演技戦闘
「ああ、卵が尽きるとは思わない事だぞ?」
ザッとクズが言うと、豚共がまだまだあるとばかりにフィロリアル様の卵を出してきております。
「スーパーの1パック百円の卵を大量に購入した……みたいに並べられてもね」
「世界中のフィロリアルの卵が枯渇している原因とみていいなの。ここまでやるなんて恐ろしい連中なの」
「おぞましい作戦ですわね」
「これで抑え込めるのが元康くんなんだから、的確であるのは……間違いないか」
豚共とクズ!
無駄に知恵を巡らせていますな!
何があろうと絶対に許しませんぞ!
「さあ……槍の勇者! 盾を殺せ! でなければここにある卵の破壊を続けるのみ! お前が苦しむ様が、ワシ達の喜びとなるのだ!」
くっ……俺がお義父さんと戦わねば新たなフィロリアル様の卵を破壊されてしまう。
ですがお義父さんを攻撃するのは俺の忠義に反する行為。
どちらが上とか優先権がある訳ではないのですぞ。
ブスブスと頭から煙が出そうなぐらいの超難題。
ですがここで決断に迷って動けずにいると更にフィロリアル様の卵が破壊されてしまいますぞ!
俺が迷っていると、お義父さんがそっと、小声で話をし始めました。
「動かず、元康くんは傷ついている態度を続けて」
な、何なのですかな?
いえ、こう言うのですからきっとお義父さんに名案があるのでしょう。
俺はお義父さんに言われるまま、フリーズした様に固まっておりますぞ。
「なにかおかしい……さっきからオルトクレイ王が俺達の方を見てない。言っている事は過激だけど、見てるフリをしているだけで、全然違う所を見てる」
そうなのですかな?
そう言えばさっきから妙に緩慢な動きですぞ。
俺が苦しむ様を長い時間を掛けたいと思っていたのですが、違うのですかな?
「アレはもしかしたら俺達に何かを伝えようとしているのかも……ただ、英知の賢王って言われていた人物だから、これも罠なのかも知れない。だけど……時間を稼ぎたいのは俺達も同じだ。悪いけど元康くん、付き合って」
少しばかりの笑顔をお義父さんは俺に向けました。
「大丈夫。元康くんの攻撃で簡単に倒されるほど、俺はもう弱くない。だって、育ててくれたのは元康くんなんだから」
何となく胸がキュンとなる言葉ですぞ、お義父さん!
そう言うとお義父さんは俺から距離を取って睨みますぞ。
「……ふん。どうやら元康くんと戦わないといけないようだな」
お義父さんが敵意の目を見せて盾を構えましたぞ。
「元康くん……いや、元康! お前のフィロリアル中毒はこっちもウンザリしている程知っている。殺されてなるものか!」
少しばかり小物っぽい言い方でお義父さんは流星盾を展開しました。
くっ……ここで俺はお義父さんを攻撃しろというのですかな?
ですが……うう……。
俺は血を吐き出しかねない胃痛を堪え、震えながらお義父さんに向けて槍を振う事をせざるを得ませんぞ。
「元康様!」
「なの!」
「ああ! お前らも戦え! 槍の勇者のフィロリアル、お前も戦わねば……どうなるかわかるだろう?」
「くっ……下劣な! このような卑劣で下種な手段を用いるとは、英知の賢王とタクトの息の掛った者達の非道……絶対に許しませんわよ!」
「何とでも言うがいい! これはワシ達の……雪辱戦じゃ!」
「うぐ……元康様……」
ユキちゃんがフィロリアル姿になり、俺のもとに駆け寄ろうとするとライバルがユキちゃんの前に立ちはだかりますぞ。
「……ユキ! させないなの!」
「邪魔をしないで欲しいですわ! これも全て……元康様の為」
「なおふみをガエリオンは守るなの。槍の勇者なんて知らないなの」
「元康様の心の痛みを理解しないとは……やはり……ドラゴンですわね」
「何とでも罵れなの。ドラゴンとフィロリアルは相いれない関係なのは事実なの!」
ライバルが人型のまま構えますぞ。
ここで先陣を切るようにユキちゃんがライバルに高速で詰め寄り、蹴りを何度も繰り出し、ライバルはそれを全て往なし始めますぞ。
「ブブブー!」
「早く攻撃せんか! 槍の勇者!」
豚の声と共にクズが俺に攻撃を命じながら卵を高らかに一個、叩きつけました。
くうううううううう……まずはライバルに報いを受けさせるのですぞ!
……そうでないと、俺が俺を留めていられません。
「死ねぇ! ライバル!」
お義父さんと戦うよりも幾分か楽なのですぞ!
「おっと盾の勇者が攻撃出来ないだなんて思うなよ!」
そう言ってお義父さんは状態異常にする棘のある盾に変えてライバルへ攻撃しようとする俺に向かって走ってきました。
この光景、前にも見た覚えがありますぞ。
最初は……俺が愚かだった時、お姉さんを賭けた戦い。
盾ではありませんがバルーンを使った、今にして思えば感嘆に値する行動力ですぞ。
次は別の周回で同様にキールを救う為に樹が吹っ掛けた決闘をした際の……戦いですぞ。
あの時のお義父さんも状態異常で抑え込んだのでした。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
お義父さんが大きく拳を振り上げて俺に向かって殴りかかってきます。
間違いなくこれは挑発ですぞ。
俺は……あの時の事を思い出し、あのスキルを放ちますぞ。
「乱れ突き!」
槍先が幾重にも別れてお義父さんに飛んで行きます。
その攻撃全てをお義父さんは受け、火花が散るだけで済んでおります。
ああ……お義父さん。
さすがはお義父さんですな。
とても固いのですぞ。
ここでお義父さんが盾を構えて棘の反射で俺を刺してきますぞ。
本来ならここで状態異常になるのでしょうが、俺自身が様々な技能を習得しているのでレジストしてしまっております。
が……ここは状態異常を受けた事を装い、めまいを受けた様に顔に手を当てて、お義父さんを突き飛ばしますぞ。
「くっ……」
「どうだ! これが! 盾の勇者の戦いだ!」
お義父さんが本気では無いのは分かっておりますが、心が痛いのですぞ。
「中々やりますな、お義父さん。ですがこの程度で俺を倒せると思ったら、間違いなのですぞ!」
「ブブブ! ブブー!」
「何を手抜きをしている! もっと力を入れんか! 槍の勇者!」
ぐあああああああああああ!
豚とクズが更にフィロリアル様の卵を割りました!
絶対に惨たらしく殺してやりますからな!
お義父さんがクズよりも鳴き喚く豚の方に視線を向けますぞ。
そうして睨んでいると豚がお義父さんに向かって大きなウイングブロウをぶっ放してきました。
「はぁ!」
お義父さんは何ともないとばかりに盾で弾きますが、この状況……俺の心の傷が疼くのですぞ。
何も知らず、道化として赤豚に踊らされていたあの時と……状況は異なりますが重なる事が多いのですぞ。
うぐっ……胃に穴が空きそうですぞ。
「いいから掛ってこい!」
お義父さんが再度、俺に向かって挑発をしてきました。
ですが、俺は……俺は――!
「……しょうがねえなの」
そう言うとライバルは片手で魔法の弾を形作り、クズの方にいる豚目掛けて放ちましたぞ。
「ブヒ!?」
「ブー!」
「ブー!」
ボンとライバルの放った魔法が豚に命中し、他の豚が軽減させましたがボロボロになりました。
ですが同時に無数のフィロリアル様の卵が砕けてしまいました!
ライバル、貴様!
こんな所で何をしているのですかな!
「きさまぁああああああああああああああ!」
お義父さんと戦うよりもまずはライバルをこの世から消し飛ばす事を俺は優先しますぞ!
ですが全力でブリューナクを放てば流れ弾が他の連中に当たりますぞ。
なので一点集中! 必中攻撃ですぞ!
「くたばれ! グングニルⅩ!」
俺はライバル目掛けて必中スキルであるグングニルを放ちました。
「はあ!」
ライバルの眉間目掛けて飛ばしたグングニルをお義父さんが間に入って盾で弾き飛ばしましたぞ。
な!? お義父さん! 何故ライバルを庇うのですかな!?
「この程度か! そんなんじゃ勝負にならないな!」
「お義父さん! ライバル……いえ、そのドラゴンは許し難い罪を犯したのですぞ」
「……知らないな。ガエリオンちゃんは元康くんやフィロリアルより俺を優先したんだろうさ」
うぐっ……お義父さんからの冷たい突き放しの言葉ですぞ。
そんなにもライバルの事が大事なのですかな!?
奴はドラゴンで、俺の敵なのですぞ!
こんな態度ではフィーロたんやサクラちゃんが悲しむのですぞ!
……いえ、俺のお義父さんを信じる心が囁いております。
お義父さんは敢えてライバルを守っている、と。
俺の所為でフィロリアル様の卵を割られない様に最低限の被害で抑えようと俺を怒らせているのだ、と。
信じる気持ちはあります。
怒りもあるのですぞ。
だからこそ容赦は出来ないのですぞ!
「邪魔をするなら容赦しませんぞ!」
俺はお義父さんに向かって、胃痛を覚えながら突きを放ちました。
「はぁ! これは――」
俺の突きから次に何が来るのか察したお義父さんが盾で俺の穂先を弾きました。
「バーストランスⅩ!」
バンと一際大きく槍の先が炸裂しましたぞ。
「わっと……ドライファ・ヒールⅤ!」
さすがのお義父さんも俺のバーストランスの攻撃を受けて傷を負いましたが即座に回復魔法で怪我を治療しましたぞ。
「からの……大風車!」
竜巻を起こすモードで大風車をお義父さんに向けて放ち、時間を掛けるようにブリューナクをチャージしますぞ。
「邪魔をするななの!」
「させませんわ!」
ライバルとユキちゃんが取っ組み合いの戦いをしておりますが、今はお義父さんへの攻撃を集中すべきですぞ。
「ブーブッブッブ!」
俺とお義父さんの戦いを豚が後方で高笑いをしているのが聞こえました。
貴様ら、絶対に覚えていろですぞ!
攻撃自体の威力は高めですが、気を込めずに行きますぞ。
そうすれば見た目だけで誤魔化せるはずですからな!
「これで消し炭になれですぞ! ブリューナクⅩ!」
お義父さん目掛けてなど、初めて放つブリューナクを俺は祈るように放ちました。
「エアストシールドⅤ! セカンドシールドⅤ! シールドプリズンⅤ! 流星盾Ⅹ!」
バキンバキンとお義父さんが俺の攻撃を正面から受けますぞ。
この世界のお義父さんはエアワンウェイシールドなどで受け流す事が多いのですが、今回はブリューナクの軌道が反れない様に正面から受けてくださっております。
更に言えば防御力を調整して、出現したスキルの盾が何個も壊れる様に見せていますぞ。
ううっ……こんな所からでもお義父さんの慈悲深さと演技なのが伝わってくるのですぞ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
叫びながら全く力を込めずに俺はお義父さんに攻撃をし続けます。
お義父さんが出した盾を一枚一枚破壊し……流星盾の結界を破壊した後、盾の檻が壊れ、少しばかり貫通してしまった所で撃ち尽くしたつもりで肩で息をしますぞ。
「はぁ……はぁ……なんてタフなのですぞ」
「それは……こっちの、セリフだ」
く……出力を出し過ぎたのかお義父さんが怪我をしている様に見えますぞ。
後はどう戦えば良いですかな?
「ヘイトリアクション! オラオラ、掛ってこい!」
お義父さんが敵視を集めるスキルを俺に向かって放ってきました。
く……なんとなくお義父さんに意識が向き続けてしまいますぞ。
「ブブブー!」
ここで更に豚共が俺達に向かって攻撃魔法と、銃器による狙撃までしてきましたぞ!
どこまで徹底した攻撃をする気ですかな?
「く……」
「見てるだけではないのですな!」
俺はマントで飛んでくる魔法を弾き、お義父さんも守りの姿勢に入ります。
「なおふみ!?」
「元康様!」
更に追撃とばかりに地面に魔法陣が描かれ、範囲を指定した儀式魔法……高等集団合成魔法『審判』が俺とお義父さんを巻き込んで降り注ぎました。
タクトの豚共達が唱えた魔法ですからそこそこ威力はあった方なのではないですかな?
「ブーブーブッブッブ!」
豚の高笑いに反吐が出ますが煙が立っていますぞ。
さて……お義父さんの様子を確認ですぞ。
気配からすると健在ですな。
ダメージもそこまで負っていません。
などとしていると、ズシンと遠くで音が響きました!
これは――!
どうやら時間稼ぎをしている間にゾウとコウが何かを探り当てた様ですな。
脱出経路を思い切り開けた様ですぞ。
「ブヒ!? ブブブ!」
「く……どこの者じゃ! せっかくの余興の邪魔をするとは!」
クズと豚が忌々しいとばかりに音の方に向けて怒鳴っていますぞ。
やがて音の方向から少しだけズレた所の……部屋への扉が破られました。
「ブヒ!?」
「何奴!」
「あー? 盾と槍の勇者達、経過はどうだい?」
ここでパンダが俺達に向かって声を掛けてきました。
なんですかな? お前はサクラちゃんと一緒に婚約者を助けに行ったのではないのですかな?
「ナオフミー! 大丈夫ー?」
サクラちゃんもいる様ですぞ。
そこでザッと土煙が晴れましたな。
俺はパンダとサクラちゃん達の方向に視線を向けますぞ。
するとそこにはパンダとエクレア、そしてサクラちゃんが女王と婚約者、それと虎男達を連れておりました。




