バイク人間
「グア?」
何? とばかりに小首を傾げておりますな。
「グーア?」
レースは決まった? となんとなく話しているのが俺にもわかりますぞ。
フィロリアル様達と長年戯れる内に俺もフィロリアル様の伝えたい事がわかる様になりましたからな。
「お前の事を欲している奴がいるんだ。だからレースじゃなくてな……」
「グア! グアグアグア!」
いや! レース! このホワイトスワンが一番速い事を証明したいの! とホワイトスワンは必死に鳴いております。
レースに出る前に産羽になりたくないと言いたいご様子。
安心していいですぞ。
「グアグア! グアアアア!」
ホワイトスワンに子供を産ませたかったらホワイトスワンよりも速い雄を連れて来なさい! 人間! ホワイトスワンはホワイトスワンより速くないと従わない!
ホワイトスワンよりも遅い子に乗っている騎手には従わない! とも鳴いております。
とばかりに管理人をくちばしで突き始めました。
「いたたた!」
「グーアアアア!」
レースゥウウウっとホワイトスワンはレースを鳴いておりますぞ。
おお……俺が知るホワイトスワンはレースで負けた後しか知らなかったので、知りませんでしたが、この様なストイックな子だったのですな。
これがユキちゃんの別の可能性……サクラちゃんとフィーロたんとの違いの如き、驚きですぞ。
「暴れフィロリアル一歩手前じゃな……気性の荒いサラブレッドじゃ」
「足の速さは折り紙つきですよ、師匠。来期の期待を背負った子で、成長させてる最中でした」
「出走は……Lvによる促進もあれば、後一月と言った所じゃろうな」
「ええ。ただ……波の影響でレース自体が減っていて、どうするかと悩んでいる状況です」
そう言えばお義父さんの所に来たのもフィーロたんや俺の育てたフィロリアルの足の速さとかからでしたな。
生産者は無数にいるオーナーの一人で、お義父さんの所に勝負を売りに来たのは別人でした。
「ホワイトスワン! お前を求めているのは俺ですぞ!」
ここで俺がバッと前に出て自己紹介をしますぞ。
「グア!?」
ホワイトスワンが俺を敵と認識したのか睨みつけてきますぞ。
「グアアアア!」
ホワイトスワンの背に乗る資格があるか! 勝負よ!
と、ホワイトスワンの目が燃えております!
おお……ユキちゃん、雄々しいですぞ。
ここは俺が相手をしてあげるべきでしょうな!
「俺が相手になりますぞ! 俺が勝ったら俺と一緒に来てもらいますぞ!」
「グアアアア!」
望む所! と、ホワイトスワンが答えますぞ。
「槍の勇者様……ホワイトスワンを従わせるには良い方法だと思います。ではこの子に勝てるフィロリアルをワシ達が選ぶので乗って欲しいのですじゃ」
「心配は無用ですぞ。むしろホワイトスワンはそれでは心の底から納得などしないでしょう……俺が直々に相手になりますぞ!」
「は? あの……槍の勇者様? 幾らなんでも人間が競争羽であるフィロリアルの足に追い付くのはLv差があってもかなり厳しいはず……」
「大丈夫ですぞ……これもホワイトスワンのため。俺も本気で相手をしますぞ!」
俺はホワイトスワンのいる草レース場に足を踏み入れ、スタートラインに立ちますぞ。
「元康、ドライブモードですぞ!」
俺は車輪付きの槍に槍を変えてドライブモードになりますぞ。
「や、槍の勇者様!?」
「何だありゃ!? ふざけているのか!?」
「グ、グアアアアアアアアアアアアア!」
舐めるな! 人間ぇええええええん!
と、ホワイトスワンは大きく鳴きますぞ。
「おや? 逃げるのですかな? 俺はお前に合わせているのですぞ?」
「グア!」
俺の挑発を挑戦と受けたホワイトスワンが実力の違いを見せてくれるとばかりにスタートラインに殺気を放ちながら立ちますぞ。
「騎手は無しの全力一周勝負ですぞ!」
「グアアアア!」
「ではレース開始の合図をお願いしますぞ」
「本気で大丈夫ですじゃ!?」
仙人が驚きの声を上げていますが何度も俺は頷きますぞ。
「えー……では、本日のレースを開始する……」
生産者が旗を持ち、開始の準備をしますぞ。
何故か声に元気が無いですな。
「グアアアア……」
どちらにしろ、レースが出来る事を喜んでいるホワイトスワンの意気込みが伝わってきますぞ。
凄くイキイキとした表情ですな。
思えばユキちゃんはレースが大好きな子でした。
本質は何も変わらないのですな。
「……3、2、1……スタート!」
生産者が旗を振りおろすと同時に、ホワイトスワンがスタートダッシュをしますぞ。
ダッダッダと駆けだしました。
俺もやりますぞ!
ブルンブルーンですぞ!
ギュイイインと車輪を回転させて俺も走り出しますぞ!
「ブルンブルーン!」
土煙を上げて俺はホワイトスワンの横を並走しますぞ。
「グアアア!?」
何!? このホワイトスワンの足にそんなふざけた体勢で追い付く!?
とホワイトスワンが驚きの顔をしております。
余所見をしている暇などあるのですかな?
残念ですが本気のフィーロたんの足には遠く及びませんな!
俺はそのままスピードを上げますぞ。
「……あんなふざけた格好でホワイトスワンの足に余裕で追い付いておる……槍の勇者様、貴方は一体……」
「人間なのかアイツ……」
仙人と生産者が唖然とした声を上げていますが、今はホワイトスワンを相手にレースで勝つ事が重要なのですぞ!
ギュイインと、俺はドリフトをしながらコーナーを曲がりますぞ!
軽やかな立ち上がりから安定したドライブを実現ですな。
そのまま障害物をウィリーで飛び越え、どんどんホワイトスワンをぶっちぎって行きますぞ。
「グアアアアアアアア!」
負けるかぁあああああ! とホワイトスワンも出せる力を出し切る勢いで走って行きますが、俺は負けられないのでそのまま行きますぞ。
やがてレース場を一周した所にあるゴールを潜りました。
「ウィナーですぞー!」
ウィリー走行で勝利のポーズですな!
ホワイトスワンも中々でしたが、まだまだ成長途中と言った所ですな。
「師匠……アレは何なんですか?」
「うーん……フィロリアルへの愛情は確かなものなのじゃが……世の中、奥が深い事だらけじゃ」
「アレはそういう類の話じゃねぇと思うが……」
「グア……グア……グア……」
ゼェゼェと息を切らせながらホワイトスワンはやってきました。
「これで俺の勝ちですな!」
「グア……」
座り込んでいたホワイトスワンは敗北を認めて頷きますぞ。
「グアー……」
それからホワイトスワンは俺に熱い視線を向けました。
この視線はユキちゃんのそれですな!
「ではホワイトスワン、お前はこれから俺のフィロリアル様ですぞ!」
「グア!」
「グア……」
「グアー……」
ホワイトスワンに密かな想いがあったっぽいレース仲間のフィロリアル様達がさびしげな声を出しております。
少々後ろ髪を引かれますが、これも他のループでユキちゃんに頼まれたのですからしょうがないのですぞ。
「グア!」
ホワイトスワンが俺にスリスリとすり寄ってくれました。
フィロリアル姿のユキちゃんを思い出しますなぁ。
なので俺も撫でますぞ。
こうして俺はホワイトスワンからの信頼を得る事に成功しました。
「あー……確かに、この方法ならホワイトスワンも従わざるを得ないか」
「手段はともかく、槍の勇者様のお考え、フィロリアルの意思を尊重する行動には脱帽ですじゃ……」
という訳で俺はホワイトスワンの主になったのですぞ。
「後はそうですな。沢山のフィロリアル様達をカルミラ島で育てたいですな……ただ、俺も忙しいので誰か補佐をして下さるフィロリアル様を育ててからが良いでしょうな」
フレオンちゃんとブラックサンダーは樹と錬を見張って下さるようにお願いしていますぞ。
ここでお義父さんにお願いするのも手ですが、お義父さん達もまだ強さに不安が残りますからな。
お姉さんのお姉さんがいればきっとすぐに強くはなるはずですが、どちらにしても色々とやらねばなりません。
俺もライバルの命令などもあって色々と忙しいのですぞ。
無視すると面倒事が増えますからな。
現にライバルの言う通り、決まった時刻に霊亀の洞窟にブリューナクをぶっ放すと霊亀が復活しませんでした。
もちろんその後、封印を解こうとする輩がいなくなった訳ではないとライバルは言っていましたがな。
アヤツはこういう細かい部分の調整が得意みたいですぞ。
「グア!」
ホワイトスワンがここで鳴きますぞ。
確かにユキちゃんであるホワイトスワンならば俺の期待通りの行動をしてくださるでしょう。
「ではまず、ホワイトスワンとコウを育ててからですな。その後、本格的にフィロリアル様達の育成に入りますぞ」
「ワシが声を掛けて置いた。ある程度は弟子達が融通を利かせてくれるじゃろう」
仙人のご協力に感謝ですぞ。
何事も誠実にしている事が大事ですからな。
誠実にしていれば味方になってくれる方も自然と増えるものですぞ。
おや? 脳内の今回のお義父さんが『どいつがそんな事考えてんだ……』と呆れていますが……大丈夫ですぞ!
「では行きますぞ!」
「グアー!」
俺は仙人とホワイトスワンを連れてカルミラ島へ向かう港へ行きました。
船に関してはお義父さん達の乗る船の次の便に乗る事が出来ましたな。
海が荒れてはいましたが、船旅は順調のようでした。
「ユキ――ホワイトスワン、もう少しの辛抱ですぞ」
「グア」
少しずつですが、ホワイトスワンの姿がクイーンに近づいてきております。
ですがLvアップをしていないからか、変化がゆっくりですな。
カルミラ島に着いたらすぐにLv上げですな。
「切り替えが早い子じゃな……まさに速さを追求するために生み出された本能なのじゃろう」
仙人がホワイトスワンを撫でながら分析しますぞ。
負けたら素直に勝者に従う切り替えの早さ……これぞ強さこそ全てという発想ですな。
転生者共とは根底から違うのですぞ。
アヤツ等は負けたら現実逃避をした挙句、卑劣な行動に出ますからな。
タクトの様に!
勝ったのだから言う事を聞けと言いつつ、負けても従わないのですぞ。
ですが、ホワイトスワンは負けたら従順に俺に従ってくださっております。
これぞ強さを追い求める者の誠実さというモノですぞ。
「グアァ……」
「気性の荒さが無くなっておる……将来が楽しみじゃな」
「もちろん将来はフィロリアルレースに出場させて上げますぞ」
「グア!」
ホワイトスワンの目がこれでもかと輝いております。
まだ見ぬ自身の可能性を見いだしているのでしょう。
「ですが……そうですな。他のフィロリアル様達が遅くてがっかりしてしまうかもしれないのですぞ」
ユキちゃんがレースに参加した際、他のフィロリアル様達の足にため息を漏らしていたのが印象的でした。
競争するライバルが居ないというのも寂しいモノなのでしょう。
「フレオンの様な変化をフィロリアル達はしていく……フィロリアルに関わる者達にとって、この現象に関わるのはこれ程までにない喜びじゃろう……新たな時代の幕開けなのじゃな」
「仙人、俺は貴方も救うのですぞ」
最初の世界で仙人がどのような人生を歩んだのか、出会わなかったので俺はわかりませんぞ。
だからこそ仙人を知った俺は、仙人には満足する結果を与えたいと心の底から思っております。
そんなこんなで俺達はカルミラ島へと到着したのですぞ。
「ピイ!」
丁度、島に着く朝にコウが孵化しました。
荒波を乗り越えた朝でしたな。
「到着ですぞー」
俺が船を降りると、お義父さん達が丁度狩り場へと出発しようとしている所でした。
「ん? ああ、元康も来たか……って、そいつらは……確かフレオンって奴の元飼い主だったか」
「そうですぞ! 人呼んでフィロリアル仙人ですな!」
「いや……それは槍の勇者様が勝手に呼んでいるだけで……」
「あれだ。お前も大変だな」
「あらー」
「んー?」
ヒィ……フィーロたんもおります。
おや? フィーロたんの頭にチャームポイントの毛が付いておりますぞ。
俺はその毛を見てからお義父さんを見ると、お義父さんが深くため息をして頷きました。
「行きの船の夜にな。お前の言う通りでかいフィロリアルが出て来たんだ。で、フィーロとフレオンに勝負を申し込んで少し勝負をした後、羽根をくれた」
「ブラックサンダーはどうしたのですかな?」
「いきなり飛びかかって蹴られて怒られていたぞ。羽根はもらえなかったな」
なんと……大きなフィロリアル様の試練をブラックサンダーは与えられなかったのですな。
錬と樹はきっと船酔いでダウンしていたのでしょう。
「大きなフィロリアル……?」
「ああ、フィトリアと名乗っていたらしいぞ。フィーロ共の口伝えだがな」
「なんと! 伝説のフィロリアルと遭遇するとは……! 羨ましい話ですじゃ! きっとメルロマルクの女王様も会いたかったと仰るはずじゃ」
「能天気っぽい奴だったけどな」
「大きなフィロリアル様ですぞ。俺も会いたかったですな」
生憎とお義父さんによく目隠し等をされて俺が見る事が難しい方なのですぞ。
気付いたら居なくなってしまっている方ですな。




