DEATH ZO
「はぁ……それなら」
お義父さんが俺の方を見て眉を寄せております。
なんで眉を寄せていたのかと言うと、赤豚をすっぱり切り捨てて別の女をパーティーに誘おうとしているのかと思っていたらしいですな。
という訳で俺達はお義父さん達を残して玉座の間から出されて各々客室で休む事になりました。
わかっておりますが、これからお義父さんが赤豚とクズにそれぞれ真の名を授けるのですぞ。
フフフ……とまあ、その間に俺も色々とやらねばいけませんな。
そう言えば怠け豚と赤豚の取り巻きの豚はどこでしょうか?
怠け豚はともかく、取り巻きの豚は面倒なので一緒に処分したい所ですが……アイツは印象が薄いのですぞ。
まあ、赤豚が失墜したら何も出来ないでしょうから無視しても良いでしょう。
そんな事よりもまずは動きださねばいけませんな!
俺は早速城下町の宿で待っていてもらったフィロリアル仙人の下に行きますぞ。
「これは槍の勇者様、どうやら事件が解決に向かったとの噂を耳にしました。ご健在で何よりですじゃ」
「心配は無用ですぞ。フレオンちゃんも元気ですぞ。それでですな、城でパーティーが開かれるので仙人にも来て欲しいのですぞ」
「わ、ワシが? しかし……」
「大丈夫ですぞ。しっかりと仙人からフレオンちゃんを奪った者達は報いを受けておりますからな。その謝罪の意味もありますぞ」
「わかりました。では槍の勇者様のご厚意に甘えさせて頂こうと思いますのじゃ」
と言う訳で俺は仙人を連れて城のパーティーへと連れて来ました。
「まだ準備中ではありますが、待っていればいずれ始まりますぞ」
「おや? 槍の勇者様、その方は?」
女王がここで俺に声を掛けてきましたぞ。
「ああ、説明が遅れましたな。俺が会食に連れて来たかった方ですぞ」
「そうですか……少々意外ですね。槍の勇者様がそのようなご老人を連れて来るとは」
確かにこの頃の俺は常に豚の尻を追っていましたからな。
きっと女王も影などの報告でそれを知っていたのでしょう。
「この方にアカ――ビッ……」
うっ……どっちで赤豚を呼んでも不自然なのですぞ。
「俺がフィロリアルを所望する事で迷惑を掛けてしまった老人なのですぞ。なんとフレオンちゃんの本来の持ち主なのですぞ」
「なんと! それは……報告で聞いております。絶滅したはずの空飛ぶフィロリアルですね」
女王の目の色が変わりました。
ああ、そう言えば女王は伝説等に興味が深い方でしたな。
絶滅したはずのフィロリアルであるフレオンちゃんを見聞きして興味が湧いているのでしょう。
「なるほど……あの子が迷惑を掛けてしまった方ですか……私はこの国の女王です。メルロマルクを代表して謝罪申しあげます」
「そ、そんな……ご丁寧に……」
仙人も居心地が悪いのか頭を掻いて女王の謝罪に合わせて頭を下げておりますぞ。
「しかし、貴方はどこかで……」
「あー……はい。昔、メルロマルクに軍用フィロリアルの斡旋をした事がありましてな。あの頃の女王陛下はまだ幼かったでしょうに、覚えてもらえていて光栄です」
「まあ……となると、なるほど」
と、女王が柔和な笑みで仙人と話をし始めました。
さて……そろそろではないですかな?
この時をずっと待っていました。
――ケイカク ヲ ジッコウ スル DEATH ZO。
俺はそれとなく仙人と女王から離れ、クローキングランスと魔法で隠蔽状態を重ね掛けし、城内の厨房を見張りますぞ。
すると……やってきましたな。
装備を没収された赤豚がクズと一緒にノコノコと……このタイミングを待っていたのですぞ。
「ブヒー! ブヒブヒ! ブブヒ?」
「ワシもいる。失礼するぞ」
「え? マル――いえ、ビッチ……? それとオ……ではなくクズ……盾の勇者様にお出しする品はそちらの物ですが……」
赤豚とクズがコックの返答に不快そうに眉を寄せておりますな。
そうですな。もう赤豚とクズは改名させられたのですぞ。
HAHAHA! 赤っ恥ですぞ!
「ブヒ! ブブヒー! ブブブヒー!」
「そうじゃ、ワシ達は存分に反省しておる。これはその償いなのじゃ」
「ですがー……」
コックがここぞとばかりに視線で部下に指示を出し、女王へと報告に向かわせますぞ。
「だから盾へ出す料理はワシ達が運ぶ! 邪魔立ては許さんぞ!」
「ブブヒー!」
と、半ば強引に赤豚とクズはお父さんへ差し出す皿に手を伸ばしてそのまま厨房から飛び出して行きます。
俺はそのまま隠蔽状態で赤豚とクズに並走しますぞ。
「ブー!」
赤豚が舌を出して鳴きますぞ。
絶対になーんちゃって! って言っている様に見えますな。
「そうじゃ! 例え二人であろうと盾なんぞを認めるわけにはいかないんじゃ! 行くぞマルティ!」
「ブヒ! ブブ!」
と、皿を持って走りながら赤豚とクズは各々懐から瓶を取り出して皿に盛り始めました。
こやつ等は言うまでもなく、毒を盛っているのですぞ。
ですが、この時を俺は待っていたのですぞ!
俺は赤豚の並走に合わせ……ある毒を皿に盛りますぞ。
その毒の名は――ウロボロス劇毒。
解放した槍の中にある毒物のレシピの中で一番難易度の高い毒ですな。
イグドラシル薬剤が奇跡の薬と評される世界の光だとするのなら、このウロボロス劇毒は悪意の結晶と評される闇、対の毒物なんだそうですぞ。
あくまで口伝え程度でしか語られず、製造方法に関してもあのゼルトブルでも抹消した代物だそうですが、聖武器の作製機能の中には存在するのですな。
もちろん作るのは大変でしたが、グリフィンなどを討伐したり、城の倉庫などから色々と素材を借用して生成しました。
ライバルにも一部材料を生成してもらいましたな。
この毒を赤豚が盛る皿にドバドバ投入ですぞ。
キュポッと瓶の蓋を外しますぞ。
――危険!
いきなり視界に表示が浮かびましたが、大丈夫ですぞ!
飲むのは赤豚ですからな。
俺はそのままピッピと赤豚が投入する毒に合わせて同じ皿に投入してやりました。
フフフ……お義父さん直伝、やられたらやり返せ、フレオンちゃんを毒殺したお前には相応しい末路ですぞ。
簡単に解毒されては意味が無いですからな。
これで苦しんで死ね! ですぞ。
きっと物凄い毒なので解毒出来ず、長く苦しんで死ぬでしょう。
ちなみに本来は希釈して入れる毒物らしいですぞ。
ライバル曰く、俺が望む展開にするには千倍に希釈した方が良かったそうですな。
やがて赤豚とクズは厨房から城の広間へとたどり着きました。
「料理を運んでくるとは殊勝な心がけですね」
パーティーの準備と指示を出していた女王がそこで待ち構えていました。
もちろん、この後の流れに関してはわかりきっていますな。
赤豚とクズがここぞとばかりにお義父さんの席に皿を置こうとして女王の指示で兵士達に捕縛されました。
「な、何をする!」
「ブブブブヒ!」
で、女王が赤豚とクズに詰め寄りますぞ。
「ワシらは何もしとらんぞ! ただ料理を運んだだけじゃ!」
完全に嘘なのが並走している俺でもわかりますぞ。
「ええ、何も無い事を祈っています。さて、では一口……イワタニ様に出そうとした料理を食べなさい」
「そんな失礼な事はせん!」
「ブヒブブブ!」
それから何度かクズと赤豚は言い訳をしていた様ですぞ。
「ええ、信じています。ですから食べなさい」
「それでは盾に失礼じゃ!」
「ブブヒ! ブヒーブヒーブブブ!」
「大丈夫です。綺麗な食器で少しだけ取って置くだけですので」
「ダメじゃ!」
「ブヒィイイイ!」
「食べさせなさい!」
とのやり取りの後……クズと赤豚はそれぞれ自身が運んだ皿の中身を食べさせられましたぞ。
「う……」
ぐぎゅるるる……と、クズの腹が鳴り始めましたな。
「ブ……ブ……ブブッブブブブブブ――ぶひゃあああああああああああああああああAAAAAAAAAA!?!?!?」
で、あると同時に、赤豚は兵士の拘束を振りほどき、喉を掻き毟りながらのたうち回り始めました。
「愚かな……やはり毒を盛ろうとして……ッ!?」
急いで解毒処置を……と、手を上げていた女王が絶句し、クズがその光景を見て呆然としておりますな。
そうでしょうそうでしょう。
これが赤豚の末路ですぞ!
ざまぁないですなああああああ!
「AAAAぁあああああ――」
やがてビクンビクンと呻きながら赤豚は動かなくなりました。
HAHAHA……思ったより効果が高いですな。
強力な毒物ですし、俺の想定ではもう少し苦しんでから死ぬ予定だったのですが。
「ブ、ブヒ? ブブヒ! ブーヒ!?」
おや? 赤豚の同類である豚……なんて名前でしたかな?
昔過ぎて忘れ気味な豚が赤豚を心配して揺すっていますぞ。
こんな所にいたのですな。後でしっかりと処理しましょう。
「ブブヒ!? ブ―ーブヒィアアアアGAAAAA!?」
んん? 何やら様子がおかしいですな。
赤豚の身体が変色していますぞ。
更に変な肉の蔓の様なモノが伸び始めました。
そして赤豚を揺すっていた豚に肉の蔓が絡まり、浸蝕して肉の蔓を背中から生やしました。
「……!?」
……ん?
今チラッと壁側に行く豚が見えましたな。
どこの豚かは知りませんが、逃がしませんぞ……あ、あれは怠け豚!
何をしているのかと思ったら、もの凄い速度で赤豚から一目散に距離を取っております。
今は壁にピッタリとくっついて成り行きを見守っていますぞ。
同類豚は巻き込まれたのに、怠け豚は逃げ切りました。
どんな危機回避能力ですかな?
いえ、逆に言えば怠け豚がここまで危機感を抱く程やばい事態なのかもしれません。
――危険!
――危険!
――危険!
俺の視界に警告表示が無数に出ておりますぞ。
危険なのはわかっていますが、こんな広範囲に出るのですかな?
つまりはタダの毒薬ではないと?
なんというか『聖武器が倒さなければいけない相手』と認識している位、警告が出ていますぞ。
まあライバルと協力して作ったのは勇者でもある俺ですがな。
しかし、今まで危険な事は沢山ありましたが、ここまで表示された事はなかったかと思いますが……。
「マ、マルティ! マルティイイイイイイイイイイイ!」
そうしてクズの絶叫が響きました。
城内がざわざわと騒ぎが拡大し始めましたな。
であると同時に、俺も驚きの状態になりました。
「おい! 一体何が起こったんだ?」
そんな所でお義父さんが広間の扉の方からやってきました。
何か慌てた様子ですな。
「というか毒物判定と謎の警告文が酷くて、どこぞのボス戦みたいに視界を埋め尽くしているんだが……」
かなり切羽つまった表情をしております。
俺も怪しまれない様に、後から駆けつけた様に見せかけて合流ですぞ。
「何かあったのですかな? なんか警告が凄いですな」
「……元康か」
「ごしゅじんさま! ここから先に行っちゃダメ! なんかゾワゾワする!」
「ええ……幾らなんでもこれは変な気配どころじゃないです!」
フィーロたんとお姉さんがそれぞれ毛を逆立たせておりますぞ。
フィロリアル様であるフィーロたんがそこまで言うという事は、かなりやばい様ですな。
う~ん、これは赤豚毒殺しましたぞ☆
とか言ったら洒落では済まない展開なのでは?
よし、予定通りここでは黙っていましょう。
「なんですか? これは?」
「この気配はなんだ!?」
樹と錬も現場に駆けつけてきました。
そんなに広範囲で警告が出ているのですかな?
「え? 何これ? 本気でやばくね?」
ブラックサンダーが何やら初めてまともな喋りで言いました。
「危険な気配ですね! みなさん注意しましょう!」
逆にフレオンちゃんはお変わりないですな。
きっとよくわかっていないのでしょう。
「ありえん……ありえん……あってはならん!」
クズがここで、何やらわかっている様な様子でうろたえておりますぞ。
「そんなはずはない! そんな事があっていいはずがないのじゃぁあああああああああああああああ!」
と叫ぶクズを女王が強引に引っ張って赤豚の死体……から距離を取らせました。
そして女王は緊迫した声で叫びましたな。
「総員! 緊急退避! 腕に覚えのある者及び、勇者様方! 臨戦態勢を!」
「一体何なんだ?」
「悠長に事を構えてはいけません! これは緊急事態です! 早急に処理せねば国が滅びかねません!」
そんなにですかな?
少々大袈裟な気がしますぞ。
などと考えている間にビクンビクンと赤豚とその仲間豚だったモノが蠢き始め、完全に造形が崩れた後、無数の肉の蔓みたいになり、周囲に伸び始めました。
おや? 魔物名が浮かびましたな。
というか魔物化させる毒だったのですな。
名前は……。
「――ウロボロスの使徒?」
お義父さんが先に赤豚だったモノの名前を言いました。




