表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
913/1285

焼け野原

「王女メルティがお忍びで楽器演奏をし、その相棒としてフィロリアルのサクラ様が、世界を襲う波と邪悪な偽勇者タクト残党の手からメルロマルクを、シルトヴェルト、シルドフリーデン、延いては世界を守るためにその危機を歌にして広めている……という筋書きになっております」

「それはそれは……何とまあ、頼もしい後継者をメルロマルクの女王はお持ちの様だ」


 シュサク種とゲンム種の翁が揃って女王に形式的な褒め言葉を投げかけますぞ。


「これは我が国もいつまでも負けてはいられませんね。盾の勇者様、騎士ラーサズサを含め、守護騎士達と是非とも尽力をお願い申し上げます。そろそろ増員も致しましょう」

「そ、そうだね」


 後にお義父さんから聞いた話なのですが、ここぞとばかりにこの言葉の裏に子作りを要求されたとの事ですな。

 さすがの俺も察するのは難しいですぞ。


「つきましては今後の課題として、フォーブレイからも要求をされているのですが、剣の勇者様の保護に関して擦り合わせを行いたいと思います」


 女王が明るい話題から真剣な話題に切り換えた様ですな。

 錬の保護ですかな?

 考えてみればこのループに戻って来てから見てませんな。

 前回はタクトに消されていたので、もう随分と会っていない気がしますぞ。


「我が国メルロマルクの失態で不信を買ってしまい、行方が分からない剣の勇者様は、槍の勇者様の証言によりゼルトブルでの捜索を、ゼルトブル側にも要求し、各国で捜索を行っているところですが、まだ見つかっておりません」


 視線が俺に集中しました。

 まだ錬は見つかっていないのですな。

 メルロマルクに留まったループだと女王が帰還する際にどさくさにまぎれて正義面して戻って来ていたはすですが。


「まだ出てこないのですかな?」


 どこまで人間不信なのですかな?

 まあ、あの時は俺達が参加した最初の波でクズにぼろくそ言われた訳ではなかったのもあるのかもしれませんぞ。

 錬は無駄に頑固な所がありますからな。

 客観的に見て遠ざかるのと面と向かって努力が足りないと指摘されるのでは、感じる事も異なるのかもしれません。


「はい……国の暗部にも探させようと思ってはいたのですが、勇者様は瞬間移動を行う事が出来るので……」


 ポータルスキルを使われると影も追跡が難しいのでしたな。

 確か最初の世界は元より様々なループでポータルを移動に使うようになると、影は拠点の監視などに留まる事が多くなったと聞いた覚えがありますぞ。


「どこかで見つけて話ができれば良いんだけど……」

「まあ、このループの剣の勇者なら話くらいは聞いてくれると思うなの」


 ライバルがここぞとばかりに手を挙げて言いますぞ。


「ここでガエリオンが剣の勇者の誘き出し……いや、既に来ているかもしれない案件だから言うなの」

「何でしょうか? シルドフリーデンの代表ドラゴンであるガエリオン様」


 く……女王までライバルを様付けするのですかな!

 コヤツは頭がお花畑なのですぞ。

 みんな、騙されるな! ですぞ。


「剣の勇者はLv上げ中毒のLv至上主義なの。そんな奴が隠れているとしても出てくる蜜がこの国には今、旬を迎えているはずなの!」


 ライバルの提案に女王は納得したように頷き、扇で口元を隠しますぞ。

 ああ、わかりました。

 確かに錬なら出て来そうですな。


「カルミラ島ですな!」

「なるほど……カルミラ島の活性化ですか……確かに勇者様が紛れ込んでいても何の不思議もありませんね」

「なの。合わせてなおふみや他にシルトヴェルトの者達も参加して戦力の底上げをするのはどうなの?」

「ガエリオンちゃんが海で闘ってくれた方が俺達は効率的だったけど?」

「少数精鋭だからこそなの。カルミラ島を利用すれば、Lv制限はあるけれど大人数が底上げ可能なの」

「……なるほど。今後の事を考えると行って損ではないと言う事でしょう。タクト残党等の事を考えれば重要ですね」


 女王を含めてシルトヴェルトの代表達も頷いておりますぞ。

 これは良い機会ですな。

 俺もフィロリアル様を買い占めて増やしますぞ。


「ついでに槍の勇者。どうせお前の事だからフィロリアルの増員をって考えているのだろうから良い機会なの」


 く……またライバルが俺に塩を投げつけてきやがりますぞ!

 俺の考えを読むんじゃないですぞ!


「お前なんかに言われなくてもやりますぞ!」

「まあまあ……とにかくどこかに隠れて行方がわからない錬を誘き寄せるのに良い場所ってことな訳ね」

「なの。もしかしたら既に島に来ているかもしれないなの」

「わかったよ。とはいえ……俺が島で待機して探すって事で良いのかな?」

「お義父さん、俺も居ますが?」


 なぜかお義父さんにはぶられました。


「元康くんはフィロリアルの育成がしたいでしょ? 今はあんまり増やされると困るけど、元康くんがやりたい事をするんだから良いんじゃないかな」


 何と! 俺の事を思っての提案だったのですな!

 ですがここは注意しなくてはいけませんぞ。


「ライバル、俺が留守にしている間にお義父さんを狙うつもりですな!」


 するとライバルは手を横に振ってなぜか拒否の態度をとりますぞ。


「ちょっと残念だけど、ガエリオン外交予定で合流は後になるはずなの」

「なんかあるの?」

「なの。メルロマルクの女王、シルトヴェルトの代表、聞いてほしいなの。近々霊亀の封印が解かれる時期なの。だからその被害者を減らすために、かの国に外交をするのはどうなの?」


 お? ライバルはカルミラ島に来ないのですかな?

 これは僥倖ですぞ。

 お義父さん達と南の島でバカンスですな!

 ヒャッハーですぞ! 暑い太陽と海の青さが俺達を呼んでいますぞ!


「……確かに、事前に提案するのは良いかもしれませんね」

「被害を減らせるならやらない手はない」

「シルドフリーデン代表のガエリオン様、霊亀の封印のタイムリミットはご存知で?」

「もちろんなの。勇者達が関わらなかったらいつ頃封印が解かれるかわかっているなの。剣の勇者が蜜に掛かっている間になんとかしておきたいなの」


 話がだいぶ進んでいる様ですな。


「俺達は参加しなくて良いの?」


 ここでお義父さんが何やら責務を感じているのか女王やライバルに尋ねますぞ。

 すると代表たちは揃って渋い顔をして首を横に振りますな。


「正直、かの国に勇者様達を外交に向かわせるのは避けたいですね……」

「あの国はどの国よりも腐敗が進んでいる排他的な国と言えましょう。勇者様が来訪したらそれ幸いと何をするか……」

「勇者様方がどうしてもと呼べるような案件がない限りは避けるべきかと」


 ふむ……そんなにも問題のある国だったのですかな?

 まあ俺も最初はゲーム知識を元に行ったのですがな。

 まっすぐ目星の霊亀の封印の所に行きました。

 ……思えば愚かな行いでしたな。


「そんな訳でガエリオン達に任せろなの!」

「まあ、ガエリオンちゃんがそういうのなら……大丈夫かな? 下手に刺激して霊亀が復活、そこにタクト残党が便乗って事になったりしない?」

「んー……そのためにもなおふみ達には力を付けておいてほしいなの。霊亀位ならガエリオンが足止め位はできるはずだから、もしもの時は応援に来て欲しいなの」

「うーん……」


 お義父さんが困ったように唸っておりますぞ。


「なおふみは、ガエリオンが頼りないなの?」


 ここぞとばかりにライバルがアピールしている気がしますぞ!


「そんな訳じゃないけど……」

「お義父さん! 何かあっても俺が余裕で仕留めますぞ!」


 今度こそ負けませんぞ。

 霊亀の封印が解かれ、鳳凰の封印が解かれたとしても今度こそ迅速に処理しますからな。


「なのなの。戦力的には槍の勇者がいれば問題ない相手なの。なおふみはなおふみで十分に注意してほしいなの」


 さらりと流しましたな。

 ライバルの回避能力が上がっている気がしますぞ。

 以前のライバルだったら反論したはずですが……これは警戒しなければいけませんな。


「……わかったよ。だけど無茶はダメだからね」

「当然なの。ガエリオンのミスでどれだけの命が失われるか考えたら失敗なんてできないなの」


 という訳でライバルが霊亀の封印された国へと外交をする事になりました。

 女王は元より、シルトヴェルトの者達も行くそうですな。

 逆に珍しく俺やお義父さんは別行動になりました。


「……」


 そんなやり取りを助手はじっと見つめているだけでした。

 とりあえずその後も色々と話し合いをして会議は終わった様ですぞ。


 ライバルや女王、シルトヴェルトの代表が各々各国内で回せる物資や金銭などを話し合った様ですな。

 専門的な話で面倒でした。

 一応、ライバルの支持率上昇で金を抱え込んだ貴族の牙城を崩せてきている状況、シルドフリーデンの借金は膨大ですが、どうにか回り始めたってところみたいですな。

 後はタクト残党を炙り出し、奪われた国家予算を見つけて没収するだけですな!


 で、俺とお義父さんは、不服ですがライバルの提案でカルミラ島に来るであろう錬を見張る形ですな。

 あの時期のカルミラ島はポータルが使用不能なので錬も話をする機会くらいは確保できるでしょう。

 錬は俺達に対して敵対意識を持っていないので遭遇しても大丈夫でしょうしな。


「ではお義父さん、俺はフィロリアル様の卵を調達してきますぞ」

「結局そうなるんだね……まあ、俺もシルトヴェルトの方で出発の準備をするから元康くんも程々に買ってきてね。何だかんだ沢山フィロリアルがいて、管理するのが大変なんだから」

「当然ですぞ! まずは……あのフィロリアル生産者の所に顔を出してきましょう! ユキちゃんやコウ、サクラちゃんを連れていくのですぞー!」


 考えてみればこのループでは売ってもらったにも関わらず挨拶に行ってませんでした。

 伝説のフィロリアルに育ったユキちゃん達のお披露目ですぞー!

 という訳で俺はユキちゃんとコウ、サクラちゃんに声を掛けてさっそくフィロリアル生産者の下へとポータルで飛んだのですぞ。






「これから元康様がユキ達を手にした場所に行くのですわね」

「そうですぞ」


 移動前に俺はユキちゃんに尋ねられたので答えました。

 ユキちゃん達の生まれ故郷の様な場所ですな。

 あの生産者は良い牧場の経営者ですぞ。


「んー?」

「卵の時に居た所ー?」


 サクラちゃんとコウはピンとこない様ですな。


「ちなみにフィロリアルレースに力を入れている生産者ですぞ。ユキちゃんからしたらより興味のある人物だと思いますぞ」

「……楽しみですわね」


 まあ俺は後々の世界でも厄介になったりしてほとんど頭に入っておりますがな。

 ここでシルドフリーデンで話題になっているユキちゃんの牧場主である事を教えてあげれば驚く事請け合いですぞ。


「では出発ー」

「おー!」


 ポータルでフィロリアル牧場に飛びました。

 ですが、そこは想像を絶する光景がありました。


「こ、これは――」

「な、なんですかなぁあああああああ!? フィロリアルさまぁあああああああああああああ!」


 そう、俺は絶叫する事しかできませんでした。

 なぜかというとフィロリアル生産者の牧場区域が焼け野原になっていたのですぞ。

 ほのぼのとした牧場の姿はなく……焦土と化し、黒こげとなった柵……家屋……周囲には微塵ものどかな気配は残されておりません。

 ユキちゃんが炭化した柵を調べますぞ。


「……大分前の出来事の様ですわね」


 俺も確認しますぞ。

 確かに……冷え切っております。

 今まさに燃えていた訳ではないのは一目でわかりますぞ。

 煙らしきものもありません。

 完全に廃墟のようになっております。


「い、一体どうなっているのですかな!?」


 少なくとも今までのループでこのような事が起こった事はありませんぞ。

 フィロリアル生産者が何か火の不始末でも起こしたのですかな?


 俺は周囲を探しまわりますぞ。

 フィロリアル生産者がいたフィロリアル舎は元より、卵などを保管していた倉庫の跡地を見ますが、焼け落ちた跡しか残されておりませんぞ。

 く……周囲の聞き込みをすべきですな。


 そう思って近隣のフィロリアル関係者らしき建物を探しますぞ。

 ですが……俺は……見つけてしまいました。


 無数の簡易的に作られた墓ですぞ。

 それと……沈痛な様子で埋葬をしている……魔物商とその仲間ですな。

 ユキちゃん達は不穏な気配を悟って距離を取っておりますぞ。

 俺が聞かねばなりませんな。


「おやおや、そこにいらっしゃるのは槍の勇者様かと思いますです。ハイ」

「ひ、久しぶりですな」

「ええ……あの節は私共の店をご利用いただき、誠にありがとうございます」

「ところで何をしているのですかな?」

「そうですね……我々は副業の魔物の卵の買い付けの為にここへ立ち寄ったのですが……残念ながらどのような経緯があったのかは不明です。ハイ」


 魔物商は言い辛そうに説明を続けますぞ。


「この地域一帯を盗賊か、魔物か……どの様な者達かは不明ですが、襲撃で焼け野原になっており……魔物の死体が放置されていたので埋葬している最中なのですよ」


 ……どうやら魔物商は魔物商としての仕事を全うしていると言う事の様ですぞ。

 その最中に遭遇したので死んだ魔物を埋めているってことですな。

 ですが……本来、魔物は野ざらしでも問題ないはず。

 にも関わらず埋葬しなければならないのはどういう事ですかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ