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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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フィロリアル仙人


「少しの間の辛抱なのですぞ」

「わかった」


 と言う訳で俺は老人を連れて城下町の方に向かい、パーティー勧誘をしますぞ。


「ちゃんと案内するので、承諾するだけで良いですぞ」

「はぁ……」


 老人が許可し、パーティーに加入したのを確認して俺はポータルで舞い戻りました。

 クールタイムがギリギリでしたぞ。


「こ、ここは!?」

「クエ?」


 フレオンちゃんを避難させている山奥に老人を案内しますぞ。


「あそこにいるフィロリアル様で良いですかな?」


 パタタっとフレオンちゃんが俺達を見つけて飛びながら近寄ってきますぞ。


「あ、ああ……だが、あの姿は……伝承にあるフィロリアルクイーン? 確かメルロマルクで目撃されたと噂になっていたが……」


 おお、フィロリアルクイーンを知っているとは……この老人、フィロリアル様に関して詳しい様ですぞ。


「先ほどの力と兵士達の態度、槍を持つその姿は……」

「もちろん俺は槍の勇者であり、愛の狩人、北村元康ですぞ! まずは色々と事情を話す事と謝罪が先の様ですな」


 俺は老人に頭を下げました。

 この老人がフレオンちゃんの真の持ち主なのですからな。

 そして深く謝罪しなければいけません。

 俺は最初の世界でフレオンちゃんを死なせてしまっているのですからな。

 謝っても許されるものではありませんが、それでも謝りますぞ。


「この度、貴方の大切なフィロリアル様を没収する事になったのは俺がフィロリアル様を欲したことから始まった事だったのですぞ」


 俺は老人に向かってフィーロたんとの出会いを説明しました。


「つまり槍の勇者様がフィロリアルを欲した所で、冒険者に扮したこの国の王女であるマルティ様が権力を使って、ワシの大事なフィロリアルの卵を奪って行ったと言う事か……」

「そうなるのですぞ。この件は深く謝罪致しますぞ。このフィロリアル様……フレオンちゃんと俺は名付けました」


 何せ、この事実を俺はこの周回になるまで知らなかったのですからな。


「クエエエ」


 フレオンちゃんが俺と老人にすり寄ってきております。

 とても可愛らしい姿ですな。

 ちょっとだけ他のフィロリアル様より翼と尾羽が長いのがフレオンちゃんの様ですぞ。

 キラキラしていて、良い羽毛をしておられますな。


「安全を確保出来たら……フレオンちゃんをお返ししますぞ」


 と、俺が言うと老人はフレオンちゃんの顔を撫でまわし始めますぞ。


「僅か数日でここまで立派なフィロリアルに育て上げるとは……勇者の力とはなんとも驚くべき事か……」


 老人は今までの泣きそうな顔ではなく、何処となく朗らかな表情で俺を見つめますぞ。


「いいや……この子の為にも槍の勇者様、貴方様にこのフィロリアルはお譲りしましょう。その方がこの子の為になるでしょう」


 おお……なんと寛大なお言葉ですぞ。

 ですが、ここで素直に受け入れるわけにもいかない事実がここにありますぞ。


「その前に質問をして良いですかな?」

「なんじゃ?」

「フレオンちゃんは……何故飛べるのですかな? 飛べるフィロリアル様は絶滅したと聞いておりますぞ」

「ああ……まずは説明が必要でしょう……何から話をした方がいいか……まずはワシの事からじゃな」


 老人は自身の身の上から説明をし始めましたぞ。

 この老人はフィロリアルのブリーダーとして随分と昔から色々と手広くやっていた方だったそうですぞ。

 フィロリアルレース界隈にこの人あり、と言われる位だったとか。


 色々な血統は配合、育成……如何に早く、優秀でタフなフィロリアルを作り出す事に躍起になった時もあったそうですな。

 やがて歳には敵わずに弟子達に後を任せてレース界隈からは引退し、各地のフィロリアルを見て回る気ままな旅をしていたとの話。


 そんなある日の事……老人はまだ見ぬフィロリアルを探しに山奥にある野生のフィロリアルが過去に作ったであろう巣で見つけたそうですぞ。

 丁寧に封印の魔法が施されてあったそこには……一つの卵があったそうですな。

 その場所は過去の伝承で空飛ぶフィロリアルが生息していたと語られる地域……老人はその卵を封印ごと持ち帰り、大切に保管していたとの話ですな。


「孵化して空飛ぶフィロリアル様の復活をしなかったのですかな?」

「……悩んでいたのは事実じゃ。槍の勇者様、空飛ぶフィロリアルが絶滅した理由はご存じか?」

「確か……グリフィンとの争いで絶滅したと聞きましたな」


 この世界のグリフィンは実に愚かな生物ですからな。

 何でも馬に自分の立場が奪われるのではないか? と勝手に不安に駆られて襲い掛かったり、ドラゴン相手に金目の物は自分の物だ! と集団で襲い掛かったとか、四方八方喧嘩を売って回っているとかなんとか。

 その関係でフィロリアル様とも敵対関係にあるのですぞ。

 タクトと仲が良いらしいですが、相性が良いのでしょうな。


「直接的な原因はそうじゃな。じゃが……間接的には人間が関わっておったのじゃ」


 ドラゴンやグリフィンなどよりも安価で空を飛べるフィロリアル様は、それだけ乱獲が盛んに行われていたそうですぞ。

 タダでさえ、時代は暴れ回るグリフィン達への対抗手段を求めていた時代。

 空飛ぶフィロリアルは各地で乱獲され、争いの為に利用されていた。

 その背後には勇者と天才が関わっていたと老人が語りました。


 どちらにしても空飛ぶフィロリアル様の絶滅には人間も関わっており、仮に空飛ぶフィロリアルが復活したらまた同じ争いを……フィロリアルが血を流す結果に繋がるのではないか、と老人は憂い、フレオンちゃんの卵は封印され続けていたとの話。


 なんと……確かに、フィロリアル様が傷付き、倒れるそのお姿は心が痛むのは事実ですぞ。

 シルドフリーデンを再興させたループでの記憶が思い出されます。

 この老人の思い、この元康が理解出来ないはずはありませんな!


「そうして卵のこの子を大事に保管していた数日前の事じゃ……高価なフィロリアルの卵を求めている、と国の兵士と赤髪の女冒険者がワシの噂を聞きつけて乗り込んできおってな……無理やりワシから卵を奪い取り、封印を解除して持って行ってしまったのじゃ」


 間違いなく赤豚ですぞ!

 なるほど、この老人は実はこの界隈では有名な人物で何か凄い物を持っていると読んで奪ったのですな!

 絶対に許せない悪行ですぞ!


「そうして卵を返してもらおうとワシは城にやってきた訳じゃ。そして……槍の勇者様にこの子が孵った姿を見させてもらっているのですじゃ」

「なるほどですぞ……」

「クエ?」


 フレオンちゃんは小首を傾げながら空を飛んでおります。

 時々ポーズを取って俺達にアピールしていますぞ。

 クロちゃんみたいですな。


「ここまで立派なフィロリアル……フィロリアルのフィモノア種という古代種じゃよ」


 おお……絶滅種なのですな。

 凄いですぞ、フレオンちゃん!


 そういえば最初の世界でお義父さんが言っていましたな。

 赤豚とそれに類ずる豚と転生者達はこの世界にとって有用なモノを消して回っていたとか。

 この他にも、波の起こる場所にはそういった重要な施設や人物が存在するそうですぞ。


 そして、赤豚はこの老人から奪ったフレオンちゃんを毒殺しました。

 フレオンちゃんの出生からして、無関係ではないでしょうな。

 全てが繋がった様に感じますぞ。


「これでワシも肩の荷が下りた……槍の勇者様、どうかフレオンをよろしくお願いします」


 老人……いえ、これからはフィロリアル仙人と呼んで尊敬しなければいけない方が俺に頼み込んできました。

 こんな素晴らしい方がこの世界に居たとは……長く沢山の世界を経験しましたが、まだまだ知らない事が沢山あるのですな。

 ここで俺はフレオンちゃんを見て、ある感情が浮かんできました。


「生憎ですが仙人様、俺はその資格は無いのですぞ」

「え? 仙人? それよりも……資格とは?」


 仙人は俺の言葉に戸惑いの表情を浮かべております。

 ですが、俺は言わねばならないのですぞ。


「俺はこのフレオンちゃんを……別の世界では失っているのです。仙人からフレオンちゃんを奪って行った者の手によって」

「べ、別の世界?」

「そうですぞ。何も知らなかった俺がフレオンちゃんの世話をしていたら今頃……フレオンちゃんはアイツらによって殺されていたのですぞ!」


 思い出すだけで憎悪の感情が湧きおこってきますぞ。

 腹立たしくてしょうがないですな!

 何が体が変化に対応できず病弱で死んでしまった、ですかな!

 お前が毒物を盛った所為でフレオンちゃんは死んだのですぞ!


「仙人、あなただから話しますぞ。俺は何故か過去に遡る力を持っているのですぞ。そのお陰で運良く、フレオンちゃんと再会出来たに過ぎません。最初の世界ではフレオンちゃんは亡くなっており、仙人に関しても何も知りませんでした」

「そ、そうなのですじゃ?」


 仙人は事態が飲み込めないと言った様子ですな。

 お義父さん達に信じて貰うのでさえも大変なのですからしょうがありませんな。


「とりあえず仙人、大切な卵を無理やり奪われ、別の世界で殺されたフレオンちゃん……その事に対して恨みを晴らしたいと思いませんかな?」

「い、いや……ワシは……」

「言わなくてもわかりますぞ。命よりも大切なフレオンちゃんを亡骸で返された仙人の嘆きが……」

「そう言われてもワシは困るのじゃがな……想像する事は容易い。きっと生きて行く自信が無くなっていたじゃろう」


 でしょうな。

 赤豚のした事は万死に値しますぞ。

 どうにかして仙人が納得する結末を見せ、恨みを晴らす事は出来ませんかな?

 赤豚がバーストランスで汚い花火になるだけでは俺も仙人も満足できませんぞ!


 という所で俺は名案が思い浮かびました。

 タクトを惨たらしく殺す事を考えて培ったお義父さん直伝の拷問術の成せる技ですな!

 お姉さんのお姉さん、ありがとうございますですぞ!


 おや? 最初の世界のお義父さんが『自分で培ったのか、俺から学んだのか、サディナから教わったのか、どれか一つにしろよ』と言っていますな。

 HAHAHA、全てですぞ!


「閃きました! 仙人、良い案が閃いたので、安心して待っていて欲しいのですぞ」

「クエ?」

「あ……えー……わかりました。それでワシは何を……」

「お金を渡すのでしばらくの間、メルロマルクの城下町でゆるりと待っていて欲しいのですぞ」


 と、俺は仙人にお金を持たせますぞ。

 この仙人には色々とご教授願いたい事が沢山出てくるでしょうからな!


 まず俺が考えた名案を実行に移すには最初の世界をある程度なぞる必要がありますぞ。

 他の今後の事を考えて錬と樹をどうにかする事ですな。

 前々回のお義父さんに出来る限り穏便にと命じられておりますからな……?

 おや? 前々回だったと思うのですが、間の記憶もありますな。

 深く思い出す余裕は無いのですぞ。


 うう……フィーロたん。


 とにかく、優しいお義父さんに出来れば錬と樹も気に掛けて欲しいと言われております。

 そうですな。俺は最初のフィロリアルであるフレオンちゃんと再会出来たのですから……錬にはブラックサンダーを紹介するのが良いかもしれませんぞ。

 ただ、錬は意固地な所がありますから、ブラックサンダーの方をある程度強くしてあげないといけませんな。

 どちらにしても波に関して穏便に……あの事件が起こる様に立ち回るには、あえて俺が苦戦して負けた振りをしてお義父さんに活躍してもらうのが良いでしょう。


 とりあえずフレオンちゃんも大分育ちましたからな。

 波には参加せずとも近くで見ていてもらいましょう。


「フレオンちゃん」

「クエ?」

「俺は波という、この世界を危機に陥れる出来事に対抗するために戦っているのですぞ。その戦いの場をフレオンちゃんにも見ていて欲しいのですぞ。故あって負けた振りをしますが、フレオンちゃんは絶対に出て来てはダメですぞ」

「クエ? クエー!」


 俺のお願いを聞き入れてフレオンちゃんは頷いてくれました。

 お利口さんですな。


「では波が起こる場所の近くにフレオンちゃんを連れて行くので見ていて欲しいですぞ」


 と言う訳で俺はフレオンちゃんを波の現場に飛ばし、俺自身は仙人と共に城に戻り、仙人と別れて赤豚やクズと雑談をしてから波に備えたのですぞ。




 3……2……1……っと波は発生したのですぞ。

 場所は俺の記憶通りの場所でしたな。

 変幻無双流の老婆がいる村近くの波でした。


 さーて……記憶通りに……っと行こうとした所で――。

 ヒュンと大きな影が俺に向かって来て蹴ろうとしてきました。


「ヒィイイイイ!?」


 サッと避けると、そこにはフィーロたんがおりました。

 あわわ……。


「あれー? 槍の人避けたー? 次ー」

「ヒィイイ!?」


 ヒュンヒュンとフィーロたんが俺に向かって蹴ってきますぞ。

 怖いですぞ! 助けて欲しいですぞ!


「ヒィイイ!」

「な、なんだ元康? 奇妙な声をあげて」

「その悲鳴はなんですか?」


 錬と樹が俺の声を聞いて振り返りました。


「ブブブー! ブヒヒ!」


 赤豚が何やら喚いておりますぞ。

 やかましいですな!


「元康の微妙に笑える声はともかく……お前ら……」


 っとお義父さんが呆れたとばかりに俺と錬、樹に注意してきました。

 その通りでしょう。

 最初の世界を忠実になぞらねばいけない所だからこそ、俺もやらなかったまでで本当ならお義父さんの言い付けを出来る限り守りたかったですぞ。


「落ち着け。そして考えろ。俺は援助金を貰えないから波の本体とは戦わない。精々近隣の町や村を守るのが仕事だ。そこは理解したか?」

「ああ」

「勇者としては失格ですね」

「任せたのですぞ」


 お義父さんが不快そうに眉を寄せておりますが、しょうがないのですぞ。

 その後、お義父さんは俺達に騎士団を連れて来ていない件を注意してきました。

 記憶を頼りにバカ丸出しの返事をしてしまいました。

 この頃の俺は実に愚かで胃に穴が開きそうですぞ。


「んー?」


 フィーロたんが何度も空を切る様に足を動かしていたのが……凄く怖いのですぞー!

 絶対にお義父さんを蹴ってはダメですぞ!

 と祈るしかありませんでした。


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