槍と盾の茶番
今回の俺はコロシアムに出場していませんが、コロシアムの鳥なのですぞ。
脳内のお義父さんが突っ込んでいますが、フィロリアルマスクは気にしないのですぞ。
フィロリアルマスクは秘密の戦士……悪を裁くのですな!
「貴様が今、国で指名手配されている盾の勇者ではない事はわかっている! 早々にお縄に就き、白状するのですぞ!」
地面に着地し、お義父さんの偽者達に槍を向けました。
「妙な仮面を付けたふざけた野郎め! おい! 出てこいお前ら!」
「「「おう!」」」
っとお義父さんを騙る悪人が……周囲に偽者の獣耳……カチューシャを付けた気色の悪い連中を呼びよせますぞ。
杜撰な代物ですな。
「このふざけたマスク野郎に身の程を教えてやるぞ! はぁあああああああ!」
っと、お義父さんを騙る奴を筆頭に獣耳カチューシャを付けた屈強な犯罪者共が各々武器を取り出して俺に向かって襲いかかってきました。
「ふん!」
槍を横に力強く凪いで大風を起こしてやりますぞ。
「う、うわぁああああああああ!」
それだけでお義父さんを騙る奴と、獣耳カチューシャを付けた雑な連中が吹き飛びましたな。
「まだ始まったばかりですぞ」
小声でパラライズランスと言って俺はお義父さんを騙る犯罪者一派を全員戦闘不能にしてやりました。
それから縄で縛りあげて高速で引き摺りながら街を一周して、街の警備隊の所に連行しますぞ。
「や、やめ! 引き摺られ! た、助け!」
市中引き回しですぞ。
その合間に仮面は外れ、盾は壊れてしまいましたな。
お義父さんを騙って犯罪をするにはお粗末な連中ですぞ。
「盾の勇者を騙った偽者一行を捕えました」
「あ、ああ……貴方は……?」
警備隊の者達は俺を見て驚きの表情をしていますな。
さすがに槍の勇者がこんな所で犯罪者の捕縛をする等、微塵も思わないでしょう。
「俺の名前はフィロリアルマスク! 神鳥の聖人の使者であり、下僕ですぞ!」
「そ、そうなのですか……で、犯罪者の生け捕り、感謝します。えー……お礼に関してですが……」
「礼など不要! 俺に必要なのは神鳥の真実のみ……では! さらばですぞ!」
シュバッと俺は背を向けて車輪付きの槍に形を変えてドライブモードでその場を去りました。
ふふ……これでお義父さんの悪い噂は払拭され、神鳥……フィーロたんの良い噂が広まって行く事でしょう。
おや? 最初の世界のお義父さんが呆れた様な顔で、「んな訳あるか! バーカ」と仰っている様な気がしますが、そんなはずありませんぞ!
と言った感じで記憶の中で報告を受けるお義父さんがやったと言う嘘の犯罪を事前に何個か潰したのですぞ。
そうして二日ほど、各地で起こるお義父さんを騙る犯罪者の駆逐をして行ったのですな。
ですが、その道中で聞かない話を耳にする事になりました。
俺が立ち寄っていない町村で起こった問題を、フィロリアルを連れた仮面の者達が解決して行ったという話ですぞ。
噂が独り歩きしているのですかな?
それと樹が仲間の下に戻ったと言う話を聞きました。
フレオンちゃんとの語らいが終わった様ですな。
どちらにしても、お義父さん達と合流する期日まで大分近づいてきていたのですぞ。
「来てくださったのですな?」
「……まあな」
お義父さんとの合流日、ゼルトブルから少し出た草原で待っていると予定通りにお義父さん達が婚約者と影豚を連れてやってきました。
ふと、フィーロたんを見ると、この頃から見られる頭のアクセントがありませんな。
そう言えば大きなフィロリアル様と出会う機会が失われてしまっていた様ですぞ。
この件は……きっと大きなフィロリアル様側からコンタクトがあるでしょう。
カルミラ島に行く途中等で出会えるパターンもありますからな。
「強化は出来ましたかな?」
「……一応、な」
苦々しくお義父さんが俺の言う事に頷いてくださいますぞ。
さすがですな、お義父さん。
「ではメルロマルクに帰りますかな?」
「メルティは置いて行った方が安全なんじゃないのか?」
おや? お義父さんが婚約者を名前で呼び始めております。
きっとちょっと会わない内に色々とあったのでしょう。
「ちょっと……」
「ブブ」
影豚と婚約者がここで何やら視線で会話をする様な問答をし始めますぞ。
「確かに安全を確保するという意味で待機していても問題は無いでしょうな」
「嫌よ。原因であるわたしがここでナオフミ達が事件解決をするまでただ待っているだけだなんて。それに誰が母上と話をするのよ」
お義父さんとお姉さん、フィーロたんが揃って婚約者を見ておりますぞ。
この先の戦いはー……そうですな。たぶん、大丈夫でしょう。
何せ俺とお義父さんが戦っている最中に三勇教が大軍を連れて不意打ちをしようとしているのですぞ。
おびき出す必要がありますからな。
「とにかく、おと――尚文、三勇教の刺客に注意しつつ南西方面に進め。タイミングを見て俺が仲間と共にお前を捕まえて戦闘をする。しばらくしたら黒幕が出てくるはずだ」
「そいつを倒すのがお前の狙いなのはわかったが……女王に会わなくて良いのか?」
「敵も追い込まれていますぞ。女王が帰ってきたら詰みですな」
「帰って来るまで安全な所で待機したいがな……とにかく、何が狙いかは知らないが下手な真似をしたら容赦しないからな」
しっかりと強化が出来たとばかりにお義父さんが強気になっておりますな。
まだまだ強化をしていかないといけないのですが、それは今回の騒動が終わってからで良いですぞ。
俺の目的は……三勇教の教皇などではないのですからな!
「もちろん、何かあったら……」
そうですな。この頃のお義父さんが俺に抱いているイメージから、納得出来る台詞を言えばきっと信じてくれるでしょう。
「おね――ラフタリアちゃん達が怪我をするじゃないか。俺が命を懸けてでも守りますぞ」
「お前らしい返答だな……」
「うーん……」
お姉さんが俺をいぶかしむ様に見ておりますぞ。
「ねえねえ、ごしゅじんさま。槍の人がなんか嘘言ってる気がするよ?」
ギク! フィーロたん!?
確かにフィロリアル様たちは嘘を見抜く感覚が優れていますが、ここでそれを発揮してはいけませんぞ!
「嘘か……俺達を騙して何の得があるんだ?」
「おと――尚文を騙す気はありませんぞ。あくまでも俺の目的のために行動してほしい。それだけですからな」
と、俺はフィーロたんを見つめますぞ。
ヒィイイイ……うう、まだ恐ろしいのですぞ。
フレオンちゃん、どうか俺の心を守って欲しいですぞ。
「んー?」
ここは、アレですな。
婚約者とフィーロたんにお菓子を上げると良さそうですな。
槍で料理を指示し、フィーロたんと婚約者に飴玉とチョコレートをプレゼントしますぞ。
以前、最初の世界でチョコレートが暴れた際に品質の良いチョコレートの作り方を解放したのですぞ。
「フィーロにくれるの?」
「当然ですぞ。尚文を守るためにがんばってほしいのですぞ」
「フィーロ、ごしゅじんさまとメルちゃんを守る! ごしゅじんさま、槍の人、なんか嘘言ってるとは思うけど、ごしゅじんさまにじゃないよ?」
「買収した様にしか見えんが……このまま逃げた方が良いかもしれんな。ラフタリア」
「そうですけど……」
ライバルの犠牲となってしまったお義父さんの助言を参考にして色々としているのですが、余計な事をしてしまった様な気がしますな。
「まあ……それでも一応は問題ないですな。ただ……」
俺はお義父さんの耳元で小さく囁きますぞ。
少々危なくはありますが、コレを言えばお義父さんは信じてくれるはず。
「ビッチが裁かれる為に動いている、と言ったらわかりますかな? 一番良い状況を得るために手伝って欲しいのですぞ」
「――!? わかった……非常に怪しいが言われた通りにしてやる。だが、何かあったら承知しないからな」
「当然ですぞ」
これもお義父さんが多少納得するための手順なのですぞ。
と言う訳でお義父さん達は思う所はあっても俺のお願い通りにメルロマルクに戻り、南西を目指して移動をし始めましたぞ。
「報告です! 盾の悪魔は現在、南西方向……槍の勇者様がお救いした村近隣を通過するだろうとの情報を国の偵察隊が把握いたしました!」
お義父さん達を南西に移動させてしばらくして、国内の影からの情報提供という名の罠情報で俺達はお義父さんと遭遇する場所の話を聞いたのでしたな。
念のため、男の兵士に情報伝達をするように命じさせていたので、赤豚以外からも聞く事が出来ましたぞ。
「ブヒブヒ! ブブブ!」
赤豚がここで便乗して、お義父さんがどれだけ悪であるのかを語るのでしたな。
全部ウソだったのですぞ。
「ブヒー! ブヒー! ブブブブブブ! ブヒブヒブヒブブブ!」
で、赤豚と同類の豚が便乗して俺をヨイショしてくるのですな。
確か錬と樹の無念を晴らしましょう! みたいな台詞が入るのですぞ。
おや? 樹と錬が死んだのは教皇と戦う時でしたかな?
記憶が曖昧ですぞ。
「……」
怠け豚が何故かここで黙って俺を見ております。
確か私達が力を合わせるので絶対に勝ちましょうとか鳴いていたはずですぞ。
おい、何か言えですぞ。
「絶対に許せませんな! みんな! 行きますぞ!」
うえ……そろそろフィーロたんやフレオンちゃん、ブラックサンダーの羽根で我慢できなくなってきました。
早くフィロリアル様達と一緒に遊びたいのですぞ!
と思いながら俺は予定通りにお義父さんを罠に掛け、勝負をする事にしたのですぞ。
バイオプラントによって密林と化した南西の村近くで、ですな。
捕縛の雷檻で大きな檻を形成し、お義父さん達が逃げられない様にしたのですぞ。
かなり大層な仕掛けでしたな。
お義父さんの行く先を把握しないと設置なんて簡単にできませんぞ。
「た、大変だ! 盾の勇者様が何者かの攻撃を受けているぞー!」
南西の村の者達が驚きの声を上げながら逃げていますぞ。
「やっと追い付きましたな! 尚文!」
「……元康」
お義父さんの敵意が若干弱めに見えますぞ。
少なくとも俺の記憶にあるこの状況よりも敵意が低いですな。
「ナオフミ、これは確か捕縛の雷檻っていう魔法道具だったはずよ」
婚約者が檻の方を見て言いますぞ。
「設置型の罠で、術者と対象を閉じ込めるの」
「この罠は何が目的なんだ?」
「対象を逃がさない事を目的としてる……のだけど」
婚約者は俺、と言うよりも赤豚に目を向けておりますな。
俺が力を貸しているのをわかっているのでしょう。
これから脱出に関する問答をするのですが、俺が何か言うのを待っております。
確かに、俺が何か言わないと反応が出来ないでしょうからな。
仕組まれた決闘であるのは間違いないですぞ。
「ブブブブブヒ! ブブブ! ブブブブブヒブヒブヒ!」
ここで赤豚が何やら鳴いております。
全然わかりませんぞ! 予定が崩れるので黙っていろですぞ!
「盾の勇者様! それに……槍の……」
南西の村の者達がお義父さんの心配をしつつ俺の事を見て不快そうにしております。
確かにここは俺にとって罪深い地でありますな。
ちなみに昨日もここでお義父さんを騙る奴をフィロリアルマスクになって捕縛しましたぞ。
ですが、その件は気にしてはいけませんな!
「尚文! ここで尋常に勝負ですぞ! どっちが正しいか教えてやりますからな?」
「……フィロリアルマスク?」
ギク!? 村人の奴、勘が鋭いのが混じっていますぞ!
黙っていろですぞ!
「前回のように手加減はしてやらないですぞ」
「……それはこっちの台詞だが……そのマスクってのはなんだ?」
気にしないで欲しいですぞ!
ですが、お義父さんは意外と細かい方ですからな。
話題を逸らすのが良いでしょう。
「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……勝つのは俺ですぞ!」
後少し……あと少しで、仕込みは済みますぞ。
正直に言えば教皇など、出てきた直後に仕留めてやれば問題ないですぞ。
「抜かせ、卑怯者。お前が何を企んでいようと、俺達は引かない!」
お義父さんの台詞が若干柔らかいですぞ。
きっと、俺の企みにしっかりと乗ってくださっているのでしょうな。
出来る限り手加減し、お義父さんは強化状態……演技は楽に終わるはずですぞ。
やり過ぎる心配も無いですな!
「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」
と、お義父さんに向けて俺は弱い槍に変えて駆けだしましたぞ。
「ブブヒ! ブブブ! ブヒー!」
赤豚がここぞとばかりに鳴いて炎の雨を降らす魔法を唱え、婚約者がそこで妨害の魔法を使いますぞ。
ドラゴン由来の魔法とは異なる妨害方法なので精度が低いですぞ。
しょうがないですな。
小声で俺は赤豚の詠唱の邪魔をしてやります。
『力の根源たる愛の狩人が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者等に降り注ぐ炎の雨を妨害せよ!』
「アンチ・ツヴァイト・ファイアースコール」
パッと赤豚が唱えた炎の雨の魔法はすぐに消えました。
「……え!? あ……いえ、アンチ・ツヴァイト・ファイアスコール!」
婚約者が乗って妨害魔法を唱えた振りをしてくれましたな。
剣……40%
弓……82%




