風
そうしてお義父さんが女王に事情を説明しました。
皮肉の効いたお義父さんらしいご説明でしたな。
「は、はぁ……私はメルロマルク国女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。助けに来るのが遅れて申し訳ありません」
「いや……元から茶番だったしな。で……お前と会えば今回の騒動はどうにかなるんだったか?」
「本当に……この度は、全て私の落ち度です」
「母上……」
なんてやり取りをしている所で、赤豚が俺の影に隠れてブヒブヒ鳴いていますぞ。
「マルティ……アナタには城に戻ってから沢山……たーくさん、言う事があるので覚悟していなさい」
「ブッヒブブ!」
「その愚か者を黙らせなさい」
「ハッ!」
と、女王の配下の兵士が赤豚を縛り上げて連行しますぞ。
ザマァみろですぞ!
「えー……槍の勇者様、私はマイン……マルティの母です。私の権限で城へと同行を指示したまでの事、さあ勇者様方、此度の戦いは終わったのです。休みながらメルロマルクの城へ帰りましょう」
「どうやら、何か事情があるようですな。わかりました」
ポータルでヒューンと城に行きたいですな。
あ、お義父さんがカーススキルを使っていないので元気ですぞ!
よかったですな!
「盾の勇者、イワタニ=ナオフミ様もご一緒に、道中でお話しましょう」
「わかった……が、なんだろうな。この気の抜ける感じは」
「えー……」
女王が言葉に困っている様ですぞ。
おや? 影豚が現れて女王に何か話をしていますな。
「他の勇者様方も……おや?」
振り返ると錬も樹もフレオンちゃんもブラックサンダーもいませんな。
いつの間に姿を消したのでしょうな?
隠蔽スキルですかな? 炙りだしをしますかな?
「放っておけ。きっとどこかで一般人風を装って姿を現すだろ。アイツらの方向性はきっとその辺りだ」
「そうなのー?」
「きっとな」
「ナオフミ、なんかその辺り詳しいみたいね」
「詳しくはないがアイツらの行動を考えるとそれっぽいなとな」
「はぁ……とにかく、これでナオフミ様の無実が証明されるなら良いです」
と、言った感じで俺達は城に戻る事になったのですぞ。
ちなみに怠け豚と、赤豚の仲間は一緒に連行されて行きましたな。
お義父さんの手当て等をせずに済んだので三日と掛らずに城の方に戻る事が出来ましたな。
で、女王とお義父さんは何か話をしていた様ですぞ。
おそらくお義父さんにこれまでの経緯などの事情説明をしていたのでしょう。
それと赤豚とクズの処罰のやり取りですな。
あ、道中で樹がさも当然の様に仮面を外して俺達の所に合流してきました。
「これは尚文さん、どうやら危機は乗り越えた様ですね……僕達も今回の騒動は何かあると動いていたのですが、現場には駆けつける事が出来ず申し訳ありません」
「ブェエ……」
「……それがお前の方針なのか? 隠れて正義を成す副将軍路線はどうした?」
「正義は示さねばいけないものです。隠れては何も意味はありませんよ。かといって弓の勇者という肩書は大き過ぎる……そう、神鳥の聖人やフィロリアルマスク、パーフェクト・ジャスティスの様に勇者でなくても悪を見ている者がいる、と知らしめる事で人々は正しく生きれるんですよ」
などと樹は語りました。
最初の世界とは随分と思想の違う話ですな。
とはいえ、あまり害は無さそうなので放置しておきましょう。
きっとフレオンちゃんがなんとかしてくれますぞ。
「ジャスティス~風を切る~正義が~お前を~」
「あ、ああぁぁぁ……沢山のヒーローが様々な信念を胸に正義を成している。そういう事です」
樹は一瞬悶えたかと思うと説明を終えました。
お義父さんはフレオンちゃんを嫌そうな目で見た後、樹に言いました。
「本当にそれが完璧な正義とやらなのか? 樹……お前はそこにいる奴に洗脳されていないか?」
「音楽性の一致です。僕の配下だった彼らは正義の中に隠れた悪であり、音楽性が合わなくなったのです」
「……そうか」
何やらお義父さんが樹に同情の目を向けている様な気がしますが……きっと気のせいでしょう。
「えーっと……」
樹と同行しているマスクを外した天使姿のフレオンちゃんが俺達の方に歩いてきて、フィーロたんと婚約者、お義父さんとお姉さんの元へ行きますぞ。
「こんにちは。私はフレオンという者です。以後よろしくお願いしますね」
「えーっと……メルティ=メルロマルクです」
「フィーロの名前はフィーロ!」
婚約者が先頭に立って自己紹介をしますぞ。
「フィーロちゃんに似ている子ね。ごきげんよう」
婚約者が軽くスカートを上げて王族風の挨拶をしますぞ。
「もしかしてフレオンさんもフィロリアルなの?」
「ええ、私もフィロリアルですよ」
ふわぁ……と、フレオンちゃんは軽く翼を動かして浮き上がりますぞ。
「わー……お空を飛んでるーいいなー」
「すごーい!」
婚約者が浮かぶフレオンちゃんに目を輝かせておりますぞ。
「ふふふ」
フレオンちゃんはそんな婚約者とフィーロたんの視線を受けて微笑んでおります。
「むー……」
あ! フィーロたんが婚約者の関心がフレオンちゃんに向かっている事で、焼きもち……いえ、嫉妬の感情が出ております!
ヒィイイ! フィーロたん! ダメですぞ!
フレオンちゃん! どうかフィーロたんから婚約者を取ってはダメなのですぞ!
「は、ははは……婚約者メルティ王女。フレオンちゃんと仲良くしていると、隣にいるフィーロた、ちゃんが焼きもちを焼きますぞ」
「え? あ……」
「ぶー……」
「フィーロちゃん、怒らないで。フレオンさんもフィーロちゃんのお友達にきっとなってくれるから仲良くしましょ」
婚約者がフィーロたんを必死に宥めております。
お願いしますぞ婚約者! お前の出会えば必ずフィーロたんと友達になれるその運命力を駆使してフィーロたんのケアをするのですぞ!
「ほら、おやつをあげるから仲良くするのですぞー」
俺は持ち歩いているジャーキーを婚約者とフィーロたんに渡しますぞ。もちろんフレオンちゃんにも上げますぞ。
「フィーロにくれるのー? わーい!」
「いただきます」
フィーロたんとフレオンちゃんが仲良く渡したジャーキーを食べ始めてくれました。
「元康から貰った物をアッサリと食うんじゃない!」
お義父さんが注意していますが、フィーロたんはそのまま食べてますぞ。
「えー? 大丈夫だよ、ごしゅじんさまー毒ないよ?」
「まったく……」
ここでジャーキーを持ったまま食べずにいる婚約者がフレオンちゃんに声を掛けますぞ。
「フレオンさんはもしかして絶滅したと言われる空飛ぶフィロリアルさん?」
「らしいですねー……ただ、フレオンも生まれに関してはそれ以上は知りません。謎が謎を呼んでおります」
「謎が謎をって……勝手に謎にしてるだけだろ。つーかフレオンって名前……」
お義父さんが俺の方に視線を向けますぞ。
まだ話せる状況じゃないのですぞー。
「槍の勇者がフィーロを見て興奮しながら叫んでいた名前ですよね」
「確かにフィーロによく似てるな」
「似てますか?」
「んー?」
フレオンちゃんとフィーロたんが揃って小首を傾げる愛らしい状況ですぞ。
「先ほど、三勇教の教皇との戦いの際に、協力してくれたのはフレオンさんですよね」
「いえ! 私はフィロリアルマスク2号などと言うヒーローではありませんよ!」
バサァっと翼を広げてポーズを取るフレオンちゃんが婚約者の質問を否定しますぞ。
きっと覆面ヒーロー路線が好きなのですな。
樹と仲良くしているようですし、間違いないですぞ。
「なので、私がフィロリアルマスク2号の正体などではないのをご理解してください!」
「……語るに落ちるとはこの事だと思うんだがな。フィロリアルマスク2号なんてメルティは一言も言ってないってのに……」
お義父さんとお姉さんがため息を漏らしております。
「そのようなヒーローがいたのですね。僕も負けられませんね」
棒読みで樹が何度も頷いております。
お義父さんが不快そうな顔になりました。
「白々しい奴らだ……付き合うのすら疲れそうだな……」
やがて脱力したとばかりにお義父さんがそのまま話を切り上げてしまいました。
「フレオンさんはフィロリアルマスク2号ではないのね……わ、わかったわ」
婚約者もフレオンちゃんの勢いに頷いてくれましたな。
「んー?」
フィーロたんの小首を傾げる姿が印象的なやり取りでした。
と言う訳で樹とは合流ですな。
「樹、錬はどこにいるかわかりますかな?」
「錬さんならおそらく近くにいると思いますよ。ほら」
と、樹は少し離れた木の上でブラックサンダーの背に乗る錬を指差しておりますな。
「フ……やはり気づいていたか」
「ああ……そんな所にいたのな。無駄にでかくて黒いフィロリアルに乗った黒い奴が木の上で何をしていたんだ?」
「風を……読んでいたのさ。次へ行くとしよう」
「……」
「闇の気配は無い。この場に留まる必要は無い」
ブラックサンダーも錬を乗せて木から飛び降り、歩き出しました。
「……本当、なんなんだコイツ等」
お義父さんが眉を寄せて錬と樹を見ております。
あっさりと……ではないですな。
目を離すとすぐに錬はブラックサンダーと共に姿を消してしまうので、女王達が呼び止めるのに苦労をしておりました。
お義父さんが錬を呼ぶ呪文とばかりに、『国の闇を闇が報いを受けさせずに去って良いのか?』と言ったら素直についてきてくれた様ですぞ。
お義父さんは錬とブラックサンダーの扱いが上手ですな。
という訳で女王と合流した俺達はメルロマルクの城へと案内されたのですぞ。
城内はお義父さんが女王と共に先頭で歩いて行き、俺達が続きます。懐かしいですぞ。
色々とループはしましたが懐かしさがありますな。
「おお! マルティにメルティ! 良くぞ盾を倒し、戻ってきてくれた。ところで何故マルティは縛られ、口に布が巻かれているのじゃ?」
お約束のクズが婚約者と赤豚の無事をホッとした様な表情で言いましたな。
この時の俺はなんて思っていましたかな? 全てが終わったあと事件の解決に能天気に安堵していた様な気がしますな。
まあ、赤豚の事が若干不安ではあった覚えがありますぞ。
今にして思えば心配など完全に無用ですな。
「しゃべるとうるさいからですよ。この際、縫い付けますかね?」
女王が赤豚に軽蔑の眼を向けつつ言いますぞ。
それからクズの方に詰め寄りますな。
「そやつが何故ここにいる! 即刻処刑せよ!」
「させませんよ!」
とまあ、この辺りのやり取りは最初の世界で見た光景ですな。
「悪は罰せられましたね」
クズが女王に扇で叩かれていた所でフレオンちゃんが胸を張って言いましたぞ。
「膿は除去されるのだな。これぞ真理というモノ」
「真理だ」
ブラックサンダーも錬と合わせてクズの様子を冷めた目で見ております。
「さて、それでは改めて自己紹介をしようと思います。私こそがメルロマルク国の女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。以後よろしくおねがいしますね」
女王が俺と錬、樹を見て宣言しました。
しっかりと国の誰が上なのかを示した感じですぞ。
「よろしくですぞ」
「フ……真の女王の凱旋か」
「偽の権力者は正義によって倒されたのですね」
何やら最初の世界とは錬も樹も台詞が違いますが、概ね問題ありませんぞ。
「勇者様方には本日から少しばかりのお時間を貰いたいと私は提案いたします」
「わかりましたぞ」
「僕達には悠長に過ごす時間はありません」
「そうだな……どこではぐれた闇が調和を崩さんとしているのかわからないからな」
樹と錬の台詞に女王が困った様な顔をした様な気がしますぞ。
「えー……せめて会食だけでも参加してくだされば幸いです。その際に有意義な話を致します。イワタニ様以外の勇者様は客室でゆっくりなさっていてください」
「フ……そこまで言うならしょうがない。力を蓄えなければ闇を闇に還す事も難しくなる」
「話し合いは重要です。わかりました」
「ラジャー! ですぞ」
赤豚の心配? 御冗談を!
この後、赤豚はお義父さんの目の前で裁かれ、色々とあった後、俺に泣きつくのですぞ。
泣きつけるか……見物ですぞ。
その為に色々と暗躍していたのですからな。
あ……そうですぞ。
「女王、ここで提案して良いですかな?」
「なんですか? 少なくともマルティの処遇に関して槍の勇者様であろうとも関わる事は許可出来ませんが」
「そんなのはどうでも良いのですぞ」
「ブヒ!?」
「そんなの……」
女王が呆気にとられていますが知りませんな。
これは反応を間違えましたかな?
まあ気にしないですぞ。
「ちょっと知人を会食に連れて来て良いですかな?」




