色々あった
「話は戻りますけどコロシアムですか……前にも来ましたが、ここはいつも賑わってますね」
「なんだ? パーフェクトハイドジャスティスの出場か?」
「……錬さん、僕達が出たら勝負にならないでしょう」
「確かにな……復興資金稼ぎに使えるかと思ったんだが、勇者の力を使ってコロシアムというのもアレだ。とはいえ、あまり各国の金を頼りにはしたくないだろ」
「ライバル、タクトをネタにした撮影でこの世界では儲けられませんぞ?」
「そんなのわかってるなの」
ふふん、ライバル、あの周回の様にタクトを苦しめられないのが残念なのが今回のループですぞ。
もっと苦しめたかったのですが、この周回では既に出荷済みなのが惜しいですな。
撮影できないと言う事はライバルが企画したネタは使えないのですぞ。
「ループしているお二人なら競馬の馬券とかフィロリアルレースで大穴を当てたりして稼いだり……」
「する必要は無い連中か」
「そうでしたね」
おや? 何か錬と樹が勝手に納得してしまっていますぞ。
この世界の錬と樹は妙な所で聞き分けがいいですからな。
「お? そこにいるのは……おーい」
なんて話をしているとそこには武器屋の親父さんが手を振ってました。
珍しい所で会いますな。
確かこの世界では……。
「そこにいるのは勇者のアンちゃん達じゃないか」
「武器屋の親父さん!」
錬と樹が武器屋の親父に答えますぞ。
「お久しぶりです」
お義父さんも見知っている相手だからか挨拶をしました。
「聞いたぜ。ついに世界を波の脅威から救ったんだってな。うちの店に来た時にはちょっと不安に思ったけど、やるじゃねえか」
「いえいえ……」
「正直驚いたぜ。盾のアンちゃんが話通りのデマが広まるわ、その直後に勇者が揃って逃げたって言うし、噂じゃ英知の賢王が勇者に殺されたとか広まってよ。挙句どんどん治安も悪くなって来て散々だったからな」
「えっと……すみません。僕達の所為で」
樹が何故か謝罪していますぞ。
そこは謝る所ではないですぞ?
この世界のクズが俺達を殺そうとしたのですからな。
因果応報ですぞ。
「あの後、店に行ったら閉店していて、迷惑を掛けたと思っていたんだが……」
「武具を売った程度で文句は言われねえよ。それより治安低下が原因でよ。連日変な客ばかり来るんで店を畳んで旅に出ただけの話さ」
「そうだったんですか……」
「ま、驚いたのはその後、メルロマルクであんな大事が起こったってのを聞いて驚いたけどよ。勇者のアンちゃん達で解決したんだろ?」
亡霊赤豚事件ですな。
メルロマルクのビフォーアフターですぞ。
この所為で被害が多大に出たのでしたな。
ですが、それも俺達で解決したのですぞ。
「ええ、どうにか倒しましたね。どうやらあの国の第一王女は波の黒幕に関わる者だったそうで、本性を現したと言いますか」
「そっちも噂で聞いてるぜ。で、最終的に波を終わらせたんだろ。俺も手伝ったって鼻がたけえよ」
と言った様子で錬と樹が話をしております。
逆にお義父さんは一歩離れた所でそのやり取りを見てますな。
俺の記憶の中では武器屋の親父はお義父さんとよく話をしているイメージですぞ。
「お義父さん、武器屋の親父さんとは話をしなくて良いのですかな?」
「え? まあ……話はした事ある人だし、くさりかたびらを買った店の人だよねって位だね」
ふむ……確かにこのループでお義父さんは武器屋の親父とは付き合いが薄いのですな。
錬と樹は証拠確認などをしたので、印象に残っているのでしょう。
「腕は良い方で最初の世界のお義父さんが信用している人物ですぞ」
「ああ、となるとやっぱり人格者なんだね。気前が良い感じだったし」
「そこにいるのは盾のアンちゃんだな。大変だったな、アンちゃん」
「うん」
そう答えるお義父さんに武器屋の親父はマジマジとお義父さんを見て首を傾げますぞ。
「……なんつーか、アンちゃん、しばらく見ないうちに変わったんじゃねえか? こう……前にあった時みたいな若いっつーかお調子者って感じじゃなくて純粋つーか素直つー感じになってんぞ」
「否定できませんね」
「そうだな。出会った頃の尚文はもっとお調子者だった」
「あのねー……」
ボリボリとお義父さんは呆れたように頭を掻いております。
「みんなに守ってもらったんだからあんまり悪乗りしない様にしているだけだよ」
「お義父さんは優しくすれば優しくするだけ優しくなるのですぞ!」
「まあそうですね。そして怒らせたら怖いのが尚文さんなのは知ってますよ」
「時々生まれる性別を間違えたんじゃないかって思う時があるけどな」
「だから二人とも……」
と、お義父さんが眉を寄せるとちょっと離れた所にいるコウがビクッと大きくのけ反りますぞ。
うーむ……コウは落ち着かない子になってしまっていますな。
「勇者同士、仲が良くて羨ましいぜ」
「親父さんは店には戻らないんですか?」
「そうだなー……そろそろ戻っても良いんだけどよ。メルロマルクは今どうなってんだ?」
「徐々に復興して来てるって所ですね。あの王女の亡霊の所為で多大な被害があったのは事実ですが建物の被害はそこまで無いです」
「なんなら俺達が今復興作業をしてる所に来てくれないか? 出来れば鍛冶を教えてほしい」
と、錬が何やら提案してますぞ。
「お? 剣のアンちゃんは鍛冶に興味があるのか?」
「ああ……何か戦う以外の特技を覚えたいんだ」
瓶底眼鏡を掛け直した錬が樹や俺、そしてお義父さんを一度見て親父に言いますぞ。
最初の世界でも弟子入りして覚えてますぞ。
「なんだその理由?」
「勇者とは戦う事だけが得意ではダメなんだ」
「よくわからねえが……」
「錬さんはこの中で際立った特技が無いんですよ。だから興味のある鍛冶を覚えたいんですよ」
「特技ねー……アンちゃん達は何か得意な物でもあるのか?」
親父が樹に聞きますぞ。
「どうやら僕は楽器演奏の才能がある様でしてね。今でもしっくりはこないのですけど、そうらしいです。で、元康さんは裁縫とか色々と多芸でして」
「盾のアンちゃんは?」
「立派な主婦の才能を持っています。彼の前ではどんな家庭的な女性でも裸足で逃げるでしょう」
「樹? 俺も君のヘッドホンを毟り取ろうか考えるよ? そのうち、本気で盗られるよ、それ」
樹は相変わらず毒舌ですな。
一言以上に余計ですぞ。
「お義父さんは愛情深いのですぞ!」
「元康くんは黙っててね」
「つーか剣と弓のアンちゃん達……なんで変な装備を掛けてんだ?」
「色々あった」
「色々な予防線です。覚醒するわけにはいかないんです」
「なんかよくわかんねーが勇者ってのも悩みがあるみてーだな」
親父が腕を組んで俺達を再度見ますぞ。
「なんなら帰りにメルロマルクに送りますぞ? 勇者なら一瞬で移動できますからな」
「お? それなら助かるぜ」
「ついでに兄弟弟子のモグラを紹介しますかな?」
確かモグラの叔父が村の方にも来ていましたぞ。
武器屋の親父に紹介出来ますな。
「モグラ……」
「ルーモ種の方ですよ」
「ルーモ種で俺の兄弟弟子つーとトーリィか?」
「いや、ちょっと待て元康。ルーモ種に凄腕の鍛冶師がいるのか!?」
錬がここで俺とライバルに聞いてきましたぞ。
「モグラの叔父の鍛冶モグラですぞ」
「イミアの叔父!? アイツ、金物屋じゃないのか!?」
「え? えっと……叔父さんは皆の道具作りをしてます。詳しいとは思ってましたけど……」
それが金物屋って事ですな。
「金物屋って俺達の世界基準だと確か鍛冶師が転職してなったとかあるんだよね」
「なるほど、頼む相手が他にも居たんですね」
「鍛冶モグラ曰く、そこまで修業していた訳じゃないとかでしたかな? 武器屋の親父と一緒に色々と作るのですぞ」
「トーリィと会えるなら戻っても良いぜ。旅の目的は達成できなかったけどよ。それならそれで問題ねえぜ」
「旅の目的?」
「ああ、この際ちょっと人探しをしていてよ。俺の師匠を探してんだけど見つからねえんだよ」
武器屋の親父には何やら師匠がいるらしいですぞ。
その師匠を探して各地を回っていたとかですな。
「俺達も探すのを手伝おうか? 元康くんやガエリオンちゃん何か知ってる?」
「知らないなの。ループでも聞いた事無いなの」
「知りませんな」
「ループ経験者でも見つからないか……」
「どこにいるんでしょうね」
「見つかれば良いって程度なだけで気にしなくて良いぜ。トーリィか、まあこれからの時代には金物の方が合ってると思うぜ。剣のアンちゃんも鍛冶を覚えてもそこまで稼ぎにはならねえけど良いのか?」
武器屋の親父の質問に錬は頷きますぞ。
「ああ、出来れば黙々と武器を打ちたいんだ。派手な事がないように」
「どうも引っかかる言い方をするなぁ、剣のアンちゃん。腕前はどんなもんなんだ?」
「武器の技能で基礎的なのはわかってる程度だ……」
「んじゃ数打つのは元より色々と覚えて行かねえとな」
「当然だ! 俺も勇者として劣る事が無い様にやり遂げる!」
ここで俺と樹とお義父さんはきっと内心思いました。
きっと錬の飛び抜けた才能はブラックサンダーと共に闇聖勇者をする事ですぞ。
向き不向きで言えば間違いない飛び抜けた才能のはずなのですぞ。
ともかく錬はこうして正式に鍛冶修業を行い、武器屋の親父はメルロマルクに帰還する事になるのですな。
なんて話をしていると試合会場の方で歓声が聞こえてきました。
勝敗が決したのでしょうな。
「あ、試合を見損ねちゃったね。とりあえずここで話をするより観戦席に行こうか」
「だねぇ。せめて見るだけでも行こうじゃないか」
パンダもそわそわとしている様ですぞ。
そんな訳で俺達はコロシアムの試合を観戦する事にしましたぞ。
「ゼルトブルの有名闘士の試合だっつーことで観戦者は大興奮って所だねぇ……」
「さっきササちゃんコロシアムの人に試合に出ないか勧められてたわねー」
「アンタとあたいが出なくなって見応えのある試合が上手く組めなくて困ってるんだと。骨のある奴が他にいないってのかねぇ」
お姉さんのお姉さんとパンダを俺達は勧誘してゼルトブルから出て行ってしまいましたからな。
ライバルにその身を捧げてしまったお義父さんとの周回でも似たような事をパンダは言われていましたな。
「面白くない試合しかしない子が多いんじゃないかしらー? お姉さん、ササちゃんとの戦い楽しくて好きよー」
「魅せる試合ってのが大事なのはわかってるさね」
パンダの戦闘は確かに派手ですな。
お姉さんのお姉さんも単純に強くはありますが魅せる試合と言うのは分かる様な気もしますぞ。
俺もフィロリアルマスクとしてゼルトブルで暴れましたからな。
大活躍で試合は思い切り活気づいておりました。
「それこそ勇者達を覆面でも着けて出せば良いんじゃないかい?」
そうしてコロシアムの観戦席に来た所で……。
「あ! あれは!」
現在コロシアムに出ている選手を見て俺は声をあげました!
「あら」
「おおーアイツの試合だったのかい」
俺は勝者としてアピールしている選手を指差しますぞ。
「お義父さん、アレは良いゾウなのですぞう! コウと仲良しのゾウですぞう!」
うおおおお! っとゾウが地響きの女王として勝利のパフォーマンスをしており、会場は活気づいていますな。
「元康くん……」
お義父さんが呆れた様な声を出して俺を見つめました。
どうしたのですかな?
「アレは冗談のつもりでしょうかね?」
「素じゃないか? そもそもですぞですぞよく言ってるから全く違和感なく言ってるぞ」
「槍の勇者、コウを元気にしたいなら声を掛けると良いなの」
俺はライバルの言葉に不服ですがコウを見ますぞ。
確かにとても大人しく俺達に着いてきておりますぞ。
この大人しさは痛々しくもありますな!
コウ、待っていろですぞ!
お前ととても仲良しなゾウを連れて来てやりますからな。
「言われなくても声を掛けますぞ。待っていろですぞー! ゾウー」
「あたいも行ってくるよー!」
「あ! 元康くん! ってラーサさんもなんで一緒に!?」
俺が走って闘技場から立ち去るゾウの行く先に回り込んで受付の方へと向かうとパンダも何故か付いてきました。
という訳で賞金を貰うカウンターの方へ行くと試合を終えたゾウがノシノシとカウンターで賞金を受け取っておりました。
表のコロシアムなので賞金は少なめですな。
その分安全ですがな。報酬の支払いも早いですぞ。
「おーい、エルメロー」
俺が声を掛けるより早くパンダがゾウに声を掛けました。
「ラーサ?」
パンダの声に振り返ってゾウが俺とパンダに視線を向けますぞ。
「久しぶりね。ゼルトブルに戻ってたの?」
「そうさね。ま、息抜きに遊びに来たようなもんさ」
「そう……なんか丸くなってない、アンタ? こう……物理的に」
パンダはお義父さんの出す料理は元より、既にお義父さんの子供がお腹に居ますからな。
なんとなく前より丸いのですぞ。