闇の運命
さて……俺は更にポータルで移動しました。
草木も眠る丑三つ時……ではなく、まだ寝るには少し早い、時間としては9時前くらいですぞ。
とある牧場のフィロリアル舎に俺は行きました。
そのフィロリアル舎を見て……ああ、やはりですな。
他のフィロリアル様達と少し離れた所の周囲の壁が荒れている場所を見ますぞ。
そこに……真っ黒なフィロリアル様、ブラックサンダーがおります。
見た所、成鳥寸前の若い感じですな。
「グア?」
フィロリアル舎の寝入ろうとしていたフィロリアル様達が見知らぬ俺を見て小首を上げて見ております。
「こんばんわですぞ」
「グア?」
俺はフィロリアル様たちに手土産とばかりに干し肉や果物を差し出しますぞ。
「グア!」
目を輝かせたフィロリアル様たちが思わぬごちそうに興味を持って食べ始めてくださいました。
その輪にまぎれる事無く、悠々とブラックサンダーは区切りの中で不快そうに座っております。
俺はフィロリアル様達を軽く撫でた後、ブラックサンダーの方に行きますぞ。
「グア?」
俺の接近を感知してブラックサンダーが不快そうに顔を上げて睨んできました。
ブラックサンダーはクロちゃんではない限り気難しい……いえ、自身の生き方を理解するまで不機嫌な方ですからなぁ。
ですが俺はブラックサンダーの好きな雰囲気を理解していますぞ!
「ブラックサンダーですな! この愛の狩人、北村元康が凡庸な世俗から闇の世界へと羽ばたく運命≪サダメ≫を授けに来たのですぞ!」
「グア!?」
思わぬ物言いにブラックサンダーが驚きの声を上げると同時に、目がキラキラと輝き始めました。
ブラックサンダーが近付いてきたので俺は映像水晶で撮影した錬の映像を見せますぞ。
「グアァアア……」
錬が剣を振って戦うその姿にブラックサンダーは食い入る様に見つめております。
「これが貴様の選ばれた相棒、闇の剣士<シャドウセイント>の覚醒前の姿ですぞ。わかりますかな?」
「グア! グアアア!」
ブラックサンダーが興奮した様に立ち上がって何度も頷きました。
「ですが、コヤツはまだ己の運命に微塵も気付いていません。その覚醒を促すため、お前に闇の力を授けに来た! 十分に力を引き出した後、お前が覚醒させるのだ! わかりましたかな?」
俺が手を差し伸べると、ブラックサンダーは俺の手と顔を交互に何度も見てから頷きました。
「グア!」
よし!
ブラックサンダーの了承は得ましたな。
「だ、だれだ? 家のフィロリアル達に何を……そ、そいつは暴れフィロリアルだ! 危ねぇぞ! 死にたいのか!」
ここのフィロリアル牧場主が俺たちのやり取りを聞きつけてやってきたのですな。
ちなみに俺が贔屓にしているフィロリアル牧場の主ではありませんぞ。
「ああ、夜分に失礼ですぞ。俺の名前は北村元康、愛の狩人ですぞ」
槍をここぞと見せつけて決めポーズ気味に言いますぞ。
するとブラックサンダーも合わせて俺の背後で翼を広げてくれましたな。
「グアア!」
「あ、あのクロタロウが……人に心を許しているだと? アンタは一体……」
ん? クロタロウ?
それはブラックサンダーの実名ですかな?
フレオンちゃんの出生や仙人など、知らない事も多いですが、ブラックサンダーが偽名だったとは初めて知りました。
しかし、こっちの世界でもクロちゃんなのですな。
「グア! グアグアグア!」
「わかったわかった! ブラックサンダーだったな……文字を繋げて名前を名乗ったんだったな……」
どうやらブラックサンダーも実名らしいですぞ。
自分で名付けたみたいですな。
「俺は愛の狩人ですぞ。ところで相談なのですが、このブラックサンダーを譲ってもらえませんかな?」
「グア!」
牧場主は俺とブラックサンダーを見てから……。
「そいつは気性が荒過ぎて困っていたフィロリアルだから、買うって言うなら大歓迎だが……」
と言う訳で牧場主は快くブラックサンダーを俺に譲ってくれました。
もちろんタダではありませんぞ。
相応しい金銭を以てブラックサンダーを譲ってもらいました。
即座にブラックサンダーを俺は主として登録しました。
「俺の修業はつらいですがしっかりと付いてくるのですぞ! 機会を逃すとお前の運命の相手への距離はどんどん遠ざかりますからな! なにせお前の相棒は既に俺達の宿敵ドラゴンを倒しているのですぞ!」
「グアアアア!」
ブラックサンダーはまだ見ぬ錬との出会いに胸を躍らせながら俺に付いてきていますぞ。
やる気が満ち溢れていますぞ。
では、行きますぞ!
俺はブラックサンダーを連れて効率の良い山奥へポータルで飛び、魔物共を倒してLvを上げて行ったのですぞ!
「エイミングランサーⅩ! ブリューナクⅩ! グングニルⅩ! リベレイション・ファイアストームⅩ! リベレイション・プロミネンスⅩ! ハハハ! 弱い! 弱過ぎるぞぉおお!」
「グアアアアアア!」
ブラックサンダーも俺の戦いを見て、心躍るのか、途中で戦いに参加しておりましたぞ。
千切っては投げ、千切っては投げの連続戦闘ですぞ!
どうもグリフィンが多いですな!
グリフィンはタクトの配下にしてフレオンちゃんのご先祖の仇!
惨たらしく殺すのですぞぉおおお!
と、戦っていると。
「我が領地で暴れている者がいると――」
「ブリューナクⅩ!」
どこかで見た覚えのある大きなグリフィンがこっちに向かって飛びかかってきたので先制攻撃で頭をぶち抜いてやりました!
フレオンちゃんのご先祖達の仇ですぞ!
「グギャアアア!? ピギャアア!」
周囲のグリフィン達がでかいグリフィンを仕留めるなり、一目散に逃げ始めましたが、知った事ではありませんな!
お前等がタクトと繋がりがあるのは知っているのですぞ?
皆殺しですぞー!
「闇の力の糧となるのですぞぉおおおお!」
「グアアアアァアア!」
この台詞はブラックサンダーが大喜びでした。
俺は一夜にして……山に生息するグリフィン達を全て仕留めました。
もちろん、ブラックサンダーには出来る限りの強化を施していますぞ。
既に成鳥寸前だったので朝になった頃にはブラックサンダーも随分と立派に成長してくださいましたぞ。
さて……ブラックサンダーがキングになるのにはまだ少し時間がありますな。
予定通りの行動をしなければいけませんぞ。
という訳で俺は一夜休んだ後お義父さん達の村へとポータルで舞い戻りました。
朝、波の被害を受けた村に戻ると、村の者達は壊れた品々の撤去等の作業を既に始めておりましたぞ。
その中にはお義父さんも混じっておりました。
「尚文」
「ん? なんだ元康……」
不快そうにお義父さんが俺に応えてくれましたぞ。
「俺も作業を手伝いますぞ」
「……それは村の連中に言え。なんで俺にワザワザ言うんだよ」
関わってくるなとばかりにお義父さんは背を向けて作業に戻ってしまいました。
「あ、槍の人だー」
ヒィイイイ!? フィーロたんの声がしますぞ!?
バッと振り返るとフィーロたんが小首を傾げながら俺に近づいてきますぞ。
「おはようございますですぞ。ご機嫌麗しゅう」
「うるわしゅー?」
俺は咄嗟にフィロリアル様の為に用意してある干し肉をフィーロたんに差し出しますぞ。
「よ、よければどうぞですぞ」
「フィーロにくれるの?」
「ですぞ」
クンクンと匂いを嗅いだフィーロたんが俺から干し肉を受け取りましたぞ。
「わーい、ありがとー」
そのままフィーロたんは去って行きました。
ふう……一安心ですぞ。
ともかく、城の騎士団が来るまでの間、俺達は村の復興の手伝いをしていたのですぞ。
騎士団が到着すると騎士団長が俺に一礼してから経緯を部下の……お義父さんに助力を求めた有能な兵士達に事情を尋ね、お義父さん共々、城へと帰還する事になりました。
ですが、俺は隙を見て先に城へと帰還する事になりましたぞ。
どうもクズが軽傷扱いだった俺から事情を聞いてからお義父さんに話を伺いたいとの事でした。
面倒ですなー。
あの時クズは赤豚の容体を気にしつつ、波の脅威に焦りを見せておりましたぞ。お義父さんより後での事ですがな。
という訳で、先に俺は城に到着し、玉座の間に向かって歩いて行きますぞ。
「お?」
すると玉座の間に行く途中で婚約者が歩いている所に遭遇しました。
「……」
「……」
俺にはわかりますぞ。
この婚約者、今、凄く虫の居所が悪いのですぞ。
不機嫌な時の婚約者の纏う雰囲気を俺は理解しております。
「そこに居る子は……ねえ。君の事ですぞ」
とりあえず呼びとめますぞ。
「私のこと?」
婚約者は振り返りますぞ。
「俺の名前は北村元康ですぞ」
「ああ……貴方が槍の勇者様ですか……私はメルティと申します。メルロマルクの第二王女です。今後ともよろしくお願いします」
婚約者の目つきが警戒に彩られております。
おそらく、赤豚と仲良くしていると思って、内心距離を置きたがっているのでしょうな。
俺はそっと、フレオンちゃんとブラックサンダー、そしてフィーロたんの抜け羽を取り出して婚約者に渡しますぞ。
「これは……フィロリアルの羽? 狩った魔物自慢? 私……そう言うのに魅力は感じないの」
「違いますぞ!」
どうしてフィロリアル様の羽を渡したら狩った自慢になるのですかな恐ろしい!
「きっと気に入ると思ったからですぞ」
フィーロたんの抜け羽は小さいですがフレオンちゃんとブラックサンダーの羽は大きい奴を見繕ったのですぞ。
きっと気に入ると思ったのに反応が薄いですな。
「この二つの大きな羽を持つフィロリアル様を今度紹介しますぞ。それと……こっちの羽の持ち主にはすぐに会えますぞ」
時系列を整理するとすぐのはずですからな。
「いえ……槍の勇者様は姉上と仲良くしてくださっていれば良いかと思います。私の事等、気に掛けなくて結構ですので」
婚約者の反応が拒絶に彩られていますぞ。
なんで赤豚なんかと仲良くしなければいけないのですかな!?
俺はフィーロたんに誠実であれと言われた男なのですぞ!
とはいえ……どうやって婚約者と話をしますかな?
基本的にはフィーロたんがいれば話自体はしやすいのですが……俺から話をするのは難しいですぞ。
何より婚約者の機嫌が非常に悪いのはなぜですかな?
俺の恋愛経験から来る……直感と今までの事実から想像しますぞ。
婚約者は確かクズに呼びだされてきたのでしたな。
その後すぐに陰謀に巻き込まれてお義父さんと旅路を共にするとか。
あまり長い事一緒にいる訳ではないですが、フィーロたんと仲良くするのはこの時期ですぞ。
俺が会った頃には既に不機嫌な雰囲気は大分減っておりました。
考えられるのはクズや赤豚に対するストレスですかな?
ですが……聞いた話だとクズの怒り具合と片方の言い分から腹を立ててお義父さんに喧嘩を売りに行ったそうですぞ。
婚約者は何だかんだ思慮深く、警戒心が強いですぞ。
短絡的犯行なのはおそらく、現在の不機嫌な状況から招いたのは事実でしょう。
つまりクズや赤豚の所為で……ではなく、別の要因ですな。
更にここから別の要因を考えますぞ。
今までのループなどの出来事から考えて、婚約者は女王と諸外国との交渉に付き合わされていた、そこからここぞとばかりにクズが婚約者を恋しがって呼びよせたとの話。
みんなでフォーブレイに行った時の事が思い出されますぞ。
おそらく……タクトの妹豚辺りに絡まれてストレスが溜まっているとかでしょうかな?
フィーロたんと仲良くする事でストレスが吹き飛んだと考えると、なんとなくすんなり行きますぞ。
ふむむ……となると下手に婚約者の機嫌を良くするのは結果的に想定からずれる気がしますな。
「そう。じゃあまた今度機会があったら話をしようですぞ」
「ええ、それでは」
と、今回は婚約者の機嫌を取る等をせずに俺はそのままクズの下へと向かったのですぞ。
「おお……キタムラ殿、話は聞いておる。此度の戦いは激戦だったとの話。マルティの容体はどうか教えてくれんか?」
クズが俺を心配するように聞いてきますな。
シルトヴェルトに行った周回のクズを思い出すと苛立ちますな。
あの世界では結局、何もしていませんからな。
何か罰の一つ位与えてやっても良いのですが……今はここを乗り越えねばいけませんな。
それっぽく話を合わせて事情を説明しましょう。
「俺が思ったよりも波の魔物が強くなっていた。ゲーム知識を頼りに行動していたが……先が思いやられる。あか……マインの事は安心してくれ、取り返しの付かない怪我はしていない」
俺の言葉にクズがホッとした様に胸に手を当てていますな。
「まさか波から謎のぶ……女が出てくるなんて思わなかった。アレは俺も知らない事だった」
俺は波での戦闘に関して、問題の無い範囲での出来事を説明しました。
「ふむ……伝承にある波と聞いたが、ワシたちはもっと知らねばならない事が多いようじゃな」
本当は全部知っていますが、知らないふりをしておかねばフレオンちゃんやお義父さん達がどうなるかわかった物じゃないですぞ。
「次の波が来た時は負けない様にする。敗北が……俺達を強くしてくれるんだ」
「うむ! その意気じゃ!」
これがお義父さんの言葉だったら罵倒するのは容易く想像出来るのが今のクズですぞ。
「となると、勇者殿達にはより団結して事に当たって貰うのが良いじゃろうな。近日中に準備をするので待っていて欲しいのじゃ」
「ああ、それじゃ……」
と言う訳でクズとの話を終えて、俺は赤豚と再合流するように見せかけて自由時間を得たのですぞ。
少なくとも誘拐騒動を聞きつけるまでの時間は確保出来ましたな。
ブラックサンダーと合流する時間ですぞ。




