寝ている間に起こった事
などと感慨深く考えていると、お義父さんが心配そうに言いました。
「……世界が平和になったら、元康くんはまたどこかにループしちゃうのかな?」
「生憎とそこはよくわからないのですぞ」
平和になってその日々を謳歌していたらいつの間にかループしてしまっていますからな。
「なんで元康くんはまたループしているんだろうね」
「それは俺自身も謎なのですぞ」
思えば何故ループしているのか、その謎自体は全く解ける気はしませんな。
ただ、前にお姉さんが仰っていた、俺がフィーロたんに会いたいという願いを元にループしているという話がありました。
何かしら理由があるのでしょうが、俺は愛を貫くだけなのですぞ。
「この世界のお義父さんは、以前ループする際に色々と助言をしてくださいましたな」
「懐かしいね……ループしちゃうと思ったから急いで色々とお願いしたっけ」
最初の世界をなぞるのが良いとの助言でしたな。
……思えばこの世界のお義父さんの助言は的確だったのですぞ。
何せ俺はフィーロたんに会いたかったのですからな。
俺がお義父さんの仰った事をもっと正しく把握していれば、お姉さんを怒らせるような事もなく、フィーロたんに再会出来たでしょう。
「……また、元康くんはどこかにループしてしまうのかもしれない。その並行世界で困っている俺の力になってくれるんだろうね」
「もちろんですぞ。この元康、お義父さんの力になる事は使命ですからな」
フィーロたんとの約束ですぞ。
世界を真の平和にしなければいけませんからな。
「はは、次の困っている俺か……なんとなくさびしい気持ちになるね」
「さびしがる必要などありませんぞ。俺は常にお義父さんと共にいますからな」
「そう……なんだろうけどね」
なんてお義父さんは少しばかりさびしげにテラスにもたれ掛りながら町並みを見つめておりました。
「なおふみー! ただいまなのー!」
ライバルがシルトヴェルトの上空からドラゴン姿で庭に着陸しました。
良い雰囲気の所に邪魔が入りましたな。
「ガエリオンちゃん、おかえり。ウィンディアちゃんに会いに行ってたんだっけ?」
「そうなの。ついでにお姉ちゃんの為に弟を預けに行っていたなの」
ライバルが弟と言っているのは最初の世界で、奴と同じ名を持ったドラゴンですぞ。
何やら市場やらいろんな所を出向いてライバルは特定したそうですな。
そのライバルの弟であるオスのライバルを実家の助手に預けに行ったとの話ですぞ。
「これでお姉ちゃんも大分機嫌が良くなるはずなの」
「いや……それはどうなのかな? というかウィンディアちゃんはどんな感じだった?」
「お父さんとは仲直り出来ているようだったなの。それと世界が大分平和になった頃に、正式にガエリオンが後見人となって社会勉強としてこっちに来る事になったなの」
「それは良かったね」
「なのー。じゃあなおふみ、そろそろ会談の時間なの。出発の準備をしようなの」
「わかってるよ」
「じゃあ待っているなのー」
と、ライバルは庭で人型になって城の中に入って行きました。
騒がしい奴ですな。
「シルドフリーデンも最初に視察に行った時はどうなるかと思ったけど……本当、ガエリオンちゃんががんばってくれたお陰で色々と助かったね」
「……不服ですが、そうですな」
シルドフリーデンは今や、奴を旗頭として復興に向かっている最中ですぞ。
タクトの復権を信じていた貴族達も白旗を上げて抱えていた財産を寄付してきたとの話をこの前しておりました。
奴の主催する催しなのでフィロリアル様が見せるショーなども好評ですぞ。
この事実は確かに存在するのですぞ。
「凄いよね、ガエリオンちゃん……俺だったら到底出来なかったと思う」
「買い被り過ぎなのですぞ」
奴はドラゴンですぞ。
「……ガエリオンちゃんは、元康くんと一緒にいろんな世界を渡れるんだっけ」
「そうですな。奴は俺の槍に寄生する寄生虫ですぞ」
思い出すだけで忌々しいですな。
なんであやつなんかと共にループしなくてはいけないのですぞ。
今度のループでは出来る限りドラゴンの卵には近づかない様、努力しなければいけませんな。
奴が不要である事を証明しなくてはいけませんぞ。
「まあまあ……元康くんもさ、少しはガエリオンちゃんを認めた方が気が楽になると思うよ。だって……ループを共に出来る仲間じゃないか」
「一緒にループするならフィーロたんが良いですぞ」
なんで奴と何度もループを共にしなくちゃいけないのですかな!
常にお義父さんを狙い続けるセクハラドラゴンですぞ。
いい加減、消え去れなのですぞ!
「うーん……」
お義父さんが俺の返答に苦笑いを浮かべております。
「俺はガエリオンちゃんは良い人だと思うんだけどなー……」
「お義父さん、騙されてはいけないのですぞ。きっと何か企んでいるに違いないですぞ」
警戒は重要なのですぞ。
まあ、この世界のお義父さんは奴の狙いである童貞は既に消失しているので、そこまで警戒する必要はないですがな。
「おっと、そろそろ俺も出発しないと。今日はガエリオンちゃんと話が出来るし、もう少し元康くんと仲良く出来ないか話をしてみるよ」
「水と油、さすがのお義父さんもこれだけは無理な話だと思いますぞ」
「あはは……期待しててよ。元康くんは今日もタクトが育てていたフィロリアルの世話だったね」
「そうですぞ。早く心の傷が癒えれば良いのですが……」
「元康くんのそういう所、立派だと思う。じゃあ行ってくるよ」
こうしてお義父さんはパンダ達を引き連れライバルと共にメルロマルクや各国の首脳陣との会談へと出かけて行ったのでした。
なんでもクズの所業に関しての処理があったとかなんとか。
英知の賢王があの場に居たのはタクトが女王と婚約者を人質に俺達を倒すよう、脅迫されてあそこに居た事になったらしいですぞ。
もちろんそんな事が嘘だとシルトヴェルト側も把握しておりますが、お義父さんやライバルの口利きで見逃す事になったみたいですな。
とはいえ、例え追及しても誘拐された女王自身がそう証言すれば追及するのは難しい、などの理由があってシルトヴェルト側も引く事にしたみたいですぞ。
世間的には英知の賢王は家族を人質にされており、裏で俺達と協力してタクトを倒した、という事になっているみたいですな。
面倒な政治のやり取りですぞ。
まあ、クズにはいずれ報いを受けさせてやりましょう。
ククク……俺にはいつか使うかもしれないあの道具がありますからな……。
などと考えながら就寝しました。
……。
…………。
………………。
ベッドで横になり、意識が遠くなって……夢の世界で誰かの声が聞こえて来ました。
「槍の勇者様、槍の勇者様……私の声が聞こえますか?」
誰ですかな?
相手の声は聞き覚えがある気がしますぞ。
女性の声……俺が豚やフィロリアル様ではないと認識できる女性は限られています。
ですがエクレアやお姉さんのお姉さんの声でもありませんな。
本当に誰ですかな?
「私です。アトラです」
おお、虎娘でしたか。
しかし、何故虎娘が俺の夢の中に出て来るのですかな?
「今回はお願いがあって来ました」
ほう、お願いですかな?
最初の世界で虎娘は鳳凰からお義父さんやフィロリアル様達をその身を以って守ってもらった恩がありますからな。
俺に出来る事なら何でも叶えてやりますぞ。
「では、今度ループしたら私がラフタリアさんのポジションに納まる様にしてほしいのですわ」
ふむ。
まあ出来なくはないと思いますが……また最初の世界のお姉さんに怒られてしまいそうな気がしますぞ。
「大丈夫です。ラフタリアさんなど気にする必要はありませんわ」
う~ん……そうですな!
確かにお姉さんは厳しい所もありますが、とてもお優しい方ですぞ。
お義父さんと虎娘が結ばれてラブラブになっても許してくれるでしょう。
わかりました。
機会があれば虎娘とお義父さんがカップルになる様にしますぞ。
「それではお願いしますわ」
という声が聞こえた後、静かになったのですぞ。
俺はぐっすりと眠りました。
――しかし、俺にとってとんでもない事件が起こっていたのを知ったのは……この翌日の事でした。
翌日、変な夢を見た俺はぼんやりしながらお義父さん達と合流しました。
すると……。
「あ、ありのまま起こった事を話すなの! ガエリオンはなおふみを攻略しようと思っていたらいつのまにか攻略されていたなの。な、何を言っているのか、わからねーと思うがガエリオンも何でこうなったのかわからないなの……頭がどうにかなりそうなの!」
ライバルがシルトヴェルトの朝食の席でブツブツとそう言って放心状態になっていますぞ。
その隣でライバルを宥めるようにお義父さんが困り顔で座っております。
パンダやエクレア、ゾウも放心しているライバルに対して怪訝な目で見ておりますな。
一体どうしたというのですかな?
「あ、槍の勇者!」
ライバルが俺が近くにいる事に気づいて顔を上げ、今までにない狼狽した表情で詰め寄ってきました。
「なんですかな?」
「あ、ありのまま起こった事を話すなの! ガエリオンはなおふみを攻略しようと思っていたらいつのまにか攻略されていたなの。な、何を言っているのか、わからねーと思うがガエリオンも何でこうなったのかわからないなの……頭がどうにかなりそうなの!」
ライバルは先程と同じ事を言いました。
よくわからない事を言っていますな。
お義父さんが攻略済みなのは当然の事ですぞ。
何せ既にパンダがお義父さんの童貞をゲット済みですからな。
「ぶー……さっきからガエリオン、ずっとそれを言ってるんだよ」
サクラちゃんも困り顔で俺に事情を説明してくれますぞ。
「ガエリオンちゃん、トロフィーワイフとかもそうだけど、そういうセリフ、どこで覚えたの?」
「最初の世界の弓の勇者がふざけて言っていたなの!」
「樹……本当に面白い奴だったんだなぁ。生きていたら話がしたかったよ」
などとお義父さんが遠い目をしております。
「一体どうしたのでしょうか? 皆目見当がつきませんわね」
一緒に来ていたユキちゃんも、ゾウと一緒にいるコウも首を傾げていますぞ。
ライバルは若干ヒステリックな様子に見えなくもないですな。
これはアレですな。
俺が覚えている限りだと……お姉さんのお姉さんとお義父さんが楽しい夜をしたのをライバルが察した後の反応に似ていますぞ。
どうせお義父さんに関して驚愕するに値する何かがあった所為でショックを受けているのでしょう。
「頭がおかしくなりそうなら、そのまま死ねばいいのではないですかな?」
「元康くんはもう少しガエリオンちゃんの話を合わせて上げた方がいいと思うんだけどなぁ……」
「あ、ありのまま起こった事を話すなの! ガエリオンはなおふみを攻略しようと思っていたらいつのまにか攻略されていたなの。な、何を言っているのか、わからねーと思うがガエリオンも何でこうなったのかわからないなの……頭がどうにかなりそうなの!」
「だから落ち着けですぞ!」
「これが落ち着いてなんていられねぇなの! どうしてこうなっているのかガエリオンもよくわからないなの!?」
「ガエリオンちゃん自身が望んだ癖に……」
お義父さんの一言でライバルは顔を真っ赤にさせて頭を振っておりますぞ。
やがて、ハッとなったライバルは俺に言いました。
「槍の勇者、ガエリオン達は激しい思い違いをしていたかもしれねーなの! きっとこれは間違いないなの! 真理なの!」
「だから何なのですかな! 馴れ馴れし過ぎて気色悪いから離れろですぞ!」
詰め寄って来るライバルを突き飛ばしてお義父さんの方に顔を向けますぞ。
お義父さんの方はあきれ顔ですな。
「ちょっと待てですぞ。ライバル、つまりお前は何をしたのですかな!?」
「あ、ありのまま起こった事を話すなの! ガエリオンはなおふみを攻略しようと思っていたらいつのまにか攻略されていたなの。な、何を言っているのか、わからねーと思うがガエリオンも何でこうなったのかわからないなの……頭がどうにかなりそうなの!」
「だからそれは聞いたのですぞ! しっかりと答えろですぞ!」
「だーかーらー! 何故かガエリオンが、なおふみと一緒に寝てたなの!」
「何故かって……そんなに嫌だったの?」
お義父さんの言葉にライバルは咄嗟に親指を立てて返しますぞ。
「嫌じゃないなの! 悲願が叶って嬉しいなの! だけどこれとそれとは別だし、想像と現実の差に驚き続けているだけなの!」
「何やら難しい問題みたいだ」
「勝手に難しくしているだけじゃないかい?」
「とりあえず順序を追って説明してくれないか? その……話せる範囲で良い。性的な話題でありそうだが」
エクレアの言葉にライバルが頷きました。
「昨夜、ガエリオン。なおふみとお酒を挟んで色々と話をしていたなの。途中、ガエリオンの酔いが回って夢と現実がごっちゃになった願望を見たと思っていたなの。だけど朝起きたら夢の内容と寸分たがわぬ状態になっていて、理解が追い付かないなの」
……?
こやつは何を言っているのですかな?
それはつまり、そういう事という事ですかな!?
「なんだい。あの後の想像通りの展開に文句を言ってるだけなのかい。驚かせるんじゃないよ」
「パンダァアアアア! ちょっと待てですぞ! お前はライバルとお義父さんが一緒に寝る所を見届けたのですかな!?」
お前の役目はライバルからお義父さんを守る事なのに何をそのまま通過させているのですかな!?
サクラちゃんは婚約者の所によく行くのですから守りは固めないといけないのですぞ!
「そんな事言われてもねぇ……盾の勇者が合意してるんじゃ、アタイは間に入らないさね」
「そもそも……ガエリオンちゃんが酔ってないって言い張ってたし……良いムードで誘って来たから合わせて寝ちゃったんだけど……」
「ガエリオン、なおふみとこういう事をする時は、断れないなおふみが凄く嫌々に半ばガエリオンに無理矢理犯される形で相手してくれると思っていたなの。愛の捕食者の称号を返上なの。捕食されちゃったなの」
ぐわああああああああああああああ!?
お義父さんが寝取られ! 寝取られですぞ!
N・T・Rですぞ!
「ガエリオンちゃんの自己評価、とんでもなく低いよ……。今までの俺はどこまでガエリオンちゃんを放置してこじらせちゃったわけ? 」
「なんでお義父さんがライバルを攻略しているのですかな!?」
ライバルの猛攻を往なしていたはずなのに全力でライバルにぶつかっては本末転倒なのですぞ!
「いや、俺は単純に俺の為に一生懸命で頼れるガエリオンちゃんの事が好きだと思ったし、ガエリオンちゃんも良いって言うから……というか愛の捕食者って……」
「いや……その、これはガエリオン自身の問題なの。高嶺の花が自ら舞い降りて拍子抜けしちゃってるだけだから、なおふみは何も悪くないなの」
何をもじもじとライバルはお義父さんと恥ずかしがっているのですかな!?
は、はは……大丈夫ですぞ。
お義父さんもライバルと戯れに遊んだにすぎません。
一応がんばったライバルへのせめてもの褒美のつもりなのでしょう。
それでもやり過ぎだと俺は思いますがな。
「ライバル、お義父さんが既に童貞ではない事くらい、さっさと認めろですぞ。パンダを相手に卒業済み……一発した程度、蚊に刺された様なもの。本気にするんじゃないですぞ。それと処女を狙う事は許しませんぞ」
「なんか凄い事言い出した!?」
「アンタが何を勘違いしているのかは知らないけど、勝手にやった事にしないで欲しいんだけどねぇ」
何!? ですぞ!?
「パンダ! まさかお前! お義父さんの童貞を手に入れていないのですかな!?」
「さっきから童貞童貞言わないで欲しいんだけど!?」
「だーかーらー! ガエリオンも驚いているなの! 察しろなの!」
ば、バカなッ!?
「まさかお義父さん……ライバルに童貞を捧げてしまったのですかな!?」
「え……あ……うん。ガエリオンちゃんって凄く魅力的だし、頼りになるしね。初めてならガエリオンちゃんが良いかなって思ってね……ガエリオンちゃんも一緒に寝たいって言うし……」
「本音だったのは間違いないから、なおふみは気にしなくていいなの! むしろどうしようもなくこじれて、なおふみにアタックしてたら滅びそうな世界が平和になってから、断るに断れないなおふみにアタックする気だっただけなの」
「今更そんな本音を暴露されてもなー……断るとかそういう前に俺が押し倒しちゃった事になるのかな?」
ライバルが補足しますが、問題はそうではないのですぞ!
目の前の足場がガラガラと崩れ去って行く様な錯覚を覚えますぞ。
お義父さん……まさか初めてをライバルに与えるなんて……何と言う事なのですかな!?
「槍の勇者、ガエリオンが今日行き着いた答えを教えるなの。なおふみがこうだと言う事はフィーロもきっと同じなの。なおふみ達――受けに見えた攻めなの!」
現実を受け入れられない俺にライバルが何やら力説していますぞ。




