真・温泉
部屋に戻ると先に帰って来ていたユキちゃんが出迎えて下さいますぞ。
「元康様、おかえりなさいませですわ」
「ただいまですぞ」
「槍の勇者様、経過はどうですじゃ?」
「順調ですな。仙人も異常などはなさそうですな」
「ですじゃ。ユキもコウものびのびと育っておるし、フィロリアルの雛たちも今か今かと待ちわびているのですじゃ」
ピイピイと室内には仙人が世話をして下さるフィロリアル様達がおりますぞ。
おお……心が癒されますな。
「ラフーの所に遊びにいきたーい。ラフー帰ってた?」
「帰って来てますぞ」
「そっかー! コウ遊びに行ってくるー!」
コウはお姉さんの事が大好きなのですぞ。
そんな訳でコウを見送ってからユキちゃんに尋ねますぞ。
「錬の様子はどうでしたかな?」
「錬様は私の色合いがお気に召さないのか、執拗に『その光で闇を暴こうとするな! 闇は光が無くても闇なのだ!』と仰っていてよくわかりませんでしたわね」
おや……フィロリアル様の色合いだけで拒否などをしてはいけませんぞ。
確かに俺も一時期赤豚への意識から赤い色合いのフィロリアル様……クー等に少しばかり遠慮をしていましたが良い事ではないのですぞ。
とはいえ、ユキちゃんはブラックサンダーとは逆の色合いですからな。
錬の望む方向性とは異なると言う事なのでしょう。
「ですがユキの速さに関しては理解してくださいました。『その白き閃光は称賛に値する。敵を一瞬で切り刻みポーズを取るのだ』と仰っていました。コウに関しては『コウの目の前に出てきたのが運のつき。コウのご飯になるんだよ!』と言っているのを冷めた目で見ていましたわね」
コウとフィーロたんのヒーロー像が同じですぞ。食いしん坊さんですな。
ユキちゃんが錬から教わったポーズを取っておりますぞ。
「真の闇を広めるには漆黒の爪牙が居ないと難しいかと仰いました。漆黒の爪牙とはあの節操のない黒いフィロリアルですわね? ユキが蹴り飛ばしてやった鈍足フィロリアルですわ!」
おお……ブラックサンダーは節操がないですな。何処かでユキちゃんに襲いかかった様ですぞ。
ですが男として気持ちが分からなくもないですぞ。
そう言えばブラックサンダーのノリは他のフィロリアル様にうつる事があるのでしたぞ。
きっと錬はブラックサンダーのノリのフィロリアル様を期待しているのですな。
後で沢山紹介してあげれば喜ぶでしょう。
「色々と報告ありがとうですぞ」
「当然の事ですわ!」
ユキちゃんがとても誇らしげにしておりますぞ。
とにかく、こうして情報は出そろいましたな。どうやら錬も樹もゲーム知識が絶対であると言う認識は無い様子、一安心ですぞ。
後は勇者同士の会議が待っているのですぞ。
そうして勇者会議が行われる夜ですぞ。
宿に備え付けの温泉に行くと錬や樹達が脱衣所におりました。
最初の世界を思い出しますな。
お義父さんも先に入浴している様ですぞ。
「あ、槍の人だー」
フィ、フィーロたんが温泉にお義父さんと一緒に入っておりますぞ。
その隣でお義父さんが眉を寄せてこちらを見ております。
俺の記憶よりもフィーロたんが早くお義父さんと一緒に入っております。
「お義父さん、お背中流しますかな?」
「既に洗った。気色悪い提案をするな」
おう、お義父さんに拒絶されてしまいました。
……お優しいお義父さんよりもやはり引き締まった体をしておりますな。
「湯加減は良さそうですね……」
「……フッ。休める時に休まねばいざと言う時に戦えないというモノ……」
「そうだ。であると同時にいつ、身の程知らずの闇が近づいて来るかわからんから警戒は緩めない事だ」
樹と錬、ブラックサンダーが俺に続いて入ってきますぞ。
にゅ、入浴の前に体を洗わねばいけませんな。
「んー……」
ヒィイ……フィーロたんが何故か体を洗う俺の方にやってきますぞ。
「どうしたのですかな?」
「槍の人はごしゅじんさまの背中洗いたかったのー?」
「そうですな……お義父さんの背中を洗うと心まで洗われるかもしれませんぞ」
「本気で気色悪い事言ってんじゃねえぞ!」
おや? お義父さんが何故か抗議の声をあげてますぞ。
俺の真心ですぞ。
お義父さんと背中の洗いっこは心休まる時間なのですぞ。
何せ優しいお義父さんと入浴した際にはした事がありますからな。
この周回でもいつかやりましょう。
キラッとお義父さんを見つめますぞ。
お義父さんがビクッと体を震わせております。
お湯が熱いのでしょうかな?
お義父さんも大事ですがフィーロたんが俺の近くにいるのは、今の俺には落ち着かないのですぞ。
ここはアレですぞ。
俺は槍を手に持ち……バニラアイスを作り出してフィーロたんに差し出しますぞ。
「熱いお風呂で食べると美味しいですぞ」
「なーに、これ?」
「アイスですぞ」
「アイスー! ありがとー槍の人ー」
俺からバニラアイスを受け取るとフィーロたんはお義父さんの下へ行き、アイスを食べ始めますぞ。
「最近、元康から何かあるともらっているような……」
お義父さんがそう呟いておりましたが今は体を洗う事に集中ですぞ。
そうして体を洗い終えた俺は湯船に入って浸かりますぞ。
ふう……ですな。
ここでお義父さんや錬、樹と雑談タイムにすべきでしょうかな?
「ふむ……勇者共、お前らは共に仲間を知り合った。その中で一番気に入った雌は居ないのか?」
ここで突然ブラックサンダーが話題を切り出しました。
覚えがありますぞ。
最初の世界で俺は仲間の子で一番の美人って誰だと思う? と聞いたのでした。
「雌ってお前な……」
お義父さんがブラックサンダーに向かって不愉快そうに睨んでおりますな。
この辺りはお義父さんは真面目な方なのですぞ。
「漆黒の爪牙……貴様はそんな事に現をぬかしているのか……」
錬がここで蔑みの言葉をブラックサンダーに投げかけますぞ。
「ほう……闇の剣士<シャドウセイント>は興味が無いと?」
「フ……」
錬が不敵に笑っておりますが答えておりませんぞ。
それは肯定と否定、どっちなのですかな?
「まあ良い……時に色を嗜むのも大事だぞ。でなければ闇に飲まれるだけであるからな」
愛も大事と言う事なのは俺も理解できますぞ。
「……錬はお前が好きなんだろ」
面倒そうにお義父さんが呟きますぞ。
「いや、それは困る」
ブラックサンダーが今までの口調とは異なった演技の無い様子で言いました。
赤豚がウロボロス劇毒を飲んだ時の雰囲気と似ていますな。
「愛など不要だ……」
錬が空を見上げてますがブラックサンダーとのちょっと温度差がありますな。
「……恋愛は自由でしょう。ですが僕達には使命がありますから、程々にすべきでしょう」
ここはどう答えるのが良いでしょうか。
最初の世界ではお義父さんを怒らせてしまいましたからな。
経験済みか聞いたのでしたな。
どうやらお義父さんは童貞なのですぞ。
「アイスーおーいしー! ごしゅじんさまの作ったアイスもたべたーい」
「後にしろ!」
「お義父さん」
「……なんだ?」
「童貞とは清き事なのですぞ。無駄に散らしてはいけないのですぞ」
「なんでこんな状況でお前なんかにそんな事を言われなきゃならん!」
お義父さんに怒られてしまいました。
ですがここは多少、お姉さん達への斡旋をすべきでしょうかな?
脳内に浮かぶお姉さんがやめてほしいと首を振っている様な気がしますが言いますぞ。
「出来ればお姉さんか、お姉さんのお姉さん相手に早めに使う事をお勧めしますぞ。出ないと邪悪な存在にお義父さんの童貞と処女を奪われかねませんからな」
「……お前が言うと冗談に聞こえんから本気でやめろ!」
お義父さんが立ちあがって温泉から出ようとしております。
ここは逃げるお義父さんの手を掴んで助言ですぞ。
「お義父さん、きっとお姉さんはお義父さんに温泉で覗きをしてほしいと思っていますぞ」
「なんでだよ!」
「女性と言うのは男に覗かれる事で恥じらいを覚え、魅力が上がっていくのですぞ。なのでこの様な場で覗くのは当然の事なのですぞ」
「そんな淀んだ綺麗な目で俺に覗きをする事を強要するな。死んでもごめんだ」
お義父さんも頑固ですな。
この世界でもお姉さんがお義父さんに好意を持っているのは一目瞭然ですぞ。
「まあ、ソウルイーター素材の武器を駆使すれば壁抜けで見る事も出来るでしょうが、そう言うのは無粋なのですぞ。覗き初心者のお義父さんには俺が肩車するかブラックサンダーが足場になってくれますぞ」
「このブラックサンダー様がか!?」
「嫌なのですかな? この先には楽園があるのですぞ」
「うっ……わかった」
ブラックサンダーは何だかんだスケベさんみたいですぞ。
クロちゃんの時は興味がなさそうでしたが、この辺りは大きな違いですな。
「ほら、お義父さん。楽園はすぐそこですぞ」
「やめろ! 俺は絶対に覗かん! 覗くなら俺が出てからお前らが勝手にやれ!」
お義父さんに手を振りほどかれてしまいました。
「そもそもなんだその理屈は! 一体どうしたらそんな考えが出てくるんだ!」
ここでトテテとコウが脱衣所の方からやってきますぞ。
「何やってるのー?」
「覗きですぞ」
「のぞきー? ラフーのー? ダメなんじゃないのー?」
コウが小首を傾げて聞いてきますな。
ふむ……お姉さんに懐いている影響か色々と教わっている様ですな。
「ああ、間違いないぞ。覗きなんかしたらラフタリアに怒られるぞ」
「じゃあコウしなーい」
「コウもまだまだ子供ですな」
「えー?」
コウが首を傾げていますがお義父さんはどんどん脱衣所の方へと歩いて行ってしまいます。
「フィーロ、ラフタリア達に報告しておけ。覗きをしようとしている連中がいるから気をつけろとな」
「わかったー! 槍の人、アイスありがとー!」
フィーロたんがそのまま垣根を乗り越えて行ってしまいました。
ちょっと残念な様なホッとした様な気持ちですぞ。
ああ、フィーロたんの裸体を遠くでもっと眺めていたかったですぞ。
「んー!? なんかゾワッとする。なーに? これー?」
フィーロたんの声が聞こえました。
ああ、覗きの欲求が溢れてきますぞ。
「ではみんなで楽しく覗きを始めますぞ」
「……僕は拒否しましょう」
「好きにするがいい」
樹と錬が湯船にそのまま浸かっていました。
最初の世界と違ってノリが悪いのですぞ。
「ではブラックサンダー、共に楽園に挑むのですぞ」
「おう! 任せろドライブ!」
と、付き合いの良いブラックサンダーと一緒に俺は垣根を覗く事にしました。
そっと垣根に手を添えるとバチバチと電撃が走ってきましたが無視ですぞ。
おそらくお姉さんのお姉さんが仕掛けた罠ですが、俺には効果が無いですぞ。
「ラフタリアさんでしたか。優秀な雄と言うのは次世代に子孫を残すのは当然の役目なのですわ。ですので元康様が覗きを望むのでしたらユキは精一杯の魅力を見せますわ。遠慮などしてはチャンスを逃しますわよ?」
と、ユキちゃんが湯船で如何に魅力的な様に見せるかと談義しております。
「いえ、フィロリアルにおける番の話をされましても……」
「あらー」
お姉さんは脱力した様に肩を落とし、お姉さんのお姉さんは垣根に手を添えながらお酒を飲んでおりますぞ。
「さあ元康様! ユキの魅力を存分に堪能してほしいですわ!」
背中を見せるユキちゃんですが……少々開放的過ぎてありがたみが軽減してしまっておりますな。
羞恥する心もまた魅力の一部なのですぞ。
「ラフタリアちゃーん、件のモトヤスちゃんが覗いてるわよー」
「ぶぇえええ」
おや? 豚姿のリースカまでいますな。
「覗きはいけませんよー! もとやすさん!」
おう……空からフレオンちゃんに注意されてしまいました。
ですが、ちょっと注意された位で引っ込む程、この元康、覗きに対して適当ではありませんぞ。
「フレオンが覗きをしようとするもとやすさん達をズビシっと見ていましたからね! ラフタリアさん、安心してください! なおふみさんは覗く事もせずに温泉から出て行きましたよ!」
「そ、そうですか……」
お姉さんが残念そうに仰いますぞ。
そうでしょうそうでしょう。
本当はお姉さんも見て欲しいのですぞ。
「お姉さん、がんばれですぞ! 勇気を出してお義父さんに見てもらうのですぞ!」
「どの口が言うんですか槍の勇者!」
おや? 様付けが無くなってしまいました。
「おい、いつまで足場をすればいいのだ! このブラックサンダー様も一目見るぞ!」
「見せません! フレオンさんとサディナ姉さん! 絶対に邪魔しましょうね!」
ピョンとブラックサンダーがユキちゃんやフレオンちゃんを見ようとしましたが上手く行かなかった様ですぞ。
お姉さんが幻覚魔法を使って垣根を伸ばしたように見せかけました。
「じゃあ元康さん、ブラックサンダーさん、僕達は先に上がってますから好きにしていてください」
「ふ……くだらんな」
樹と錬が入り終わったとばかりに出て行ってしまいました!
お前等、むっつりではなかったのですかな?
「ラフー! コウは見てないよー偉い?」
「えー……見てないのは偉いですが、この場で尋ねるのは見ている様に聞こえるので絶対に覗かないで下さいね」
「わかったー」
「あらー、ラフタリアちゃんも大変ね。お姉さんラフタリアちゃんの成長を嬉しく思うわ」
「こんな事で成長を感じないでください。それと本音はどうなんですか?」
「お風呂上がりにナオフミちゃんにおっぱいくらい揉ませようかしらねーラフタリアちゃんも揉んで欲しいでしょ?」
「サディナ姉さん! 冗談もいい加減にしないと怒りますよ!」
「やーん」
突破するのは容易いですが恥じらいを覚えるのが大事なのでここで引く事にしましたぞ。
結果、俺とブラックサンダーだけが覗きの罰を受ける事になりました。
賑やかな温泉での出来事ですな。
出来ればお義父さんにも参加してほしいですぞー!
 




