由来
「ああ、こういえばそっちは怯えを見せるのか? この手は出来ればエルメロさんの元実家だから使いたくなかったんだが……お取り潰しを盾の勇者として宣言するか?」
「そ、それは――」
他のマンモスが懇願するように手を合わせて頭を下げ始めますぞ。
「うるさい! そんな身勝手な事が受け入れられるものか!」
「それはまさにやってみるのが良いんじゃないか?」
「く……」
老マンモスが更にヒートアップしていくようですぞ。
「まあ、俺もそこまでやる程、傲慢なつもりはない」
そう言い捨て去ろうとするお義父さんにパンダが言いました。
「面白くなってきたねぇ。ならエルメロ、アンタがシルトヴェルトの流儀で事を解決をすれば良いんじゃないかい?」
「……どうする? エルメロさん」
ゾウは老マンモスを始めとしたマンモス一家を見渡し……。
「盾の勇者様の命じるままに……」
とシルトヴェルト流の敬礼で応じますぞ。
「よし、じゃあ……シルトヴェルトの流儀、決闘で白黒を決めればいい。お前等が勝てたらどんな要望も盾の勇者として応えてやろうじゃないか」
後のお義父さんが、調子に乗りすぎたー!
と、ベッドで悶絶するほどの啖呵だったそうですぞ。
確かにお義父さんはこういう賭け事があまり好きではありませんからな。
どちらかと言えば賭け事を運営する側ですぞ。
「調子に乗った人間の青臭いガキが! その愚かさを身をもって味わわせてやる!」
老マンモスが怒りにまかせて、そう怒鳴りました。
「そんなことは……させない。」
おや?
ゾウの言葉遣いが若干強気なモノになりました。
「く……」
戦う決意を見せるゾウを見て怒りが少しばかり霧散したようにも見えますぞ。
「その代わり、俺が選んだ騎士エルメロが勝ったら……二度と彼女の件で関わる事、接近する事を禁じる。破ったらどうなるか……わかってるよな?」
「調子に乗って……」
「ならこっちの鼻をへし折ってみろ。それがシルトヴェルトの流儀なんだろう?」
「御爺様、次はもう一本の牙を……このエルメロ=ジャノンが圧し折ってやろうじゃないか」
おお、ゾウが何やら貫禄のある物言いですな。
普段とキャラが違いますぞ。
しかし、今ちょっと気になる言葉を聞きました。
老マンモスの片方の牙をへし折ったのはお前なのですかな?
経緯が激しく気になりますぞ。
と言うかそれが出来るのにどうして大人しくしていたのですかな?
「おうおう……やっと放蕩騎士様が地響きの女王としての姿を現したねぇ」
「それで良いよ。調子に乗ってる自覚もある。けど……いい加減、物怖じする必要も無いってわかったからね!」
パンパンとゾウは両手を合わせていつでも戦えるとばかりにアピールしますぞ。
それからドスンと一際強く地面を踏みしめました。
「ゼルトブルがどれほど過酷なのか……地響きの女王という二つ名……ここでどれほどの物か見せてやる」
「ふ……ふん! 身の程知らずが!」
「それで結構、いくらでも束になってかかって来な!」
ゾウのパンダに勝る強気な物言いですぞ。
そんな訳で俺達は……ゾウの元となった実家の屋敷の庭で戦いを見る事になりました。
で、ゾウの要望に答え、ゾウVSマンモス一家の戦いに参加する……五名のマンモスとの戦いとなったのですぞ。
偉そうな事を言っておきながら多人数とは……程度が知れますな。
尚、ケバマンモスが戦う事を辞退した様ですな。
それでお義父さんの護衛をやりたいとは身の程を知らないにも程があるのではないですかな?
「……この程度の人員で私の相手をするつもり? もっと多くても良いんだよ? ほら、お母様も掛かってきたら? 昔は勇敢に戦ったんだっけ?」
ゾウが耳を髪のようにかき上げる様にして実母らしい母親を挑発しますぞ。
その母親は物凄く怒っていますな。
「エルメロ! 調子に乗るのもいい加減にしなさい! 怒るわよ!」
「怒らせているのがわかってないの? そもそも貴方、私の事をまともに見たことも愛情の欠片らしきモノも見せた事なんてタダの一度も無かったじゃないの!」
もはや我慢をしないと決めたのか、ゾウはずけずけと言いますぞ。
そう、これですぞ。
俺が応援した豚共もこんな感じでした。
これは勝機が見えましたな。
「ここぞって時や私が何か失敗した時だけ馬鹿にする為に親面するのもウンザリ。ほら、シルトヴェルトの流儀に合わせて来なさいよ、卑怯者」
「……言ったわね。容赦しないわよ!」
「最初から容赦なんてした事ないでしょ。私の小さい頃、ヒステリックに殴った挙句、レイニー様に助けられるまで閉じ込められていた事を忘れはしないわ」
おー……なんと言いますか、俺の知る豚の複雑な関係の中で思い出しても飛びきりハードな過去ですぞ。
それが今、爽快感を伴って逆襲されるのですな。
ゾウ、行けですぞ!
「ぶち殺す! お前を殺して一族の汚点を完全に抹消してやる!」
マンモスが更に一匹追加ですぞ。
獲物が大きなハンマーとか色々物騒ですな。
どこまでゾウは数を増やして多勢に無勢で行くのか見物ですぞ。
しかし……実母相手でも容赦はもうしなさそうですな。
実母らしいマンモスも本気で殺す気概を見せていますぞ。
骨肉の争いとはまさにこの事ですな。
完全に頭に血が上っているのか荒々しい息遣いが聞こえてきますぞ。
と言うか……庭がマンモスだらけですぞ。
大きいのでどこか見晴らしの良い所で勝負を見たいところですな。
ちなみに屋敷の屋根からネズミ獣人や奴隷達が庭を盗み見し始めている様ですぞ。
「ふん。傭兵などという恥ずかしい仕事をして調子に乗っているようだが、これだけの者達を相手にどこまでやれるものか……この牙の痛みをやっと清算出来る時が来たというものだ!」
老マンモスは鉄球を振り回す様ですな。
しかし、エクレアの攻撃を対処出来るゾウに効くのですかな?
「ええ、忘れもしませんよ。レイニー様の葬儀でレイニー様を侮辱したあの件も含めましてね……あの時は四人掛かりでやっと私を止めましたよね?」
……既にその頃にはマンモス四人相手に善戦していたのですかな?
見た目によらずこいつら弱いのですな。
「ふん。何度だって言ってやる。あの姑息でちんけなネズミがシルトヴェルトの貴族の席に居る事自体が根本的に間違いなんだ。力と権力こそが全てであるとわからんとは、愚かにも程がある!」
「そのレイニー様が生きている間、何から何までまともに勝てなかった敗走の家柄が何を言うのかしら? 負け犬の様によく吠える事……」
どうやらゾウが老マンモスの牙をへし折ったのは死んだ老ネズミ獣人を侮辱したのが理由の様ですぞ。
しかし……めちゃくちゃゾウは鬱憤が溜まってそうですな。
お義父さんの準備したこの場で晴らすのですぞ。
「黙れ! その喚く口を二度と開かないようにボコボコにしてやる!」
「エルメロ、一族の汚点であるお前を処分してくれる!」
「本当、どこまでも迷惑を掛ける……自らの愚かさをその身をもって味わいなさい」
とまあ、話によると姉や兄等の親戚も合わせてゾウを散々殺す宣言をしてきましたな。
パッと見で判断するとしても……構えから何までゾウの方が戦い慣れているように見えますな。
この様子では決闘を見る価値も無さそうですな。
「はん。突撃しかできない張り子の虎みたいな連中ばかりね」
「おのれぇええええええええええええええ! どこまでも馬鹿にしおって!」
ちなみにシルトヴェルトでは張り子の虎と言うのは殺されてもおかしくない程の罵倒語らしいですぞ。
本来の日本語とは異なり、過去の大戦で負けたハクコを蔑んだ意味で、負け犬を意味する侮辱語に変化しているのだとか。
で……ゾウは両手両足に何やら腕輪と足輪みたいな物を付けました。
武器ですかな? それでこやつ等を血祭りに上げるのですな!
ん? あれはどこかで見た事がある様な気がしますぞ。
「――貴様ぁあああああ!」
マンモス達が揃って怒りを前面に放ち始めましたな。
「勇者様の加護で勝ったとか言われたら面白くないから、これは平等って意味でやってあげる。ほら、やるなら今がチャンスよ」
「あれって?」
お義父さんがパンダとエクレアに訊きますぞ。
俺も見覚えがありますな。
まだ俺が愚かだった頃、お義父さんが婚約者と逃げていた時に城に居た錬金術師に話をして見たことがあります。
フィーロたんをずっと天使の姿にさせるための道具の腕輪と似ていますぞ。
残念ながら受け取る前にお義父さんと遭遇してしまったので使う機会はありませんでしたが。
それの亜種ですかな?
「能力低下効果のある腕輪でしょうな」
「ああ、なるほどね……それなりに有名なんだ?」
「奴隷紋で縛らない時などに使ったりするねぇ。手枷や足かせさね」
「うわぁ……エルメロさんも溜まってたんだなぁ。ここまで条件下げて戦うとか……」
「潔くて私は好きだぞ」
エクレアがゾウの課したハンデを気に入った様ですな。
逆にマンモス達は舐められていると感じたのでしょう。
頭から湯気が出そうな程、怒っていますな。
ですが、アレ位のハンデが無ければ勝負にすらなりませんぞ。
「ここまで下げれば……守護騎士に任命される前と同じくらいか。ほら、いつでも掛ってきな!」
と、ゾウはいつもよりも強気な態度で言いました。
「地響きの女王の貫禄がたっぷり出てるねぇ」
「あれが闘士としてのエルメロ殿か……普段の様子とは雲泥の差であるな」
「さすがにあそこまで挑発的じゃないけどねぇ。ただ、女王の由来まで見えそうで面白そうな展開だよ」
「何かあるの? 単純に強いから女王って呼ばれているのかと思っていたけど」
「本来は強いって意味で女王とも呼ばれてるんだけどね。呼ばれた後辺りからやりだした観客アピールがあるんだよ。特に魔物相手のデスマッチで、それをやって見せて評判が良かったのもあって定着したって所さね」
観客としては何やら楽しそうな話題ですぞ。
「エルメロ大丈夫かなー?」
コウが心配そうに見ておりますな。
決闘にコウも参加したいとコウが仰ったのですが、ゾウが優しく微笑んでコウが出るまでもないと断られたのですぞ。
「大丈夫だと思いますわ。しかし……あそこまで血が頭に上っているのは見苦しいですわね。優雅でも雅でもなく、野蛮としか言いようがないですわ」
「そこはシルトヴェルトだからねぇ。白の女王様には理解できないかもねぇ」
ちなみにユキちゃんはレースでの活躍により、シルドフリーデン等の各所で白の女王と言う女王繋がりの異名がついていますぞ。
サクラちゃんはなんて呼ばれていましたっけな?
護衛フィロリアルとかおっとりフィロリアルでしたかな?
どういう事ですぞ!?
「メルロマルクも決闘前の舌論など、似たような所が無い訳ではない……土台、血気盛んな騎士や貴族は似たようになるのだろう」
エクレアも同意しているのですな。
「難儀ですわね。もっと優雅に胸や頭に的などを添えて先に散らした方が負け等の決闘にはなりませんの?」
「競技的な決闘ならあるが……相手を殺したいと思っている者ではどの道似たような事になるだろう」
「しょうがないのですわね。そろそろ始まるようですわね」
ゾウが戦闘開始の合図とばかりに地面から石を抜き出して上に高々と上げますぞ。
あれが落下したら勝負開始と言う事ですな。
やがて高らかに上げた石が地面に落ちました。
「これでも食らえ!」
マンモス六匹が揃ってゾウを取り囲んだ陣形を組み、魔法の詠唱を始めますぞ。
その間にゾウも周囲に意識を向けつつ魔法の詠唱を始めた様ですな。
「遅い! その程度か!」
老マンモスが勝ち誇ったように魔法の詠唱を終えて揃って発動させますぞ。
正直……詠唱はかなりゆっくりだった気がしますぞ。
簡単に無効化出来る程でしたな。
「「ドライファ・ブリザード!」」
「「ドライファ・アイシクルプリズン!」」
「「ツヴァイト・コールドショット!」」
マンモス達が揃って吹雪や氷等を放つ魔法をゾウ目掛けて放ちますぞ。
吹雪が幾重にも重なり、ゾウは一瞬で吹雪の中に姿が消えていきますぞ。
「ははははは! お前が喉から手が出るほど望んで使えなかった我が一族の代表的な魔法をその身に受けるが良い!」
ふむ……どうやらゾウの家元であるマンモスの家系は氷系統の魔法が得意なのですな。
肉弾戦だけが全てかと思いましたが、思わぬ攻撃方法ですぞ。
「へー……てっきり単純に殴りにかかるのかと思ったら、結構変則的な攻撃もするんだね」
「そりゃあ何だかんだ言ってシルトヴェルトでもそれなりに高名な家の様だしねぇ。腕力と体力だけって事じゃないだろうさね」
「ははははは! 盾の勇者、お前の贔屓にしているエルメロが氷漬けになる瞬間を黙って見ているが良い!」
「いや、それはどうかな?」
お義父さんはそんな老マンモスの挑発をどこ吹く風と言った様子で聞き流していますぞ。
まあ、確かに意外な攻撃手段でしたが、それもこの程度って感じですな。
それから老マンモスは雪の鎧を体に纏いましたぞ。
魔法で纏ったスノーアーマーって感じですな。




