フィロリアルクロス
「わー! なんかカッケー!」
キールがここで感動しているのか、ルナちゃんの頭に乗ってほめたたえていました。
「……」
お義父さんが半眼でフィロリアルクロスを名乗る者の演説を聞いておりました。
「メルティ……」
「……何よ?」
「本気でここから逃げて良いか? お前も一緒にさ……どこかアイツらの居ない所で静かに暮らさないか?」
「凄く魅力的な提案ね。私もなんか逃げたくなってきたわ」
「ナオフミ様、メルティちゃん、気を確かに!」
お姉さんがお義父さん達に激を飛ばしますぞ。
「はあ……お前の言い分はわかった……話をする場を設けるから付いてこい……で良いのか?」
「盾の勇者殿の協力に感謝する!」
と言った様子で神鳥騎士団の連中を連れて俺達はメルロマルクの城へと来たのですぞ。
「では代表は私がしよう!」
そう言いながらフィロリアルクロスが神鳥騎士団の者達に告げて城内に入る様ですぞ。
「あ、あれは!?」
城内に入ると老兵がキリッと姿勢を正して敬礼をしました。
その正しさはお義父さんや俺の前の比では無いくらいですな。
物凄く緊張しているのが一目でわかりました。
「はあ……母上になんて言ったら良いのかしら」
「同情するぞ……どうしたらこうなるんだ? やはり洗脳フィロリアルの所為か……」
「ブー……」
婚約者とお義父さん達、扇豚が何やら嘆くように呟きながら歩いておりますぞ。
ところで気づいたのですが声を出来る限り変えた感じで喋っておりますがこのフィロリアルマスク……クズではないですかな?
どことなくそんな気がしますぞ。
フルフェイスのフィロリアル型の鉄仮面を着けて、体型が分からない様にマントを着けていますがな。
ただ……まともに会話をしていないはずのメルロマルクの老いた兵士がなんで即座に把握したのでしょうな?
やがて俺達はメルロマルクの玉座の間に来ましたぞ。
「ようこそいらっしゃいました。えー……イワタニ様方と神鳥騎士団の……」
一礼を女王はしてフィロリアルクロスに視線を向けた後、絶句しましたな。
「我が名はクロス! フィロリアルクロスと呼んで頂きたい! 貴君がこの国の王であるか。私は異世界の神鳥騎士団の代表を務めている。そしてこちらは異世界の魔王であるガエリオン殿である」
「あー……お久しぶりなの」
いきなり紹介されてライバルが子竜モードでグーパーしながら女王に挨拶しますぞ。
どことなく気まずそうな感じですな。
最近のライバルは常に余裕のある感じでしたが、珍しいですな。
「そ、そうですか……」
お義父さん達がササっと女王側の方に行ったので合わせて俺達も近づきますぞ。
そして内緒話が始まりました。
「なあ? アレが何かわかってるんだろ? やっぱ妻だからとかか?」
「いえ、そうではなく、アレはルージュ……いえ、英知の賢王が若かりし頃、仮面などとは異なりますが、やっていた姿とほぼ同じでして」
「おい、アイツは若い頃あんな事をやっていたのか?」
「そんな……」
「何と言いますか、完全に英知の賢王として蘇って下さったのですね……私、心がとても晴れやかです」
女王が夢見る乙女の様に頬を染めてお義父さんの質問に答えました。
「メルティ、アレが過去に名を轟かせたあなたの父の姿ですよ。素晴らしいでしょう?」
「母上……心の底から同意致しかねます」
クズは若い頃、あんな感じの格好でメルロマルクをシルトヴェルトの侵略から守りとおしたのですかな?
とんでもない情報が出てきていますぞ。
「攻略本と解読機」
「知りませんな」
「活躍は耳にしたけどあんなのとは知らなかったなの。目覚めさせちゃいけない覚醒だったかもしれないのは間違いないなの」
「錬と樹をぶっ壊しておきながら何を言っていやがる……」
「既にナオフミ様も大分おかしくなっているかと」
お義父さんはお姉さんの指摘を完全に無視して撫でておりますぞ。
もはやストレス解消の癖と化してますな。
撫でられるお姉さんのラフ種状態の毛はつやつやですぞ。
「話は終わったかね? ではここで和平の会談をしようではないか!」
素直に待っていたクズ……いえ、クロスが提案してきました。
「あ、ああ……とはいえ、何をするんだ?」
「まずは我が世界側のグラス殿がこの世界の四聖勇者達に無礼を働いた事を異世界を代表して正式に謝罪をしたい」
「ブブブ……」
扇豚が何か言ってますな。
「『もはやこうなってしまってはこちらも謝る以外の選択を選ばせて貰えなくなっていましてね……』だそうですわ」
「……白黒着物キャラが揃って立ってる。夢のコラボだな。キャラが被って……無いか」
お義父さんがユキちゃんと扇豚に顔を向けて言いますぞ。
「ユキちゃんの素晴らしいお姿なのですぞ、お義父さん!」
「元康様ー! ユキは感激ですわー!」
「ブブ……」
「それは激しく同意する。フィロリアルは劇物だ」
扇豚に向かってお義父さんは何か同意してますぞ。
「だからグラス……これからはラフ種にしよう。ラフ種は良いぞー。モフモフでフィロリアルみたいにうるさくないし洗脳もしない。着物を着るお前が肩にラフ種を乗せれば似合うのは間違いない」
「ナオフミ様落ち着いて下さい! そんな死んだ目でグラスさんにラフ種を勧めてはいけません!」
「ラッフー」
お義父さんの剣幕に扇豚が引いていますぞ。
「色々と収拾が付かなくなってきたなの。なおふみ、ちょっと落ち着くなの。話が終わらないなの」
「そうだな……謝罪に来ただけならこっちは気にしていない。理由に関しても全容は把握したし、しょうがない事だろう。気にしなくて良い。で、謝りに来ただけで良いのか?」
「それだけではない! まず神鳥騎士団が貴君達の世界の悪しき者達と対抗する協力を申し出たい。神を僭称する者達だけが世界の敵では無い。我々の敵はそれだけ根深いのだ」
「こっちでも暴れたいってことね……」
「違う。断じて我々は――」
「わかったわかった。寄生虫みたいな、どうしようもない連中を処分したいんだろ。好きにしてくれ」
この場合、フォーブレイの豚王とかはどっちになるのですかな?
色々とヤバイと言われますが悪には悪での法則でお義父さん達は基本触りませんぞ?
「そして、こちらには異世界を行き来出来る術がある。なので友好の為に交易をし、双方が得になる様な形にしたいのだ! 未知なる世界の技術を力を合わせて紡いでいく……愚かな征服者やテンセイシャと呼ばれる悪が二度と蔓延る事の無い様に!」
「言わんとしている事はわかったが……」
お義父さんが俺とライバルに視線を向けました。
そうですなー……その辺りの問題は最初の世界で解決していきましたからな。
「無意味な争いにならない小さなやり取りなら良いんじゃないか? 元々別の世界な訳だしな」
「え、ええ……そうでしょう」
我に返った女王も頷きましたぞ。
「異世界の勇者達とメルロマルクの女王の寛大な心に感謝する!」
これで一応話が纏まりましたかな?
「要望に関しては各国で女王と俺が通しておく。元々お前の所にいる錬と樹の発言で大分どうにか出来るしな……で、フィロリアルクロスだったか? 前座と言うか、お前の話はそれだけで良いのか?」
「そうだ」
「じゃあ次はこっちの番だな。ここには余計な目は無い。おいクズ、どうしてそんな姿をしているのかの説明をしろ。察する事は出来るが限界がある」
と、お義父さんが注意した所でクロスは「くくく……」と小さく笑いました。
「さすがは盾の勇者であるイワタニ殿、その鋭い洞察力に敬意を表する」
などと言いながらクロスは締めていたマントを緩ませ、杖を片手に鉄仮面を外しましたぞ。
そこにはクズが……最初の世界の物凄いクズよりも纏う何かが異なるクズがおりました。
カリスマと言う奴ですかな? 目力が凄いですぞ。
「いや、わかってる奴、結構いたぞ。過去のお前の再来って事でな」
女王の方をお義父さんは視線誘導しますぞ。
件の女王は恋する乙女の様な表情をしていて、婚約者の目が死んでおりますぞ。
「ああ……どこか旅に出たいわ。フィーロちゃんと一緒に……私もメルフィロとして戦っていたらこの憂いも晴れるのかしら……」
「メルティちゃん、気をしっかり持ってください」
「ラフタリアさん……私、今日ほど槍の勇者とガエリオンを羨ましいと思った事は無いわ……あんな両親とこれからも世界を支えていかなきゃいけないんだもの。もっと普通の父上と母上と国を支えて行きたかった……」
それは贅沢なのではないですかな?
最初の世界の女王は一度死にましたぞ?
「それはこのフィロリアルマスクとマントが全てを隠している。フィロリアルクロスの正体がわかる者はそこまでおりますまい」
「いやー……割と分かる奴が……まあ気にしたら負けか……どうして脱走してグラスの方の世界に渡った?」
「何故ワシが幽閉された塔から出たのかと言うと――」
と、クズが色々と語り始めましたな。
ところで我々とか私とかワシとか一人称が安定しない奴ですぞ。
俺も一時お義父さんとフィーロたんへの忠誠から私でしたがしばらくして治りましたがな。
「ワシは守りたかったのだ……どうしようもないこの世界から、妹を、妻を、子供達を、大切な者達を。その為ならば何を犠牲にしてでも……それが結果的に更なる争いを生んだ」
話は戻ってクズは赤豚がウロボロス劇毒で死んだ事で過去の事件の真相に至り……果ての無い絶望に包まれたらしいですぞ。
息子を殺したのが亜人ではなく、赤豚だったのですからな。
当然ですぞ。
しかし、俺から差し出された亡き妹の忘れ形見であった虎娘を見て、全てを悟ったそうですな。
「タイランは全てわかっていたのだ。わかっていて尚……ワシの怒りを受け止めていたのだ」
自身が如何に見当違いで愚かな憎悪を募らせていたのか……と後悔したみたいですな。
尚、タイランという人物は虎男の祖父ですぞ。
その祖父をクズは過去に倒しているのでしたな。
そして又聞きで赤豚に神を僭称する波の黒幕が仕込まれていた事などの情報を手にし、更なる結論に至ったとかなんとか。
どうやらクズは俺が赤豚に毒を盛った事は完全に気づいていない様ですぞ。
とんだ英知の賢王ですぞ!
HAHAHA! ここでネタバレしてやりますかな?
脳内のお義父さんを始めとした様々な方々に「やめろ!」と注意されてしまいました。
ダメなのですかな?
それからクズはどうしたらお義父さんに……これまで傷つけてきた亜人、獣人達にどう償えば良いのか、世界の為にどうしたらいいのか、常に考えていたとの話ですぞ。
もちろんその間に女王主導の罰や虎娘の世話はしていたそうですな。
ただ、今は罪を償う身……それでも何かを成さねばならない、こんな所で平和を謳歌していて良いはずがない、と過去の行った出来事として仮面を被った行動を思案している所で窓辺から声がしたとの話ですぞ。
――そこに現れたのはフレオンちゃん。
なんでもフレオンちゃんはクズに目を付けていたとか。
そう言えば……朝はよくご機嫌に飛んで鳴いていましたな。
フレオンちゃんの話ではここで悩んで黙って罰を受け続ける事だけが罪滅ぼしなのですか? と尋ねて来たとか。
「クソ! あの洗脳フィロリアル……やっぱりクズまで洗脳してやがったのか!」
お義父さんが毒づきました。
フレオンちゃんは悪くないですぞ!
樹を更生させたようにきっと正義感がクズに反応したのですぞ。
現にこうしてお義父さんの力になろうと反省している様ですからな。
ですが……シルドフリーデンでの出来事を俺は忘れませんぞ!
あれだけ痛めつけても立ち上がるとは滅茶苦茶タフですぞ。
お前の娘の悪行が明らかになって、目の前で殺したにも関わらず立ち上がるとは……やはり滅却処分をすべきですかな?
ですがフレオンちゃんが選定した手前……く……ならばこれからの周回で生まれられなかったフィロリアル様の分だけ罪滅ぼしをさせてやりますから覚悟するのですぞ!
そう言う意味ではフィロリアル様の仮面を着けるのは良い反省ですぞ。
全ての善行はフィロリアル様に還元されるべきなのですぞ。
これで世界はフィロリアル様の愛と正義で包まれるのですな。
「そうして世界の為に戦うと決意を固めた頃、既にこの世界での脅威はほぼ払われたと耳にした。同時に、この世界とは異なる場所で波の脅威に曝されている者達がいると聞いたのだ。そしてその脅威はいずれこの世界にも来るかもしれぬ、と……ならばせめてそこで償いをしようとワシは一歩を踏み出したのじゃ」
「……ガエリオンの話をどこからか聞いたんだな。サバゲー感覚で異世界に渡りやがって」
「ガエリオンも驚きだったなの。聖武器の所持者は本来なら所属世界以外には行けないはず……きっと並行世界ではあるけど、一つの世界として武器が認識している可能性があるなの」
と、ライバルが嘆いておりました。
なんでも並行世界が生まれたタイミングが世界融合直後だからとかなんとか。
そんな状況だったのですな。
全く知りませんでした。
「こうして異なる世界を平和にし、この世界に乗り込もうとする脅威を取り除いた後、友好を築く為、フィロリアルクロスとして和平を申し出たのじゃ」
「あー……まあ、元康達の話じゃ速攻で倒せるみたいだけど、元康はそっちの世界に全く興味が無いらしいからな……ガエリオンも後味が悪いからってグラス達に助け舟を出そうとしていたみたいだしな」
「ブブ……」
お義父さんに合わせて扇豚がため息をしました。
「ブブブ……」
「ああ、元康はお前に余裕で勝てるのに手抜きしてたんだと。三勇教って言うこっちで悪事を働いた宗教の化けの皮を剥ぐためにな」
面倒な工程を歩んだもんだとお義父さんは愚痴っておりますぞ。
「そう言う訳じゃ。世界は勇者殿達の活躍によって救われた。感謝しても仕切れん」
波は終わりましたからな。
とりあえず勇者としての役割は一段落と言った所でしょう。
「しかし神や転生者による傷跡は未だ残っておる。これはワシの贖罪にして宿命……悲しみはいずれ争いを生む……故に、後の世に残る悲しみの火種は全て取り除かなければならん」
まあ赤豚本体は最初の世界のお義父さんが倒していますがな。
しかし、どうやら俺達勇者が世界を救った後の事を考えて行動している様ですぞ。
確かにタクトなどの転生者に傷つけられた者達は沢山居ますからな。
彼等の悲しみや憎しみが後世に悪い影響を与えるかもしれないと懸念しているのでしょう。
クズ自身が赤豚の暗躍で亜人、獣人に深い憎悪を持たされていた事実から、自分と同じ様な者達を救おうとしている、という事ですな。
とりあえずクズの決意は理解しました。
「そして、長きに渡る平和を築くには、異なる思想、異なる姿を持つ者同士を繋ぐ、そんな存在が必要なのだ」
「……それがフィロリアルクロスとやらか?」
「我々はまだ未熟……そのままの姿で他者を理解する事は出来ず、恐れ、傷つけてしまう……だが、いつの日か、タイランやその息子とルシアがそうであった様に、互いを信じ合える世界をワシは実現してみせる!」
などとクズは強い眼力を込めて宣言しました。
この眼力なら誰かを洗脳出来そうですな。
それ位、凄い意思を感じますぞ。
「なのでワシがこの姿である時は神鳥騎士団の団長、フィロリアルクロスと呼んで欲しい!」
カチャっとクズが鉄仮面を再度着用しました。




