埋葬
「……邪悪な魔法の気配もあり、聖職者の協力の下に埋葬せねばなりません。槍の勇者様、協力をして頂いて良いでしょうかです。ハイ」
「な、なんの魔物の埋葬ですかな?」
「……」
魔物商は黙って道を譲り、何を埋める穴を掘らせているのかを俺に見せてくれました。
「こ、これは……うわぁあああああああああああああああああああああ!?」
俺は絶叫を上げる事しかできません。
そこには……無数のフィロリアル様の、焼け焦げた亡骸が無残に打ち捨てられておりました。
「元康様!」
「やー!」
「やー!」
ユキちゃんが俺の下に駆け寄り、サクラちゃんとコウが揃って逃げ出しますぞ。
「おおおう……うううう……」
目から滝のように涙が溢れてきますぞ。
フィロリアル様、フィロリアル様……どうしてこのような事になってしまったのですかな?
思い出してきました。
この子は別のループで俺が撫でた事があるフィロリアル生産者の所の子ですぞ。
おおう……なんで、どうしてこんな事が。
「風の噂で聞く、槍の勇者様の仲間をしているフィロリアル達ですな。ハイ」
嘆く俺を尻目に魔物商がユキちゃんに声を掛けますぞ。
「そうですわ。元康様のフィロリアル達を統括しているユキですわ」
「槍の勇者様はフィロリアルに多大な想いを抱いているのは私共も把握しております。そこを踏まえて……少々協力をお願いできませんか?」
「なんでしょうか?」
魔物商はユキちゃんに埋葬個所から遠く離れた先を指差しますぞ。
「邪悪な魔法を使用されたのか……あの先にいる者に安らぎを与える手伝いをしてほしいのです。ハイ」
昼なのに不穏な雲のある場所を涙を流す俺でも見る事が出来ました。
その雲の下には……フィロリアル様らしき姿が確認できますぞ。
「フィロリアル様……?」
「!? 元康様! あの場所に行ってはなりません。ユキが、ユキが行ってきますわ! コウ! サクラ! 行きますわよ!」
「やー!」
「やだー!」
「いいから聞きなさい! これは命令ですわ!」
フィロリアル様姿になったユキちゃんがコウとサクラちゃんを引き摺ってでもフィロリアル様らしき者達のいる場所へと走っていきます。
高貴さの中でも明るさを忘れなかったユキちゃんが、とても真剣な表情で向かって行きました。
「槍の勇者様。ハイ」
俺の視線を遮るように魔物商が声を掛けてきますぞ。
「なんですかな? 俺もユキちゃんの手伝いをした方が良いですかな?」
「いえ、槍の勇者様にはこのフィロリアル達を手厚く埋葬してほしいのです。ハイ」
「ですが……」
「なに、槍の勇者様のフィロリアル達の活躍は耳にしております。槍の勇者様ならば安心して任せて良いでしょう」
と言った感じに魔物商が珍しく強引に俺を振り回しますぞ。
ユキちゃん達の方は元気な声が聞こえるので大丈夫そうですな。
「しかし……一体何があったのですかな?」
腸が煮えくり返りそうですぞ。
それだけでも覚えて帰らねばなりません。
「ここの主の行方も知れず……ハイ。真実は追って調べるしかないでしょう」
「手伝えますかな?」
「いえ、ここは私共にお任せしてくださって結構。このような事を仕出かす者は商人として鉄槌を下さねばならないですからな。まあ、鉄槌を武力で行う際には是非とも槍の勇者様もご協力をお願いします」
「その時は真っ先に呼べですぞ」
「わかりましたです。ハイ」
何だかんだゼルトブルとの繋がりもある魔物商ですな。
暗部との繋がりも大きいのですぞ。
つまりこんな事をした犯人に繋がる情報を見つけてくれるかもしれません。
もちろん俺もお義父さんに協力をお願いして調査する予定ですが、人手は多い方が良いでしょうな。
「それででして……槍の勇者様は如何用でこの地域に?」
「もちろん、フィロリアル様の買い付けですぞ」
「なるほど……それは不幸中の幸いでしたな」
魔物商が何やらテカテカした楽しげな表情で俺に揉み手で声を掛けますぞ。
悪いですが埋葬の手伝いをしている最中ですぞ。
「買い付けの途中ではあるのですが、別の地域を寄った際にいくつかフィロリアルの卵を確保出来ております。どういたしましょう?」
「ここの盗品ではないですかな?」
「なんと! 私、客を虚言で騙すのは好きですが直接な強奪品を販売をするような商売を冒涜するような真似はしない次第です。ハイ! そういうのは買取商人の仕事です」
強奪品自体は取り扱っているような物言いが気になりますな。
ですが、ここで奪った品ではないと言うのはわかりました。
「……槍の勇者様の配下をしているフィロリアル達の協力を加味して、お安く提供致しましょう。どうです?」
「買いますぞ」
元より俺の目的はフィロリアル様を増やす事でしたからな。
とにかく、俺にはすべき事が増えました。
カルミラ島での錬の誘き出しとフィロリアル様の育成が終わったら、フィロリアル生産者の牧場を焼け野原にした奴らに報いを受けさせると言う事ですぞ!
絶対に生かしておけませんぞ!
お前らなんかよりもフィロリアル様の命は重いのですからな!
それからしばらくしてユキちゃん達が若干お疲れの表情で、戻ってきたのでした。
途中で水浴びをしたのか、みんな小奇麗になっておりますな。
入念に体を洗っていた様ですぞ。
ともかく……俺はフィロリアル様のお墓の前で長い事両手を合わせて冥福を祈りました。
……ソウルイータースピアにしてフィロリアル様達の魂を見た様な気がしましたが……それは憚られたので静かに魔物商が呼んだ神官の手伝いをして鎮魂を手伝ったのですぞ。
結果はなんであれ、フィロリアル様の卵の調達が出来たので、俺はお義父さんの下に戻り、カルミラ島へ行く準備をしたのでした。
「フィロリアル牧場を何者かが襲撃か……」
「相応の報いを受けさせてやりたいのですぞ! 何ならカルミラ島行きを延期して地獄の果てまで犯人を追跡して死んだ方が良いほどの苦しみを味わわせてやりますぞ!」
俺はお義父さんに思った事を提案しますぞ。
実に名案ですな。
必ずや犯人を突き止め、地獄を見せてやりますぞ。
「正直に言えば激しく嫌な予感めいた感じがするね……で、ユキちゃん、犯人の匂いとか追跡できそうなモノとか残っていたかな?」
お義父さんが同伴してくれていたユキちゃんに尋ねますぞ。
ユキちゃんはお義父さんの質問に静かに首を横に振りました。
「周囲の探索、犯人らしき者達の痕跡の調査などしましたが、時間が経っていたのは元より、それらしい足取りも残されていませんでしたわ。ですから元康様に帰還を願ったのですわ」
そうですぞ。
魔物商との買い物を終えた後、ユキちゃんは追跡は難しいと一時帰還をお願いしたのですぞ。
「シルトヴェルトの人達には追跡が得意な人とかいるよね? そう言った人達に協力をしてもらえないかな?」
お義父さんが一緒に来ていたシルトヴェルトの代表であるシュサク種の代表に提案しますぞ。
「メルロマルク近隣での騒動……同盟関係のあるシルトヴェルトからも協力致しましょう。ですが勇者様方のフィロリアル達は私共よりも鋭敏な嗅覚や神経を持っていると思われるので、正直ご期待に添えるかは……」
「大丈夫、何もしない方が危険だしね。むしろメルロマルクとシルトヴェルト……いや、各国で同様の出来事が起こっていないか調査をお願いするよ」
「承知いたしました」
お義父さんはそんな状況で考え込んでおります。
やがて俺の方を見ますぞ。
「元康くんも当てもなく探しまわるなんて真似はしないでね? じゃないといざって時に元康くんが現場に行けない事態になりかねないからさ」
「槍の勇者はやらかしそうだねぇ……じっとなんてしてられませんぞ! とか言ってさ」
「ラーサ……しーっ!」
うぐっ……否定できませんぞ。
お義父さんやユキちゃんが止めなければ俺はパンダの言う通りの事をしたでしょうな。
「ともかく、嫌な予感が果てしないから、俺達は一刻も早く錬を見つけなきゃ。もちろん戦力増強もしていこう。俺達に出来る事はこれしかないんだ」
「わかりました!」
どちらにしてもフィロリアル牧場をあのような事を仕出かした挙句、フィロリアル様をあのように殺した者を俺は絶対に許しませんぞ。
と言う訳でお義父さんの命令もあって調査は国に任せて俺達はカルミラ島へと向かうことにしたのですぞ。
カルミラ島への船旅は順調の一言ですな。
道中で嵐に遭ったりするのはご愛嬌ですぞ。
「またやってきました、カルミラ島ですぞー!」
こう……カルミラ諸島に来るとフィロリアル様を一刻も早く育てたい衝動に駆られますな。
間違いなく習慣となっている気もします。
今回、魔物商から購入したフィロリアルの卵はそれなりの数ですぞ。
これ以上増やすのはお義父さんから若干ストップが掛っております。
アイドル業をするにしても数を増やし過ぎると、それはそれで客が目移りしてしまうそうですぞ。
フィロリアル様を一人一人、大事にしてもらいたいと言うお義父さんの真心ですな。
「不吉な感じが付きまとっているけど、こんな時こそ楽しむ事を忘れないようにしないとね……なんていうかカルミラ島って本当、南国の島みたいな感じだね」
もちろんお義父さんにはカルミラ島に関して今までの周回等での出来事の説明をしていますぞ。
マナー講座なんかも事前に俺が教えているので、ここのガイドに聞く必要は無いですな。
その件は女王経由で先にカルミラ島側に伝わっていますぞ。
まあ、それでもガイドは来ておりましたな。
ホテルへの案内はさすがにお義父さんも必要ですぞ。
途中でお義父さんはカルミラ島にある石碑を確認して、オーラの記述に目を通しておりましたな。
お義父さんならば割とすぐに俺達に更なる強化を出来るようになると思いますぞ。
「それじゃ当初の予定通り俺は港で錬がいないか探してみるね。隠蔽して密航している可能性もあるって話だからそれを見抜ける人達と一緒にね」
錬はどうしようもないですな。
お義父さんをここまで煩わせるとは……。
「元康くんはフィロリアル育成をして……ラーサさん達はどうする?」
「あたいかい? 警護の時間外ならせっかくだから魔物退治でもしてあいつ等のLv上げでもしておくかねぇ」
今回は活性化中と言う事でパンダの配下も連れてきておりますぞ。
Lv80まではぐんぐん上がるので、資質向上をすれば無駄にはなりませんからな。
「久々に姉御と狩りが出来るぜー!」
「城での勤務に肩が凝っていたから良い機会だぜ」
「こんな所で盾の勇者様より俺達を選んでくれる所は、姉御は丸く美人になっていってもやっぱ姉御だぜ」
パンダの配下もやる気を見せていますぞ。
「バカ言ってんじゃないよ……ったく」
「そうですぞ。パンダが一番優先しなくてはいけないのはお義父さんですぞ! ライバルが間に入れないように見張るのが仕事ですからな」
勤務の時間外というのが非常に気になりますぞ。
仕事の時以外こそお義父さんとの仲を深める機会ですからな。
「24時間ずっと勤務するのがお義父さんへの忠義の証ではないのですかな? 特に夜の警備は重要ですぞ」
「いや、さすがにそれはどうかと思うけど……夜に関しては無視しよう」
「うむ……私やエルメロ殿も居るのだ。交代で警護せねば、いざという時に戦えないなんて事になりかねん。休憩時間くらいは必要であるぞ」
エクレアまでそう言うのですかな?
まあ……俺もお義父さんの警護ではなくフィロリアル様を育てるのでこれ以上は言えませんな。
「しょうがないですな。パンダ、配下に熱を上げ過ぎてはダメですぞ。お前の役目を忘れるなですぞ」
「槍の勇者があたいをなんだと思っているのか激しく気になるねぇ」
パンダが何やら眉を寄せていますが事実ですぞ。
ここは南国の島みたいな場所、お義父さんがムラムラした際に発散するのがパンダの役目なのは俺もさすがに察する事が出来るのですぞ。
「あはは……」
「エルメローこれからどうするー?」
コウが庭に居るゾウに声を掛けますぞ。
「えー……盾の勇者様の警護をしますよ。それ以外の時間は特に予定は無いです」
「じゃあコウ達と狩りにいこー」
「あ、はい。みんなで行けば楽しいですよね」
「わーい! 楽しみー」
ゾウはコウと仲良しですな。
「ぐー……」
サクラちゃんは来て早々ベッドに横になって寝息を立てております。
おっとりなサクラちゃんらしいですぞ。
「みんな思い思いに羽を伸ばして、英気を養ってね。元康くんの情報で期日はわかっていても、まだ戦いは続くからね」
お義父さんはそうまとめましたぞ。
「もちろんですぞー! では出発ですぞ!」




