槍の勇者の光と闇
それから俺達はクズの証言を元に錬の救出へ向かいました。
メルロマルク近隣にある研究施設に錬はセブン島から強引に移送されていたそうですぞ。
何故四聖の剣を奪われた錬が生かされていたか。
全ては俺達を仕留めた後にタクト達が行おうとしていた作戦の為らしいですな。
「うう……ここは……」
治療院のベッドで寝かされている錬が意識を取り戻し、俺達の方に顔を向けております。
「大丈夫? 錬?」
「その顔は……ああ、尚文だな。あの日以来か……久しぶりだな」
「そうだね……」
錬は俺の方を見ますぞ。
「元康もいるのか。と言う事は……俺は、助けられたのか?」
いつも通り錬はすぐに自分の状況を察した様ですな。
タクトに囚われていたという自覚はあったのでしょう。
「そうですな」
「うん……奪われた剣も、錬の手に戻っているよ」
「そうか……」
錬は手を挙げて剣が手元にある事を安堵しているようでしたが、その手を見て、不快そうな顔になりました。
それも当然ですぞ。
「この手は……」
「うん……タクトとその残党の所為だね。ごめん……俺達の騒動に巻き込んでしまって」
そう、タクトに剣を奪われた錬は、タクトに殺されそうになった所をクズの進言でどうにか生け捕りで抑えられたのは良かったものの、白衣豚の実験体にさせられてしまったのですぞ。
剣の守りも剣が無い所為で出来ず……体をいじられてしまったのですな。
今の錬は背中から歪なフィロリアル様の羽根が生え、手足には鳥を模した侵食らしき物が残っています。
「いや……むざむざ捕えられた俺にも非はある……」
錬は朦朧とした意識のまま、返事をしている様ですぞ。
「つらいだろうけど、この手の技術に詳しい人に頼んで治してみせるから……今は少しでも体を休ませてほしいんだ」
「……ありがとう。後で……また、話をしてくれ。事情を聞きたいし、これからの事も協力していかなきゃいけないみたいだからな」
「うん……」
そうして錬は、静かに眠り始めました。
タクトとその残党に問い詰めた所、錬の事を知っているであろうメルロマルク地域にフィロリアルに冒された錬を送って暴れさせ、フィロリアルは勇者すらも侵食して苦しめている邪悪な魔物であるとアピールする予定だったそうですぞ。
そしてタクトが錬に遭遇、錬を倒し、辛うじて人としての意識を取り戻した錬から聖武器を譲り受けたという形で剣の勇者に成り変わるつもりだったそうですぞ。
既に剣を奪っているにも関わらずに、ですな。
白々しいにも程がありますぞ。
「錬をラトさんの所へ……」
お義父さんの言葉に治療師が頷いて錬をフォーブレイに輸送する事になりました。
タクトの計画は杜撰でありながらおぞましい物が無数に転がっているのですぞ。
更にタクト残党の処理は続くのですぞ。
「ブブブー!」
「今更遅いんだよ! ざまぁみろ! お前らみんな地獄を見て、死ね!」
それで……タクト残党の豚を捕縛してLvリセットを施して連行しようとしている所で……タクト被害者の会の者達が豚共を罵っている場面に遭遇しました。
ああ、もちろん公開処刑的な意味合いもあって、通行人達はタクト残党の豚共に石を投げつけたりしておりますぞ。
タクト残党のやらかした世界規模の騒動で、石を投げる行為を誰も咎めたりしておりません。
当然ですな。
フィロリアル様をおぞましく改造して世界中を襲わせたのですぞ。
何より数多の七星勇者を殺害していたのですからな。
それ等を知った人々の怒りが簡単に収まるはずもありません。
「ブブブヒ!?」
「ブブブブブブ! ブブー!」
「ブブブブヒブ!」
石を投げつけられた豚共がそれでも尚、何やら被害者の会に何やら言っていますな。
まあどうせ碌でもない事でしょうが。
「は? 今更何言ってんだ! お前等はタクトの所で美味しい思いを十分しただろ! 俺がどんな気持ちでいたと思ってやがる! 苦しんで死ね! お前等にはフォーブレイ王がお似合いだ!」
セブン島にタクト残党が潜伏していると教えてくれた男が侮辱のサインを手で描きながら豚二名を罵っていますぞ。
あれがアヤツの元妻と元娘という奴ですな。
残念ながら他の豚と区別する事はできませんな。
「うわぁ……あの状態であんな事を言えるんだ……あの人が怒るのもわかるよ」
「なんて言っていたのですかな?」
「あ、うん。『私達は騙されていた被害者なの! じゃないとタクトに貴方を殺すって言われたの! ほら、あなたが頭を下げてくれれば元の生活に戻れるから早く私達を助けて!』って元妻が言って『パパ! 今でも私のパパはパパだけ! 私達は悪くない!』って娘が続いた感じ。実行犯にまぎれて全力で活動していたのが判明しているのに言ってるんだよ」
「どうしようもないですな。まぎれもなく……反吐が出る豚ですぞ」
早くフォーブレイの養豚場に出荷しなければいけませんな。
それがタクトの被害にあった者達の為でもありますぞ。
……今ならば彼等の気持ちが理解出来ますぞ。
生まれる前に殺されていったフィロリアル様達の恨み……タクトを許す事など出来るはずもありません。
種類は違えど彼等も同じ様な怒りを抱えているのですぞ。
俺は被害者の男性に近づいて声を掛けますぞ。
「あ! これは槍の勇者様! この度はこいつらを捕まえてくださり、ありがとうございます! 我々はとても晴れやかな気分です!」
「それは何よりですな。で、こいつ等はどうしますかな? この場で屠殺しますかな? お前達の望む様にしてやりますぞ」
「ブヒィイイイイイイイイイイ!? ブヒブヒ!? ブヒィ!」
「ブヒブヒ! ブヒーン!」
何やら豚二匹が怯えの声を上げた後、若豚っぽい奴が妙なポーズでこっちにウインクしたように見えますな。
途端に被害者の男性が不快な顔になりました。
「いえ……すぐに殺しては満足など出来ません。十分に苦しめなくては……ね。槍の勇者様、こいつ等の言葉など聞いてはいけません」
「安心していいですぞ。何を言ってるかわかりませんからな」
俺の返事に被害者の男はホッとした様に息を吐き、豚が何やらブーブーと涎を飛ばしてきております。
汚れるから黙れですぞ!
「それよりも、被害者の会の皆が集まっているなら丁度良いですぞ。ちょっと話がしたかったのですぞ」
「な……なんでしょうか? 勇者様」
「今回の騒動で死んでいたタクトが驚異の技術で蘇って姿を現し、俺達に生け捕りにされたのですぞ」
「ええ、それは聞き及んでおります。なんて不気味な野郎だ。勇者様達に成敗されてよかったと思いましたが……それが何なのでしょうか?」
「わからないのですかな? 俺は此度のタクトが行った所業に関して、絶対に許せず、報いを受けさせると誓ったのですぞ」
そう言った所で被害者の男は何かを察しました。
俺がフィロリアル様を愛している事は広く知られていますからな。
更に言えばタクトがフィロリアル様にどんな事をしていたのか、この被害者の男も当然理解しているのでしょう。
被害者の男は同情と困惑の入り混じった表情をしております。
だから俺は言いますぞ。
「その件で、お前らも一緒にタクトに報いを受けさせたいか問いたいのですぞ」
「そ、それは……是非とも!」
「俺も!」
「私もお願いします!」
「復讐が出来る!」
「もっとアイツを苦しめさせられるぞ!」
「これで俺達は明日を……朝を迎えられるんだ!」
とワイワイと被害者達が俺の下に近寄ってきますぞ。
そうですぞ……タクトとその豚共は惨たらしく苦しめて殺さねばいけないのですからな。
まだ復讐は始まったばかりなのですぞ。
ふふふ……ハーハッハッハッハーですぞ!
タクトに怨みのある奴は俺に続けですぞ!
「なおふみ、あそこに混ざるなの?」
「あー……俺は遠慮しようかな。悪夢とか見そうだし」
「ワイルドなおふみなら喜んで混ざりそうなの」
「別世界の俺はともかく、俺はちょっと勘弁してほしいな」
お義父さんとライバルが何やら仰っていますが、決定事項なのですぞ。
それから俺達はタクトとその豚共にしっかりと報いを受けさせるため、フォーブレイ王とも相談し、タクトと豚共に拷問と処刑を行っていったのですぞ。
途中、被害者達から欠席したりする者も出てきたりはしましたが……タクトにはこの世の地獄を味わわせ、それでも尚、殺さずに地獄を与えて心を壊しても苦しめて惨たらしく殺してやったのですぞ。
経過だけを書類で見たお義父さんが眉を寄せていましたが、引けませんでしたな。
「まだ殺したりないですぞ。ループした際にも、惨たらしく殺さないといけませんな! 簡単には殺してやるなどしませんぞ!」
「こ、これだけ罰してまだ満足出来ないのかー……やらかした事が凄過ぎるけど……ちょっと同情しちゃうよ」
「なんつーか……タクトは恨まれたらいけない奴に恨まれちまったなの」
「それは間違いないね。ループ能力者に恨みを買うのは……ただ、タクトのしていた事を知っていると元康くんに共感しそうになるんじゃないかな」
「自業自得として、これからのタクトはツケを支払い続ける事になるなの」
「これから元康くんに出会う、全てのタクトに安らかな終焉がある事をって感じだね」
と、お義父さんが何やら祈っております。
優しいのも程々にすべきなのですぞ、お義父さん!
ああ、なんと慈悲深いお義父さんなのですぞ。
ともかく、こうして世界はタクトを含めた残党騒動は終息へと向かっていったのですな。
シルドフリーデンもタクトから没収した財産の一部を賠償に充てる許可を得る事が出来ました。
……不服ですがライバルの経営で徐々に立ち直りを見せ始めたのですぞ。
完全に賠償金を払う土壌が大分整ってきたんだとかですな。
後は……タクトとその豚共によって育てられていたフィロリアル様方ですな。
捕縛し、タクトや豚から魔物紋の権利を奪い取って解放した後、色々とケアを俺とユキちゃん達はして行ったのですぞ。
捕縛直後は主である豚とタクトの事を……飼い主として信じていたフィロリアル様でしたが、薄々タクト達が自分達を大事にしていない、復讐の道具として暴れさせ、最終的に殺そうとしていると察していたとの話でした。
胸が張り裂ける様な痛みを俺はユキちゃんを介して聞いたのですぞ。
ですが、その心配はもう無用ですぞ。
俺がタクトによって歪められてしまったフィロリアル様に出来る精一杯の愛情を以て接していくのですからな。
という形で俺はフィロリアル様達のケアをしていきました。
俺が新たな主となり、お世話をしていくうちに、歪なフィロリアル様達は徐々に正常なクイーンやキングになり、天使の姿になってくださる子達も増えていきました。
お義父さん曰く、優しさに触れて徐々に心を開いてきているそうですぞ。
それで世間でのフィロリアル様の評価に関してですが、今回の騒動で多少の混乱はありましたが、全てタクトが悪いとお義父さん達が世界に発信したお陰でどうにかなりました。
各地で大きなフィロリアル様の配下であるフィロリアル達が人々を守っていたのも信用に拍車が掛ったそうですぞ。
本当……今までのループの中で最も恐ろしい事件でした。
俺の仕事としてこうしてフィロリアル様方のケアが増えていったのでしたな。
とにかく、徐々にですが世界は良い方向に進んでいるのを日々感じますぞ。
そんな平和な朝の事。
朝食を終えてシルトヴェルトのテラスでお義父さんと二人きりで俺は町並みを見ておりますぞ。
「当面の大きな問題はもう波だけになるのかな?」
「俺の記憶からすると、そうですな」
錬の治療も大分進んできて、近日中には復帰出来るくらいには良くなっている様ですな。
そこからしっかりと話をしなくてはいけません。
まあ、錬がどこまで俺達の話を聞いてくれるかは未知数ですがな。
とはいえ、タクトに負けたのである程度、こちらの話は聞いてくれるでしょう。
クズに関しても女王や婚約者曰く、大人しいとの話ですぞ。
女王の命を救った事が大きかったと女王と婚約者、ライバルが言ってましたな。
いつ寝首を掻いてくるか警戒は必要ですが、虎娘とも色々と話をしているそうですぞ。
サクラちゃんはこの前の事件があってから婚約者の下に出掛ける事が増えました。
ちなみにパンダは槌の七聖勇者に選ばれました。
祖父の苦しい修行を乗り越えて大きなキセルを譲り受けた後、槌の七聖武器に触れた所で手にしたのでしたな。
ツメと槌の七聖武器は亜人や獣人の国でよく活躍する為、この七聖武器の所持者が出たというのはシルトヴェルトからすると誇り高いとの話ですぞ。
ゾウを含めて色々と地位は盤石になりつつありますな。
「その波も、元康くんの話だと解決する日が近づいている……なんかとても忙しい日々だったけど、やっとどうにか終わりが見えてきた気がするよ」
「そうですな」
以前のループの中で初期の方だっただけに、様々な困難がありましたが、なんとか片付いてきました。
とりあえず一安心と言ってもいいでしょうな。




