正義のヒーロー戦隊
「あの戦いは連携と呼べるものなんですか? 暗殺術の練習をしている様な気がするのですが……私はともかく、勇者の戦いとは何か違う気がするのですが……」
お姉さんが錬の仲間の方に顔を向けると錬の仲間は頭を横に振りますぞ。
「ブラックサンダーが加入する前は出来る限り魔物の攻撃を避けろと教わっていましたが……今は錬様とブラックサンダーの独壇場と言いますか……避ける練習をし、相手の弱点を言葉で突く会話回しの練習ばかりなんです」
「話の通じない魔物相手にもか?」
「はい……」
何やら大変そうですな。
「サディナ姉さんはふざけてやってましたね」
「ラフタリアちゃんも本気でやってみたら面白いんじゃないかしら?」
「嫌です」
「フィーロの目の前に出てきたのが運の尽き……みんなフィーロのご飯になるんだよ!」
などとフィーロたんが錬とブラックサンダーの様なポーズを取っておりますぞ。
「フィーロ、それは違う。そもそも弱点を言葉で突いてないし、それは殺傷予告だ」
「……フィーロは真似して言ってましたね。剣の勇者様が凄くつまらなそうな顔をしていました」
「まあ、あの手の連中はにわかが苦手だからな」
「にわかー?」
疲れ切った様子のお姉さんにお義父さんがため息をしますぞ。
ちなみににわかとはそのジャンルをよくわかっていない、理解の浅い者がファンを名乗っていると言われる事になる俗称ですぞ。
俺もフィロリアル様をよくわかっていない癖にベラベラと語る輩に感じる事がありますな。
主にグリフィンやドラゴン、タクト共ですぞ。
「んー?」
「倒す宣告をしているって点では同じだけど、響きが違うって事だな。まあ、ラフタリアはよくがんばったな……錬の仲間連中も後で色々と錬と話をしてみるから仲間交換に戻ってくれ」
「ナオフミ様……」
「サディナも調子に乗らないでラフタリアの負担にならない様にしろ」
「あらー、海雷からの使者はダメだったかしらー」
お姉さんのお姉さんが楽しげですぞ。
まあ、不穏な様子はありませんからな。
錬と樹に注意しなければいけないのは霊亀等の封印を解かない様にすると言う所でしょう。
封印を解いてはいけないというフレーズにブラックサンダーはきっと反応して解かずにいてくれる様な気がしますな。
お義父さん曰く、錬やブラックサンダーの路線では無駄に封印を解くのはキャラじゃないとの話ですぞ。
とにかく、錬の仲間は話が通じるお義父さんにお任せするとの事で纏まりましたぞ。
あまりお義父さんの手を煩わせてはいけませんぞ?
おや? 脳内でお義父さんやお姉さん等、様々な方々がお前が言うなと言っている様な気がしますが、俺はそんな迷惑をかけませんぞ。
「あ、元康様ー!」
ここでユキちゃんが樹を連れてやってきました。
「クエー!」
コウが楽しげにお姉さんを見つけて駆けよって来ました。
「コウさんですね。弓の勇者様との狩りに行って来たのですね」
「クエー!」
すりすりとコウがお姉さんに頬ずりをしております。
やはりコウはお姉さんによく懐きますな。
「ユキちゃん、調子はどうですかな?」
「特に問題は無いですわ。樹さんの指示で島をパトロールと言う走りをしただけですわね。コウの足が遅いので退屈ですわ」
ユキちゃんがフィーロたんに視線を向けておりますぞ。
そう言えば何やらレースをしたのでしたかな?
ここで……ふと、前に樹と仲間交換をした際、ユキちゃんと樹が衝突した時の事を思い出しました。
樹は横殴りという他の冒険者が倒そうとしている魔物を横取りする行為をしようとしてユキちゃんに迎撃されたりしていたのでしたな。
俺は樹の方に目を向けますぞ。
樹はフレオンちゃんとリースカと何やら楽しげに話をしている様ですぞ。
「経験値目当てに樹が他の冒険者が攻撃しようとしている魔物を攻撃したりしていませんでしたかな?」
「しておりませんわ。むしろマジマジと観察を繰り返しており、魔物が強くて困っていそうな冒険者に助言をしておりましたわ」
おお?
樹は随分とフレオンちゃんとの出会いで成長をしたのですな。
「この島には悪は居ない……平和な場所ですねと仰っておりましたわ」
うんうん。
錬も樹も大きな問題を起こす様子が無くて良い傾向ですぞ。
「島の主と戦いましたかな?」
「ええ、戦いましたわ。樹さんの指示でユキが主を弱らせた所でトドメを刺しておりました」
「トドメですかな?」
「ですわ。なんでもボスにはトドメの技を放つのが礼儀だそうですわね。ユキにはよくわかりませんわ?」
ユキちゃんが小首を傾げておりますぞ。
必殺技ですな。俺も理解が出来ない訳ではありませんぞ。
ゼルトブルの闘技場で魅せる演出というのをよくやりましたからな。
観客の視線が釘付けになりますぞ。
「ユキちゃんにわかりやすく言うならレースで接戦をした際の盛り上がり演出ですぞ」
「な、なるほどですわ! このユキ、樹さんの礼儀を察する事が出来ましたわ! ですがそれはごぼう抜きからのぶっちぎりか、くちばしの差との違いがありますわよね? 元康様、どっちですか?」
「相手に諦めに近い実力の違いを見せる意味だとぶっちぎりですぞ。余裕なのにギリギリの接戦に見せかけるのは無礼ですからな」
「確かに手抜きは失礼ですわね。余計な気遣いは無用……それほどまでに実力差が離れた相手なのだから諦めろと言う遠回しな意思表示なのですわね! むしろ清々しいですわ」
やはりこの周回のユキちゃんはレース基準で教えると非常に理解が早いのですぞ。
「解釈としてはそれでもいいが、攻撃を受けた方はボコボコにされてからオーバーキルだろ? たまったもんじゃないぞ。トドメを放つ快感に酔ってるだけとも言えるんじゃないのか?」
俺とユキちゃんの話を遠くで聞いていたお義父さんが仰っておりました。
確かに樹の事だからありえますな。
ですが樹の変化として大事な所をユキちゃんに聞いてみましょう。
「で、樹はユキちゃんに自身の強さを見せようとしましたかな?」
「その様な事はありませんわ」
ふむ……どうやら樹もしっかりと成長しているのですな。
やはりフレオンちゃんが居ることで樹も良くなっているのでしょう。
良い傾向ですぞ。
「はあ……錬も樹も方向性は違っても似た様な感じみたいだな。なんか明日も疲れそうな気がするが、今日はこんな所で良いか……」
と言う訳で俺は樹の仲間交換を終え、お義父さん達は錬との仲間交換を終えたのですぞ。
それから数時間後の事ですな。
海岸でユキちゃんと追いかけっこをして遊んでいると……。
「粗悪なアクセサリーを高級品と偽って高額で売っているのは、このフィロリアルマスク達がズビシっと見抜いていますよ!」
「素直に罪を認めてください」
「ふ、ふえぇええ……」
おや? 何やら市場の方からフレオンちゃんらしき声が聞こえてきましたぞ?
俺は声に釣られて市場の方へと向かって見ていると、仮面を付けたフレオンちゃん達が建物の屋根の上で決めポーズを取りながら市場の商人目掛けて指差しております。
「例え天下の国が見抜く事が出来ずとも……正義のヒーロー戦隊、フィロリアルマスクが見過ごす事はあーりません!」
と、フレオンちゃんがポーズを取り、樹が合わせて弓を構えますぞ。
「ええ……僕達の目が届く内は島にいる者達の為、貴方の様な者を認めるわけにはいきません。早々に適正値段で販売しなさい」
「いちゃもんを付けるのも大概にしてほしいもんだ! こっちも商売でしてねぇ……輸送量を考えたら相応に上がるのは当然ってものでしょうとも」
突きつけられている商人は知った事ではないとばかりに開き直っておりますな。
挙句片手を上げると店の奥から屈強な男たちが顔を出しましたぞ。
「商売の邪魔だ! いい加減にしないと痛い目を見てもらう事に……なりますよ?」
おお、命知らずで悪そうな商人ですぞ。
「なんとまあ……事実を突きつけたらこの様な暴挙に出るとは、呆れて物も言えませんね」
「証拠品は……貴方の店をみれば十分だと言うのに……リースカさんもわかっているのでしょう?」
「ふえぇえ……は、はい。幾らなんでも粗悪品を高級品に偽造するのはよくないですよぉ……」
「これだけ言ってもわからないとは……しょうがない。お前達! やってしまえ!」
「「「おおー!」」」
と、商人の後ろに居た屈強な男たちがフレオンちゃん達目掛けて駆け出して行きますぞ。
ですがその男達は即座に戦闘不能になりました。
「スタンショット……」
樹が屈強な男達に向かって矢を放つと、男たちは避ける事が出来ずに眉間に命中し、全員死んではおりませんが、動けなくなった様ですぞ。
バタバタと倒れていきました。
「おおー……」
「すげー……」
「あそこの店、あこぎだったもんな」
「え? あの店粗悪品を売るのか? 道理ですぐに壊れたと思った……やっぱそうだよな」
と、野次馬の中に居る冒険者たちが心当たりがあるとばかりに同意しております。
「こ、こんな真似をして、こっちの背後に何がいるのかわかってんのか、お前ら!」
と、追い詰められた商人が忌々しそうにフレオンちゃん達を睨んで叫んで逃げようとしておりましたが、フレオンちゃんが飛び上がってそのまま捕まえてしまいました。
「は、離せ! この……くっ!」
「悪は成敗です。後は衛兵に渡せば良いですが、私達がこの場に留まるのは良くないですね……」
仮面を付けたフレオンちゃんが商人を取り抑えたまま周囲を見渡しておりますぞ。
「あ! そこにいるのは盾の勇者さん! そう、そこの貴方です!」
そう指差した先には外野で面倒そうに傍観していたお義父さんがお姉さん達と一緒におりました。
サーっとお義父さんを中心に人ごみが開いて輪になりましたな。
「チッ!」
お義父さんがフレオンちゃんに背を向けて走り出そうとして俺と目が合いました。
ここで俺とお義父さんの視線が交差しましたな。
ああ、これは後は俺に任せたという事ですな!
お任せください! と俺が満面の笑顔で親指を立てるとクルッとお義父さんは180度回転してフレオンちゃん達の方へと面倒そうに歩いて行きました。
おや? 違ったのですかな?
「何と言いますか……はぁ……」
「言うな! 全く、コイツ等面倒になりやがって……」
「あらー大変ねー」
「サディナ、そう思うならお前がどうにかしろ」
「ナオフミちゃんが御指名されちゃったんだからしょうがないじゃなーい」
「くっそ、アイツに今度はお前が騒動を片付けるように言い聞かせるからな」
「あらー」
「……その台詞を繰り返すと戦闘員扱いで任せるとかしなさそうだな……」
ブツブツと言いながらお義父さんはフレオンちゃんから商人の身柄を預かりましたぞ。
「この島の平和は……フィロリアルマスク達が見守っていますよ! では!」
フレオンちゃんはそう言うと樹とリースカを背に乗せて空高く羽ばたいて行ってしまいました。
「おおー……」
パチパチとまばらに拍手が起こりましたな。
そんな中でお義父さんは商人を憐れむ様な目で見ておりました。
「用心棒まで雇ってあこぎな商売をしていたねー……確かにこりゃ詐欺だな。完全に黒だ」
と、お義父さんが商人の売っていた物を調べて納得しておりましたぞ。
「ち、違う! こっちは被害者だ!」
「ほー……ところで――」
お義父さんが何やら話をしていると商人はフレオンちゃん達に突きつけられた時よりも顔面蒼白になり、頭を下げて慈悲を求めておりましたな。
ここでお義父さんは何か提案をした様で、商人は笑顔で店を閉じました。
きっと良い商売が始まるのでしょう。
「これにて一件落着ですね!」
いつの間にか仮面を外したフレオンちゃんがお義父さん達の近くで胸を張って言いました。
もちろん、樹や豚姿のリースカが近くにおります。
「お前ら……」
お義父さんが眉を寄せてフレオンちゃん達を睨んでおりました。
「どの口をこの方々は言うのでしょうか……」
「覆面ヒーローに巻き込まれるってこんなにも面倒くさいのか……だが、ここで逃げて元康にこの場を預けるよりは遥かにマシか」
「状況を悪化させそうですものね」
当然ですな! 暴れたらデストロイですぞ?
なんて出来事がありましたな。
「で……錬とブラックサンダーは……なんでホテルの塀で腕を組みながらこっちを見てるんだろうな……アレでカッコつけているつもりか?」
お義父さんも目が良いですな。
錬がどこにいるのかわかっている様ですぞ。
「ごしゅじんさまーどうしたのー?」
「フィーロ……お前は屋台で食っててこの騒ぎを見てなかったのか……」
「んー?」
こんな出来事がその日はあったのでしたぞ。
翌日から……最初の世界で見た島の成功祈願のアクセサリーが売りだされたのが印象的な出来事でしたな。