知られたくない家族
「あのね……二人とも……」
お義父さんがあきれ気味ですぞ。
「ちなみにトラウマが無くてもコウが大人しいループもありましたな。俺がお義父さんを助ける事が出来ずにメルロマルクでがんばったお義父さんですな」
「ああ、ガエリオン殿がワイルドというイワタニ殿か……盗賊は資源だったか」
「ちなみに再度盗賊を狩りに行く際には『収穫』と零した事があるとかなんとか」
「イワタニ殿!」
「それ、並行世界の俺だから! やってないでしょそんなこと! 元康くんも混乱を招くような事は言わないでほしいんだけど」
お義父さんが俺の事を睨んできていますぞ。
俺は話をしただけですぞ。
「いやぁ……そっちの盾の勇者に会ってみたいねぇ。余計な詮索とかしないでこっちも苦労しなさそうだよ」
「ラーサ……」
「ふむ……確かにラーサ殿はそっちのイワタニ殿と気が合いそうだと私も思う。不快に思ったら申し訳ない」
「いいさね。で、コウが何か怖くないって顔をしてるけど、どうするんだい? 藪を突いて盾の勇者を怒らせるかい?」
「うー……コウ、イワタニ怖くないもん」
う~ん、コウの男心に火を付けてしまったかもしれません。
ですが、今のコウの怖くないと、あの時の怖くないでは意味が違うのですぞ。
「怖がられるのは俺も嫌かなぁ……別に俺を怒らせても良い事なんて無いと思うよ?」
「ですな。コウ、深く考えてはダメですぞ。良い子になったとみんなが褒めているのですからな」
「んー……わかったー」
若干疑問には思ったようですがコウは理解をしてくれた様ですぞ。
これでコウの問題は解決ですな!
「今日はコウ、元康様ととても楽しい時間を過ごしたのですわね! ちょっと羨ましいですわ!」
ユキちゃんが悔しげにコウを見ていますぞ。
「男同士の楽しい一時でしたな」
「ナンパー」
ユキちゃんとサクラちゃんを除く、その場に居た者達が氷の様に固まりました。
お義父さんが俺の方を見て何やら困った顔になっていますぞ。
「ナンパって……どこで、誰と?」
「お城から出てねー草原で野生のフィロリアル達にご飯上げて走ったり遊んだりしたよ?」
「まあ、広い範囲で言えば確かにナンパだね。相手が野生のフィロリアルだけど……コウは雄だし、間違ってもいないのかな?」
「男の嗜みですぞ。出会いは重要ですからな。そこから恋が始まったりするのですぞ」
豚とばかりの思い出が過りましたがその時の思いに偽りは無かったですからな。
「言わんとしているのがわかるようなわからないような……考えてみれば元康くんって顔は良いし、ギャルゲーみたいな世界出身だしなー……」
ナンパがあるギャルゲーって……とお義父さんは呟いていましたな。
「今度、お義父さんも一緒に行きましょう」
「いや、俺は大丈夫だから……そもそも立場的にね」
と、お義父さんにやんわりと断られてしまいました。
同じ勇者なのに立場として出来ないのですかな?
フィロリアル様に声を掛ける素晴らしい事ですぞ?
ああ、なるほど、この元康、お義父さんの考えがわかりましたぞ。
お義父さんがモテて俺が負けるかもしれないと思っているのですな。
最初の世界でお義父さんの下に馳せ参じた時、フィロリアル様達がお義父さんをとても気に入りましたから、そのような事になることを心配したのでしょう。
「HAHAHA、心配は無用ですぞ。どれだけ声を掛けられるかの勝負を楽しむのも一興って奴ですからな!」
「意味をわかってない……」
「あんまりして欲しくないですわ」
ユキちゃんが若干不満そうにしています。
確かにユキちゃんには良くない話なのかもしれませんな。
ですがこれも男の甲斐性ですぞ。
「ユキちゃん、女が覗かれる事で魅力が上がるように、男はナンパをすることで男が上がるのですぞ。初心なままでは余裕がないダメな男になりますからな。男の嗜みですぞ」
「なるほどですわ! 貴族の嗜みですわね。さすがは元康様ですわ!」
おお!
さすがユキちゃん、理解してくれました。
「微妙に貴族意識を掠めているのは否定しがたい……」
「ですね……」
エクレアとゾウが何やらため息交じりに言いますぞ。
「俺は初心なままで良いかな……」
お義父さんがぽつりと零しますぞ。
「そんなではダメですぞ、お義父さん! 初心なままでは、ライバルにやられてしまいますぞ!」
奴はお義父さんの童貞を狙っているのですぞ!
お義父さんがやられてしまわない様にその辺りの耐性を付ける必要があるのではないですかな?
「奴の突撃を往なす余裕は必要ですぞ!」
「ああ、うん、そうだね元康くん。それで、元康くんがエルメロさんを推しているのはコウに良い事を教えたからかな?」
「ですぞ! フィロリアル様と楽しく歌っておりましたし、良いゾウなのですぞ! お義父さんも良くしてほしいのですぞ!」
「それを言うだけなのにここまで脱線するっていうのもねぇ……槍の勇者の奇怪な精神を察するのは疲れるよ」
なんだと、ですぞ。
パンダが愚痴っていますが聞きませんぞ!
そもそも俺程わかりやすい男は居ませんぞ。
「うん、エルメロさんは信頼してるよ。頼りになるし、護衛もしっかりしてるからね」
「恐縮です」
「もっとよりよく知るべきなのですぞ」
ゾウは良いゾウですからな。
お義父さんと一緒にフィロリアル様と遊ぶように提案してほしいですぞ。
最近お義父さんはパンダの実家での鍛錬とシルドフリーデンでライバルとの公務でお出かけしており、フィロリアル様達との触れ合いが少し足りないですからな!
俺が提案するとパンダの耳がピンと立ち、ニヤついた顔になりました。
「良いんじゃないかい? この際だ。エルメロの実家に、盾の勇者様ご来訪と行こうじゃないか」
随分と早い口調、尚且つテンションが高めでしたな。
「ラーサァア!」
ゾウが恨めしい目でパンダを睨んで言いますぞ。
なんですかな? 嫌なのですかな?
俺の勧めなのですから良い事のはずなのですぞ。
「ラーサさん? なんかエルメロさんが嫌そうなんだけど?」
「なんだい? アタイの家には行けるのにエルメロの家には行けないってのかい? そりゃあ不公平なんじゃないかい?」
「う……それを言われたら言い返せないな。ラーサさんも言うね……」
「へへへ、仲間がほしいのさぁ。知られたくない家族をお披露目と行こうじゃないか、エルメロ」
「くううう……」
ゾウが若干恨めしい感じでパンダの言葉に奥歯をかみしめるように答えますぞ。
「ふむ……その理屈だと、客将扱いの私も実家を見せるべきなのか? いや、私はラーサ殿達とは役目が異なる護衛だが……」
「そうなんじゃないかい?」
「だが、私は生憎と家族は最初の波で失ってしまっていてな……」
「ああ……」
パンダが察しますぞ。
確かにお姉さんの故郷でもあるエクレアの故郷は廃墟ですからな。
この世界では女王の命令で復興が開始されたそうですが。
「アンタは良いよ。そりゃあ大変だろうしねぇ。だがエルメロは別だねぇ。盾の勇者様? 行かなきゃアタイは納得しないからねぇ」
パンダが物凄く推してきますぞ。
「はぁ……わかったよ。俺もラーサさんには好奇心から無茶を要求しちゃったからね。まさに藪蛇だったか」
「そりゃあね」
「けど、後悔はないよ。そのお陰で色々と発見もあったしね」
「アンタは少しは懲りるべきだと思うねぇ」
お義父さんとパンダが仲の良いやり取りをしますぞ。
そこで今まで黙って成り行きを微笑んで見守っていたシュサク種の代表が挙手をしますぞ。
「ではプハント家に連絡をしておきましょう。それでよろしいですか?」
「えっと……」
ゾウが凄く顔を渋らせながらお義父さん達を見て、諦めたように頷きました。
「はい……承知いたしました。シルトヴェルトの盾の勇者様のお心のままに……我が家がご迷惑を掛けないように尽力をする次第です」
何やら不吉な気配があるような気がしてきましたな。
なんとなく今のゾウからは……最初の世界のお義父さんとグルだった盗賊と同じ匂いがしますぞ。
「何事もなく済めば良いのですが……」
と、ゾウはやや不安そうに言いましたぞ。
「エルメロー、コウがいけなかったー?」
テンションの低いゾウにコウが心配そうに声を掛けますぞ。
ですが、ゾウはコウに微笑みかけましたな。
「いいえ、どちらにしても避けては通れない事でしたので、良い機会なのかもしれません。ですから、気にしなくて良いですよ」
「そう?」
「んー……?」
「ええ」
ゾウはコウが心配しなくても良いとばかりに微笑んでコウの頭の上に手を近づけて止めますぞ。
コウは自らその手に頭を擦る形で撫でさせてますな。
そういえばゾウは力を込めないように相手をしている印象がありますぞ。
優しい生き物とアピールしているみたいですな。
俺の知るゾウはイメージでは優しげですが、現実は飼育員を怪我させやすい気難しい動物と言う物でしたぞ。
その点で言えば、ゾウはイメージに近いですな。
お義父さんが子供好きと言う評価も間違っていないように感じますぞ。
あの巨体では世話は無理だと判断しているので間違いないですな。
若干の不穏な気配を漂わせながら俺たちはゾウの実家へ行く事が決まったのでした。
そんな訳で今回はゾウの実家の方へと行く事になりました。
今回来るのはお義父さんと護衛騎士三人、俺、ユキちゃんとコウですぞ。
サクラちゃんはお義父さんの頼みもあって婚約者の所へお出かけですな。
ライバルは当然の事ながらシルドフリーデンの雑務をしている最中ですな。
ポータルでシルトヴェルト内の最寄り地点に飛んでそこから馬車での移動ですぞ。
「エルメロさんの実家かー……色々とサイズが大きそうだね」
「あ、はい。それは間違いないです。でも使用人や来客用の部屋はあるので、泊る分には困りません。いえ、宿泊するなら城に戻るべきでしょうか」
ゾウをコウが背負ってお義父さんの馬車と並走して会話をしておりますぞ。
若干後ろ向きですな。
「エルメロのお部屋拝見はするのかねぇ?」
「ラーサさんの部屋には入ってないからしないよ?」
「チッ!」
パンダが舌打ちしております。
感じの悪いパンダですな。
「いえ……そもそも私の部屋は無いかと」
「ああ、確か家を出て放浪していたんだっけ? じゃあ私物も処分されてる感じか」
「元々そんなにないですしね……むしろ城での部屋の方が私物があります」
「エルメロの部屋に行ったことあるよー大きかったー」
コウがここで補足しますぞ。
随分とゾウと仲良しですな。
仲良き事は良い事ですぞ。
「そっか」
「うん。エルメロねー絵が宝物なんだってーなんかエルメロとネズミさんが描かれた絵だった」
「へーそうなんだ」
「コウはみんなが描かれた絵がほしいー」
コウが微笑むとみんな笑いかけますぞ。
中々良い提案ですな。
「それは素敵ですね」
「ネズミさんね。獣人かな?」
「エルメロみたいな超大型獣人はね。細かい作業があんまり得意じゃないからね。使用人や小間使いなんかを雇って雑務をさせるって話をきくね」
「……」
ゾウはそこで何を考えているのか読めない表情で黙って遠くを見つめていました。
最初の世界のお義父さんや錬がこんな感じの表情をしている事があった気がしますぞ。
「そうですね。戦いとか肉体労働は大型獣人が行ない、小型獣人や亜人などが補うのはシルトヴェルトではよく見られる共生関係です」
「なんかちょっと良いような気もするね」
「もちろん……その従事に奴隷などを使うこともあります。人間とかも……です」
「あー……なるほど。メルロマルクの方でも重い重労働とかを亜人や獣人が担うなんて話をこの前女王様と話をした際に聞いたよ」
「そうであるな……父上が廃止させたいと願っていた事だ」
エクレアが会話に混ざりますぞ。
このやり取りからすると……ゾウの実家はビンビンの奴隷推進派って事になりそうですな。
「エルメロさんの家ってそんな感じ?」
「……さすがに盾の勇者様相手に人間の奴隷を使役している所は見せないとは思いますけどね」
「俺やお義父さん、エクレアは人間ですからな。お義父さん相手に負の要素は隠す方針ですな」
「キタムラ殿のセリフに関して私は激しく否定したい所があるのだが……」
「あー……うん。これまでの事を思い出したらそう思うけど、続けさせようよエクレールさん」
何かエクレアが疑問に思っていますが、何かおかしな事を言いましたかな?
なるほど、お義父さんの酒の強さを言っているのでしょう。
「失礼な! 確かにお義父さんの酔いの強さは規格外ですが、それでも人間ですぞ!」




