やられたらやり返せ
「て、てめぇえええええええええええ!」
「なの……ガエリオンに怒っている暇なんてあるなの?」
ライバルが合図を送ると、魔物化した豚がタクトに向かって振り返り襲いかかり始めました。
「な! みんな! しっかりするんだ! おい!」
「バウバウ! ガウ! ガアアアアアア!」
「いて! やめろ! こら! いい加減にしろ! おい!」
タクトは噛みついてくる魔物共に向かって最初は説得しようと試みていましたが、すぐに本性を表したのか、剣で反撃していますぞ。
申し訳程度に足とかを狙って戦えない様にしようとしております。
「タクト、槍の勇者からフィロリアルの卵を人質にして勝とうとした様だけど、今度はお前の番なの。お前の女の命はガエリオンが握っているなの。下手に動けば周りの女が死んでいくなの」
「て、てめえええええ!」
「……フィロリアルを冒涜する卑劣な者達を屠る為、魔物の王としてガエリオンはどんな手だって使って見せるなの。タクト、これがお前のやった事。ワイルドなおふみ直伝、やられたらやり返せ……なの!」
「え!? 俺!?」
ここでお義父さんが心外だと声を出しますぞ。
「なのーん」
照れるなですぞライバル!
「元康くんも語る別の俺って……」
嘆いておりますが、確かにお義父さんならライバルに命じて笑ってそうな攻撃ですぞ……いえ、さすがにきっと否定してくださるでしょう。
ライバルがフワッと魔法の光を浮かべていると、タクトにつけられた魔物豚の傷がふさがっていきます。傷のふさがった魔物豚は再度タクトに襲いかかりました。
「この程度の傷、回復させて戦闘を継続させてやるなの。ほら、行けなの! ガエリオンの配下達!」
そう言いながら魔物豚が他の豚に襲いかかり、その豚をライバルが魔法で締め上げますぞ。
「ほらタクト、他の女を殺して回れなの。じゃないとこの女も死ぬなの。なのなの!」
「ふ、ふざけるなぁあああああああ!」
タクトが怒鳴りますぞ。
何かふざけていますかな?
お前はフィロリアル様にこの様な事をしたのですぞ。
ライバル……悔しいですが今回だけはお前のやり口に称賛を贈ってやりますぞ。
絶対に言いませんがな。
「さて……じゃあお前の女達はお前の力で異形の魔物と化して世界に暗躍したと流布してやるなの」
「ブブー!」
「ブブウー!」
「くっ……わかった。みんな、悪いが他の皆の為だ。遠慮はしない! はああああっ!」
豚共のセリフを聞いたタクトが何やら襲いかかってきた魔物豚を切り捨て始めました。
「ガ――ブヒ――ブブ――」
最後のセリフだけ豚でしたな?
タクトがこれまでに無い位顔を歪ませていますぞ。
ハハハ、ざまぁないですな、タクト。
もっと苦しめですぞ。
しかし……なんて奴ですかな?
凄い切り替えの早さですぞ。
俺はフィロリアル様の卵を人質にされただけで動けなかったのに、タクトは容易く切り捨てました。
豚共が好きだったのではないのですかな!
「あららーなの……随分と簡単に切り捨ててくるなの。表層意識は魔物でも深層意識はまだ残してやっていたというのに。助ける手立てを模索もせずに殺すとは……そんなにわが身が可愛いなの? ま、所詮はトロフィーワイフなの」
そう言ってライバルはタクトに軽蔑の目を強めました。
「槍の勇者みたいに役立たずになっている方がまだマシなの。もう少し抗うのが勇者ってものなの……さて、タクト、お前にはまだまだ苦しんでもらわないと……後のお前が哀れなの。お前の所為で、お前の女はガエリオンに魂を食われるなの」
そう言うとライバルはタクトがトドメを刺して殺した魔物豚の魂を手に集めて吸い込んでいますぞ。
「てめえ……!」
タクトもそれを視認しているのか殺意を更に増して行きますぞ。
「ふふん。タクト、そいつらを殺しただけで問題を処理しただなんて思わない事なの。お前らがやらかした事を……思い出せなの」
ライバルの発言にタクトはハッと我に返り、殺した豚の方を見ますぞ。
「ガー……ウウウ……」
すると……ゆらぁっと死んだ魔物豚がフレッシュビーストゾンビと言う名で起き上がり、タクトに向かって襲いかかりました。
それは元シルドフリーデンの代表豚も同じ様で、起き上がりましたな。
ああ、トドメとばかりにライバルは元シルドフリーデンの豚に手を当てて竜帝の核石を抽出して取りこんでました。
「既にこの領域はガエリオンのモノとなったなの。ほら、もっと踊れなの!」
「ブヒィイイイイイイイイ!?」
豚共が叫び始めましたな。
おや、修道服を着た豚が祈って浄化を掛けていますが、ライバルの闇の魔力には到底及ばないようですな。
「ブヒィィイイイイイ――――ブブー……ウウウ……」
そのままフレッシュビーストゾンビに攻撃されて、フレッシュゾンビになりました。
「ブヒィイイイイイイー!? ブヒブヒィイイイイ!」
それ等を見た豚共が逃げ惑い始めました。
逆にこれはチャンスではないのですかな?
「こりゃ酷いねぇ……あれが味方って訳だけど、騎士様としてはどうなんだい?」
「同情はしない」
「ま、やった事がやった事だからねぇ」
「もっと優雅にすべきだとは思いますわ」
パンダとエクレアにゾウ、ユキちゃんが言いましたぞ。
手段が酷いですな!
「この下種め! お前こそ魔王だな!」
「自分自身がやった事を魔王とは面白い事を言うなの。けど、御名答……竜帝は時代や場所によっては魔王とも呼ばれるなの。今のガエリオンの知識では異界の力も行使出来るなの。なのなのなの!」
王者然とした様子でライバルはタクトに笑いかけますぞ。
「ぜってぇ許さねえ! 戦えねえ槍の勇者より先にお前を殺してやる!」
「やれるものならやってみろなの。ガエリオン、今は魔王だから勇気を持って挑めなの。万が一でも勇気を示せば勇者として認めてやってもいいなの」
ライバルがユキちゃんを筆頭にエクレアやパンダ達に視線を向けて間に入るなと指示を出しますぞ。
エクレア達はライバルの気持ちを汲んだのか、頷きました。
「手段はともかく、今回は貴方の想いに敬意を表して譲りますわ」
と、ユキちゃんも納得している様ですぞ。
「みんな! うろたえるな! 行くぞ!」
豚共に援護魔法を施してもらったタクトがライバル目掛けて武器を振るっていますぞ。
ライバルはタクトの猛攻をパンダ達と同じく、紙一重で避けますな。
一応、パンダ達の時より動き自体は速いですぞ。
「さっきみたいに避けれると思うんじゃねえぞ! シュタルクファアファル!」
ああ、前の周回でもタクトが俺にぶちかました攻撃ですな。
避けられるから今度はスキル頼りとは……。
「どんな攻撃だろうと……お前如きに敗れる気はまったくしねえなの! この世界の者達の為にも引かねえなの! ガエリオンはこの後、槍の勇者を相手にしなくちゃいけないなの!」
そうライバルが言い切った直後、お義父さんの盾が光り輝き、ライバルの手に向かって光が飛んでいきました。
こ、これは見た事がありますぞ。
「なの? いや、幾らなんでもこんなので評価しちゃダメなの。ああ……ツメの精霊もご立腹って事なの? わかったなの。一緒にタクトに仕返しをしようなの」
そこには……なんとフィーロたんの武器になるはずのツメの七星武器がライバルの手に収まっていたのですぞ!
まさかツメの精霊がライバルと意気投合したという事ですかな!?
もちろんタクトの放った謎スキルである地面から何かが噴出しようとしたのをライバルは爪で斬り裂きました。
「何! ここでそれが出てくるとは好機! それを寄越せ!」
「そんな訳にはいかねえなの」
パッとツメの七星武器にライバルは自らの鱗と血を千切って入れ、強引に形状を変化させて強化を施しました。
「せ、戦闘中に強化を……」
ぐぬぬ……ライバルの奴め。よくやりますぞ!
「ほら、受けろなの。これが……お前がやらかした一撃なの!」
ライバルの手の中でツメが形状を変えてフィーロたんは使わなかったけれど何度も見たあのスキルを……タクトに向かって放ちますぞ。
「ヴァーンズィンクロー!」
一直線の攻撃がライバルの手から放たれてタクトをぶち抜きました。
「ぐあ――!?」
ぶち抜かれたタクトは数歩よろめきながら貫かれた胸に手を当てて態勢を立て直しましたな。
「はっ! 残念だったな。この程度の攻撃、新しい体を手に入れた俺の前では無意味なんだよ!」
とは言いつつ、血を吐いていますな。
治療効果遅延は効いているみたいですぞ。
「なの……報復って意味でツメが撃ちたがったけれど、代償がきついなの」
スキルを放ってライバルが立ちくらみを起こしてますな。
代償で苦しめとは思いますが今は……我慢しますぞ。
「お前はそうなんだろう! だが俺はそんな事は――」
「スパイラルクローⅩ」
「ブヒ――!?」
試し打ちとばかりにライバルがタクトの右後方にいた豚に向かって、フィーロたんも放った螺旋状の突きを放つスキルを放つと、その豚はミンチになりました。
ライバルお前!
今、豚に巻きついていたフィロリアル様の卵を全部消し飛ばしましたぞ!
絶対に忘れませんからな!
「な……」
「あの程度のスキルで何を満足してるなの? バカなの? 七星武器は……こう使うなの。これが、お前の様な不正な所持者と、正しい知識を持った所持者の力の差なの。わかったなの? 猿山のボス。お前の様な下種には過ぎたおもちゃなの」
ライバルはタクトをとことん挑発しますぞ。
その姿、お義父さんを思い出しますな。
確かに最初の世界のお義父さん直伝と言っても過言ではないでしょう。
俺も真似する時がありますからな。
「そもそもタクト、お前は英知の賢王から槍の勇者がループしているって話を聞いていないなの?」
「そ、それは……こんな杜撰な事を仕出かしている奴がループなんてチートを持ってるはずねえだろ!」
「なんですと!?」
俺がループしているのは事実ですぞ!
「ああ、タクト、お前の事だから『ループ能力なんて俺よりも凄いチート能力を持ってるはずねえだろ! 他の連中も揃って雑魚だったんだからよ!』とでも思っていて信じていなかったって所だろうなの」
「な、なに俺を見透かしたつもりになってんだ! 勝手に決めんじゃねえよ!」
タクトの奴、どもってますぞ。図星なのですな!
「何を言っても事実なの。お前が槍の勇者にぶち殺されたのも、ループしていたからなの。それに、お前の経歴を知らないとでも思っていたなの? 転生者」
「な……」
タクトがライバルと俺を交互に見ていますぞ。
今更になってわかった様ですな。
「ふ、ふざけんな! そんなの……あの女! こんな野郎にも授けたってのかよ」
「それは外れなの。お前の背後に居る奴は……もう処分済みなの。救いはねえなの。ま、槍の勇者が度下手クソなのは否定しないなの」
「ライバル! 言わせておけばズケズケと! 調子に乗るんじゃないですぞ!」
そうこうしている内に、俺とお義父さんが出来る限りの力を使って治療していた女王の傷が辛うじてふさがったのですぞ。
「ゲホ……ゲホ……」
「やっと容体が安定してきたよ」
「あ、ありがとうございます。イワタニ様、キタムラ様、決戦の時だと言うのにお手を煩わせ……」
女王が俺達に礼を述べておりますぞ。
それから女王はクズの方に目を向けますぞ。
クズは女王がどうにか峠を越えた事に安堵したような顔をした後、俺達へ視線を向けました。
怒りはあるし、殺意はある。
けれど悠然とした表情ではありますな。
「お前等には腐るほどの恨みがある。マルティの仇であるのは変わらない。だが……ミレリアとメルティを救ってくれた事には……礼を言うしかない」
「父上……」
サクラちゃんに守られている婚約者がクズに語りかけますぞ。
「母上が喋るのが難しいので再度、発言します。どうか……槍と盾の勇者様への恨みを堪えて頂けないでしょうか。非はこちらにあるのです。姉上の件は自業自得……恨むのは筋違いです」
「……ふん!」
クズはそう言うだけに留まり、女王を大事に抱えながら、俺とお義父さんに視線を向けた後、タクトを睨みますぞ。
「……何をしている。さっさとあの敵を屠ってこい。ワシはいずれ貴様らの息の根を止めるが、今は争わん。これ以上被害を出す前に早く終わらせたいのじゃろう? 貴様らが本気なら勝負にもならん連中だ」
「……わかっていたのか」
「当然だ。もっと鍛えて機会を窺えと言ったにも関わらず、愚かな作戦をワシの目の入らない所で始め、ミレリア達を救出したと言いながら人質にしたのだ。同じ痛みを持つ同士だと思っていたが、ミレリアにまで手を掛けたなら別だ。手助けをする義理も無い」
なるほど。
やはりクズは俺達の実力を正しく把握していたのですが、タクトは勝てると踏んで勝手に行動を開始し、クズを裏切らせるだけの暴挙をしてしまっていたのですな。
更にクズは女王と婚約者、そして虎兄妹を見て何度も頭を振って嘆いておりました。
感情の整理が出来ていないと言った様子ですな。
「わかった……けど、一つだけ聞かせて欲しい」
「……」
「これだけ予想が出来ていたならタクトが敗れる事はわかっていたはずだ。なのに何故、あなたはここにいるんだ?」
「……勘だ。タクト共の手によってミレリアとメルティに不幸が及ぶ。それに妹の……いや、なんでもない! 結局は貴様らに助けられたのだからな」
「つまり復讐ではなく、家族を選んだのか。王様……いや、オルトクレイ、いずれ決着は付けよう。けれど、今は俺達は行くよ。元康くん……まだ戦えないよね?」
「……いえ、俺も行きますぞ」
お義父さんの問いに俺は首を横に振りますぞ。
非常に不服で本来はしたくはありませんが、ライバルが言った最悪の可能性を実現させないために、俺はここで……未来のフィロリアル様達の為に、苦汁を受け入れますぞ。
立ち上がり、俺達はライバルの近くまで急いで駆けつけました。
タクトは俺達が駆けつけた事に舌打ちしつつ悪巧みをするような笑みを浮かべました。
「なんだ? やっと雁首そろえて来たってか?」
じりじりと少しずつ俺達から距離を取ろうとしておりますぞ。
「おう槍……これが何か、まだわからないはずないよな?」
まだあったのかフィロリアル様の卵をタクトは豚から投げ渡されて俺に見せつけますぞ。
「早くこいつらを全員皆殺しにしろ。じゃないと……俺が勝利を報告しないでいると俺の仲間達が確保した卵を砕くぞ!」
「……お前の様なカスの言う事など聞けませんな」
「何だと! 脅しじゃねぇぞ!」
バリンとタクトはフィロリアル様の卵をその場で地面に叩きつけました。
絶対に惨たらしく苦しめて殺してやりますぞ!
簡単に死ねると思ったら大間違いですからな!
「さて……タクト。お前の後処理で苦しめられたガエリオン達の鬱憤を晴らすためのサンドバック遊びは終わりなの」
「何!? サンドバックだと!?」
タクトの眉が一際跳ねあがりました。
「哀れに思うから教えているなの……勇者の武器は強化方法が共有出来るなの。奪う事で武器の真の力を引き出せるとか自惚れているお前の方法は……標準搭載で出来る事なの。むしろスキルや魔法に強化方法を施しているのをハッタリだとでも思っていたなの?」
「な――」
もはやタクトは俺がどれだけ言う事を聞いても最終的にフィロリアル様を絶滅させる為に動くのは容易く想像できますぞ。
だから……なんであろうと従いませんぞ!
そして……これをやるのですな!
新作投稿しました。
異世界の戦士共々よろしくお願いします。




