ドリルモード
「なんですかな?」
「ちょっとね、あたいの勘と鼻が反応するんだよ。その扉、ちょっとアタイに調べさせてくれないかい?」
俺はお義父さんに視線を向けますぞ。
するとお義父さんは任せたとばかりに合図を送りますな。
パンダが玄関の扉を確認しますな。
「やっぱりねぇ……罠が仕掛けられてるよ。ご丁寧にね」
パンダが扉のノブなど、いろんな所を指差して行きますぞ。
数が随分と多いようですな。
ですが、パンダはそれをカチカチと弄ったりしながら解除していって行きますな。
「ラーサはそういう所が器用ね」
「エルメロ、アンタも多少は心得あるだろ。手伝いな」
「はいはい」
パンダに合わせてゾウも何かする様ですな。
軽く足踏みしていますぞ。
「玄関の先の部屋に誰かいる気配は無し……ただ、なんか置いてある……たぶん、階段前って場所に……妙ね?」
ああ、振動で先の部屋を確認しているのですな。
最初の世界のお義父さんはこの手の仕掛けの解除を面倒くさがってその強靭な防御力で突破していきました。
なんとなくですがお姉さんのお姉さんが出来る様な技能をゾウもある程度出来るのでしょうな。
お姉さんのお姉さんは壁を隔てた先を把握する事が出来るそうですからな。
「あー……こりゃ扉の先にワイヤーで何か繋いでいるねぇ……魔力振動でも感知するのがわかっているし、これ以上の振動でも何か反応するねぇ。だけど……よっと」
ピンとパンダが扉の隙間から器用にもワイヤーを引っ張りだしました。
「扉からはこれが限界だね。さっさと開けて中の仕掛けを解除するよ」
「任せろですぞ!」
パンダが道を開けたので、俺が先行で扉を開けて中に入りますぞ。
玄関にあったのは何やら四角い粘土の塊と何かの装置ですな。
しかも無数のタレットらしきものが俺達目掛けて設置してありました。
「これは――!?」
パンダとゾウの両者が唖然とした表情で室内を見ております。
そこまで驚く事ですかな?
「ヤバ! エアストシールドⅩ! セカンドシールドⅩ! それとシールドプリズン!」
咄嗟にお義父さんがタレットから身を守るように盾を出し、粘土みたいな機材を盾の檻で閉じ込めますぞ。
では俺はお義父さんの念の為の守りを突破する為にこれを放ちましょう。
「エイミングランサーⅩ!」
お義父さんの声に合わせてタレット目掛けてエイミングランサーで全部をぶち抜いてやりますぞ。
槍でタレットを粉微塵にしてやりました。
ちなみにパンダが引き金であるワイヤーを抑え込んでいたので罠自体は作動せずに済みました。
こういう所でパンダは有能ですな。
ですが、お義父さんが前にいればきっと無力化出来たと思いますぞ。
「殺意マシマシって感じだねぇ……ただ、ここまで入念に仕掛けられていたって事はこっちの動向はバレバレって事さね」
「そうだね……少人数で来た方がよかったかな?」
「うーん……ガエリオンの読みだと怪しいなの。それよりなおふみ、さっき閉じ込めた仕掛けどうするなの?」
「ラーサさんどうにか出来る?」
「出来るけど、ぶっちゃけ作動させた方が早いんじゃないかい? そこ以外とは一応繋がっちゃいないよ」
「わかったよ。ラーサさん、お願い」
「あいよ」
ピンっとパンダが残った仕掛けのワイヤーを引っ張って罠を作動させますぞ。
ボン! っとお義父さんの出した盾の檻から音が漏れております。
「今の俺の出したシールドプリズンからここまでの音と衝撃が漏れるって事は……随分と大きな爆弾だなぁ」
「やっぱり爆弾だったみたいだねぇ。あたいの感覚だと……この屋敷をふっ飛ばしかねない程の代物だと思うね」
「撤退した方が良いかな?」
「それも早計だと思うけど、こりゃどこかに潜んでいるにしても奴等が安全だって思える所だろう。屋敷内にいる可能性は低いさね。一応数部屋確認してみようじゃないか」
そんな訳で屋敷内を調べる事になりました。
屋敷内はかなり広く、こう……バカンスをするのに最適と言わんばかりの様々な設備と客室が用意されております。
「もはや観光地と銘打っても何の不思議も無い位になっている」
エクレアが島の居住区域を調べてから呟きましたぞ。
「そうだね……カルミラ島程じゃないけど、大金持ちが用意した島って表現以外出来ない位だし……俺達以外の人がいないって言うのが不気味さに拍車が掛ってるね」
キッチンから何まで無数にある様ですぞ。
ふむ……焼き払うのも良いですが、事が解決したらフィロリアル様達の保養所として接収するのも良いかもしれませんな。
それこそ情報提供者の組織を連れてタクト残党の潜伏していた場所を自分達が使うという豪勢な褒美を与えるのも悪くないですな。
フィロリアル豪華客船コンサートツアーの終着点にでもしますかな?
……夢は膨らみますぞ。
「おや? フィロリアル様の匂いがする気がしますぞ」
裏手の牧場付近からフィロリアル様の様な残り香を俺は感知しました。
ですが牧場にそれらしき気配はありません。
その牧場地帯をフィロリアル様達と一緒に俺は走り回ってタクトの痕跡とフィロリアル様の香りを追いました。
ですが……途中で海の方へと向かい、途切れてしまいましたな。
「後は屋敷の裏手に広がる森の中への捜索になるのかな?」
「おーい」
ここでパンダが俺達を呼びに来ました。
「ラーサさん、どうしたの? 何か見つけた?」
「アタイじゃなくてエルメロが見つけたんだけどね、ちょっと来てほしいのさね」
「うん」
という訳でパンダの案内で島にある礼拝堂っぽい建物へと案内されましたな。
礼拝堂には赤豚本体を彷彿とさせる豚の像がありますぞ。後でぶち壊しておきますかな。
その礼拝堂前でゾウが何やら足踏みしております。
「エルメロさん、何かあった?」
「えっと、あったと言いますか……」
ゾウが何度も足踏みしております。
「地面の感覚からこの辺りに何か仕掛けがあって……この先に続く通路らしきものがあるのがわかります」
「何か仕掛けね……うーん」
「ここは一発――」
ライバルが何か提案する気なので俺が遮りますぞ。
「最初の世界のお義父さん直伝!(なおふみの好みである) ごり押しをしますぞ!(仕掛け無視でごり押しなの!)」
俺とライバルの言葉にお義父さんに視線が向きますぞ。
「ま、あたいは好きだねぇ。謎の仕掛けを解くってのはダンジョンでも面倒なものだからねぇ」
「いや、俺が好きだって認識はどうかと思うんだけど……まあ、面倒だって気持ちはわかるよ。仕掛けを解く遊びをしているわけでもないしね。じゃあどうしようか?」
「俺に任せて欲しいですぞ! 霊亀の体にある仕掛けも俺はぶち抜いているのですからな!」
「妙な罠とかあったら困るけど……エルメロさん、わかる?」
「はい……たぶん、大丈夫かと思います」
「この手の仕掛けはアタイでも魔法でこじ開けようって事は出来ると思うけど、槍の勇者に先にやって貰った方が楽そうだねぇ」
という訳で俺が礼拝堂前の仕掛けとやらがある通路への道をぶち抜いてやりますぞ。
「フィーロたんの必殺技を見よう見まね! スパイラルドリル! ドライブモードのドリルモード! ですぞー!」
車輪を回すように槍を前に高速回転させて俺はそのまま地面を掘り進んで行きますぞ。
ギュリギュリ進んでいき、仕掛けをぶち抜いて通路への道を開きました。
「道が出来ましたぞー!」
「……」
何故かお義父さん達は黙って穴から出てきた俺を見ております。
「ブリューナク! とか言ってぶち抜くんじゃないんだねぇ……」
「あ、私もそう思ってました」
「私もだ」
パンダ達の言葉にお義父さんが頷いておりますぞ。
「なんか当然の流れで元康くんにやらせちゃったけど……ドリルモードって」
「御望みとあらばどこまでも掘り進んでやりますぞ」
最初の世界のお義父さんの所にいたモグラ達が得意な作業ですぞ。
アヤツ等はフィロリアル様にも優しく……以前のループでコウが食べたいと騒いだ案件以外では良い奴等ですぞ。
「いや、別に……元康くんが程良く掘ってくれて助かるよ」
「ありがたき幸せですぞ!」
ハッハッハ! ライバル、俺だって加減は出来るのですぞ!
わかったのですかな?
「むしろ土魔法が使える私が地面を弄って開けるって手もありましたよね」
ゾウが申し訳なさそうにしておりますが、心配は余計ですぞ。
「気にしちゃダメなの」
「なんですとー! 俺のどこに問題があるのですかなー!」
「そうですわ! 元康様のやり方の何処に問題が……あるのですわー!」
「ユキちゃん、この件に関しては本当に我慢しなくていいと思うよ?」
お義父さんが何やらユキちゃんを諭していますが、何かあるのですかな?
「そんな事はありませんわ。地面を掘りすぎず程々な具合で止めるスマートな方法ですわ。魔法よりも早いと思うのですわ」
「調整が大変だっていうのは認めます……固い岩盤があったりすると難易度も上がりますし」
「仕掛けを解く方法って謎解きや鍵開け以外にもいろんな手があるって事だね……あのゲームにある転移失敗とかも土魔法で空間を作るとかしたら即死を防げるのかも……」
などとお義父さんはブツブツとつぶやいております。
「そういえばサクラちゃん」
黙っていますがサクラちゃんも一緒に居てライバルからお義父さんをお守り中なのですぞ。
「んー?」
「すぱいらるすとらいく、という技は知りませんかな?」
フィーロたんはサクラちゃん。
つまりサクラちゃんも同様の技を使用出来ても不思議ではないのですぞ。
まあフィロリアル様の中ではかなりの割合で使用できる方が多い技ですが……。
一番の使い手はフィーロたんなのですぞ!
「はいくいっくすとらいくじゃなくて?」
ああ、そうでしたな。
サクラちゃんは瞬間的な加速をして相手を通り過ぎ様に翼で切り刻む技を使用するのでした。
思えばサクラちゃんとフィーロたんが異なると思う材料の一つだったのかもしれません。
「ですぞ」
「んー?」
小首を傾げる動作は確かにフィーロたんを連想しますが、フィロリアル様の中ではよく行うポーズなので共通項を見いだせないですぞ。
「たぶん、出来ると思うー」
「でしょうな!」
風以外の属性をお持ちでないフィロリアル様は使える技なのでしょう。
他にも蹴りで風刃を出すフィロリアル様等、フィロリアル様の技のバリエーションは無数にあるのですぞ。
「ドリルモードはフィロリアルも出来るっと……後でラトさんに教えてあげよう」
「フォーブレイの獣医はむしろ槍の勇者に興味が湧いちまうんじゃないかい?」
「否定できないね。とにかく、タクト残党をあぶり出そう! ラーサさん。エルメロさん。罠には十分注意して、お願いするね」
「あいよ。城勤めや警備業よりはやりがいがあるねぇ。匂いとかも注意して探してみようじゃないか」
「この手の事は人間よりも亜人や獣人の方がはるかに向いている……私も何かしら覚えた方がいいのかもしれんな……」
なんて様子でタクトの屋敷の隠し通路を俺達は進んで行ったのですぞ。
途中……何やら研究施設の様な場所や謎の空き部屋など無数の場所を通り過ぎました。
先程の保養地とは毛色が変わってきましたな。
きっとここでタクト達が碌でもない事をしていたのでしょう。
「何かの研究でもしていたのかな?」
「タクトですからな。きっと何かしらの研究をしていたのではないですかな?」
「一応、天才って扱いだったからね……非合法な研究とかかな? 培養カプセルみたいなものがたくさんあったしね」
「シルドフリーデンでもしていたにも関わらず、こんな所でもやっていたのですかな?」
「つい最近まで動いていたような痕跡があるのだが……」
「じゃあタクトとは別かな?」
そこでパンダが空き部屋の方で鼻を鳴らしますぞ。
「臭うねぇ……」
「何か臭う?」
パンダの言葉にゾウは小首を傾げますぞ。
もちろんフィロリアル様もですな。
ですがフィロリアル様もゾウと同様に小首を傾げますな。
俺も同様ですぞ。そんな匂いがしますかな?
スンスン!
なんとなく盗賊を狩っている時の匂いを感じますな。
「変なにおいするー? コウしないと思うー」
「そりゃ直接的な匂いじゃないさね。これは金目の匂いって奴だよ。つい最近までここには金目の物があった臭いさね」
どんな匂いですかな!
いえ、盗賊を狩っている時の匂いが金目の匂いなのですな?
なんとなくわかった気がしますぞ。
「あー……確かに、ラーサならそう言った匂いを嗅ぎ分け出来るか」
「なるほど、これが金の匂いなのですな。盗賊の匂いだと思っていました」
「槍の勇者、たぶんアンタが感じた匂いとは違うさね」
むう……難しいですな。
「ただ、とんでもない程の金の匂いがしたんだけどねぇ……こんな量を持っていけるってのは色々と感心するね」
「じゃあここにタクト残党が隠し持っていた金銭が集まっていたって事?」
「だと思うさね」
パンダが地面を少しばかりカリカリと爪で擦りますぞ。
僅かに金粉みたいなものがパンダの爪先に付いております。
「こびり付くくらいには金目の物を積んでいたんだろうさね」
「うーん……」
「早く現物を見たいもんだよ。ササっと行こうじゃないか」
後は火薬庫などもありました。
時限爆弾が仕掛けられており、もう少しで爆発する所だったのですが、パンダとお義父さんの機転で解除出来ました。
殺意満点だとお義父さんが呆れております。