ルナティック・ジャッジメント
「ユキ、おめぇのは無いなの。まあ今度、本当に暇があったら作るかもしれねーなの」
「なんて傲慢なドラゴンなのですわ!」
「なの、なのなの!」
それからしばらくの間は特に問題も無い日々が続いていますな。
錬も樹もフレオンちゃんとブラックサンダーと仲良く活動しているとの話ですぞ。
俺やライバルの情報提供を元に、転生者共が根城にしている村や町などに向かい真実かどうかの調査もしておりますぞ。
樹と同行しているお姉さんの修業コースが随分と大規模になっている様ですが大丈夫か不安な所ではありますな。
まあ、コウが付いているので心配は無用でしょう。
「しかし……剣の勇者も弓の勇者も随分とキャラがちげーなの」
「生き生きしてますな」
「ランランとしていると言う方が正しいなの……いや、アレが全てのしがらみからの解放かもしれねーなの。哀れとはこの事なの」
ライバルが何やら錬と樹を蔑む様に言いました。
下手に説得しなくて良い分、面倒が片付いていますぞ。
現在、俺達は錬が転生者を討伐する所に立ち会いました。
「貴様の闇は見極めた……」
「闇は闇へ還るのだ!」
なんて感じで錬が転生者と豚共を相手に剣を向けました。
ブラックサンダーも一緒ですな。
「勇者だからって調子に乗って良い事なんか無い! はぁああああああああ!」
錬に向かって転生者は因縁を付けた挙句、暴論を振りかざし、勝てると見込んで襲いかかって行きますぞ。
確か今回は錬が勇者であるのを知って、人通りの少ない道に来た所ですれ違いざまにぶつかって薬草がダメになったとか因縁を付けて来たのでしたな。
錬はそんな薬草が欲しければやる、とその場でボロボロと武器からドロップ品を出して放り出すと、この薬草が彼女を救う薬草だったんだとか、代わりは利かないんだ! 許せないとか難癖を付けたのでした。
転生者はこうして被害者面をするのが常套手段なのですぞ。
そんな大事な薬草を持っていてなんで錬に無理やりぶつかるのか理解に苦しみますな。
そこから戦闘に発展ですぞ。
鍔迫り合いに発展すれば奪えると思っている様ですな。
「踏み込みが甘い!」
ズバァ! っと錬が転生者に剣を振り降ろしてから切り上げをして跳ね上げましたな。
「うぐぁ!?」
「ツヴァイト・トルネード!」
ブラックサンダーが竜巻を発生させて転生者を落下しないように再度跳ねあげました。
「「ブヒィイイイイ!?」」
取り巻きの豚も合わせて竜巻で上がって行きますぞ。
「チェーンバインドⅤ!」
ジャララと転生者達に錬の拘束スキルの鎖が放たれて縛りあげられますな。
ちなみにチェーンバインドはお義父さんのシールドプリズンに相当するスキルですぞ。
「はぁああああああああ!」
錬の剣が光り輝き高らかに跳躍しましたな。
それから鋭い突きを空中で転生者に向けて放ちますぞ。
「ルナティック・ジャッジメントⅢ!」
「うぐぅ!?」
ズドンと錬の放った突きが鳥の形を描いて飛んで行き転生者を貫き、大きな爆発が起こりましたな。
「ぐあああああああああああ!?」
ドサッと転生者は爆発に飲まれておりましたが黒焦げに成りながら地面に倒れ伏しましたぞ。
「「ブヒィイイイイ!?」」
豚共は錬の放ったルナティックジャッジメントの爆風に巻き込まれて大ダメージを受けて転生者と同じく倒れ伏しましたな。
「ふ……闇へ還れ」
「さあ、ここに闇は無い。この場に留まる意味はもうない」
ブラックサンダーの言葉に続き、錬が勝利の決めポーズをしておりましたぞ。
「では任せたぞ! タイムドライブ!」
「とう!」
ブラックサンダーの背に乗り錬は颯爽と移動して行きましたな。
仲が良さそうで何よりですぞ。
次は樹ですな。
お姉さん達の修業に付き合いながらも、暇を見つけては転生者を狩っているそうですぞ。
フレオンちゃんの移動力を駆使したタイムスケジュールでの行動だそうですな。
樹の場合は転生者達の裏取りをしっかり行った後に、犯行現場を抑え込んで突きつけるのですぞ。
その現場に俺もフィロリアルマスクとして付き合う事になりました。
確か今回の転生者の罪状はなんでしたかな?
ああ、なんでも獣人の集落を襲撃、殺して食料として振る舞ったのでしたな。
メルロマルクでもさすがに獣人を食べる様な文化は無いそうですぞ。
獣の性質を持っているとはいえ、人は人ですからな。
倫理観がなんとか、と何かとうるさいのでしょう。
なんでも飢えで困っていた村の者達故、最初は魔物の肉と思っていたみたいですな。
しかし、ちょっと離れた森に住む獣人達の肉と知って顔を青ざめた後、激怒したとか。
猪、熊……それとキールみたいな犬系の獣人だったそうですぞ。
色々と取引していた間柄で、数か月前に語りあった者が食卓に並んでいたのを知らずに食したとか何とかですな。
反吐の出る話ですぞ。
人間に例えると、グロイ方のカチカチ山という事ですな。
狸がババ……いえ、お姉さんの名誉の為にこの考えはやめましょう。
それを国に通報した所、国の貴族の豚の介入で罪にならず、告発した者が投獄されたのでしたな。
もちろん子供達には知らせる事は出来ないとか色々と話があるそうですぞ。
フレオンちゃんと樹がこうした情報を多方面から収集し、転生者を捕まえる事になったのですぞ。
「あなた達のした事は立派な殺戮行為ですよー! 国のルールにのっとりしっかりと罰を受けるならいざ知らず……権力者に取り入り好き放題……このフィロリアルマスク達が勇者と天に代わって引導を渡して上げましょう!」
「そうです……無抵抗な者を殺し、善良な村人たちに知らせずに食べさせ、誤解であったとしても罰を受けずに善良な者達を苦しめるなど言語道断……まだ罪を償う事が出来ますよ」
「そ、そうです! 食人の罪はいけないんです!」
「お前等が巷で噂のヒーローか? 俺がどうして悪人扱いされなきゃなんねえんだよ!」
転生者は自らがした行いに関して心の底から悪行だと思っていない様ですな。
ちなみに転生者とカテゴリーされていますが俺達と同じく転移でこの世界に来た者も混じっているのですぞ。
コーラなどがそれですな。
「理由は先ほど述べました。例え獣人であろうと彼等は人なのです。原住民を虐殺した罪であなた達を捕縛します!」
「は! どこに罪状があるってんだ!」
「ここに……各国のお墨付きであなた達は既に賞金首です!」
フレオンちゃんがどーん! とばかりに張り紙を見せつけますぞ。
転生者と豚が権力でもみ消した物を勇者としての権力で拾い上げ、正式に受理したのですな。
「な、何! そんなでっち上げに付き合ってられるか! 良いだろう! 正義面した奴に報いを受けさせてやろうじゃねえか!」
「ブブヒー!」
転生者は武器を抜いて俺達の方に飛びかかって来ましたぞ。
「手早く行きましょう! ジャスティスさん! リースカさん! 1号さん!」
「任せろですぞ!」
「皆さんの手を煩わせる程ではありません……ショックアローⅣ……バインドアローⅢ」
タタン! っと、樹が転生者と豚に向かって矢を三つ生成して地面へと撃って跳ね上げた後に更に矢を放って空中で固定しましたぞ。
「うぐ!? ぐああああああ!?」
「ブヒィイイ!?」
それから高らかに飛び上がって弓を強く引きましたぞ。
弓が光り輝き、矢へと集まって行きますな。
「ルナティック・ジャッジメントⅢ!」
バッと樹が矢を放つと矢が鳥の形となって転生者達を貫き爆発が発生しました。
もちろん錬の時と同じく転生者達は黒焦げになって倒れ伏しましたな。
「やりましたね! では縛り上げてしかるべき所に渡しましょう! 彼らへの罰は国が行ってくれるはずです!」
「ふええ……」
情けない声を出すリースカですが手慣れた様子で転生者達を縛りあげて行きますぞ。
どうやら正義に関して疑問は無い様子ですな。
「暴れ足りないですぞ! 他にいないのですかな?」
「平和なのが一番ですよ、1号さん」
確かにフレオンちゃんの言う事はもっともなのですぞ。
ですので俺も止む無く我慢していますからな。
「コイツ等は滅却処理した方が早いと思うのですぞ。フレオンちゃんが許してくれるなら、塵すら残さず燃やしてやりますぞ?」
「ダメですよ、1号さん。それは結果的に成る事であり、形式は大事なのです」
ふむ……フレオンちゃんの正義とは形式が大事なのですな。
結果、こやつらは処理するのは変わらないとしても、ですぞ。
それから俺達は依頼を出した国に捕えた転生者を連れて行ったのですぞ。
「ではジャスティスさん、リースカさん、次へ行きましょう。悪に踏みにじられ、助けを求める方々がまだまだ沢山いるのですから」
「はい」
樹がフィロリアル姿になったフレオンちゃんの背に乗りましたな。
そしてフレオンちゃんはリースカの背中を足で掴んで羽ばたいて行ってしまいました。
「ふえぇえええ!?」
正義の味方も大変なのですな。
そうして俺が錬と樹の活動を映像水晶で録画した物をお義父さんに見て頂きました。
「ラフー」
お義父さんがラフ種……既にラフちゃんと命名した俺とライバルが作った生き物を膝に乗せて撫でております。
その姿はどことなく威厳がありますな。
空気に合わせて膝を突いて頭を垂れましょう。
「……元康、お前は何をしているんだ?」
「なんとなくやっているだけですぞ」
「俺が悪の秘密結社の首領みたいな雰囲気になるからやめろ」
「わかりましたぞ!」
立ち上がって敬礼ですな!
それからお義父さんには映像を全て目を通して頂きました。
「どうでしたかな?」
「……ルナティック・ジャッジメントって感じだったな」
「気になりますかな? 俺も使えますぞ!」
くるくると槍を振りまわしてアピールですぞ。
きっとお義父さんも使ってみたいのでしょう。
「条件は?」
「いつの間にか覚えてましたな」
これに関しては本当に覚えがありませんぞ!
以前のループで錬や樹が使っている所を見た事がないので、何か特殊な条件があるのかもしれません。
「錬や樹もか?」
「そこまではわかりませんなー。ただこのスキルはチャージが面倒なのですぞ。ブリューナクを放った方が早いのは間違いないですな。錬や樹もきっとそうですぞ」
「見せ技……って奴か。俺の場合はどんなスキルなんだろうな」
ちょっとお義父さんの背中に哀愁を感じますぞ。
「きっと素敵なルナティック・ジャッジメントですぞ」
「そんなロマンティックを感じている訳じゃないんだが……って俺は何を言ってんだ」
お義父さんがため息をしてました。
「それで? 流行ってるのか?」
「派手な技ですからな。俺も後で撮影してお義父さんに見せますぞ」
「いらん。とにかく、錬や樹も一応やるべき事はやっているってことか……世間の評判も良くなっているって話だし、良い事か……」
と言う感じでお義父さんへの報告は終わりました。
「フィーロもメルティと一緒にアイドル活動を楽しんで……ついでにメルフィロしているみたいだし、良いってことか……ちょっとこっちは暇になりつつあるがな」
「修業には付き合いますぞ、お義父さん」
「はいはい。じゃあ、確認も終わったし、今日もやっていくとしよう」
なんて感じの報告は終わりました。
ああ、お姉さんの修業記録も撮影して来ましたぞ。お義父さんはラフ種を撫でながら一番関心がある様に見ておりましたな。
さて……現在俺達はフォーブレイ管理の収容所におりますぞ。
一体何故俺達がこんな所にいるのかと言うと先ほど語った錬と樹の問題が関わっているのですな。
「どっちにしても正義の味方や闇の勇者ってのは面倒くさいって事なの」
ため息交じりにライバルが言いますな。
ちなみにお義父さんにもここの件に関しては報告済みではありますな。
わかっていて俺とライバルに押し付けた業務でもありますがな。
一体何があるのかと言うと……錬と樹が捕縛した転生者共がここで収容されて強引に眠らされているのですぞ。
コイツ等には話し合いなど無意味なのに良くやりますな。
優しいお義父さんの実験でも無駄だったのが判明していますぞ。
反省など出来ないゴミなのが転生者ですからな。
何せ世論で転生者を狩る流れになった際、自分の行った悪行を棚に上げて捕まったら魔女狩りだなんだと騒いでいました。
その癖、力こそ正義論を振りかざして襲ってくるのですから性質が悪いですぞ。
よく言うセリフが「俺が最強だ! 勇者なんかかませの雑魚!」ですな。
身の程知らずも良い所ですぞ。
錬も同じ様に闇の仕事と称してブラックサンダーと共に転生者達を倒しはするのですが半分くらいを生け捕りにして関係各所……国の暗部に押し付けて姿を晦ましてしまうのですぞ。
なお、豚共は罪状の関係でほとんどが豚王送りの罪になるのは言うまでも無いですぞ。
ともかく、現在俺達は錬と樹が捕まえた転生者達の処理をどうするかをお義父さんに任された訳ですな。
「転生者の処理など俺だけに任せれば良いのですぞ」
トドメを刺せば良いだけですからな。
一箇所に集めてブリューナクで滅却処分ですむのですぞ。
ですがここでフレオンちゃんと同じく、ライバルは待ったを述べたのですぞ。
「ライバル、面倒なら俺が処分すればいいのではないですかな? 何故邪魔をするのですかな?」
「そりゃあコイツ等にはまだ使い道があるからなの」
コヤツ等に使い道?
「コイツ等はこの世のゴミですぞ。最初の世界のお義父さんが言ってました。転生者と言うのは本来は無能で、その癖むやみやたらプライドだけが高く、嫉妬深いクズで、赤豚本体に目を付けられて力に溺れた最強という幻想に囚われた愚か者なのですぞ」
意識の無い転生者に視線を向けて俺は言いますぞ。
間違いないですな。
コイツ等はむやみやたら最強に固執し、自身より強いと認識する相手が現れると相手の短所を目敏く見つけ、さも大問題であるかのように騒ぎ立てて喧嘩を売るのですぞ。
無知をさらけ出すとはこの事ですな。
そういえば最初の世界のお義父さんが、赤豚本体が何故この様な無能を選んで送っていたのか話していた事がありましたな。
世界を混乱させる以外にも、自分の有能さを実感する為、という側面もあったとか。
お義父さん曰く、有能な奴に凄い力を与えて結果を出すのは当たり前だ。神を自称する様な自尊心の塊がそんな奴に力を与えて満足出来る訳がない、だそうですぞ。
無能な奴に力を与えて結果が出れば、それはつまり赤豚本体が有能である事の証明……神とやらが無能に力を授けるのは、そういう意味があるそうですぞ。
ついでに世界をメチャクチャに出来れば万々歳という事らしいですな。
何故そんな事をしたがるのかはわかりませんが、愚かで無能な転生者達を使って自分の力に酔っていたみたいですな。
「こんな連中に何の価値があるのですかな? タクトと同類なのですぞ?」
「ふふ……ゴミはゴミなりに利用価値があるって事なの。これも奴等の頭がやった事でもあるから世界経済の為にも道化を演じて退場してもらうのが良いなの」
「よくわからない事を言いますな」
「良いからコイツ等の連行を手伝うなの。ゼルトブルの闇ギルドも闇が深いなの」
と言う訳でライバルはお義父さん経由で俺に命じて転生者をとある島へと連行しました。




