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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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愛のヒーロー

 それから俺は超ゆっくりと波で戦いました。

 下手をしたらあちらの世界と融合しかねない程の長期戦になりそうでしたな。

 一気に殲滅出来なくてイライラしますぞ。


 ……事故に見せかけて赤豚を始末する発想が浮かんできますが、下手に赤豚が重傷を負おう物ならお義父さんに迷惑が掛りかねません。

 ここはお義父さんが来るまで我慢なのですぞ。


「元康! 物怖じしないでさっさと攻撃しろ!」

「わかってますぞ!」


 錬が何やら俺に意見して来ていますな。

 ああ……そうでした。

 俺は城の倉庫から持ってきた映像水晶で戦う錬の姿を撮影しておきましたぞ。


「みなさん! ここで一気に仕留めましょう! 僕たちの力で世界を平和に導くんです!」


 と……樹は何やら頼りにならない連中と一緒にへなちょこな攻撃をしておりました。

 ああ……今の俺からすると凄く苛立つ三時間でしたぞ。

 やがて三時間かけてボスを倒し、一安心と言った所で……扇を持った豚がやってきましたな。

 その豚と多少戦って、ある程度追い詰めた時に大技を撃たれて俺達は意識を失うのでしたな。


「ブブブ! ブブブ! ブヒ!」


 で、扇を持った豚と何度かやり取りをしていると、何故か俺に向かって扇を持った豚が怒っておりました。


「元康が真面目に戦っていない?」

「ま、真面目に戦っていますぞ」

「ぞ?」

「怪しい気配がしますね」


 くっ……この扇豚……俺が加減しているのを見抜くとは、さすがですな。


「俺は手加減なんてしてない! はぁあああ!」


 っと出来る限り力を抜き、隙だらけの構えで扇豚に攻めますぞ。


「ブ、ブ!」


 扇豚……動きが良いですな。本気だったら余裕で返り討ちに出来ますが、手加減するのが難しいのは事実ですぞ。

 最弱の槍でどうにか加減している状況……さあ、必殺技を放つのですぞ。

 チラッと後ろを見ているとお義父さんが近寄って来るのがわかりました。


「よし! いくぞ! 流星剣!」

「ここで一気に決めます! 流星弓!」

「たああああ流星槍――」


 おっと、いつもの癖で強化スキルを放ちそうになってしまいました。

 そこから扇豚が花弁を周囲にばらまく衝撃波のスキルを放って俺達は吹き飛ばされたのですぞ。


「ぐは!」


 お義父さんの足元に俺達は転がりますぞ。

 ぐるぐるぐるぐるぐるーーーーとお義父さんの足元まで必要以上に転がり、確か……。


「後は任せたですぞ」


 するとお義父さんは凄く不快そうな顔になりました。

 おや? 記憶の中の最初の世界のお義父さんが『ちげーよ。バーカ』って言ってるような気がしました。

 間違いましたかな?


「流星剣が入ったはずなのに……」

「流星弓が命中したはずなのに……」


 ああ! そうでしたな!


「……流星槍が決まったはずなのに……」


 合わせて俺も言いました。

 これで軌道修正完了ですぞ!


「元康がふざけている様に見えるが……流行ってるのか? それ」


 返事をしてはダメですぞ。気絶した振りをしないと……。

 それからお義父さんは扇を持った豚とのやり取りを始めました。

 その最中に赤豚の顔を踏んだ様ですな。

 ははは! 良い光景ですぞ!


「フィーロもマネして良い?」


 フィーロたんが足を上げて俺を踏みつぶそうとしております!?

 ヒィイイイ! 今すぐここから逃げたいのですぞー!


「やめとけ。さすがに死ぬぞ」

「はーい」


 ほっと一息ですぞ。

 うう……俺の意識が無い間にこんな事があったのですな。


「……槍の勇者……本当に意識が無いのでしょうか?」


 お姉さん! お義父さん並みに勘が鋭いですぞ!

 狸故に見抜くのが得意なのですかな?


「そうなのー?」


 やばい! フィーロたんが狸寝入りをしている俺に顔を近づけております。

 ヒィイイイ!? 声が、恐ろしいですぞぉおお!


「う……うう……」


 漏らさない様に意識していましたが声が漏れてしまいました。


「意識が無い奴なんて放っておけ。今は戦いに集中するんだ!」

「はーい!」

「そうですよね。ここで死んだふりは意味が無いですし」


 お義父さんの注意の声にお姉さんとフィーロたんは扇豚に意識を向けてくれた様ですぞ。

 それからお義父さんと扇を持った豚との戦いが始まりました。

 途中、お義父さんが憤怒の盾を使用し、扇を持った豚に命中させるためにお姉さんが助力をするやり取りをし始めました。


 これくらいならきっと手助けしても大丈夫ですな!

 槍を爪楊枝サイズにし、お姉さんが扇を持った豚に不意打ちする直前――ピッとエアストジャベリンで扇を持った豚の足を狙い撃ちしてやりました。


「ブ!?」

「え!?」


 お姉さんと扇を持った豚が奇妙な声をあげましたが隙を作る事に成功しました。

 お義父さんがアイアンメイデンを決めて扇を持った豚は敗走していきました。

 HAHAHA! 大勝利ですぞ!

 無様にも足を引き摺っていましたな。


 アイアンメイデンだけでは効果が低いですが俺の火属性の援護を施したら扇豚を仕留められましたかな?

 さすがにリベレイションを唱えたらばれてしまうので我慢ですぞ。

 お義父さんの炎にまぎれて魔法を打ちたかったですぞ。





「……」


 戻ってきたお姉さんが意識を失って倒れている俺の所に屈みこんで凝視しております。

 一応他にも村人達が集まってきている様ですぞ。

 意識を失ったフリ、意識を失ったフリ……いえ、戦闘が終わったのですから起き上がっても大丈夫ですな。


「う……うう……ここは……そうだ。俺は……ですぞ」

「……」


 お姉さんが無言で俺を見ています。


「寝た振り……してませんでした?」


 ギクッですぞ。

 ここでドモっては計画がばれてしまいますぞ!


「何の事で……かな? それよりさっきの敵は!?」


 ですぞと言い掛けてしまいました。

 話題を逸らしますぞ。


「もうナオフミ様が追い返しました」

「あーん」

「食うな」


 フィーロたんがソウルイーターを頭から食べようとしてお義父さんに注意されましたぞ。

 とりあえず起き上がってお義父さん達の下へ行きますぞ。


「ああ、元康はもう目覚めたのか。ずっと寝てりゃ楽だってのに……それより、良いのか?」


 お義父さんが赤豚の方に視線で誘導してきますぞ。

 トドメを刺すならと思いましたが、確かにこの頃の俺なら赤豚を心配して行きますな。

 ですが、それよりも困っているお義父さんの手伝いをしても良いでしょう。


「解体するんだろ? 山分けだ」

「……女より素材ってか?」


 お義父さんが怪訝な顔をして俺を見ております。

 う……ちょっと言い返し辛いですぞ。

 なんとなくお義父さんの心の中での評価が落ちている気がしてきました。


「あか……マインは村人達が介抱している」


 ですぞ、と言いそうになりました。

 正直、赤豚なんて激しくどうでもいいですぞ。


「まあいい。で、どうやってこれを捌くんだ?」


 俺は槍を属性が付いたモノに変えて手短にソウルイーターを捌きました。


「四等分ですな」

「……俺には渡さないとか言うかと思ったが?」


 お義父さんが意外そうに言いましたな。


「さっきのブ……女を倒してくれたんだろ。多少はな」

「ハ!」


 お義父さんは俺に軽蔑の台詞を言いながらソウルイーターの素材を四分の一程持って行きました。






 それから俺は……赤豚と錬と樹、その他を近くの治療院に搬送するのを見届けた後、そっと輪から外れてフレオンちゃんと合流しました。


「クエー」


 手招きするとフレオンちゃんが舞い降りてきました。


「クエ!」


 ポーズを取るのはご愛敬ですぞ。

 さて……波を乗り越える事は出来ましたな。

 後は婚約者の誘拐騒動が起こるのですが……まだ少しばかり時間がありますな。

 この時間を無駄にしない様に行動しなければいけません。

 まずはフィロリアル仙人と合流する必要がありますぞ。

 天使姿フレオンちゃんのお披露目ですな。


「フレオンちゃん、フィロリアル仙人様の所に行ってから天使のお姿になってほしいですぞ」

「クエ!」


 わかっていらっしゃるのかフレオンちゃんは頷いてくださいました。

 ですが……何やら村の方を見ておられていますな。

 お義父さん達と錬や樹は今夜、あそこで就寝する事になりますぞ。


「心配なのはわかりますが今は我慢ですぞ」

「クエー……」


 と言う訳で俺達は一足早く城下町に帰還しました。

 そうしてフィロリアル仙人様の所に合流したのですな。

 人目の無い馬小屋で俺と仙人はフレオンちゃんとお話をしますぞ。


「槍の勇者様、経過はどうでしたでしょうか?」

「特に問題ありませんぞ。さて……フレオンちゃん、仙人もいらっしゃいますし、天使のお姿になってほしいのですな」

「クエー」


 と言う訳でフレオンちゃんが翼を広げて何やらポーズを取りながら……姿を変えましたぞ。

 そうして変わったフレオンちゃんのお姿は……おお、何と言う事でしょう。


 フィーロたんによく似た……いえ、俺の記憶するフレオンちゃんによく似た、目が赤く金髪の天使姿でした。

 堕天使フレオンちゃんとよく似ております。

 違いは羽でしょうな。

 ゲームのフレオンちゃんが堕天した際は悪魔の羽だったのですぞ。

 こちらは天使の羽での堕天使フレオンちゃんなのですぞ!


「愛のヒーロー! フレオン参上です!」


 っと、フレオンちゃんは決めポーズを取っておりますぞ。


「な、なんと……」


 仙人も驚きで口を開けておりますぞ。


「天使のお姿を見せてくださり、ありがとうございますぞ!」

「なんてことないです。それでもとやすさん、このフレオンに何をお望みなのでしょうか? 場合によっては力を貸しますよー!」


 このテンション……ノリの良い、堕天使フレオンちゃんと似ていて良い感じですぞ!

 盛り上がって参りました!


「まずはフレオンちゃんの服を作らねばいけませんな。すっぽんぽんではダメなのですぞ」

「わかりました。では……ヒーロー服を作らねばいけませんね!」

「どんな服が良いですかな?」

「ヒーローな服が欲しいです!」


 うーむ……よくわかりませんな。

 ヒーローな服とはどんな服ですかな?


「フィーロたんの着ていた服はダメですかな?」


 あの服装がまず一番似合う服装だと思いますぞ。


「アレですか。良いですよ。まずは服を着ないといけませんね! 二着目をヒーローにしましょう」

「物わかりが良くて助かりますぞ! では……」


 事前に準備していた魔力を糸にする機材をフレオンちゃんに見せて回すようにお願いしますぞ。

 後で布にしてもらい、服を作りましょう。

 フレオンちゃんは俺のお願いを聞き入れて機材を回して下さっております。


「それでもとやすさん、仙人さん」

「えー……」


 仙人が言葉に詰まっておられる様ですな。まずは俺が相手をしましょう。


「なんですかな?」

「フレオンは波の戦いと言うのを空から見ていました。そこで非常に気になる方を発見したんです」


 気になる方、ですかな?

 一体誰の事ですかな?


「ほう……それは誰ですかな?」

「弓を持って戦っていた方です。あの方が正義と言っていた事に激しくシンパシーを感じました」

「……樹ですかな?」


 特徴から考えて間違いなく樹でしょう。


「いつきさんですか……フレオンはいつきさんが非常に気になります」

「樹ですか……フレオンちゃんは樹がどのように気になるのですかな?」

「まず正義の心を持っているのはフレオンも共感する事が出来ました。ただ……あの正義には非常に多く濁りが含まれている様に感じるのです」


 今までの樹の事を思い出すと……確かにそうですな。

 樹はいつも正義関連で問題を起こしますぞ。

 大人しいのは最初から真実を教えたループだけですな。


「ですので、フレオンは正義とは何たるかをいつきさんと話がしたいのです。どうか話をする事の許可をください」


 なるほど……フレオンちゃんの知る正義に関して、樹と話がしたいのですな。

 今のフレオンちゃんは俺が短い時間で出来る限りの強化を施しました。

 少なくとも三勇教や赤豚の攻撃に対して返り討ちにする事も出来るでしょうな。

 赤豚も魔物紋の支配が出来ず、フィーロたんみたいになったフレオンちゃんには妙な攻撃はもう出来ないでしょう。

 危険な状況は抜けたのですぞ。


「わかりました。では服が出来上がったら樹の所で色々と話をして来て良いですぞ」

「ありがとうございます! もとやすさん!」


 と言う訳でフレオンちゃんは樹と話をしたいと言う話を聞いたのですぞ。


「後は、フレオンちゃんの入っていた卵を大事にしていた仙人も大切にするのですぞ」

「当然です。仙人さん、フレオンを守っていてくださり、ありがとうございます!」

「あ、ああ……フィロリアルに直接そう言われるのは、とてもうれしいのう……」


 仙人も満足しておられますな。


「ではフレオンちゃん、今夜は仙人と一緒に居てほしいのですぞ」

「はい。もとやすさんはこれからどうするのですか?」


 ふむ……フレオンちゃんが樹の下で話をしたいのですな。

 フレオンちゃんが樹に興味を抱くのは……俺としても都合が良いですぞ。

 この先の出来事を考えると三勇教の暴挙に怪しんだ錬や樹が罠に掛けられる機会が訪れるのですぞ。


 その際に樹にはフレオンちゃんがいるので万が一の危険性も無いですが、錬は何かの不手際……影が助けるのに失敗するかもしれません。

 何分、少しばかり想定からずれていますぞ。

 計画を実行する上で、錬や樹は正直、どうなっても良いのは事実ですが、シルトヴェルトに一緒に行った周回のお義父さんに頼まれていますぞ。


 最初は錬の方にフィロリアル様を派遣する当てはあったのですが樹となると……となっていたのですな。

 しかも樹にはフレオンちゃんが派遣されるのですから……錬にも戦力を増やして上げるのが今後の事を考えると良さそうと考えるのですぞ。


 錬ととても仲が良いフィロリアル様の心当たりは十分にありますな。

 クロちゃんことブラックサンダーですぞ。

 当初の予定通りにブラックサンダーを勧誘に行きましょう。


「次の行動に出る為、城に軽く報告をしてから、ちょっとしたフィロリアル様を連れてきますぞ」

「わかりました。お任せください」


 ああ、この声音はゲームのフレオンちゃんを思い出しますぞ。

 素晴らしいですぞフレオンちゃん! 俺の願望がそのまま画面から出てきた様ですぞ。


 そんな訳でフレオンちゃんの魔力を糸にしてもらった俺はその足でシルトヴェルトでよく利用している店に行き、金を積んで布にしてもらいました。

 時差がある事も然る事ながらシルトヴェルトは夜行性の亜人もいるので時間帯に関しては寛容なのは非常に助かりますな。


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