メルフィロ
「……」
お義父さんは面白くない物を見たかのように目を細めてその映像を見ていました。
「ラーフー」
ラフ種をお義父さんは撫で続けておりますぞ。
「今、クズは何をやっているんだ?」
「城で幽閉されているのですぞ。女王の命令で恥ずかしい恰好で城内を歩かされたりしていたりいますな。その映像もありますぞ」
虎兄妹の再会が終わった後に女王の罰で城内を見世物の様に歩かされる映像も同封されておりますぞ。
今回は裸の王様スタイルですな。
なんとなく威風堂々としている様に感じる様な気がしますが滑稽な姿ですな。
「……顔が屈辱的じゃないんだな」
「あらー」
「えー……女王様の指示で行われている罰じゃからワシもあれこれ言う事は出来んのじゃが……」
仙人が言葉に迷った様に答えました。
「指差して笑うのが良いのではないですかな? それともお義父さん、腐った物でも投げつけに行きますかな?」
「お前の中の俺はどんな奴なんだよ!」
おや? お義父さんに怒鳴られてしまいましたな。
俺の中にあるお義父さんですかな?
「お義父さんは何よりも大事な掛け替えのない大切な方ですぞ」
フィーロたんと同じく俺の心の支えをしてくれるお義父さんですな。
例え嫌われていようとも尽くすと決めたのですぞ。
「また気色の悪い事を……俺が腐った物を投げつけにワザワザ行く奴だと思っているのかと聞いているんだ!」
「土下座したくなくて抵抗している奴の頭を踏みつけたりして笑うのは知っておりますぞ」
「ぐっ……」
おや? お義父さんが何故か絶句してますぞ。
赤豚が昔、俺に泣きついて来た時に聞いたので知っていたのですぞ。
今なら踏まれてざまあみろと思いましたがあの時は怒った苦い思い出ですぞ。
「俺の頭も踏みますかな? こう見えて踏み易い頭だと思いますぞ」
それでお義父さんの怒りの溜飲が下がるのでしたら幾らでも踏んで貰いたいですぞ。
地面ペロペロですな。
「もっと踏んで良いのですぞ」
それだけ俺は罪深いですからな。
「やめろ……くっそ」
お義父さんが何故か引いていますぞ。
「あらー……ナオフミちゃんも色々とやんちゃなのね」
「やんちゃで片付ける奴もどうかと思うが……くそ! ともかく俺は嫌な奴に屈辱を与えるのが好きなだけだ! 意味も無くそんな真似をする趣味は無い! ともかく……アレは屈辱なんて思ってない顔だろ。面倒くさい」
ハートブレイクしましたからな。
屈辱を感じる心すら無くなったのでしょう。
「クズ将軍も自身の罪に向き合っていると言う事じゃし……盾の勇者様とも和解の手掛かりを得ようとしておると言う事じゃな。どうかお二方が手を取り合える時が来る事を祈るばかりじゃ……」
仙人は手を合わせて祈っていた出来事でしたぞ。
俺はクズを許しておりませんがな!
「なんだかわからんが、妙な雇用主がいる事は珍しくない。これからよろしく頼む」
虎男が空気を読まずにこうして加入したのでした。
虎男が村に来て少し経ちました。
婚約者が隣町の管理を任されましたな。
フィーロたんがよく遊びに行く姿を俺は遠くから見つめておりました。
色々と隣町の開拓をしているのでしたな。
ちなみにエクレアは既にお姉さんと一緒に修業の旅に出ていますぞ。
修業から帰ってきたら婚約者の警護をするようになるのでしょうな。
ああ、一応俺がお義父さんと稽古をして気の使い方をレクチャーしておりますぞ。
かるーくお義父さんに気を流して感覚を掴んで貰えるようにしておりますな。
直に覚えて下さるでしょう。
そんなある日の事ですな。
「ちょっとナオフミ……と、槍の勇者もいるわね。丁度良いわ」
婚約者がフィーロたんの背に乗って空から降りて来ました。
ヒィイ……。
「槍の人ーうるわしゅー!」
フィーロたんの目がキラキラしてますぞ。
な、何か食べ物を渡して気を逸らすべきですかな?
「あ、フィーロですわね。丁度良いですわ。競争するのですわ」
「えー今フィーロ走るより槍の人と話をしてるの」
「お、俺よりも何か用事があってきたのではないのですかな?」
「あ、そっかーそうだったー」
フィーロたんは何度も頷きつつ俺をチラッと見ておりますぞ。
く……これはアレですぞ。
俺は槍からマシュマロを出してフィーロたんに渡しますぞ。
「白いふわふわ?」
「マシュマロですぞ。普通に食べても美味しいですが火で炙って焼いたのも美味しいのですぞ」
槍の先に突き刺して軽く火で炙ってからフィーロたんの口元近くに差し出しますぞ。
フィーロたんは槍の穂先に手を添えてマシュマロを頬張りました。
「わーふわふわーおいしー! 槍の人ありがとー」
「好きに食べると良いですぞ」
「わーい!」
なんて様子をお義父さんは見ております。
「元康……お前フィーロにたかられてるぞ」
「そうね。フィーロちゃん、あんまり槍の勇者様に甘えちゃダメよ」
「えー……でも槍の人最近色々とくれるんだよ?」
「気を逸らしたいみたいだからな」
「んー?」
フィーロたんが首を傾げておりましたが、お義父さんは婚約者の方に顔を向けますぞ。
「で、話は逸れたが、なんだメルティ?」
婚約者が何やらお義父さんの所に来て……妙なコンパクトを差し出しますぞ。
開くと鏡が付いている奴ですな。
煌びやかでデコレーションなどが付いています。
「なんかガエリオンって子が私とフィーロちゃんに妙な代物を押しつけてきたんだけど……」
「キラキラしてるよー」
ライバルが婚約者とフィーロたんにですぞ?
「あの解読書がなんでお前等に?」
「知らないわよ。なんかこのコンパクトを開けてから手をかざして『ダブルレインボーウイング』って言えって」
眉を寄せたお義父さんが婚約者とフィーロたんを交互に見ますぞ。
「……なんか凄く嫌な予感がするが、言われた通りにやってみたらどうだ?」
「なんで罠とわかっているのにやらなきゃいけないのよ」
「というか樹が以前メルティとフィーロでペアを組ませてやらせろって言ってた奴か?」
「フィーロちゃんはやりたくないわよね?」
「えー? んー……ガエリオンは嫌いだけどキラキラは綺麗だから好き? あとねー槍の人に色々と貰ってんだからやってやれって言ってたよ」
アクセサリーに罪は無いと言う考えですな!
さすがフィーロたんですぞ。
「かと言って……村の連中にでもやらせるのが良いのか? 盾で鑑定しても魔法道具のアクセサリーって程度で呪いとか奇妙な仕掛けは掛っていないぞ。無駄に高性能だからお前等が装備するには良さそうだな」
調整済みドレスアップコンパクト(メルティ王女、フィーロ専用) 四属性魔法威力アップ(大) 魔力の法衣 能力解放
品質 高品質
という奇妙な効果があるのが俺でも判別出来ました。
ライバルめ! 何を企んでいるのですかな!
「とにかく試してみろ」
「はあ……わかったわよ。じゃあフィーロちゃん」
「わかったー」
フィーロたんと婚約者がコンパクトを開けて手をかざしますぞ。
「「ダブルレインボーウイング」」
直後コンパクトから七色の光が飛び出して婚約者とフィーロたんを包み込みました。
むん! 俺の視界には光の先にいるフィーロたんが見えますぞ。
フィーロたんの服が光と共に形を変えてワンピースからミニドレスへと変貌して行きますな。
髪型がツインテールになりました。
こ、これは目の保養ですぞ!
なんとも素晴らしい姿ですかな!?
で、合わせるように婚約者も衣装がチェンジされてフィーロたんのとは逆の色合いのミニドレスに成りましたな。
髪はフィーロたんと逆にロングヘアーになりました。
魔力素材で作られた糸ですかな?
一度糸にしないといけないのに服として形作られている様に見えますぞ。
やがて七色の光が散って姿を現しました。
「……」
「…………」
「ラーフー」
お義父さんと婚約者の間に沈黙が走りました。
それから少しした後、婚約者の顔がみるみる赤く染まっていきましたな。
ラフ種はどこから出したのかサングラスを掛けてフィーロたんの素晴らしい衣装の変わる姿を見ておりました。
「な、何よこれ!?」
「変身シーンだったな。どこかで見ているんだったらさっさと出てこい!」
「なのーん!」
どこに隠れていたのかライバルが空から舞い降りて来ました。
「なんだこれは?」
「変身アイテムなの。フィーロが持てるようにドラゴン由来の素材を使わずに工夫を重ねて作った一品なの!」
見たまんまですな。
俺に好感度を教えてくれた男の友人等が熱く語った変身ヒロイン物を連想しましたぞ。
「樹や錬じゃあるまいし……ふたりはメルフィロってか?」
「お? 良いネーミングなの。これから王女とフィーロは変身ヒロイン、伝説の戦士メルフィロとなって世直しのヒーローをするなの」
おや? 婚約者もフィロリアルマスクにデビューするのですかな?
それならば心強いですな。
俺は婚約者の人格や能力を認めていますぞ。
「嫌よ!」
「樹達がヒーロー路線で各地でやっているらしいが……フィーロとメルティもデビューさせられるのか。大変だな。がんばれよ」
「なんで他人事なのよ!」
「主題歌でも準備してやろうか?」
「いらないわよ!」
「メルちゃんメルちゃん、弓の人とかがやってる楽しそうな事をフィーロ達も出来るの? 悪い事をしている相手にー……フィーロの目の前に出てきたのが運の尽き、フィーロのご飯になるんだよ! って言ってメルちゃんと手を合わせてマーブルブラストって言って魔法を使うんだよね? 剣と弓の人が言ってたよー」
「アイツ等、碌な事を言わないよな」
「あのねフィーロちゃん、私はそんな事をしなくても私のままでやれば良いと思っているの。それとその台詞はなんか違うわ」
おお……フィーロたんがヒーローショーをするのですな!
これは見逃せませんぞ!
樹や錬の悪人を捕える戦いよりもはるかに見所がありますからな!
婚約者とフィーロたんがピンチになったら助けるようにフィロリアルマスク1号が颯爽と現れるのですな。
なんとも素敵なやり取りですぞ。
「そうなの? でもなんか楽しそー」
「元康様……そこのドラゴン! ユキのはありませんの?」
ユキちゃんがフィーロたん達の素敵な光景に胸を躍らせている俺をしり目にライバルに聞きますぞ。
「こんなのはナオフミがやれば良いのよ」
「なんで俺がヒロイン路線なんだよ! あ、ラフちゃんに仮装させたら楽しそうだな」
「ラッフー」
ラフ種へのコスプレは最初の世界のお義父さんが後に色々とやっていました。
ある意味趣味だったのではないですかな?
「ナオフミも何言ってるのよ。ラフタリアさんがこんな風になったらどうするつもりよ」
「ふむ……」
お義父さんがしばらく考え始めました。
「変身ヒロイン路線だな、としか思わんな。身体能力とか上がるなら使わせるのも手かもしれん」
「どこまで効率主義なのよ……ラフタリアさんの苦労が知れるわ」
「何を訳のわからん事を……何か欲しいアクセサリーが無いかと聞いたら実用的な物を要求するラフタリアだぞ。それだけ高性能なら欲しがるだろ」
確かにお姉さんもその辺りは割り切るタイプな気がしますな。
「気が向いたら作るなの」
「完成が楽しみだな。ラフタリアの場合はどんな衣装が良いだろうな……外見年齢的にセーラーが無難か? いや、それはそれでセンスの古さが……そもそもメルティやフィーロの衣装の方向性からは少し違う路線になりそうだな」
「なのーん」
「とにかく本題から逸れるが解読本は妙な真似をするな。じゃあ解散。散れ散れ」
お義父さんがラフ種を撫でつつ手を振って解散を促しますぞ。
「メルちゃんメルちゃん、お散歩いこー! フィーロ飛べるからどこでも行けるよー!」
「ちょっとフィーロちゃん! ああもう……」
婚約者はフィーロたんに乗って空高く飛んで行ってしまいました。
それからフィーロたん達の話を耳にするようになりましたな。
主に酒場関連でしたがフィーロたんと一緒にアイドル活動を始めた様ですぞ。
婚約者が演奏をしてフィーロたんが歌って踊る。
そのステージの途中でメルフィロとなって盛り上げていたとの話ですぞ!
素晴らしいショーですな!
ライバルの企みを別の方向で利用するとはやりますな!
もちろんフィーロたんはフレオンちゃんに負けずに悪さをする盗賊をヒーローに変身して捕まえたりしていた様ですぞ。
国内では色々と噂が持ち切りですな。
錬や樹も各地でしっかりと治安維持に走り、三勇教の企みを打破するために敢えて問題を起こした風に見せていたとか何とか。
などと言った様子でフィーロたんと婚約者もヒーローデビューを飾った様ですぞ。
 




