統治能力
「あたいの事は良いんだよ。それよりあっちに盾の勇者様が来てるよ。アンタ盾の勇者を信仰してただろ? 色々と付き合いがあるから紹介してやるからこっちきな!」
「そうですぞ! お義父さんもおりますぞ! 出来ればコウと友達になってほしいですぞ」
と、俺はゾウの手を握りますぞ。
ですがゾウは乗り気ではなさそうですな。
「えっと……」
「そいつは槍の勇者様さね。噂で知ってるだろ?」
「ああ、なんか各地で波を鎮めるのは元より化け物の様に強いって話の……本物?」
「あたいがアンタに嘘言った事があったかい?」
「ある」
あるのですかな?
信頼が全くないですぞ、パンダ!
「今回は嘘じゃないさね。槍の勇者ってのは未来の知識ってのを知ってるらしいさね。どうせエルメロの事も何か知ってんだろ? 言いな」
「実家はマンモス一家に占領されていて育ての親は……確かジャノンとか言うネズミですぞ」
「な、何故それを!?」
「ゾウは歌がとても上手なのですぞ!」
おお、考えてみれば歌が好きなフレオンちゃんとも相性が良いかもしれませんな。
後で会わせましょう。
「エルメロが歌ぁ?」
「ちょ、ちょっと!」
ゾウが何故か困ったように警戒した顔つきと取れる態度を始めました。
「ともかく色々と知っているさね。騙されたと思って来た方が良いんじゃないかい?」
「なんか嫌な感じはするけど……」
「では行きますぞー」
俺はゾウの手を引いて連れて行きますぞ。
確かにこのゾウは良いゾウですからな。
若干警戒気味ですがゾウがそのまま俺の手に引かれてきますぞ。
こうして観客席の方へと行くとお義父さん達が見えてきましたな。
お義父さん達が揃って俺達の方を見て手を振ってますぞ。
「はーい、エルメロちゃーん」
ここでお姉さんのお姉さんが手を振って声を掛けて来ました。
「――!? ラーサ! って引っ張られる! ちょっ――私をそのままあああああああ引き摺られる! 私を引き摺ってる! この人何者! どれだけ怪力なのよ! ああああ!」
何やらゾウが騒いでますな?
一体どうしたのですかな?
「やー、勇者ってのは怪力だねぇ……エルメロを引き摺ってるのに気付かず来ちゃってるとは驚きだよ」
隣を走っていたパンダが何か言ってますぞ。
振り返るとゾウが俺に手を引かれるまま倒れていますな。
おや?
「ゾウ、大丈夫ですかな?」
「元康くん! 強引に連れて来ちゃダメじゃないか」
「強引ですかな? そんなつもりは微塵もありませんぞ」
「いや……なんかサディナさんが手を振って呼んだ所でこの人が足を止めようとしたのに元康くんがそのまま走ってて引き摺ってきてたよ」
「おお、それは失礼な事をしましたな。申し訳ないですぞ」
手を放すとゾウはよろよろと起き上がりました。
申し訳無い事をしてしまいましたな。
俺はゾウを信用しているので、失礼な事はしたくなかったのですが。
「ごめんなさい。元康くんに悪気は無いんです。俺からも言って聞かせるのでどうか許してあげてくれませんか?」
「い、いえ……お気になさらず……」
「えっとエルメロさんって方ですよね?」
「コイツが盾の勇者さね」
「岩谷尚文です。よろしく」
「は、はい。エルメロ=プハントと申します」
ゾウは緊張した面持ちでお義父さんに向けて敬礼しました。
「とても大きい……」
お義父さんがゾウを見上げていますぞ。
「エルメロちゃん、お久しぶりー」
「……」
ズリッとゾウがお姉さんのお姉さんから後ずさりしてますぞ。
お姉さんのお姉さんと何かあるのですかな?
「サディナさん、エルメロさんがなんか凄く警戒してるんだけど、なんか困らせる事とかしたの?」
「えー? お姉さんエルメロちゃんに何かしたかしら? 試合で勝負したとかその辺りじゃ文句ないわよねー」
「そりゃアンタを警戒するって言ったら決まってるさね。あたいも出来れば遠慮したいねぇ」
「尚文さん、間違いなくサディナさんの酒癖ですよ。飲み比べで泥酔させられるのを警戒してるんですよ」
樹がここで察して言いますぞ。
「あー……なんとなくそうだろうとは思ったけど、それ?」
「は、はい」
コクリとゾウは頷きますぞ。
「あらー? エルメロちゃんったら照れ屋さんねー」
「そんな次元じゃないでしょ……貴方の飲み比べは」
「安心しな。ここにいる盾の勇者はこのウワバミを超える化け物さね。絡まれたらコイツに擦り付けりゃ逃げられるよ」
「あのねー……ラーサさん」
お義父さんが呆れながら注意しますぞ。
完全に珍獣扱いされていますが、確かにお義父さんの酒の強さは間違いないですぞ。
「ナオフミちゃんはお姉さんよりお酒強くて素敵よー! キャ!」
お姉さんのお姉さんがテンション高めにお義父さんを紹介しておりますぞ。
ゾウがマジかよって目をしておりますな。
本当ですぞ。
「あなたがそう言うなら本当なんでしょうね……どこまでかは疑わしいですけど……」
「えっと、俺が盾の勇者じゃないって思ってる?」
「いえ……そっちは何と言いますか……なんか言われてスッと納得出来ると言いますか、なんででしょうね」
「あ、その気持ちは分かるな」
虎男が何やら間に入りますぞ。
「コイツが何か不思議な奴なんだってのは一目でわかる」
「ですって尚文さん。何かあるんですか?」
「知らないよ」
「野原で昼寝をすると野生の魔物に群がられるもんな、尚文」
「何か異能力でも持っているんでしょうね。酔い無効とアニマルフレンズか何かですよきっと」
ああ、確か最初の世界の樹もお義父さんに何か特殊な能力があると言ってましたな。
盾の勇者だとなんとなく亜人獣人は感じる事があるっぽいですぞ。
「そこは素直に起こして欲しいんだけどね」
「この人がエルメロさんですか。僕は弓の勇者の川澄樹です。こちらは剣の勇者の天木錬さんです」
「そういやシルトヴェルトの宿でパンダと尚文が部屋で騒いだ時にゾウとか言ってたな。パンダ……ラーサズサの事も考えてあそこで見た奴っぽいな」
「どうなんだろうね」
「シルトヴェルトの城下町にはあたいの親戚が一人居るけどねぇ……」
「ちょっとラーサと立ち寄った事があったじゃないの。忘れたの? その時に見られたんじゃない?」
おお、ゾウは記憶力が高いですな。
「お義父さん、このゾウは実家に色々と問題を抱えているのですぞ。だから色々と力になってほしいのですぞ」
「元康くんが個人を特定してお願いするなんて珍しいね」
「ですね。この方は何をした方なんですか?」
「コウとお友達になり色々と親切にしてくれた良いゾウなのですぞ」
「恨み節だけじゃないんだな、元康」
「そんな人間的な感情、残っていたんですね」
HAHAHA、相変わらず樹の口は災いを運びますな。
しかし錬まで余計なひと言を言ってますぞ。
「既に惨たらしく殺した癖に殺し足りないと言うタクトとは別ベクトルですね」
「まて……属性的には尚文と近いかもしれないぞ。コウやフィロリアル達に優しくしたから覚えて貰ったと言う意味でだが」
「どちらにしても幸せな方ですね。この先のループでも見かける度に恩義を感じてああして力になろうとするんですよ」
「羨ましい限りだ。こっちは洗脳の恐怖と戦わねばならないと言うのに」
「全くです。恨めしい位ですよ」
錬と樹がゾウを何やら睨んでますぞ。
なんですかな? この良いゾウに文句があるのですかな?
「うーん……俺が何か言付けをしてあげれば良い?」
「い、いえ……」
ゾウが困った顔で俺を見てますぞ。
おかしいですなーいえ、ゾウの実家にお義父さんを連れていけばきっと同じようにゾウは勇気を出しますぞ!
「なの。なおふみ、とりあえずエルメロを雇って色々と手伝ってもらうのはどうなの? 盾の勇者のなおふみに雇われて実績を築いたって事にすれば槍の勇者の望みも叶うなの」
「そうだね。元康くんもお願いしてるし、俺としてはゼルトブルの有名な闘士であるエルメロさんを雇用したいんだけど良いかな? 騙されたと思って来てほしいんだ」
「わ、わかりました。雇用費次第で相手をします」
ゾウはお義父さんに緊張した様子で頷きましたぞ。
それをパンダは首を傾げて俺やライバルの方に視線を向けますぞ。
「あっちが素なの。あんまり突くと面倒だからちょっと黙ってた方が良いなの」
「はいはい。ったく、しょうがないねぇ。エルメロ……ウワバミからの宴の誘いは絶対に断りな! じゃないと大変な事になるよ!」
「わかってるわよ、ラーサ! まったく……久しぶりに会ったらなんか凄い事になってるじゃないの……宴……丸くなってる……あんたまさか!」
ゾウがハッと何かに気付いた様にパンダとお姉さんのお姉さんを見て顔が青ざめましたぞ。
お義父さんも青ざめた笑顔で表情が凍りついているかのようですぞ。
「あらー」
「サディナさん、節度は守ってね」
「しょうがないわねー今度魔法屋さんで縮小薬をお願いしようかしらー」
「何がしょうがないの、サディナさん!? 全く妥協してないよね! 俺は元康くんの頼みでエルメロさんを雇用するんだからね! エルメロさんもしっかりと断る様にお願いするよ!」
「はい! 盾の勇者様の命ずるままに!」
ズビシッ! とゾウは見事なシルトヴェルト流の敬礼を行いましたぞ。
「また増えるのか」
「尚文さんは上級者ですね」
「二人とも聞いてた? いや、樹はそのヘッドホンで聞いてないよね? これ以上聞いてないなら全力で取りに行くからね」
「おっと……これは失礼」
「まあ、エルメロは中々役に立つなの。だから連れてく意味はあるから安心しろなの」
なんて感じで俺達はゾウを仲間にする事が出来たのですぞ。
そしてゾウをお義父さんが復興しようとしている村へと連れて行き、色々と作業の手伝いなどをお願いしたのですぞ。
元々力持ちなのもあって育てるとアッサリと強くなりましたぞ。
しかもついでにとエクレアが復興をする事になっていた隣町の復興手伝いを行いに行き、領主補佐として雑務の手伝いをしている内に隣町での復興作業等の統治をエクレアに聞くよりゾウに聞いた方が的確で早いと言う事になった様ですな。
土魔法の使い手なのもあって土木関連にも応用が利くとの話ですな。
エクレアがお義父さんやライバルに愚痴を言いに来ておりました。
「エクレールさんも大変だね」
お義父さんの家に愚痴を言っている所をお姉さんのお姉さんに絡まれて酔い潰れたエクレアをお義父さんが寝かしつけた所で呟きましたぞ。
ちなみに俺とライバルもお邪魔してますぞ。
錬と樹はお酒が飲めない事もさることながら、お姉さんのお姉さんの酒癖が発動するのを懸念して辞退していました。
「あのエルメロに意外な才能があったみたいだねぇ……」
パンダも酒の席に一緒に居てエクレアの絡みを聞いておりました。
ちなみにゾウにはコウを預けていますぞ。
俺がお願いした所、コウは素直に応じて下さいました。
ただ、やはりちょっと元気がありませんでしたぞ……。
「領地の統治能力は育ての親から教わっていたそうで中々有能なの。ガエリオン、それは知ってるなの」
「エクレアは戦い専門で内政はあんまり上手じゃないですぞ」
「花開くのにちょっと勉強が必要なだけなの。現にワイルドなおふみの世界ではしっかりと統治できるようにはなったなの」
「そうなんだ……」
「ま、今はエルメロに頼む方が復興が早まるから任せるのが無難なの」
やはり中々有能なゾウなのですぞ。
「盾の勇者様に任されてやる気を見せているみたいだしねぇ……騎士様ってのは現金なもんさ」
「ちなみにエルメロの実家にはエルメロを慕う者達が居るなの。そいつ等が居ると忠誠心から効率アップなの」
「ネズミのチューギですぞ!」
「元康くん……」
何故かお義父さんが呆れる目を向けて来ますぞ。
なんでですかな?
「エルメロさんを慕う者ってネズミなの?」
「育ての親がそうなの。その同族繋がりみたいなの」
「ふーん……ゾウとネズミの関係かー。なんともファンシーな感じだね」
「勇者の感性ってのは良くわからないけどロマンを感じてるみたいだねぇ」
「いずれはエルメロさんの悩みを解決させてあげたいけど、どうしたら良いのかなー……」
「そこは尚文がシルトヴェルトに雇用したエルメロが中々優秀な者だー。ただ、彼女以外の者を送られても困るーとか言えば株は大きくあがるはずなの」
「予防線も込みね……どっちにしても助かるから良いね。エクレールさんには悪いけど」
エクレアの能力はゾウ以下って事ですぞう。
「エルメロちゃんったらねー宴に誘おうとすると逃げちゃうのよーお姉さんどうしたら良い?」
「サディナさん、その辺りは俺とラーサさんが相手をするから我慢してね。じゃないと俺が困るから」
「あらー」
お姉さんのお姉さんはお義父さんに対してどの周回よりもうっとりとした様子で見つめていますぞ。
相思相愛のループですからな。
最初の世界のそっけない様子とは大違いですな。
「いい加減あたいを巻き込むのもやめてほしいんだけどねぇ……」
「ラーサさん、お願いだから逃げないでね。じゃないと俺が大変なんだから」




