フライングモード
「俺の方に来ちゃうのかー……」
なぜかお義父さんが遠い目をしているような気がしますぞ。
何が違うのですかな!?
お義父さんの酔い耐性は完璧ですぞ?
「いや、そうではなくキタムラ殿の事なのだが……」
「酒にはべらぼうに強いのは確かだねぇ……あたいを泥酔させてケロッとしてたし」
「ラーサさんも便乗しない」
「お義父さんは絶対に酔いませんぞ!」
「確かに酔った事はないね。だけどエクレールさんの言いたい事は別の所なんだよ、元康くん」
と、なぜかお義父さんが俺に優しげな口調で言いますぞ。
よくわかりませんな。
「思い切り脱線してるから話を戻すと、エルメロさんの家には人間の奴隷がいるかもしれないって事なんだね」
「大型獣人はその大きさ故の不便さを持っているからな……他に気位の高い獣人などが奴隷を好むと聞く」
「へー」
「ほら、そこの道を歩いている種族などがそれだ。ただ、あの種族は奴隷との関係が良好になりやすいとの話だ」
と、エクレアが馬車から町並みの人々を指差しますぞ。
猫の獣人ですな。
後ろに人間の奴隷を連れているようですが、奴隷側は小奇麗でタダの荷物持ちって感じですぞ。
なんとなく仲がよさそうに見えますな。
「猫? ああ、確かに猫は飼うと言うよりも飼われるとか世話をするって感じだって聞くね。その延長線上ってことか。仲が良いんだね」
「イワタニ殿が何か勘違いしているような気もするが……」
「例えが悪いんじゃないかい?」
「うむ……ともかく、イワタニ殿の印象を害さないようにシルトヴェルトは気を使っているが人間の奴隷が存在する国なのだ。それを忘れぬようにしてくれ」
「うん。で、エルメロさんの家も奴隷をきっと使っていると」
「はい……一応、シルトヴェルト内では力がある家柄なので……」
ゾウが不安そうな口調で答えますぞ。
そんなにも行きたくないのですかな?
「エルメロ、嫌だった?」
「大丈夫ですよ。いずれ来た問題だとは思いますからね」
そういえばコウが名字呼びをしようとしたら嫌がりましたな。
実家がそこまで嫌なのですかな?
「ちょっと雲行きが怪しいけど……まあ、挨拶には行くべきだしね」
なんて感じで俺たちはゾウの実家へと辿り着いたのですぞ。
「うわー……想像通りと言うか想像以上に大きい屋敷だね。主に横に」
と、お義父さんは馬車からゾウの実家とやらを見て言いますぞ。
馬車の外には広大な敷地にある大きな屋敷がありますな。
不思議なのは横に長いだけで二階建てではない感じですな。
インド風な宮殿とでもいうのか、そんな雰囲気が漂った装飾が所々見受けられますぞ。
でも衣服は西洋風という、なんともごっちゃな感じですな。
そんな屋敷の玄関には何匹もの……マンモスが一同揃って待ち構えていました。
「我らがプハント領によくぞいらっしゃいました盾の勇者様。どうかここを我が家だと思って気楽にお泊りください」
と、かなり年老いたマンモス獣人が一歩踏み出して言いますぞ。
なんとなくですが、眼光と言うか目付きが鋭いですな。
野心に溢れている感じがヒシヒシと伝わって来ますぞ。
「わしはこのプハント領を統治しているリジオ=プハント。どうぞよろしく」
「盾の勇者をしている岩谷尚文です。この度は、俺を護衛をしているエルメロさんの家族にご挨拶をとお邪魔させていただく事になり、厚い歓迎、誠にありがとうございます」
お義父さんが代表として挨拶を返しますな。
それから俺達が各々自己紹介をしました。
ユキちゃんは高貴な感じでスカートを上げての挨拶ですな。
沢山の経験を得てレディとしての質が上がりましたな、ユキちゃん。
「では旅の疲れもあるでしょう。盾の勇者様一行にはごゆっくりと屋敷で疲れを癒してもらい、歓迎の席を楽しんで貰いましょうか」
当主マンモスとの挨拶を終えるとその隣にいたメスマンモスっぽい奴が提案しました。
「ほら、エルメロ。突っ立ってないで案内をお願いしますよ」
「は、はい……どこの部屋を案内するのでしょうか?」
メスマンモスの催促にゾウが頷き、若干困った様子で尋ねますぞ。
「そんなの決まっているでしょ。盾の勇者様は本日開けた当主の部屋で、他の方々は客間よ」
予想通り、ゾウと家の者達との距離があるのがわかりますな。
家のルールを理解していないのがこのやり取りだけで判断できますぞ。
と言うよりも……マンモスの中のゾウなので、完全に浮いてますぞ。
「いえ、さすがに当主の部屋に泊るのは憚られますし、護衛騎士の存在を蔑にはできません。今回は同行する者達と同じ部屋でお願いします」
お義父さんが言葉巧みにマンモス一家の案内を拒否しますぞ。
これ等の回避能力も大分上がりましたな。
まあシルトヴェルト初日など、面倒な体験だったので対策を取っていたのでしょう。
「ですが……」
「お気になさらず。ご迷惑を掛けているのはこちらなのですから」
「ふむ……承知した。ではエルメロ、案内しなさい」
「えっと……」
ゾウはキョロキョロと挙動不審に左右に頭を振っております。
「あなたね……もう良いわ、こちらです」
と言う訳で俺達はゾウの屋敷の中へと入る事になりました。
……俺達が小人にでもなったかのような屋敷内ですな。
何もかも大きいですぞ。
広間は元より、廊下にしても大きくて、部屋等は体育館かと錯覚出来そうなほどですぞ。
何より、歓迎で集まっていたマンモス達が俺達の近くで歩き回り、ズシンズシンと足音が続いております。
それで案内された客間に到着しました。
やはり大きいですな。天蓋付きのベッドですぞ。
城にもありますが、とても高いですな。
ベッドが高くて届かない訳ではないですが、よじ登る感じですぞ。
「ではごゆっくり……エルメロ、後で来てくださいね」
「はい。わかりました」
なんて感じで俺達は客間に入り、休む事になりましたな。
「うーん……一応、歓迎はしてくれている感じだね」
「何もかもが大きいねぇ。城の方でも区画によっちゃこういうのがあるけど、ここまで全規格が大きいと不便っちゃ不便なんじゃないかい」
「そうだね。一応使用人みたいな人達もいるみたいだけど、彼らの部屋とかの方が俺達に合ってそうかな」
「おそらく、客間とは言ってましたが一族の誰かの部屋かと思います」
「そっか……確かになんとなく生活感があるような気はするね」
何もかもがビッグサイズな部屋ですぞ。
机もあり、本棚もありますからな。
「普通の人用の扉が猫の出入り口みたいで、面白くはあるんだけどね」
お義父さんが出入り口などを指差して頬笑みますぞ。
それから窓辺の方に行って外を見ました。
景色は良いですな。大きな畑などがあって土地は豊かな様ですぞ。
若干温度が低めではありますがな。
山の方を見ると雪が残っているように見えます。
「それじゃあ私は呼ばれているので行ってきますね」
「えっと、悪い意味で何か言われそうな流れだけど、俺も行った方が良いかな?」
「いえ、ここの現状を知る為にも私だけで行った方が情報は多いと思います」
ふむ、確かにあの調子ではお義父さんの前ではボロを出さないでしょう。
情報収集という面ではゾウの言う通りかもしれませんな。
ゾウがやや不安そうな足取りで扉に手を掛けますぞ。
「エルメロー大丈夫?」
コウが心配そうに声を掛けますな。
ゾウが振りかえって頬笑みますぞ。
「ええ、大丈夫です」
ガチャっと音を立ててゾウは部屋を出て行きました。
「なんか不安だなぁ……」
「エルメロの奴、自分の家だってのに間取りを知らないって顔だったねぇ」
「ですわね。昔住んでいたなら把握していると思いますわ」
ユキちゃんが屋敷の装飾をチェックしながら答えますぞ。
確かにこれ程に大きな屋敷を何度も建て替えるとは思えません。
その屋敷の間取りがわからないという事は、わからない程度の期間しか住んだ事が無い証拠ですな。
「……一目で慣れない家なのだと言うのはわかるやり取りであった」
「無数のマンモスの中で一人だけゾウって感じだもんね……」
ゾウの家の闇を垣間見たような気がしますぞ。
「家を継げないから放浪していたんだっけ?」
「傭兵仲間にはそう言ってたねー一応騎士だーって吹聴して」
「養子か何かかな?」
「どうなのか知らないねぇ。それこそ本人に聞くのが早いと思うねぇ」
「ここまで来ておいてナンだけど根掘り葉掘り聞いて良いように見えないなぁ。それに比べてラーサさんの所は気楽に聞けたね」
「うむ、それは間違いない。良い方達であった」
「チッ!」
ここでパンダが舌打ちしますぞ。
行儀が悪いですな。
「……エルメロさん大丈夫かな」
「なんなら偵察しますかな?」
「それも良いとは思うけど……」
お義父さんが部屋の外の方に意識を向けますぞ。
「警護と言う名目で控えているな。あそこを掻い潜るのは非常に面倒そうだ」
「そうだね」
と、同時でしたかな?
部屋をノックする音が響きますぞ。
「失礼しまーす」
大きな水差しを持ったマンモスが室内に入ってきましたな。
「お水をいつでも飲めるように持ってきました。この地の水はシルトヴェルトでも名水に数えられる雪解けの水なんですよ。氷も良い物を使っていますので、どうぞ」
なんとなく腰付きがモデル歩きをしていた豚に似た歩調のマンモスですな。
しかも妙な食い込みラインがありますぞ。
付けまつ毛まで着用し……若干ケバイマンモスですな。
「盾の勇者様~この前は申し訳ありません。私、あの時の事を謝りたくてー」
「ああ、どこかで見たと思ったら城の浴場にいた子なんだ」
「そうです。あの時は、ごめんなさい」
「うん。気にしないで良いから、水を持ってきてくれてありがとう」
「でね。盾の勇者様、せっかくだし、屋敷のお庭を案内しましょうか? 入浴の際もお背中も流しますよ?」
お義父さんがさりげなく帰れとの合図を送っていますが、ケバマンモスは引く様子が無いですぞ。
さすがに空気を察したのかパンダとエクレアが間に立ちました。
「失礼」
「ちょっと距離が近いねぇ。謝罪したのは盾の勇者もわかってるみたいだから良いんじゃないかい?」
ケバマンモスはパンダの言葉に眉が若干跳ねたように見えますぞ。
「庭の案内は護衛である私達も同行して良いのだろう?」
「……ええ、良いわよ。こっちにどうぞ」
どうやらケバマンモスが庭の案内をするそうですぞ。
結構大きな庭なので、何かを育てているのかもしれませんな。
「コウ、エルメロが帰ってきたらイワタニが庭に行ったのを説明できるように待ってるー」
ここでコウが行かない事を表明していますな。
コウもコウなりにゾウを心配しているのでしょう。
よし、俺もがんばらねばなりませんな。
俺はお義父さんに視線で合図を送りますぞ。
「では私も待機しますわ」
ユキちゃんも察したのか合わせました。
「では、俺も部屋で待っているとしましょう」
「そう? ……じゃあ、よろしくね。元康くん達」
「お任せあれですぞ」
などと言いながら俺はそっとケバマンモスの視線から逸れる様にベッドの影に背を預けて敬礼のポーズを取りました。
「じゃあ、こちらです」
若干ワザとらしい感じでしたが、ケバマンモスは気付かなかった様ですな。
という訳でお義父さん達はケバマンモスに連れられて庭へと行く事になりました。
そこでケバマンモスが部屋の扉を開けて出ていく直前、俺は隠蔽状態になり、お義父さん達の背後にぴったりと付いていきます。
ケバマンモスはお義父さん以外に興味が無いのか、俺がその場から消えたにも関わらず気付きもしませんでした。
そして部屋を出ると同時にサッとお義父さん達とは逆の方向に移動をしたのですぞ。
向かうはゾウの足音が行った先ですな。
しかし……やはりというか随分と広い屋敷の様ですな。
偵察するのは骨が折れそうですぞ。
「ん……?」
という所でマンモスの一匹がこっちにやってくるようですぞ。
俺は隠蔽状態から通り過ぎようとしましたが、マンモスがこっちに顔を向けようとしている気がしたので立ち止まりました。
「凄く小さな振動があった気がするが、奴隷や使用人共……命令に背いたのか?」
などと呟いて周囲を目視で探しております。
「……気のせいか」
ですが見つけられなかったからか、マンモスは首を傾げながら去って行きました。
どうやら足音に関して敏感な様ですぞ。
いえ、足音ではなく振動でしたかな? 地面からの振動に敏感なのでしょう。
意外にも優秀な輩がいる様ですな。
非常に面倒ですぞ。
ライバルならば飛んで気づかれずに移動できそうですな。
しょうがないので開発中のドライブモード、サードフォーム候補、フライングモードで行きますぞ。
俺は槍で大風車を使い、高速回転して宙に浮かび移動していきます。
もちろん魔法を併用して飛行音や風圧を消していますぞ。
パラパラパラですぞー!




