改造人間
錬と樹が帰ってきて数日後ですぞ。
俺達はお姉さんの故郷であるメルロマルクの村跡地の復興の手伝いをしているのですぞ。
お義父さんがこの地の復興をしたいと言うのでやる事を決めたのでしたな。
錬も樹も来ていますぞ。
曰くフォーブレイは贅沢だけど落ち着かないとの話ですな。
豚王とか各国の首脳陣との外交等をしないといけないのが疲れるし、共にがんばってきた俺達と一緒にいる方が安心するとか何とかですぞ。
そんな復興作業の休憩中の事ですぞ。
お義父さんが手際よく料理しております。
「波が終わったってのにねぇ……あたい達何してんだろうねぇ」
「ササちゃんしょうがないわよー。お姉さん達はナオフミちゃんのお嫁さんなのよ!」
キャッっと、お姉さんのお姉さんはパンダ達と少し離れた所で雑談してますぞ。
「ふふふ……闇聖勇者よ。お前の心は目覚めたがっている。その珍妙な格好で殻に籠らず心を解き放つのだ」
ブラックサンダーが謎のダサい恰好をしている錬に向かって勧誘を繰り返していますぞ。
「俺はそう言うのは卒業したんだ。妙な勧誘をしないでくれ……」
「目覚めたら面白い事になるからある意味見物なのー」
「ガエリオンちゃん……」
「そんなに悪い話でもないなの。あの周回の剣の勇者は最初の世界のワイルドなおふみの世界よりも武器自体の性能は高い様に見えたなの」
「なんで?」
「剣の精霊の好みとか相性とかじゃないなの? ズレが目覚める事で噛み合って剣も覚醒したとかそんな感じなんだと思うなの」
「くっ……ここまで俺は剣の勇者になった事を恨めしいと思った事は無い」
「そうだ。その調子だ……闇聖勇者よ」
ブラックサンダーがぐいぐいと錬を推してますぞ。
きっとこう言うやり取りが大好きなのですな。
「忌むべき力を使わなきゃいけないって流れが刺激になってしまうのでしょう」
「どうすれば良いんだ!」
「剣の勇者として召喚された宿命なんじゃないですか?」
「樹、いい加減にしないとそのヘッドホン、取るぞ!」
錬の脅迫、樹のヘッドホンに手を伸ばして少し外した所で、一瞬恍惚の表情に成りかけた樹がサッとヘッドホンを耳に押し当てますぞ。
「あ……ああ……やめてください!」
フレオンちゃんがご機嫌で復興中の村で歌を歌っておりますぞ。
「フレオンさんもここぞとばかりに歌うのをやめて欲しいんですけどね。貴方の歌は脳髄に響いて空耳化しておかしくなりそうになるんですから」
なんでも樹の着けているヘッドホンは特定の音域以外を出来る限りシャットアウトする為の道具らしいですぞ。
フォーブレイの研究所で主治医に急いで作らせたらしいですな。
「で……折角だし色々と土産話をしてもらうか。まだ聞いてない事も多いし」
錬が俺やライバルに聞いてきますぞ。
「まず何が知りたいなの? 槍の勇者にとって最初の世界の話とかなの?」
「そうだな……ループを脱出した後の事とかを今後の事として聞くのは良いかもしれない。もしくは……最初の世界の俺の話とかだな」
「剣の勇者なの? ガエリオンが聞いた話だと槍の勇者が一度やられてループした時にワイルドなおふみと一緒に波の黒幕の攻撃を食らって元の世界に一度帰ったらしいなの」
「ほう……」
「僕はどうなんですか?」
「弓の勇者は黒幕の遊び相手として見逃されてクズと一緒にワイルドなおふみ達が戻るまで健闘したみたいなの」
「錬さんは無様にやられて僕だけですか……悪い気はしないですね」
「だから樹……」
錬が樹へとバチバチした視線を送りますぞ。
そろそろバトルが始まるのですかな?
本気の仲間割れを始めたら本当にデストロイ……いえ、止めようと思いますぞ。
「樹の命中は相変わらずだね」
「その時、剣の勇者はこっちじゃ短い時間なのに剣の勇者の世界じゃ2年経過していたらしいなの。だから背格好がもう少し高くなっていたなの。ガエリオンも最初パッと見でわからなかったなの」
「そうなのか……二年……となると樹より年上だな。最年少ではなくなったのは良いかもしれない」
「今の錬とは違うけどね」
ちなみにこの周回の武器の報酬関連ですが錬も樹も残留を望んだ様ですな。
「最初の世界の剣の勇者は剣術が凄かったなの。アレは二年間、自分をいじめ抜いたって感じだったなの」
「なんかカッコいいね。甘さを捨てた錬とか真の主人公になったとかそんな感じだったんだろうね」
「ああ、武器が提示した平和にした報酬で剣の勇者は別の世界へ数度の行き来が出来る権利を頼んで居たなの。確か……何度か居なくなった事があったけど帰って来たなの」
「行き来ですか?」
「なの。なんか二年間の間に別の世界に行ったとか、後味が悪い結果になったのは変わらなくて機会が欲しかったらしいなの」
樹とお義父さんが錬を見ますぞ。
「錬の冒険は続いていたって感じなんだね。ちょっと物語として見てみたいね」
「闇聖勇者冒険記<ダークブレイブクロニクル>だな!」
「人を勝手に題材にするな。お前も勝手に話題に入ってくるな!」
錬が間に入って来たブラックサンダーを押しのけますぞ。
そんなブラックサンダーですが結構楽しそうですな。
「それこそガエリオンに俺は何か話しているんじゃないか?」
「槍の勇者みたいに語る事は少なかったなの」
「背中で語る男ですか……どこまでも面倒くさいですね。隠しているからこうして別の自分が困るんですよ」
「樹……」
バッと錬と樹がカバディをしているかのように睨み合いをしますぞ。
「元康は何か知ってるか?」
「あまり錬との話はありませんからなー……クリスマスにシングルベルしかけたとか聞いた位ですぞ」
「平和になってもぼっちですか。エクレールさんとウィンディアさんの脈は諦めるべきですね」
「だからいい加減にしろよ、樹!」
錬がそろそろキレそうですぞ。
「俺にだって相手はいる! アイツが居れば十分だ。保留にしていたが帰るのも良い! 帰れるか……わからないが」
「そう言えば錬って……確か幼馴染を助けて死んでこの世界に来たんだっけ?」
「あー……」
ライバルが歯切れ悪く視線を逸らしました。
何かあるのですかな?
「なんだ! アイツに何があった!」
「まずお前の幼馴染は変なの。バレンタイン十倍お返しはさすがにおかしいなの」
「それの何処がおかしいんだ」
「いやおかしいでしょ」
特に疑問を持っていない錬にお義父さんがすかさず突っ込みました。
「うん。おかしいよそれ。精々悪い意味の女性の比喩で三倍でしょ? 十倍って……返したくないから貰わないって次元じゃん」
「間違った常識を教え込んでキープしていたんでしょうかね?」
「しかも元の世界に帰った後、なんか別の世界に一緒に行って、そっちで彼氏ゲットして永住したらしい位は喋ってたなの」
「なんだってー!」
錬が俺達に背を向けて叫び、地に手を着けてがっくりしてました。
お前の幼馴染、どんな名前なんですかな? 聞いてない気がしますぞ。
絶対豚ですぞ!
母親もそうだとか聞きましたな。
素直に錬が哀れですな。
「まあ、最初のワイルドなおふみの世界だと剣の勇者はエクレールとお姉ちゃんが居たから特に気にしてなかったなの」
「そのツケをこの錬さんが払っているんですね。わかります。錬さん、誰でも良いから恋人を作るのが良いんじゃないですか? ほら、そこに黒い子がいますよ」
「オスだろコイツ!」
「恋人は勘弁」
「しかも断りやがったぞ! 漆黒の双牙はどうした!?」
錬とブラックサンダーが仲良く出来てませんぞ。どうしたらあの周回の様に仲良く出来ますかな?
今度考えておきましょう。
しかしこの周回の錬は元気ですな。
「錬さんの恋愛事情に関しては分かりましたが他には何かありますか? 主に覚醒関連ですね。よくわからない所がありますので」
「まだ続ける気か! いい加減にしろよ!」
「んー……後はガエリオンと恋仲になったなおふみのループで剣の勇者はタクトにフィロリアルの因子を入れた人体改造をされて手足にフィロリアル要素、そして背に翼を生やしていたなの」
ピクッと錬がライバルの話を聞いて動きが止まり考えている様な顔をしていますな。
「闇の翼、カッコいい」
ブラックサンダーが言いますぞ。
「改造人間、カッコいいです!」
フレオンちゃんも同意見のようですぞ。
「お前等は黙ってろ」
錬が注意しますがその声が弱いですぞ。
「聖武器をタクトに盗られて生け捕りですか……悲惨ですね。ちなみに僕は……?」
「死んでループした世界の続きなの」
「そうですか……確かに死にやすそうですよね。で、錬さん、背中に翼があるのに興味があるんですか? フィロリアル達と同じですものね」
「うるさい! その後どうなったんだ? 俺は死んだのか?」
「幸いタクトを倒して保護出来たなの。それからフィロリアル要素の除去手術をする事になったけど、剣の勇者が先延ばしをした挙句、鏡の前でポーズを取っていたなの。なおふみがそれを見て余裕があるなーって感心していたのを覚えてるなの」
「完全に気に入っていたんですね。改造人間路線……今は剣があるので無理なのが残念ですね」
「……」
錬が拳を握ってますぞ。
プルプルしていますな。
「剣と弓の勇者で一番悲惨だったのは槍の勇者が廃人になっている時に通ったループなの」
ライバルは錬の様子など気にしないとばかりに腕を組んで話を続けますぞ。
「一番悲惨……?」
「このループの剣と弓の勇者なら知ってるループ……一つ前のループなの」
「ああ……僕と錬さんが身勝手に行動して色々と暴走したループですね」
「霊亀などの四霊が全部復活したと言う奴だな。その引き金を引いたんだな……」
「人々を救うはずの勇者が世界をほぼ壊滅に導いてしまったのだから悲惨ですね……」
「なの」
ああ……凄くぼんやりと思い出されますぞ。
大人なサクラちゃんのいるループでしたな。
あの時の俺はフィーロたんへの恐怖を患ってライバルの言いなりになってしまっていたのですぞ。
お義父さんがとても心配しておりました。
「弓の勇者にしつこく元仲間達が扇動して追い立てて世界中からの逃亡生活を余儀なくされて、なおふみ達が保護して一応に騒動は終息したのだけど、罪悪感に押しつぶされて数年で病死しちゃったなの」
「……」
樹が静かに別世界の自分の最後を黙とうするように黙って目を閉じて話を聞いていますぞ。
「剣の勇者は振りかかる火の粉を払う内に血に手が染まって行って盗賊王……大量殺人鬼へと変貌して行った結果、なおふみ達の目の前で剣の聖武器に見限られちゃって手から剣が失われたなの」
「そ、それからどうなったんだ? 確かその俺は……ウィンディアに酷い事を言った俺だろ?」
「もう人格も責任に押しつぶされて壊れてて人の世では生きる事が出来ないからお姉ちゃんとガエリオンが力を合わせてドラゴン化の呪いを施して新生させたなの。世間では剣の勇者は倒されたって形にしたなの」
「……ドラゴン化」
「記憶を失ってドラゴンとしてお姉ちゃんが育て上げて立派なドラゴンになっていったのを覚えてるなの。もちろん途中で少しずつ記憶を取り戻していたのをガエリオンは知っているなの。その頃には落ち着きを取り戻して居たなの」
「その周回のウィンディアさんは随分と慈悲深いのですね。親の仇ですのに」
「基本的に許しはするなの。そこがお姉ちゃんの凄い所なの」
「ドラゴン化……」
錬は……よくわからない表情をしてますな。
どういう感情ですかな?
「錬さん、そこでちょっとカッコいいなと思っているのがわかりますよ」
「黙れ! この世界のドラゴンは変態ばかりなのは知っている! そんなのになって良いと思う訳ないだろ!」
なるほど、そういう表情なのですな。
錬が分かる様に成ってきましたな。
「ちょっとなんかお父さんやガエリオンに失礼な事を言って無い?」
離れた所でモグラと話していた助手がきますぞ。
「ウィンディア、わからないのか? お前の妹のおかしな点を……」
「……そ、そんな事無いわ」
「俺の目を見て言えるのか、ウィンディア! 目を逸らすな!」
「わ、わ、私が嘘を吐いた事ある!?」
「なのーん、仲が良さそうで何よりなの」
ライバルは罵倒などカエルの面に水鉄砲とばかりに聞き流してますぞ。
「ただ、このループはガエリオンが初めてなおふみと出会って助けてもらった、とても大切なループなの。剣と弓の勇者には悪いけど大事なループなの」
「そうですか……結局平和にはなったんですね。それならまだ救いはありますね」
「なの。生憎と剣と弓の勇者は勇者として抹消されてしまったけれど、そんなループだったなの」
「錬さんって結構いろんな変化があるんですね。最初の世界とやらの錬さんは僕より年上になった様ですし」
「あ、そう言えば最初のワイルド尚文の世界の剣の勇者が遊びに来たパンダと組み手をしている時にクマの体はよく分かっていると言っていたなの。それと村の亜人に獣人化のやり方を教えていたからガエリオンの読みだと何か経験があったと思うなの」
「割と錬さんの冒険に関して本気で知りたいですよね。話を繋げるとクマ獣人化とか最初の世界では出来たんじゃないんですか?」
「知らん! が……もしも、アイツも巻き込まれて居たら……ありえるかもしれん」
弓……3%→0%