もう見てられない
「ブブヒー! ブヒー!」
「槍の勇者が殺したレールディアの力を引き継いで力を得た私の力に恐れろ? これが真のシルドフリーデンの代表にして大統領よ! って……」
お義父さんが女王の手当てをしながら俺にわかるように復唱してくださいました。
「お前らに無残に殺されたレールディアの仇だ! 苦しめ!」
ライバルはここで一際強い殺気を放ち始めましたぞ。
「あ? 舐めてるなの? お前らの汚職でどれだけガエリオンが困ったかわかっているなの! 冗談はその面と生き様だけにしろなの!」
「ハッ! 何キレてんだ。幼稚な奴だな! 国を担うってのは大人な対応をしなくちゃいけねえんだぞ!」
タクトがここぞとばかりにライバルを挑発しましたな。
確かにライバルは幼稚なのですぞ。
「お前ら揃いもそろって知能の低いクズの癖に偉そうにしやがって! お前らはな! 俺達を不快にしやがったんだ! だから死ねよ! 死ぬ事で俺達がスカッとしてこの世界はより良くなるんだからよ!」
「ふざけた事を! 七星勇者達を次々と手に掛け、それを隠蔽し、罪の無いシルドフリーデンの人々を奴隷紛いの重労働で働かせて、苦しめておきながら発明家気取りをした奴が自らの悪行が日の目に当たっただけだろ!」
お義父さんが完全にスイッチが入った状態でタクトに言い返しますぞ。
かなり心の篭った言葉でした。
実際、全てタクトがシルドフリーデンの者達にやってきた蛮行ですからな。
「世の中弱肉強食なんだよ! どんな手を使っても勝てば偉いんだ! わからねえのか? わからねぇだろうな。お前等幼稚だもんな!」
「勝てば偉いって理屈をここで使うのか? なら君達は元康くんに負けたんだから納得しなよ。というか、俺達が幼稚ならタクト、お前は野蛮人だ! 気に食わない奴は殺す事しか考えていないんだからな!」
「どうとでも言え! お前らは俺の力に恐れをなせばいいんだよ! 見ろよ、この剣! 他にもあるんだぜ?」
タクトは自慢するように剣の他にも斧と投擲具を出して自慢していますぞ。
どうやら潜伏活動をしている間に集めたみたいですな。
「俺の力を甘く見るなよ! 俺は……今まで手にした勇者の武器の力を蓄積して武器を強化出来るんだ! 一個しか持ってねぇお前らとは格が違うんだ! 今度は俺がお前らを消し炭にしてやる!」
ここはどうしてやるのが良いですかな?
出来る限り惨たらしく殺してやりたいと思いますが……。
そこでドンと壁がぶち破られました。
「なんだ!?」
なんと、ゾウとコウが乱入してきました。
「はあ!」
「とー!」
「他の人質の避難誘導は終わった……けど……」
辺りをゾウとコウは見渡してそれどころじゃないのに気付いたみたいですぞ。
「うぜぇ……援軍かよ。しかもゾウとか木偶の坊じゃねえか! お前みたいな雑魚はお呼びじゃねぇんだ! 引っ込んでろ!」
「……」
『何、コイツ?』という目でゾウがパンダに視線で説明を求めていますぞ。
パンダはその視線を見た後、ウンザリした様子で言いました。
「こいつが例の槍の勇者が殺したはずのタクトだとさ。ホムンクルス体に魂を移して堂々の復活さね」
「ああ……なるほど。随分とおいたが過ぎる、身の程知らずのガキなのね。コウ、貴方は盾の勇者様達の方に行って守っていて」
「わかったー!」
コウが素早く動いて俺達の近くに来て構えますぞ。
「なんだと! 雑魚の分際でイキッてんじゃねえぞ? 俺はな! 勇者の武器を何個も、力を蓄えて強くなってんだ!」
ゾウの感想を聞いてタクトが怒っていますぞ。
沸点のわからない奴ですな。
「そういやお前らは勇者の側近だったな! ちょっと強くなった程度でイキりやがって!」
「あら、自己紹介が上手みたいね? 全てにおいてガキその物だけど、その能力だけは世界を狙えるわよ?」
「んだとっ!?」
完全に地響きの女王モードに入ったゾウの挑発を聞いて、タクトの表情が今まで以上の怒りに染まっていきますぞ。
視線がゾウに集中していますな。
「みんなの仇だ! 盾と槍の野郎に俺の気持ちを味わわせてやる! みんな! まずはこのウザイ奴からやるぞ!」
「「「ブヒー!」」」
「オルトクレイ王、メルティ王女様……失礼します。イワタニ殿、どうか女王陛下と王、王女様を守って欲しい」
エクレアが殺気を放ちながら立ち上がりパンダとゾウの方へ足を向けますぞ。
「大丈夫だよ、エクレールさん。ラーサさん達と一緒にちょっと時間稼ぎをしていてもらっていいかな?」
「イワタニ殿、感謝する……時間稼ぎが出来るかはわかないが、是非ともやらせてほしい。女王陛下を傷つけた罪、そしてあの言動、公私共に許せるものではない。必ずその身を以て償わせると誓おう!」
エクレアはそう言って、ゾウとパンダの下に行きました。
「おーっと、これが見えねえのか? 槍、これが壊されたくないならわかってるよなぁ? しっかり働けよ、槍野郎。盾を相手にやった生ぬるい事をしたら世界中の卵が割れるぜ?」
タクトがフィロリアル様の卵を理由に俺を脅迫してきますぞ。
「くっ……卑怯ですぞ!」
フィロリアル様に何の罪も無いのですぞ!
タクト!
お前自身の悪行なのになぜフィロリアル様を盾にするのですかな!
はらわたが煮えくりかえってそれでも更に殺意が溢れて来ております。
ピキピキと槍に新たなカースが解き放たれる感覚がありますが、俺にはフィーロたんとの約束がありますぞ。
絶対に呪いの力に手は染めないのですぞ!
「ははは! その顔が見たかったんだよ! いつまでそいつの治療してんだよ! 助かるわけねえだろ! 娘を見捨てたババアなんて死んで当然だろ! せっかく戦いやすい様にお膳立てしたのに、こんな生ぬるい真似をしやがってよ!」
「貴様ぁあああああああああ!」
クズが殺意の視線をタクトに向けますぞ。
ですがタクトは知った事ではないという顔ですな。
どちらにしてもタクトはフィロリアル様の卵を最大限有効活用し、俺の忠誠心を悪用して暴れさせるつもりなのですぞ。
うぐっ……胃に穴が開き過ぎて血が……。
「……もう限界なの。ガエリオン、もうこれ以上は見てらんねぇなの」
ここでライバルが怒りとも冷静とも取れる声音でそう言ったかと思うと、この世界では見た事のない魔法を唱え始めました。
最初の狙いは白衣を着た豚の様ですぞ。他にも魔法陣で狙いが分かるように見えますな。
『遍くガエリオンの協力者達よ。ガエリオンの求めに応じ従いて魔の力を糧に顕現せよ』
「ブ、ブブヒ!? ブヒー!」
「ブブブ!」
アオタツ豚と、何やら魔法使いっぽい豚が何やら鳴いておりますぞ。
「あ? この卵がどうなってもいいのか? 槍の勇者が黙ってねぇぞ!」
タクトがここで俺にやめさせろと命じてきました。
ライバル! お前が勝手にやらかすなら俺も相手しますぞ!
「はぁ? おめぇバカなの? 卵を括りつけて脅しとか、今の自分の姿を客観的に見てみろなの。格好悪過ぎなの。ダサダサなの、プププーなの」
「うっ……そ、それがお前等の弱点じゃねぇか!」
「だからもうこんなバカで面倒な脅迫に付き合わねえなの」
魔法を紡ぎながらライバルは俺にとても強い威圧感のある眼光を向けてきました。
「槍の勇者、なおふみがいるからタクトが勝つ可能性は限りなく低いと思うけど……それでも勝った場合、どうなるか考えて……覚悟しろなの」
「な、なんですかな?」
「タクトは間違いなく、お前が愛したフィロリアルという生き物を根絶させるために世論を動かすなの。そうなった時、例えフィロリアルの女王が介入したとしても人の世の動きは止められないなの」
タクト達は情報戦で制するつもりなのでしょう。
これだけ自身の悪行が広まっているのに引っくり返ると思っているのか不思議でしょうがないですぞ。
ですが、きっと出来ると信じているのでしょう。
いつの世も勝てばそっちにつく連中はいますからな……嘆かわしいですぞ。
最初の世界のお義父さんもその辺りを嘆いたりした記憶があります。
「勝てば官軍。邪悪なフィロリアルが世界中で暴れているんだ。真実は隠され、俺達が敗れる事で邪悪なフィロリアルは根絶される……フィロリアルって生き物が悪い生き物だという印象操作は続行され続ける」
おぞましい未来をライバルとお義父さんは言いますぞ。
背筋どころか体中の毛穴が開く様な感覚がしました。
「そうなればフィロリアルという生き物は遠からず絶滅する事になってしまうなの」
「当然だろ。お前が好きな生き物なんてこの世にいるだけで反吐が出る! 気持ち悪かったぜ。フィロリアルって生き物は揃いもそろって変な育ちをしやがってさ!」
「ぶー!」
「コウ達、変じゃない!」
「自らの不徳を他者の所為にするとは……貧相な心をしていますわ」
サクラちゃんやコウが抗議の声を上げ、ユキちゃんが呆れの言葉を漏らしますぞ。
「フィロリアル様が立派にならないのはお前が正しい勇者ではないからですぞ! フィロリアル様をあんな風にしたお前の事は絶対に許しませんぞ!」
「寝言は寝てから言いやがれ! どっちにしても気持ち悪い生き物だぜ。この計画の為に育てたが、ホント……後で全員殺すってのに一生懸命になってバカじゃねえのって感じだぜ」
タクト……お前は今、お前の事を信じたフィロリアル様の信用を踏みにじったのですぞ!
まだ怒りの限界があるとは思いもしませんでした。
バチバチと槍から抑えきれない呪いの感情が浮かんできております。
Ⅹなんて生ぬるいですぞ。
もう後先考えてなどいられない所まで……来ているのですぞ。
「元康くん……」
女王の手当てをしているお義父さんが俺の手を握ってくださいます。
そうですな……フィーロたんがあの時の俺を助けた様に、お姉さんが呪いの盾に侵食されて怒りに飲まれそうになったお義父さんを助けた様に、この周回のお義父さんは……俺を繋ぎ止めようとしてくださっているのです。
ですが……もう限界が来ていますぞ。
「槍の勇者! 怒りに飲まれる前に聞けなの!」
ライバルがここで怒鳴るように言いましたぞ。
「フィロリアルの絶滅と目の前の生まれていないフィロリアル、哀れな育てられたフィロリアルを天秤にかけて、何が大事か考えろなの!」
「で、ですが……!」
まだ手が震えていますぞ。
そうですぞ!
ライバルの言ったのは全て偽りの未来の可能性の方が高いのですぞ。
何せ今現在、フィロリアル様達ががんばって被害を抑えていますし、大きなフィロリアル様だってがんばっているのですぞ。
なにがフィロリアル様の根絶ですかな?
フィロリアル様は不滅ですぞ!
「……槍の勇者、ガエリオンはタクトの暴挙によって今生きているフィロリアルが不当に迫害されるのは、竜帝として、魔物の王として見過ごせないなの。だからこそ、後で幾らでもガエリオンを殺せば良いなの。だから……今は黙って女王の手当てをしていろなの」
……ライバルの視線は、俺に響く何かを宿していました。
ライバルの思いに嘘は感じられません。
フィロリアル様の為に……ライバルは敢えて汚れ、その罪を受ける……その決意が感じられました。
「ブヒィ!?」
ここでユキちゃんが襲い来る豚をフィロリアル様姿になって回し蹴りを放ちますぞ。
その衝撃で豚の体に巻きついていた卵が何個も割れてしまいました!
ユキちゃん!? ですぞ!
「……非常に不服ですが、ドラゴンの主張に同意し、尊敬の言葉を贈りますわ。元康様、申し訳ありませんがユキも罰せられる事にしますわ! 後で幾らでもお叱りの言葉を……命を以て償いますわ」
うぐ……ユキちゃん! 何という事を言うのですかな!?
ですが……うう……ライバルとユキちゃんの言い分にも一理あるのですぞ。
くううううう……。
「悪いけどシルドフリーデンの代表様と槍の勇者の筆頭フィロリアルだけに被せるわけにはいかないねぇ」
「ええ」
「これまでの悪行の罰、その身を以て受けてもらう!」
「調子に乗んなバーカ! 死ねええええええ!」
タクトが剣で動いて先頭にいたゾウに向かって斬りかかりますぞ。
ですが、ゾウが一歩踏みしめるとゾウ中心に振動が発生し、ドンとタクトは打ち上げられました。
「な!? うお! だが、この程度!」
そこに手頃に転がっていた机をゾウは投げつけてタクトにぶつけました。
ブンとタクトはそのまま吹き飛ばされました。
「ブヒ!?」
同様に豚共も巻き込まれて吹き飛ばされましたぞ。
「あらよっと!」
そうして孤立したタクトにゾウが先制攻撃をした後に続くようにパンダが舞うように跳躍し、机を足場にしてタクトに爪で斬りかかりました。
ザシュッと空中で構えるタクトに綺麗に爪が入りましたな。
「ふむ……」
その流れのままエクレアが滑るように回り込み、空中にいるタクトに向かって小剣で鋭い突きを連続で放ち、再度空中に跳ね上げました。




