ノンフィクション
「アレは……」
「なんだ? 知り合いか?」
「えーっと……フォーブレイで七星勇者をしているタクトって人よ」
「へー……映画出演までしてるのか」
「手広く色々としてる人だからありえるとは思えるけど……」
婚約者がライバルをじろじろと見ておりますぞ。
ライバルの方は軽く手を振っているだけですな。
ちなみにこの映像の全てはライバルがいろんな所に密かに設置した映像水晶で録画した代物らしいですぞ。
豪邸を含めて島中に設置されており、これらの映像は全てライバルが撮った代物を編集した様ですぞ。
それからタクトは島に上陸し、まあ色々とバカンスをして行くのでしたな。
「なんつーか……下衆な連中だな。誰かを陥れた事をゲラゲラと……不愉快な始まりで誰に感情移入すれば良いかわからんな」
主治医を追放した祝いとかの垂れ幕に字幕が付いてお義父さんにも分かる様にしていますな。
豚共の会話も収録されているのですぞ。
お、投擲具の七星武器を奪った出来事などを自慢げに語るシーンが挟まれますぞ。
「これ……本人が出演して言ってるみたいだけど、勇者殺しの大犯罪と七星武器を奪えるって設定になっちゃっているわよ?」
「強奪……元康がなんか言ってたな……」
「え? そうなの?」
婚約者が怪訝な目をしながらタクト達の暴挙と自慢話のシーンを見ておりますな。
やがて順番に指輪を渡してキスをする気色悪いシーンに続いて行きますぞ。
「気持ち悪い展開だな。アイツら何も疑問に思わないんだろうか? コレがハーレムって奴なんだろうが……客観的にみると本気で気色悪いな……」
お義父さんが吐き捨てるように言いますぞ。
「確かに嫌ですね……」
「あらー肉欲の宴ね。お姉さん、ナオフミちゃんとならやっても良いわよ?」
「本気でやらないから便乗してセクハラをしてくるな」
「んー? 交尾ー? 沢山だね」
フィーロたんはよくわからないと言った様子でポップコーンを食べつつ首を傾げております。
お義父さんが黙ってフィーロたんを見てから映像の方に顔を向けました。
「下衆な連中のハーレムAVを見せられるのか? それなら出て行くぞ」
「そんな事にはならないから見てて欲しいなのー」
「ふむ……」
そうこうしている内に背景の空に嵐を告げる映像に成りました。
雷鳴が轟き、夜にタクトの豪邸が一回映し出されましたな。
で、俺とライバルの犯行が映し出されて行きますぞ。
何やら豚がブヒブヒ鳴いた所で分かりやすく島の伝承が表示されておりますぞ。
「ふむ……見立て殺人……推理物路線になるのか。なんか最後の女の死体からはモンスターパニック的な要素が見えたが、それも伏線だろうしな」
で、脱出手段が全て無くなったやり取りをしていましたな。もちろん俺が破壊した奴ですぞ。
破壊された船やドッグ等を確認するタクト達の顔を絶妙なカメラアングルで映しておりましたぞ。
それから徐々に島で豚が次々と死体で発見される映像が映し出されますな。
「一人だけ男の探偵役の奴だが妙にメタな行動をするな。こんな時に魔法で嵐を吹き飛ばすとか、クローズドサークルからの脱出をしようとしてるとか、完全にフラグだぞ」
やがて徐々に豚共が死体で見つかったり、豪邸の一区画が爆発で消し飛ぶシーンなどが挟まって行き、徐々にタクト達が追い詰められていく映像へと進んで行きました。
メイド豚の犯行シーンがありませんな?
俺の活躍も全く描写されておりませんぞ。
「タクトは七裂魔王なのか? って感じだな。そして誰も居なくなった路線か?」
「あ、聞いた事あるわね」
婚約者が聞き覚えがあるとばかりに答えますぞ。
お姉さんはそんな婚約者とお義父さんを羨ましそうに見ておりますな。
「魔法があるのに異世界にもそう言う推理物があるのか?」
「過去の勇者が広めた話の一つなのよ」
「ほー……」
「……私も色々と本を読んで行きたいです」
お姉さんがぽつりと決意染みた呟きをしました。
「あらー」
「んー?」
どうやら話題に入れないのがお姉さんなりに悔しいのでしょう。
お姉さんのお姉さんが茶化すようにお姉さんを指で突いておりますぞ。
コウも真似してお姉さんをお姉さんのお姉さんの反対側から突いてましたな。
「お姉さん、あんまり勉強するとお義父さんに引かれてしまいますぞ?」
おぼろげですがお姉さんが勉強熱心でお義父さんに引かれて失敗した所を思い出しましたぞ。
「確か……良い雰囲気になった時、お義父さんの部屋にあるパソコンのゲームを参考に台詞を言ってしまったとかなんとか」
ギュンとお義父さんが凄い速度で俺の方へ顔を向けました。
「……まさかラフタリアが俺の部屋のパソコンの中身を漁った世界があるって言うのか?」
「らしいですな。そこで知った所為で何かあったような……」
「え? あの?」
何かその所為でお姉さんが困った様な……何か負けたのでしたかな?
「何を知ったのでしょうか?」
「絶対に知っちゃいけない事だぞ、ラフタリア!」
「は、はい!」
お義父さんに輪に混ぜてもらってお姉さんは嬉しそうですぞ。
良かったですな。
記憶の中のお姉さんも思わずニッコリでしょう。
俺は出来る男なのですぞ。
やがて外海に出ようとしたサメ豚の死体を見つけて絶句するシーンへと変わって行きました。
それから……どう編集したのかわかりませんがタクトが豚と言い争って豚を仕留めたシーンへと変わり、犯人を探して闇夜を走っていくシーンで暗転しました。
そこからは急転直下、豚ゾンビ達との攻防へと変わりましたな。
で、嵐が通り過ぎ去った所で時計台へと登り誰かに声を掛けようとした所で暗転しましたな。
ズラーっと登場人物の名前等がスタッフロールの様に流れた後、島の伝承が再度流れ、誰も生き残れなかったと締めくくられました。
部屋が明るくなり上映終了ですな。
「どうなの? 楽しかったなの?」
「いや……B級映画と言うか、何がしたいのかよくわからん終わり方をしたな。推理物なら推理物で分けるべきだろ」
「なの、わかったなの。ガエリオンとしては何編にも分けた構成をして真相を解き明かす風にしたいなの」
「なんかどこかで聞いた様なネタだな。誰の入れ知恵かは知らんが……で、犯人は誰なんだ?」
「ライバル、俺の活躍が入ってませんぞ」
「掴みだから出演してねーなの」
酷いですぞ!
俺の活躍でタクト共を駆逐する活動写真を編集でバッサリと削除されたのですぞ!
「まさかのオチは外部犯かよ……」
「そうならない様に作ってあるから考えてみるなのー」
「面倒くせー……どっちにしても妙な映画を見せられた気分だ。で、推理物で良いんだな。ゾンビパニックになったが」
「恐怖を叩き込むノンフィクション映画ですぞ」
「ドキュメンタリーなの」
面倒そうに顔を逸らしていたお義父さんが俺達の方をゆっくりと見た後、お姉さん達の方にゆっくりと顔を戻しますぞ。
「……そうか」
アレは信じないとも異なる反応な気がしますな。
「えーっと……事実って事?」
婚約者が言葉に迷うように口を開いていますぞ。
「タクトは本当に七星武器を複数所持して隠し持っている世界の敵であるのは事実なの」
「やりましたぞ!」
今タクトは豚王の所で奴隷紋を刻まれて寝取られを経験している最中ですぞ。
世界中に分布する豚共を集めているそうですな。
ちなみにノンカットで豚王には映像が見せられたとの話ですな。
豚王はタクトの悪行を知って大層ご満悦でしたぞ。
証拠は七星教会が検知済みですからな。
タクトは苦しんで死ぬ者の名前ですからな!
あの恐怖に歪む表情は見物ですぞ!
まだまだ俺の怒りは晴れませんがな!
「既に証明済みでまさに豚小屋行きなの!」
「そ、そうなの……」
婚約者は返事に困った様子でフィーロたんの隣に立ちましたな。
「元康様が出演するなら見たいですわ。きっととても足が速いシーンがあるのですわね」
「アレってユキなの? 随分と背格好が高くて変な奴なの」
「ユキちゃんに失礼ですぞ、ライバル」
「はいはいなの」
「色々とヤバイ連中だな、お前等は」
「これも必要な事であるし多少の娯楽としては良いと思うなの。ガエリオン、アイツらをネタにして金儲けする資格は十分にあるなの」
「全世界放映でもして儲ける予定か?」
「もちろん収益はなおふみ達へも分配するなの」
お義父さんが商人の顔をしておりますぞ。
「ま、儲けになるかは知らんが良いんじゃないか?」
「この娯楽で槍の勇者、フィロリアル達にお前から頼みをしてほしいなの」
「嫌ですぞ」
「なおふみ、商売に必要な事だから頷かせてほしいなの」
「何をするんだ?」
「アテレコなの。フィロリアル共は声帯模写が上手だからやればいろんなパターンの話に出来るなの」
「なるほど……元康、手伝え。そうすりゃ金になる」
「く……わかりました」
ライバルめぇえええ!
お義父さんに取り入るのが早過ぎですぞ!
後は後日の話ですな。
タクト一味の悪行が世界に公表されるまでの間にタクトの豚共は大体集められて豚王の治める豚小屋に出荷されたとの話ですな。
ミスティラ達同志達にもこの映像は送り届けられて満足する結果になった様ですぞ。
で、タクトの妹は風邪が治ってからしばらく兄の行方がつかめない事で色々と嗅ぎまわっていたとの話ですぞ。
ライバル曰く、実験でタクトの息が掛った者達が、心を入れ替えるかを試すとか何とかするので泳がせて居た様ですぞ。
やがて全世界にタクトの悪行が広まった所でも、相変わらず騒ぎまくったらしいですな。
悪いのはタクトであって妹は知らなかった扱いで無罪とは言わなくても軟禁扱いにしたとか。
最終的には心を入れ替えるとかはなく、城の兵士に手を掛けて脱走を試みて豚小屋行きになったとの話ですな。
やはりタクトと仲が良いのは豚の証拠ですな!
後は忌まわしい話ですな。
ライバルの放映させたタクトの末路映画は世界中でヒット作品となったのですぞ。
推理物やパニック物としてですな。
もちろんタクトが悪人であるのは皆の目や耳に入っており、ザマァ! としての側面としていろんな派生作品が出来たとの話ですな。
ライバルが作ったのは全六章でした。
この売り上げは最終的に世界単位の人気作となりライバルは大富豪になってしまったのですぞ。
悔しいですぞ!
ライバルが城で上映会をしてから二週間後ですぞ。
俺や錬、樹は国の指示で各地の波に参加して徐々に名声の回復に務めていますぞ。
もちろん合間合間に各々動いているようですがな。
お義父さんは当初の予定通りお姉さんの村の復興を始めたのですぞ。
もちろん、村の奴隷たちも買い集めて順調に集まっているとか何とか。
「なんか踊らされているみたいだけど、ここは研究のやりがいのある場所で助かったわね」
「コイツの紹介で来た時は警戒したもんだが、バイオプラントの改造研究で助かったな」
お義父さんが主治医と一緒に研究結果のバイオプラント産の家を完成させてご満悦でしたぞ。
それで主治医に関してですが、ライバルがタクトのドラゴンに乗り移っていた時に交渉を終えたとの話でしたぞ。
タクト派閥の権力の所為で破壊された研究所で途方に暮れていた所に救いの手を差し伸べたとか何とかですな。
「ラト、お前も随分と大所帯で受け入れるか迷ったが正解だったな」
信用を得るためにライバルがしたのは主治医の研究対象だった魔物達を死んだように見せかけて保護していたとの話ですぞ。
死んだはずの魔物たちと再会して主治医は一応信用する事にしたのでしたな。
しかもタクト派閥の悪事を国が知る事に成り、取りつぶしを予定していた主治医の研究所は無罪放免になったのですぞ。
それでもお義父さんの所に来た様ですがな。
主治医の連れた魔物がここで見ない顔ぶれと言えばそうでしょう。
「最初はタクトと一緒にいるドラゴンが何をする気だと思っていたけど助かったのは事実よね。私もドラゴン嫌いは程々にすべきだと感じたわ」
「ほらお姉ちゃん、しっかり勉強すると良いなの。ガエリオンが見てあげるなの」
「ちょっと……いつまでお父さんの名前を名乗るのよ」
「ガエリオンはガエリオンなの。名付けたのは別のループのお姉ちゃんなの」
「はぁ……」
で、ライバルは足早に助手を魔物商から取り寄せて保護していましたな。
助手からすると目の前で死んだ妹を騙る謎のドラゴンと言う事で怪しんでいた様ですが、最近は大分受け入れて来ているとか何とかですな。
錬に関しては距離を置いて近づかない様にしていますぞ。
今は主治医の助手として最初の世界に近い形で勉強中との話ですぞ。
「あとはー」
ビクッとここで、ライバルが確保していたモグラに視線を向けますぞ。
「イミアお姉ちゃんの調子はどうなの? もっと食べないと大きくなれないなの」
「あ、あの……」
ライバルの奴、モグラに関して思いのほか親しげですぞ。
一体どうしてあんなにモグラの様子を気にしているのですかな?
モグラの方もなんで気に掛けているのかよくわからないと言った様子で接していますぞ。




