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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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お家問題

「えっと、おそらくエルメロ様の事でしょうか? 話に聞くと槍の勇者様からの話が発端で盾の勇者様がプハント家へと視察に来たとの事だったので」

「そうですぞ」

「うわ……これが槍の勇者なのかよ。大丈夫なのか? 本気で」


 これがとは、随分な物言いですな。

 何を隠そう、俺は愛の狩人ですぞ!


「強さは噂になっている。シルドフリーデンの連中は元よりあのタクト一味を追いこんだって奴」


 ざわざわと使用人獣人と奴隷共が騒ぎますぞ。

 そうでしょうそうでしょう。

 シルドフリーデンやタクトはこの槍で仕留めて来ました。

 この槍を見てみると良いですぞ。

 フィーロたんや大きなフィロリアル様から加護を受けた神聖な槍ですからな。


「それで槍の勇者様、何をお聞きになりますか? エルメロ様の事でしょうか? それともプハント家の企みでしょうか?」

「話せる事は大体知りたい所ですな。出来ればお義父さんを連れてくる方が早そうではありますが……」

「恐れ多い……ですが、それをプハント家の方々が許すはずがないかと……」


 まあ、視察の最中は使用人と奴隷を隠しているような奴等ですからな。

 お義父さんの位置を常に把握しているでしょう。

 だからこそ俺が情報収集しているのですからな。


「事情を知るお前達を城の方に飛ばす事は出来ますが……その前にお義父さん達が会食など色々とやる様ですからな……」


 少なくとも夜までお義父さん達はゾウの家に居ることになるかと思いますぞ。

 視察を切り上げる名目は難しい所ですからな。

 まあ、ゾウの家族はお義父さんを侮っている様なので、ボロが出てそれを名目にお義父さんは逃げ切りを図りそうですがな。


 ですが……これはコウをしっかりと躾けてくれたゾウへの俺なりの善意から始まった事ですぞ。

 出来る限りがんばって聞くとしましょう。

 俺はより良い結果を導く為に努力しますぞ。


「では聞きますぞ。あのゾウはこの家ではどんなポジションなのですかな?」


 正直にいえば、俺が日本に居た頃の豚の出生の中に似たような奴がいそうな気配はしますな。

 良い家の令嬢、もしくは家族に蔑まれているのですぞ。

 マンモス一族の中でゾウですからな。

 おそらく何かしらの理由があるのは一目でわかりますぞ。


「エルメロ様は……このプハント家の中で……同じ親から生まれたにも関わらず他種族として生まれてしまいました……原因は何代か前の一族の方なのはわかっております」


 ネズミ獣人の話ではこうですな。

 ゾウはマンモス一族の中で、隔世遺伝でゾウとして生まれてしまったのだそうですぞ。

 その為、一族の中でも嘲笑の対象であり、家を継ぐ事は許されない事が最初から決まっていたそうですな。


 この辺りの感覚はシルトヴェルトの種族内でも千差万別なのですが、一子相伝で家を継ぐ訳ではないのだとか。

 わかりづらいルールを語っていましたが……名字に似た何かみたいですぞ。


 名字であって名字で無く、家を継ぐことを許されないけど、名字は語れる。

 そんなよくわからない認識ですな。

 騎士ではあるけど貴族ではないみたいな感じですかな?

 とにかくゾウは生まれ持って一族内で決められた場所があるそうですぞ。


 で、そんな親とは似ていない外見の所為もあって、親からの愛情などを掛けられることなく一族内の一番下として虐げられて育てられたのだとか。


「そのような不遇な状況を見たレイニー=ジャノン様がエルメロ様をプハント家から預かる形で引き取りました」

「誰ですかな?」

「私共を始めとしたプハント家の一部使用人がお仕えしていた貴族様です」


 ここでネズミ獣人は小さな映像水晶を出して俺に見せてくれました。

 ゾウが見ていた絵に居た年寄りネズミですな。


「ほう……ゾウの育ての親と言う事ですな」

「はい。レイニー様はシルトヴェルトでも知将として名を馳せた方でしたので、その際の恩義や人材教育などの伝手や権力もあり、プハント家は拒む事が出来なかったのです」


 ネズミ獣人は我が事のように年寄りネズミの事を絶賛していきますぞ。

 なんでも過去のシルトヴェルトでの大きな戦いの際、英知の賢王の策略を裏読みし、被害を最小限に抑えようと尽力したとか色々と逸話があるようですな。

 この年寄りネズミがいなかったらシルトヴェルトはもっと酷い状況にまで追い込まれていても不思議じゃないそうですぞ。

 派閥としてはゲンム種派閥に属していたみたいですな。

 年寄り同士仲が良さそうではありますぞ。


「エルメロ様はレイニー様の手伝いという名目で預かり、雑務と称して教養から武術など、様々な事を教わって行きました。その際の出来事は……今でも思い出されます。とてもゆったりとした安らかな時間でした」


 ゾウと年寄りネズミと使用人ネズミ達の生活が平和だったのはなんとなくわかりました。

 物心付く前から蔑まれて育てられた幼いゾウと小さな年寄りネズミとの生活が語られて行きます。


 最初は怯えを見せていたゾウでしたが、年寄りネズミの甲斐甲斐しい語りかけにより、徐々に心を開いて行く、年寄りネズミの屋敷での日々ですな。

 年寄りネズミが教師役となり、ゾウに色々と教えて行き、武術なんかも覚えさせたそうですぞ。

 サイズ差はどう対処したのか実に不思議ですな。

 おそらく魔法か何かを使っていたのだろうとは思いますぞ。


 知将ではありましたが武勲もあったそうなので近接戦闘もなかなかに出来た可能性もありますな。

 この世界はLvと能力値……ステータスが重要ですから、大きさが全てではないのですぞ。

 ネズミでも攻撃力が高ければゾウを投げ飛ばす事など容易いですからな。

 きっとそんな感じでゾウを相手にしていたのでしょう。


「何分、若かりし頃のレイニー様は自らの種族内で血みどろの抗争を経験し、お子様がいない方でしたので……エルメロ様を我が子同然のように可愛がっていました……エルメロ様は何が一番得意かご存知ですか?」

「戦いではないのですかな?」


 パンダの話ではゼルトブルでも五本の指に入る猛者と言う話ですぞ。

 動きは鈍重でしたが隙はほとんど無い感じでしたな。

 むしろその鈍重さを囮に使っている位ですぞ。


「エルメロ様は音楽の才能が御有りなのです。特に歌に関してはレイニー様も大層気に入りまして、よくリクエストして私達も演奏に参加していた程でして……私達も大いに楽しみました」


 そういえばゾウがフィロリアル様達を相手に合唱の練習をしていました。

 あれはその影響と言う事ですな。

 ゾウの発声は……確かにとてもよく通る良い声が出ております。

 オペラ風の声でしたがな。それ以外でも歌を歌えるみたいですな。

 ネズミの使用人達が揃ってゾウは歌が上手いと仰っています。


「そんなゾウがなんで傭兵なんぞをしていたのですかな?」


 その年寄りネズミ自体がどこにもいませんぞ。

 喧嘩をしたとか強引に引き取られたとか、色々と考えられますが俺の豚遍歴からの経験からすると、おそらくその年寄りネズミが死んだとかでしょうな。

 俺の質問にネズミ獣人は若干表情を暗くして答えますぞ。


「それは……レイニー様が寿命でお亡くなりになり、継ぐ者がいない所為でジャノン家がお取り潰しになったからです」

「ゾウが継げばよかったのではないですかな?」


 この辺りは豚との恋愛経験からよくある結果を尋ねますぞ。


「エルメロ様がジャノン家を継ぐ事に関しては、間違いなくプハント家や様々な家が介入する事をレイニー様は予見しておりました……ご自身の死後の権力に関しても把握していたのでしょう……遺言なども残しては居たのですが……かのゲンム種の方も擁護しきれず……」


 こうしてジャノン家の使用人などもこのように……とネズミ獣人は嘆く様に言いました。


「この件でレイニー様が病床に伏した際、エルメロ様に仰いました。『私の騎士の地位は預けたままにしておく。嫌ならあの家から出て……好きに、外の世界に旅立ちなさい。君を縛るものは何もないんだ。どうか幸せに、私達の歌姫……』と……そう、エルメロ様の背中を押し、エルメロ様はレイニー様の言葉を受け……葬儀を終わらせた後、しばらくこの屋敷に滞在した後、家を出ました」


 ふむ……この経歴だけ見ると完全に豚共と似たような感じのやや重い問題の様ですぞ。

 まあ、豚共よりもゾウの方が深刻でしょうな。

 何せゾウは良いゾウですぞ。

 豚と比べたら失礼ですな。

 これは何とかしなければいけませんぞ。


 ゾウの恩人は俺の恩人でもありますからな。

 どうにかして恩人ネズミの望みを叶えてやらねばいけません。


「少しばかりこの家に留まっていたのはプハントの家の者達とレイニー様に関して話がしたかったのと、大切なレイニー様の品々を家を出た際に処分されないようにする為だったそうです……」

「あまり良い話にはならなかったのは想像に容易いですな」

「はい……」


 あの家族ですからな。

 言うまでもなくゾウがどれだけがんばっても暖簾に腕押し、糠に釘ですぞ。

 やるだけ無駄。

 がんばったってまったく評価などしないのはわかり切っているようなものですぞ。

 だからこそ、お義父さんを連れてきたくなかったのでしょうな。


「つまりゾウの騎士の地位はコヤツから授かったものなのですな?」

「はい……そうなります」


 そこから流れ流れて傭兵としてゼルトブル等で活動する放蕩騎士。

 地響きの女王として生きていく事になったという事でしょう。


「お前達はなぜこの家に仕えているのですかな?」

「エルメロ様がいつでもお帰りになられる場所を守る為……他にも最低限仕事を失わないようにとのレイニー様の威光が少しばかり残っているお陰です」


 と、ネズミ獣人は苦笑いをしておりました。

 その笑顔は俺でもわかるほどに寂しげですな。


「ゾウに関してはわかりました。ではこの家が何を企んでいるのですかな? 大方、活躍したゾウからその地位を奪い取って気に入った家の者をお義父さん……盾の勇者に嫁がせようとしているという所ですかな?」


 その辺りは本人達の会話だけでも容易く想像できますぞ。

 ドロドロのお家騒動ですな。

 金持ち貴族の高級豚がよくやっていた問題ですぞ。


「はい、概ね間違いありません」


 やはりそうですな。

 この場合の解決方法は経験からいくらかありますな……豚をなぞるのは嫌ですが、参考に色々とやる手はありますぞ。

 俺がよくやったのは屋敷内に仲間と一緒に乗り込んで勢いで迎えに行って、根本的な解決にはならないような『俺はがんばる君が好きだ! 金持ちだから好きになった訳じゃない! 家柄がなんだって言うんだ!』とかそんな綺麗事と感情論を豚に言う感じでしたな。

 すると豚は閉じこもるのをやめて家と闘ったり飛び出したりと色々とやり始めるのですぞ。

 結果的になんでも解決する感じですな。


「槍の勇者様……どうか、エルメロ様をお助けください」

「任せろ、ですぞ」

「また皆殺しとか言いそうじゃないか?」


 奴隷が俺を指差して言いますぞ。

 なんですかな?

 まるで俺が殺す事しか出来ない奴みたいですぞ。

 とはいえ、お義父さんやゾウを困らせるマンモス共を血祭りにあげるのも良いですな。


「お望みとあらば死体も残さず消して行くのも楽そうですな。しばらくは治安維持が出来ますぞ」


 一族全員突然行方知れずになったとかも楽ですな。

 今の俺の様な状況で情報収集をし、問題のある勢力が会議をしている場などに紛れ込み、リベレイションファイアフロアー等で部屋ごと死体も残さず滅却処理をすれば不安分子の抹消は容易いですぞ。

 お義父さんを利用する邪悪な勢力は消すに限りますな。


 思えばループを始めた際、シルトヴェルトに来た時に妙な会議をしているような奴を探して消しておいた方が良かったかもしれませんな。

 シルトヴェルトも一枚岩ではないですからな。

 秘密裏に証拠も残さず消すのは有効かもしれません。

 マンモス一族の者もその会議の席に混ざっていたかもしれませんからな。

 一石二鳥になったかもですぞ。


「おいおい、本当に大丈夫か!?」

「うーん……」


 まあ、さすがにそこまでしなくても解決自体は出来ますかな。


「大丈夫ですぞ! きっとゾウがこの家をめちゃくちゃにしてくれますぞ!」


 俺がする事は大して無いですな。

 それとも俺がゾウの所に乗り込んで豚に言った様な勢いのある綺麗事を言うのですかな?

 確かにゾウは良いゾウで気に入っていますが、あの時のような勢いのある好きを言えますかな?


 ……無理ですな。

 真の愛に目覚めた俺はフィーロたんが一番ですぞ。

 お義父さんになら同じことを言えると思いますがゾウを攻略してどうするのですかな?

 これはお義父さんにこそお願いする案件かもしれません。

 もしくはコウに任せるべきでしょうか。


 コウにしっかりと聞かねばなりませんな。

 ゾウの事を異性として、生涯愛する位好きなのかと。


 なんとなくですがコウのゾウへの好きはお姉さんやそのご友人と同じくらいの好きなのだと思いますぞ。

 お姉さんを元に作り出した奥さんと親しくしていた時のような態度ではないのを覚えております。

 ですが、いつそうなるかわかりません。

 コウにそれとなく聞いてみるとしましょう。


 ……中学の時に俺に豚を紹介したあいつの気持ちがなんとなくわかってきた気がしますな。

 きっと今の俺みたいな気持ちだったのでしょう。


 もちろん、お義父さんのご意見も聞かねばいけませんな。

 ゾウの態度からするとお義父さんの応援の方が効果があるかもしれません。

 俺の豚経験を元にした勢いのある励ましをお義父さんに伝授する時が来たのですぞ。


「なあ、エルメロ様って奴があいつに囁かれて大暴れしそうなんだが……」

「だ、大丈夫かと……それとエルメロ様を侮辱するのはおやめなさい」

「情報提供感謝ですぞ。では失礼しますぞ!」


 情報収集は済みましたな。

 俺はふっと隠蔽状態に入って移動を再開しますぞ。


「き、消えた!」

「消えていないですぞ。話は聞いたので帰るだけですぞ」

「こ、声だけしか聞こえない……なんて恐ろしい技術だ……」


 と、ネズミ獣人達と奴隷とのやり取りを終え、俺はコウ達が留守番している部屋へと戻ったのでした。


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