオンちゃんも参加するー?」
お姉さんのお姉さんが事もあろうにライバルに誘いの言葉を投げかけますぞ!?
「なのーこのループのなおふみにふられるの分かってるから諦めてるなのー」
「ライバル! お前もいい加減お義父さんを諦めろですぞ」
「諦めてるって言っている相手に諦めろって……」
「これがライバルの戦略なのですぞ! きっとお義父さんの同情を誘って浮気をするつもりなのですぞ」
「ガエリオンを好きって言ってくれたなおふみは「別のループの俺が嫌がらず、迷惑を掛けず、ガエリオンちゃんが迫らずに好いていたなら良いよ」って言ってたなの。ただガエリオンの心の処女はあのなおふみに捧げたのは誓ってるなの!」
く……力強く言い切りましたぞ!
ライバルめぇ!
「だからなおふみ、嫌ならガエリオンは相手をしないなの。これはガエリオンの誓いなの」
「ガエリオンちゃんはループを経験して大人になったんだね」
「あらー」
「サディナさんも狙わないの」
「それに引き換え槍の勇者様ってのは全く変わった様子がないねぇ……」
「うるさいですぞパンダ! 元はと言えばあのお義父さんにライバルより先にお前が童貞を奪わなかった所為なのですぞ!」
「そんな事を言われてもねぇ。あたいにはどうしようもないさね」
ボリボリとパンダが腹を掻きますぞ。
最近よく腹をパンダは掻くようになりましたな。
「そもそもパンダ。お前はどうしてお義父さん相手だと奥手なのですかな! 傭兵なら処女では無いはずですぞ。もっと軽く行くのですぞ!」
「え?」
「あらー?」
ここでお義父さんとお姉さんのお姉さんが言いました。
「失礼な奴だねー槍の勇者ってのは。そりゃあ、あたいみたいな傭兵をやってる女ってのはそう言うのがいるのは分かってるけどね」
「えーっと……」
お義父さんが何か言おうとしておりますが何も言ってきませんぞ。
「槍の勇者。パンダは失い話が無い限りどのループでも処女なの」
なんですとー!?
このパンダ傭兵なのに処女だったのですかな!?
「百戦錬磨の寝技を熟知した傭兵嬢じゃないのですかな!?」
「傭兵への熱い風評被害ですね」
「元康くんの頭の中でラーサさんってどんな人なんだろう」
「義父が商売関連で顔の広いクジャク獣人で子供好き、祖父が武道家で気の使い手、初恋の相手が虎男の父親の傭兵ですぞ。実家は――」
「あたいの全てを見聞きしてきやがったんじゃないかい!? それでなんで知らないんだい!?」
パンダがガバッと起き上がって俺を睨んできました。
なんですかな?
俺はお義父さんの質問に答えただけですぞ。
「さすがになおふみとの夜にのぞき見や聞き耳とかはしてねーなの」
「お義父さん、パンダの実家に遊びに行きますかな?」
「この流れでなんで誘う形に?」
「勘弁してくれってんだよ!」
「あらー素敵ね。ササちゃんの故郷ってどんな所なのかしら?」
「パンダが沢山いる雪山奥地のド田舎な村って感じですぞ」
まさにそんな感じですぞ。
「なんか夢があって楽しそうな場所だね」
「絶対に来るんじゃないよ!」
「そこはいずれ、なの。槍の勇者の中でパンダはきっと腰の軽い雌って認識だっただけなのー」
「まあ……色々と世の中不思議ではあるよね。サディナさんもそうだったし」
「あらーナオフミちゃん意外そうにしてたわよねーお姉さんがエッチだと思った?」
お義父さんがそっと顔を逸らしておりますぞ。
「エッチかそうじゃないかと言ったらエッチじゃないかなーそのあとの事を考えるとー」
「むしろよく残してたもんだね」
「あらーだってお姉さん、お酒の強い人と付き合うって決めてたんだもーん」
「そんなブリっ子してもなー……」
「とんだ獣を放っちまったって感じだねぇ。まあ……あたいも別に気にしちゃいないし、盾の勇者様と付きあったって経歴で傷は無いんだけどね」
お義父さんの役職の効果は大きいのですぞ。
ちなみにこんなやり取りをしている隣でエクレアが酔い潰れているのですぞ。
「イミアちゃんとも楽しい宴になるのを待っているわ」
「はぁ……」
乙女な顔をしたお姉さんのお姉さんが印象的でしたぞ。
「錬や樹がここに居なくて助かったよ」
きっと錬はブラックサンダーと一緒に楽しく打ち合わせで夜を明かし、樹はリースカと楽しくやっているはずですぞ。
フレオンちゃんがこの周回でややさびしげなのが気になりますな。
キールの居ないルナちゃん現象ですぞ。
近々誰か遊び相手を紹介しなくてはいけません。
「そう言えば最初の世界のお義父さんがモグラは小さい頃のお姉さんに重なって可愛いと仰っていましたぞ」
「イミアちゃんが? そうなの、サディナさん」
「あらー?」
「イミアお姉ちゃんは確かにラフーが保護出来た際に似た性格なのは間違いないなの。なおふみに対してって条件が付くなの」
「あー……イミアちゃんって家族を目の前で殺されてるからね……」
お姉さんも波で両親や村の者達を失いましたからな。
境遇が似ているのは間違いありませんぞ。
「じゃあラフタリアちゃんが生きてたらイミアちゃんに似てるのね」
お姉さんのお姉さんが思い出をかみしめるように呟きましたぞ。
「なの」
ライバルがここで頷きました。
お義父さんがお姉さんの話を聞いて微笑むお姉さんのお姉さんの手を握って共に笑っておりますぞ。
逆にライバルは何やらにやにやしているのが印象的でしたな。
そんな一夜の出来事でしたな。
それからしばらくした頃、コウが元気に村を走り回ったりゾウと遊んでいる光景をよく見かける様になりました。
やがてお義父さんとモグラが一緒にいる所でコウがやってきましたな。
ゾウは隣町の復興手伝いの休憩に村へと来た様ですぞ。
「イミアー」
「は、はい?」
声を掛けられてモグラが振りかえりました。
コウはお義父さんを見て唾を飲み込み、そしてモグラの方を向いて頭を下げましたぞ。
「イミア、あの時はごめんね。コウね、色々とエルメロやみんなに教えて貰ってね。イワタニがなんで怒ったのか分かったの。だからあの時謝ったけど、アレは本当のごめんなさいじゃないからこうして謝りに来たの」
「そ、そうなんだ?」
「許してくれる?」
「うん……気にしなくて良いよ」
「そっか! ありがとー! イワタニ、コウはもう怖くないよ! ダメなの分かったから」
「わかってくれるなら良いんだよ。よく学んだね」
おお……コウが立派な成長をしていますぞ。
ゾウの名前を言っていると言う事はゾウから教わったのですな。
あの時もコウは幼い獣人の迷子を届ける良い子に育って下さいました。
お義父さんのお叱りで怯えていたコウはもう居ないのですぞ。
なんとも晴れやかですな。さすがはゾウなのですぞう。
「じゃあコウ、エルメロとお歌をみんなで歌うからまた後でねー」
コウはモグラに謝り、お義父さんに勇気を持って学んだ事を告げてゾウの下へと走って行きましたぞ。
「ガエリオンちゃん」
「なのーん。呼んだなの?」
お義父さんの呼びかけにライバルが応じて飛んできましたぞ。
「コウが俺とイミアちゃんに謝って前の元気なコウに戻ったんだけど、何か心当たりがあるんじゃない?」
「なの。槍の勇者がヤンデレショックで廃人になっていたループでなおふみが叱りつけたコウがエルメロに会って立ち直ったのをガエリオン覚えているなの。だからコウの為に紹介してやったなの」
くっ……悔しいですがコウがあの状態から立ち直る手をライバルがしたのは事実ですぞ。
ここはしっかりと評価してやらねばいけませんな。
であると同時にゾウはまさに良いゾウなのですぞ。もっと何かお礼をしなくてはいけませんな。
お義父さんに気がある様なので、どうにかしてあげる手は無いですかな?
お姉さんのお姉さんが何か手がある様子だったので今度聞いてみましょう。
そう思った所で脳内にいる記憶の中の優しいお義父さんが「やめて!」とお願いしている様な気がしますが、気のせいでしょう。
「コウさんがイミアさんに謝りに来たんですか……僕の髪の毛を狙う事は謝らないのはどういう事なんでしょうね? 尚文さん」
ここぞとばかりに樹が自己主張してきますぞ。
正直樹の髪の毛など気にする必要ないのですぞ。
「樹の場合は普段の毒舌が原因なんじゃないかな? 樹も何故か叱る俺に怯えていたからね」
お義父さんもここで空気を壊す樹へカウンターパンチですぞ。
「納得出来ないですね」
「樹のはついでに叱っただけだからじゃないの? もうやらないなら良いでしょ」
「まあ確かにそうですね……ん?」
なんてやり取りをしているとゾウ主導のフィロリアル様の合唱練習が聞こえてきました。
フレオンちゃんも混じっている様ですぞ。
「う……あああ……ああああぁ」
その歌声が聞こえて来た所で樹が悶えつつ恍惚の表情を浮かべ始めました。
「樹? 大丈夫?」
お義父さんが肩を掴んで揺するとハッと我に返った樹が耳に手を当てておりました。
「そんなバカな!? どうして……」
青ざめた表情で声の方を樹が見ていると近くにいた錬も樹の隣に立ってその先を見つめますな。
ちなみに錬は小賢しい抵抗とばかりに剣を木の棒に変えておりますぞ。
良い感じの棒って奴ですな。
俺も子供の頃、豚共と秘密基地を作った時に持っていたものですぞ。
剣が絶対に泣いてますぞ。なんとなく嘆きが聞こえる気がしますな。
「フレオンもあの発声練習に混じっているな。ブラックサンダーまで一緒にいて……そう言えば二匹で何やら打ち合わせをしていたぞ。さっき恐ろしい程テンポの良い歌を歌っていて、危うくノリに合わせて妄想する所だった」
最近、妙な攻防を繰り広げる錬と樹ですぞ。
そんな仲が良いのか悪いのか分からない錬が樹を心配そうに声を掛けております。
「まさか……エルメロさんの発声練習で修業した影響で洗脳ソングがパワーアップしているとでも!?」
「ありえる。俺達を目覚めさせる為に奴らも手段を選ばずにいると言う事かもしれん」
「いくらなんでもそれは考え過ぎじゃない?」
「いや、間違いない! 行くぞ樹!」
「ええ! 元康さん、これは余計な事をした報復です!」
ドンドン! と突然の不意打ちにちょっと痛みが走って俺は悶絶しました。
どうやら樹に撃たれた様ですぞ。
「い、いきなり何をするのですかな――」
「転送剣!」
錬の叫び声に合わせて錬と樹はポータルでどこかに行ってしまいました。
なんという迷惑な連携ですかな!
「えっと……?」
モグラがキョロキョロと周囲を見渡した後、お義父さんに尋ねるように小首を捻りました。
「きっと弓の勇者はヘッドホンの改良に行って、剣の勇者は精神修業をしに行ったなの」
「たぶんそうだろうね……このまま行方知れずにならないと良いんだけどね。さすがにフレオンちゃんとブラックサンダーを殺すって選択肢は取らないだろうし」
「そ、そんな事絶対にさせませんぞ!」
樹の奴、俺の大事な部分に集中砲火をしましたぞ。
何なんですかな!
「原因がぶっ放しているなの」
「元康くんがフレオンちゃんとブラックサンダーを紹介したのが原因でしょ」
「俺はフレオンちゃんとブラックサンダーの為に行動しただけなのですぞ。わかりませんかな! フレオンちゃんとブラックサンダーが寂しげなのですぞ!」
「はいはいなの」
「なんか遊び相手になってくれる人が錬と樹以外で居れば良いんだけどね」
「あんまり検証出来てないからわからないけど、今の所見つかって無いなの。いや……フレオンには当てがあるからちょっと待ってなのー」
と言った感じで錬と樹も少しの間、村を留守にしたのでした。
樹のヘッドホンがパワーアップしヘルメットへと変化しておりました。
ただ……何故かハゲみたいになっているヘルメットでしたな。
「樹、そのヘルメット……というかハゲカツラは何? 耳が隠れるからカツラだって分かるよ」
お義父さんが笑いを堪えるようにして樹に尋ねますぞ。
「目を着けられない様に『格好悪い』をコンセプトにしています」
「格好悪いを突き抜けて笑いになっている気もするけど……」
「覚醒をする訳にはいかないんです!」
ちなみに錬も似た感じですぞ。
で、錬は他に武器屋の親父の所で鍛冶に専念していたとかですな。
モグラの叔父にも色々と教えて貰っているとかですぞ。その工程で色々とセンスの悪い防具作りをしているらしいですな。
何処までも抵抗を繰り返していますぞ。
早くフィロリアルマスクV3に覚醒すれば楽になるのですぞ!
「俺もフレオンちゃん達には注意してるんだけどねー。樹や錬が嫌がっているからやめてねって……樹は正義堕ちしたくないんでしょ?」
お義父さんもフレオンちゃんとブラックサンダーに注意をするようになっていますぞ。
フレオンちゃんは素直に歌っているだけです! 正義を遂行する仲間が欲しいんですと言っており、お義父さんも説得に苦労しているとの話ですぞ。
ライバルが何か暗躍する様ですが、そうはさせませんぞ!
俺としては錬も樹も特に害は無いので問題ないと思うのですが、何がダメなのですかな?
ありのままの錬も樹も心の抑圧に解き放たれて幸せになれるのですぞ?
「樹、正義堕ちってどこの悪の幹部なんだ?」
「錬さんも人の事を言えないでしょう! それなら錬さんは闇堕ちじゃないですか!」
なんて感じで錬と樹は相変わらず漫才を繰り返していたのですぞ。
どんどんカッコ悪くなって行きますな。
フレオンちゃんと再会したループからの錬と樹の方が面倒が無くて楽なのにですぞ。
ともかく、こうしてゾウを含めてゼルトブルでの有名な闘士が村に集結したのですぞ。
ただ、魔物商からの言付けでゼルトブルの活気の為にゾウを含めて俺もフィロリアルマスクとして出場する事になったのでした。
お姉さんのお姉さんとパンダも場合によっては出ても良いとの話ですが、お義父さんが心配するので程々の出場となりました。