誇りの無いドラゴン
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
翌日。
しょうがないのですがライバルとの合流地点にポータルでお義父さんと共に飛びますぞ。
メルロマルクで色々と外交予定ですからな。
主にクズに関する問題と追跡調査結果を聞くのが目的ですな。
ついでにカルミラ島への斡旋も頼んだ方が良いでしょうな。
なんて思いつつ、合流地点であるライバルの実家近くの山の前で待っていると……。
「ただいまなのー」
ライバルがドラゴン姿で飛びながらやってきました。
「えーっと……」
「……」
なぜか物凄い眼光を宿した助手を連れてですがな。
助手はライバルに抱きかかえられたまま、俺達をずっと睨んでおります。
お義父さんがライバルを指差しておりますぞ。
「お姉ちゃんがどうしても付いてくるって言って離れないから連れてきたなの」
「見つけたわよ! 妹泥棒達! よくも妹を盗って行ったわね!」
そう助手が言った所でサッとライバルが背を向けて助手を隠しますぞ。
早速ですな。
「お姉ちゃん、約束が違うなの。なおふみ達にそんな事を言っちゃダメなの」
「でも、事実じゃない」
「うーん……だから何度も説明したなの。ガエリオンは自ら選んでなおふみ達について行ったなの」
「その名前はお父さんの名前だって言ってるじゃない!」
「これも言ったなの。別の未来のお姉ちゃんがガエリオンに名付けた名前なの」
「でもあなたはあなたよ」
「ああもう……かなり面倒なのー……別にガエリオンはお姉ちゃんの事を嫌いになった訳でも別竜になった訳でもなく、お出かけしているだけなの」
「こんなに大きくさせられて、まだ言う気?」
何やらまだ揉めている様ですな。
くくく、これを起点にライバルの正体をお義父さんに知らしめるのも良いと思いますぞ。
「お姉ちゃん、ガエリオンは出世頭なの。物凄く強い最強のドラゴンなの。鼻が高いけどそれはなおふみ達のお陰で至れたなの」
「私達の生活はどうなるの?」
「それは昨日、差し入れを持っていったし、縄張りもあげたからお父さんも満足していたなの」
「ああ……アレね」
何やら助手の様子が本気でおかしいですな。
親をアレ呼ばわりしてますぞ。
過去のループの助手は親を尊敬していた気がしますが。
「お姉ちゃん、お父さんを軽蔑するのは程々にするなの。お姉ちゃんに嫌われてお父さん、凄く落ち込んでいたなの」
「命かわいさに娘を差し出した誇りの無いドラゴンよ」
「お姉ちゃん、自覚しろなの。お父さんは最弱の竜帝を名乗れるくらい情けないドラゴンなの。今更なの」
「それもどうなんだい?」
パンダが突っ込みを入れますぞ。
なんて様子でライバルが作り笑顔をしながら振り返りました。
「絶対に妹を取り返して見せるわ!」
「ここまで姿が変わっているのにガエリオンちゃんを妹だって認識出来るんだね」
「もちろんよ! この妹泥棒共! 妹に何をしたのかは聞いてるわ。別の世界から来た? だから何なのよ!」
「ループしている人的に、これはこれで嬉しい反応なのかな?」
お義父さんが疑問符を浮かべていますな。
よくわかりませんな。
大抵の世界ではお義父さん達が受け入れてくれるので特に何か感じた事はないですぞ。
「お姉ちゃん、しー……なの」
「あ、ちょっと!」
ライバルが手で助手を隠してからお義父さん達に説明しますぞ。
「家に帰ったついでに縄張り争いに勝ってお父さん達の生活を良くしようとしたなの。それとは別にお姉ちゃんが病んでしまっていたなの」
「うん、見ればわかる気がする。やっぱり大丈夫じゃないみたいだね」
「お兄ちゃんやお姉ちゃん達を連れて強さを求めて魔物退治や修行をしていたみたいなの。どうもガエリオンを取り戻す為にがんばっていたみたいなの。結構精力的だったみたいで縄張りが大きくなっていたなの」
随分とこのループの助手はアグレッシブな様ですな。
兄弟を連れて魔物使い紛いの事していたとは……そういえば最初の世界で鞭の眷属器に選ばれていたはずですぞ。
もしかしたら本当に適性があったのかもしれません。
「で……お父さんの事は命かわいさにガエリオンを差し出したって思いこんでいるみたいで、威厳が無くなって落ち込んでいたなの」
「親が情けないのは前からですぞ」
「否定しないなの」
「いや、そこは否定してあげようよ」
所詮は親ドラゴンですからな。
情けないのは今更ですぞ。
むしろ厄介な度合いで言えばこのライバルが筆頭ですからな。
「で、そろそろ行かなきゃと出発しようとしたらお姉ちゃんが絶対に付いてくるって一歩も引かないから、しばらく預かる事になったなの。お父さんもガエリオンの強さに拒否は出来なかったなの」
「まあ……それで納得してくれるなら良いんじゃない? ただ……シルドフリーデンに連れてって大丈夫かな……」
「お姉ちゃんはある程度、野生のセンスがあるから敏感なの。クラスアップを施せば大丈夫だと思うなの」
お手軽な言い回しですな。
「そもそもお姉ちゃん」
ライバルがここで助手に向かって真面目な表情で諭すように手を広げて言いますぞ。
「どうがんばろうと、お姉ちゃんはドラゴンじゃないなの……お父さんもいずれはお姉ちゃんを人の世に戻そうと考えていたなの。それはガエリオンだって変わらないなの。自覚……してるなの?」
「……」
助手が黙って露骨に眉を寄せますぞ。
わかってはいても突きつけられると嫌なものって感じですな。
「何がどう転ぼうと結局は何らかの出来事でお父さんが討たれたらお姉ちゃんの生活は終わってしまうなの。そうならない為にお姉ちゃんは近いうちに巣立ちは予定されていたなの。その手助けをする為にガエリオンは妹として預けられたなの」
そう言ったライバルはお義父さんの方を遠い、なんとなく寂しそうな目で見つめていますな。
ハハハ、そんな目をしても俺には効きませんな。
同情を引こうとしたって無駄ですぞ。
「……本来は、その役目を果たすことなくガエリオンは死んで、お姉ちゃんは……」
やがて軽く首を横に振ってライバルは助手に言いますぞ。
「お姉ちゃんはガエリオンと一緒に人の世を見てみるなの。そもそも世界は今、未曾有の危機に晒されていて、その為にガエリオンはみんなと一緒にがんばっているなの」
「生まれたばかりの妹は遊んで育つ事が役目よ!」
「あの時点で十分に遊んで育ってるなの! これからお姉ちゃんに難しくて楽しいおもちゃ……世界を教えてやるなの!」
それは世界をおもちゃにするって意味ですかな!?
とんでもない奴ですぞ。
「ガエリオンちゃん、その子の教育に激しく悪そうなんだけど、大丈夫?」
「なんか、ずれてる気がするねぇ」
「間違いない」
「言葉尻を掴まないでほしいなの。ともかく、お姉ちゃん、約束通りにするなの。じゃないとこのまま置いて行くなの」
ライバルがここぞとばかりに助手を威圧しました。
すると助手は渋々と言った様子で俺達の方を見て言いますぞ。
「私の名前はウィンディア……です。しばらく……厄介になって良いですか?」
お義父さんはライバルの方を見てから助手に視線を移して頷きますぞ。
「うん、良いよ。ガエリオンちゃん、しっかり守ってあげてね」
「妹を守るのは姉の役目よ!」
「お姉ちゃん、今はガエリオンの方が強いのわかってるはずなの。野生は強さで上下が決まるなの。姉でも妹でもそれは間違いないなの」
「……」
うーむ……あれですな。
姉としてのプライドが先走っているのでしょうな。
正直、今の助手はライバルのデコピンでノックアウトですぞ。
「じゃあ……俺達が相手をするのは嫌だろうからガエリオンちゃんから離れないようにね? それにね、別に俺はガエリオンちゃんを奪った訳じゃなくて力を貸してもらっているだけなんだ。だから、いつでもガエリオンちゃんが帰りたい時には返してあげるから」
「それはそれでさびしいなのー」
ライバルがここぞとばかりにアピールしますが、既にお義父さんはお前の誘惑など受け付けませんぞ!
ゾウとパンダが居ますからな。
お義父さんは誠実なお方ですぞ。
助手はそんなお義父さんとライバルを交互に見てから頷きました。
「わかった……これからよろしくお願いします」
どうやらお義父さんの指示に関して理解を示したのか助手はライバルに引っ付いたまま同行する様ですぞ。
そんな訳で俺達はメルロマルクの城に行きました。
「この度はメルロマルクでの会議の席に来ていただき、誠にありがとうございます」
女王が会議の席で挨拶をして始めました。
シルトヴェルトの代表としてお義父さんとシュサク種とゲンム種の翁。
シルドフリーデンの代表としてライバルが出席する形ですな。
今回は逃走したクズに関する経過報告とエクレアの実家関連の打ち合わせらしいですぞ。
一応、友好的な関係を築く為の話し合いで、シルドフリーデンも協力しているという名目が必要らしいですな。
他にも色々と案件があるので女王とは是非とも話をしておかねばなりません。
暇さえあればサクラちゃんやフィロリアル様が婚約者の所に遊びに行っておりますがな。
俺もフィロリアル様と遊びに行きたいですぞ。
「今回の報告なのですが……何分、我が城から逃走した英知の賢王を騙る偽者は……まだ所在の把握が出来ておりません。私共の至らない所を嘆くばかりです」
「いえ……気になさらずに……」
何分、雲隠れの上手いと言うよりも怪しげな連中の関与がありますからな。
それにしてもクズはどこに隠れているのでしょう。
ちなみに助手は状況が飲み込めず、ライバルの膝の上で周囲をキョロキョロとしておりますぞ。
「しかし……ここまで居場所がわからないってのも逆に凄いものだ……」
「我が国の者達も協力して捜索していると言うのに……」
シルトヴェルトからも追跡班として色々と動いているとの話なのですな。
にも関わらず見つからないとは……どこかで野垂れ死にしているのではないですかな?
幽霊になって現れたら冗談としか思えませんぞ。
HAHAHA。
「どちらにしても警戒を怠らないようにお願い申し上げます」
「うん。後は、英知の賢王を騙る者への対策として、俺の守護騎士をしているラーサズサの配下が力を貸すとの話です。どうか後ほど俺のいない所での話し合いを頼みます」
虎兄妹はお義父さんと会わせるとシルトヴェルト内で問題が起こるとの話でしたな。
手当ての甲斐もあって虎娘は全快し、虎男に背負って貰う形で色々と出歩くようになっておりますぞ。
歩けるとの話をしてはいますが、まだ試していない様ですな。
まあ、女王なら虎娘を見ただけで事情を把握すると思いますぞ。
「承知いたしました。ところで騎士エクレールは勇者様方の力になれているでしょうか?」
「ええ、それはもう……彼女のお陰でメルロマルクとシルトヴェルトはこのような出来事があっても友好を維持できていると判断しております」
お義父さんが最大限の褒め言葉としてエクレアを称賛する様ですな。
「つきましては騎士エクレールの領地の復興を是非とも優先していただきたい」
「シルトヴェルト側の要請通り、現在急ピッチでセーアエット領の復興に尽力させている所です。奴隷狩りにあった者達の保護を始めとした様々な事業を継続して行っている最中です」
「それは何より」
どうやらお姉さんの村の者達等も保護されて復興中の様ですぞ。
このループではその辺りの作業が出来ないのが惜しいですな。
エクレアの武勲によりお義父さんが助力を促すとかで納得させられないのですかな?
まあ……ライバルが言っていたお姉さんのお姉さんは、知らせない方が良いのは俺もわかりますぞ。
何せ、お姉さんが亡くなっているのを知った場合、あれだけ体調を崩していましたからな。
あの時はお義父さんの熱意で立ち直ってくださいましたが、初対面で真実を知って体調を崩された場合、お義父さんもそこまで強く出られないでしょう。
もどかしいですな……。
お姉さんのお姉さんには嘘が通じませんから誤魔化し続けるのも無理ですぞ。
ループ知識がある分、不便極まりないですな。
「そうそう。我がメルロマルクの国内での良いニュースなのですが、我が娘メルティと勇者様方が世話をしているフィロリアルのサクラ様が貴族の夜会を含めた各地の酒場での広報が実を結んで人気を得ていると聞き及んでいます」
女王が微笑を浮かべて俺に報告してきますぞ。
おお……婚約者、サクラちゃんの人気をメルロマルクで広めているのですかな?
俺が特に何か言った訳でもないのにその様な状況になっているとは、さすがは婚約者と言った所ですな。
悔しいですが、人格、能力共に評価せざるを得ませんぞ。




