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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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進路

「サクラちゃん、ライバルが居ない今こそお義父さんに甘えるチャンスですぞ」

「そうなんだ。わかったー」


 なんてやり取りがあった後、俺は城のテラスからシルトヴェルトの城下町の方を見ますぞ。

 何だかんだ賑やかな町並みが見えますな。

 メルロマルクだとこの時間帯は静かになっておりますぞ。


「あ、元康くん」


 声に振りかえるとそこにはお義父さんがおりました。


「おや? お義父さん、どうしたのですかな?」

「いや、特に何かある訳じゃないけど、寝付けなくて城内を散歩してたんだよ」


 お義父さんは最近、ちょっとお疲れな雰囲気がありますな。

 サクラちゃんやパンダは元より、ゾウに寄り掛かって癒しタイムを取る事が増えております。

 ゆっくり休むのも時には必要なのですぞ。


「大丈夫ですかな?」

「うん、大丈夫だよ」


 お義父さんが俺の隣に立って城下町を一望しますぞ。


「……ガエリオンちゃんの帰郷かー」


 ぽつりとお義父さんがそう呟きました。


「お義父さんは家に帰りたいのですかな?」


 最初の世界のお義父さんは世界が平和になったら迷わず帰ると断言しておりました。

 しかし徐々に考えに変化があったようで、最終的には在留しましたがな。

 前の世界のお義父さんも似たような感じで見送っておりました。

 するとお義父さんは微妙な表情をしながら俺を見ますぞ。


「別にそういった気持ちで言った訳じゃないよ。元康くんが知っている他の俺は帰りたいって願っていたんだろうけどさ」


 ふむ……どうやら違った様ですな。

 そういえば前にお義父さんがこの世界をもっと見て回りたいと言っていた事を思い出しました。

 いつのループだったかは曖昧ですが、帰りたい訳じゃないのでしたらきっとそう思っているのでしょう。


「ただ、懐かしいなと思ってさ。まだ異世界に来て数ヶ月しか時間は経っていないけど、そう思う事もあるんだと思っただけ」


 うーむ……俺からしたら元の日本など遥か過去の出来事ですぞ。

 ですが懐かしいと思いますかな?

 ……思えばない事はない程度ですな。

 それよりも明日を見ていますぞ。

 確かに、お義父さんからしたら異世界での日々はそんなに長くはないのですな。


「なんか刺激的な日々の連続で忘れがちになっちゃうけど、異世界に来るまでは学生だったんだよね……って、元康くんはどう?」

「俺ですかな?」

「うん。錬や樹は年齢的に高校生でしょ? 大学生で年齢が近いって言うと元康くんだから、元康くんの行った大学ってどうだったのかな? って思ってさ」


 お義父さんは俺の学生生活時代の事に興味がある様ですぞ。

 どうやらギャルゲーに酷似しているとの話ですな。

 ですがお義父さんの方も俺は興味ありますぞ。


「お義父さんはどうだったのですかな?」

「え? 俺? んー……まあ、大学だと割と普通かな? 目立ち過ぎず騒ぎ過ぎず、可もなく不可もなく、どっちかというとネット内での友好がメインだったよ」

「ああ、そういえば樹が前にお義父さんをネト充と仰っておりましたな」

「間違いはないかな……樹の口から出るのがちょっと驚きだけど、他の世界での話だよね?」


 俺は頷きますぞ。

 この世界の樹はダメダメでしたが、役に立つ樹がいる世界もありますからな。


「そうですぞ。それでですな、お義父さんは料理が上手なので、実は料理人の大学でしょうか?」


 前々から気になっていました。

 お義父さんの料理はとても美味しいですからな。

 きっと有名な料理の大学に属していたのでしょう。


「いや? 普通の三流大学だよ? 理由は家が近かったってのもあるし」


 おや? 俺の予想が外れましたな。

 なんて思っているとお義父さんが若干うんざりしたような顔になりました。


「そういえば家族が大学を中退か卒業したら料理の専門学校に行けとか言ってたのをぼんやりと思い出しちゃったなぁ……」

「嫌だったのですかな?」

「そこまでじゃないね。精々滑り止めくらいに受け取っていたと思う」

「お義父さんの店ならさぞ繁盛したでしょうな」

「さすがにそれはないと思うけど」


 とは言いつつ、いろんな世界でお義父さんの料理を食べた俺から言わせてもらうと、絶対に成功すると断言できますぞ。

 Lvも技能の取得の未熟な状態でも美味しいですからな。

 つまりお義父さん自身が所持している技能という事になります。


「樹曰く、お義父さんは料理漫画の世界出身だと言っておりましたな」

「別に謎の料理勝負とか見た事ないんだけどな……まあいいや。俺の学生生活って別に目立つほどの事はないかな? 選んだのもそんな感じ。俺の頭じゃそこまで勉強は出来なかったしね」


 お義父さんは自身を随分と過小評価しておりますな。

 俺がメルロマルクの文字を覚えたのはお義父さんのお陰なのですぞ。

 お義父さんはまさにやればできる人物なのは間違いないですぞ。


「元康くんはどうだったの? 割と恋多き学生生活だったみたいだけど」

「そうですなー……考えてみれば大学に進学を選んだ際に大きいのだと三つあった覚えがありますぞ」

「ここに来るまでに入っていた大学は?」

「都会の大きな大学ですぞ。俺の学力なら狙えると言われて受けました。一応就職に有利だと言われるほどの難関校ではありましたな」

「あー……東大とかそれに近い感じ?」

「略称が異なりますが、そこより少し下程度だと思いますぞ」

「元康くんってかなり頭良いんだ。それなのに……いや、頭の良さと行動は別か」


 お義父さんが俺を褒めてくれました!

 そうですぞ。いくら頭が良くても行動をせねば始まりませんからな。

 頭よりも行動力ですぞ!


「インテリジェンスよりもウィズダムですな!」

「そ、そんな所かな……」

「話を戻しますが、まあ結局上京して豚に熱を上げた挙句、刺されたのですがな」


 結果的に俺は異世界に来て真の愛に目覚めたのですから後悔は無いですな。

 もっとフィーロたんと一緒に居たいのが俺の願いですぞ。


「じゃあ他の二つにも行く可能性があったんだ?」

「そうですな」

「どんな大学生活になったんだろうね?」

「ふむ……一つは複数ある地元の一つなのですが、近くにある大きな大学ですぞ。仮にそちらを選んでいたら毎朝起こしに来る昔馴染みとも呼べる豚と物凄い金持ち豚と通う事になったでしょうな」


 転校などが多かったので接点は若干薄めでしたが、その街で寝起きすると毎朝必ず起こしに来る昔馴染みの隣に住んでる豚がいたのですぞ。

 金持ち豚の方は……思い出せませんな。

 なんか小さい頃にちょろっと会った覚えがある程度ですぞ。


「なんというか、お約束な感じだね」

「各地に昔馴染みを主張する豚がおりましたな。小学校位の頃、近所に数ヶ月住んでいただけなのによくやりますぞ」

「うーん……ギャルゲーの主人公を複数凝縮すると元康くんみたいな経歴になるのかな……」


 お義父さんが興味深そうに聞いてくれますぞ。

 ならばもっと沢山話しましょう。

 最初の世界のお義父さんはこの手の話に興味が無かった様なので話す機会がありませんでした。


「他とは異なると言うと、そこで知り合った金持ち豚は相当な金持ちだったって所ですな。各界の財閥との繋がりも多く、俺がその大学に通う際は家から一直線に学校に通えるように周辺を買い取って更地にするとか、地下に直通トンネルを掘るとか、言っていましたな」

「あー、そういうおかしい位の金持ち設定の子とか昔のマンガやギャルゲーには居たよね。いや、現実なんだっけ……? だけど、そうなると元康くんを殺した女性がどうなるか怖いね」


 俺を殺したのは女性ではなく、豚ですが?

 まあ細かい事はどうでも良いですぞ。


「ちなみに高校時代、その地元のゲームセンターで対戦ロボットゲームにハマりましたな。エメラルドオンラインにハマる前ですぞ」


 友人と日夜研鑽を積んだものですぞ。

 もしもこの大学に通っていたら熱中していたゲームが再熱していたかもしれません。

 ちなみにこの友人は俺には珍しく男ですぞ。

 まあ華奢な体付きで顔は女みたいに整っていましたが。


「へー電脳機械的なゲームか、機動ウォーリアーなゲームかな?」


 お義父さんの説明はよくわかりませんが、おそらく間違いないですぞ。

 どんな世界にも似た様なゲームはあるみたいですからな。


「ともかく、これが一つですな。もう一つは……歴史モノが好きな祖父が勧めた大学ですぞ。由緒正しき格式ばった大学と言う話でしたな」

「何だかんだ言って元康くんも結構な家柄って事?」

「そこまでではないですぞ。ただ、祖父が勧めていたってだけですな。俺の祖父は三国志や戦国時代、忠臣蔵などが好きでしてな。色々と教えてくれたお陰で俺は歴史が得意科目でした」


 そういった意味で祖父には助けてもらいましたな。

 年号の問題などで赤点など取った事はないですぞ。


「……ねえ、元康くんの世界の日本って武将が女性だったりしない?」

「男性ですが?」


 なぜ武将が女性なのですかな?

 というよりも歴史的に考えれば女性の立場や発言力が大きくなるのは近年になってからだと思いますが?


「そうだよね。さすがに武将まで女性の日本じゃないよね。元康くんの日本って男の数が少ない世界だったのかな? って思っただけ」


 ふむ……俺とお義父さんの日本は似て非なる日本の様ですからな。

 樹や錬も違いがあるのはわかっておりますぞ。

 俺がおかしいと思っていないだけで、そういう違いはあるかもしれません。


「一応どの大学もオープンキャンパスは見に行きました。で、祖父の勧めた大学は……そうですな。なぜか倉庫が気になって覗いた際に大きな古い鏡を見たのが印象的でした。きっとあれは目玉の展示物だったのでしょうな」


 人を惹きつける魅力のある品があるって事で、祖父も俺を勧めたのでしょうな。


「へー……元康くんも色々とあってこの世界に来たんだね」

「全て過ぎ去った愚かな俺だった頃の話ですぞ。俺にとってはこの世界が全てですからな」


 フィーロたんやフィロリアル様の居るこの世界こそが俺の至高ですぞ。

 他の世界なんて考えられませんな。

 帰りたくもないですぞ。


「とにかく、俺は新たな地を求めて都会の大学に進学したのですぞ。この決断に後悔はないですぞ。結果的にフィーロたんに出会い、真の愛に目覚めたのですからな」


 と言う所で今までの学生生活が脳裏を過りますぞ。

 ……思えば豚との恋愛ばかりしていた愚かな俺の学生時代ですな。


 おや?

 俺の記憶の中に女と思わしき者が居ますぞ。

 おかしいですな?

 過去の俺と付き合っていた連中はほとんどが豚だったはず……。

 浮かんできた相手を上から下まで思い出しつつ、なぜ豚じゃなかったのかを反芻して気付きました。


 そういえばこの女……女ではなく男でしたな。

 凄く華奢な体型の男で女装趣味等もあって女と見間違えたのですぞ。

 みどりやクロちゃんみたいな感じですな。

 そういった者達とも俺は恋愛をしました。


 男である事を最初から知っていたり、後で知ったり、改めて知った後にそれでも好きだと言ったり。

 豚とやった事に関しては吐き気が催してきますが、男と関係を結んだ件は……特に嫌な気持ちはないですぞ。

 女とほとんど変わりませんからな。


 俺がユキちゃんやサクラちゃんと同じ様に、みどりやコウ、クロちゃんを愛でているのと同じですぞ。

 ピラミッドの頂点にフィーロたん、次に大きなフィロリアル様がいるだけで、俺は等しくフィロリアル様を愛しています。

 性別など大した問題ではないですぞ。


 と言う所で俺はお義父さんに目を向けます。

 そういえばこのお義父さんはタクトを思い出して猛り狂った俺を炎の中で止めてくれたお義父さんでしたな。

 今でもあの時の事は思い出せます。


『うん……その気持ちはわかったから――』


 この後、なんかロマンチックな事を言っていたはずですぞ。

 そうですな。

 このお義父さんはそのお義父さんなのですぞ。


「……元康くん? どうしたの?」


 うーん……女装はしておりませんが、可愛らしく見えますな。

 最初の世界のようなお義父さんではなく、優しいお義父さんだからより強調されて俺は認識してしまっているのかもしれません。


 考えてみればライバルはお義父さんの処女を狙うと言った事がありました。

 既にお義父さんはパンダやゾウがいるので童貞を卒業はしていると思いますが、処女はどうですかな?

 ライバルは最初からそれを狙っていても何の不思議もありません。


 ならば……この元康、一肌脱げるかもしれません。

 俺は女装した男を誘惑した時の表情でお義父さんに詰め寄り、顔に手を添えますぞ。


「元康くん? なんか雰囲気がおかしいんだけど……」

「お疲れなのですな。俺が力になりますぞ」


 俺はお義父さんの力になりたいのは本心ですぞ。

 女装する男も内心では色々と解放したい想いが渦巻いていて、俺が心の支えになってあげた経緯がありますからな。


「え? あ……うん。元康くんには色々と助けてもらっているよ?」

「それだけではなく、もっと力になれるかもしれませんぞ」


 フーッとお義父さんの耳元に息を吹きかけます。


「ヒィッ!? なんか元康くんが前に首を舐めたみたいな感じに!?」


 お義父さんが若干怯えを見せておりますが、ここは勢いが重要なのですぞ。

 押せ押せですぞ。


「パンダやゾウに寄り添うように俺にだって、頼っても良いのですぞ?」

「えあ……? その……ね」


 そもそもお義父さんは虎男と寝ようとしたとの話。

 きっと傷ついたお義父さんはこのようにしてほしかったのでしょう。

 後一歩、強く出ればお義父さんは今夜、俺と一緒に寝てくれると思いますぞ。

 と言う所で――。


「んー……ナオフミー……いたー」


 サクラちゃんが寝ぼけ眼でトボトボとやってきました。


「あ、サクラちゃん! 起こしちゃった? ごめんね。でも助かったよ」


 お義父さんがハッと我に返ったかのようにサクラちゃんに近寄ってお声を掛けますぞ。


「それじゃ部屋に戻って寝なおそうか。元康くん、色々と話をしてくれてありがとう」

「どういたしましてですぞ。それでお義父さん、俺はいつもお義父さんの為に力を貸しますからな。豚やライバルには気を付けるのですぞ!」

「えっと……うん、ありがとう」


 色々と不安ではありますが、お義父さんの身持ちの堅さを信じて、その日はお義父さんと別れて部屋で俺は寝たのですぞ。

 サクラちゃんが婚約者の所に行っていたら……上手く行ったかもしれませんな!


必殺サクラブロック発動!

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槍だけに…♡
┌(┌^o^)┐
[気になる点] ゲームセンターの華奢な子って女なんじゃぁ‥ [一言] 面白いです!
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