槍の勇者の華麗なる休日
「あ、キタムラー」
城の庭に行くと俺の方にコウが駆け寄ってきますぞ。
珍しい所で会いますな。
「お? コウですな。どうしましたかな?」
「えっとねー、エルメロがお仕事だけどコウは来なくても大丈夫だからってお留守番ーおやつ時位にまた遊ぼうって約束してるー」
最近コウはゾウと仲が良いですぞ。
ゾウは面倒見が良いのですな。
ちなみにコウもアイドル路線で活動中ですぞ。
男の子ですが人気はそこそこ。みんなの後ろで華麗に踊っております。
最近は歌の調子も良いようですぞ。
「どんな遊びをするのですかな?」
「エルメロはね、みんなで楽しく歌を歌おうって合唱の練習をしてくれるんだよ。エルメロ自身も声は低めだけど凄く通って凄いんだー!」
ほう……そういえば最近、俺が監修しなくてもフィロリアル様達の歌声が良くなったと感じていました。
若干オペラな感じの歌い方をするフィロリアル様がおりますぞ。
コウもそんな感じの歌い方をしていたのを覚えております。
これはゾウが教えていた事なのですかな?
「でねーキタムラー。エルメロと遊ぶまで退屈ー何か楽しいことない?」
「そうですなー」
俺も休日で、ユキちゃん達の手伝いをするか考えていましたが、ユキちゃんも気を使っているのか俺は今日、自由にしてくださいとの話でした。
なので本当、暇なのは間違いないですな。
こういう時はコウの様に退屈しているフィロリアル様と遊ぶのが一番でしょう。
ですが、せっかくコウと二人きりなのですぞ。
ちょっと普段とは違った遊びをするのも良いですな。
「ではコウと遊びますぞ。男同士、ユキちゃん達とは出来ない遊びをするとしましょう」
「わー! なになにー? なにで遊ぶのー?」
コウが俺の教える新たな遊びを聞いて目を輝かせております。
「その遊びとは、ずばり……ナンパですぞ!」
これは新たな出会いを楽しむとても楽しい、昔の俺の趣味であった物ですな。
思えば最近はしていませんでしたが、ここ等辺でやってみるのも良いでしょう。
過去には豚を相手に気色悪い事をしていましたが、今こそチャレンジですぞ。
「ナンパー! ってなにー?」
「それをする為には出発しなくてはいけませんな」
「わかったー! じゃあキタムラーいこー!」
「もちろんですぞー!」
俺はフィロリアル様姿に変わったコウの背に乗り、シルトヴェルトの城から出発しました。
そうして……コウを案内しながら当てもなくぶらつき、ターゲットを発見したのですぞ。
「グアグア」
「グアー」
「グア」
シルトヴェルトの城下町から離れ、少しばかり人里離れた街道を通り過ぎた所で見つけました。
野生のフィロリアル様達ですな。
「いましたぞ」
「あ、フィロリアル達だーあの子達も誘うの?」
「そうですぞ。お誘いして楽しく遊ぶのがナンパですからな。良ければそのままスカウトしてみましょう」
思えば魔物商から卵やフィロリアル様を購入せずともニューフェイスは増やせるかもしれませんな。
野生のフィロリアル様達は団結がとても強い方々なので、なかなか説得が難しいかもしれませんがナンパしないのは間違いですぞ。
これならお義父さんも許してくれるでしょう。
「ではコウ、まずはお手本を見せますぞ」
「わかったー」
俺はコウから降りてそーっと、フィロリアル様達を刺激しないように近づきながら徐に干し肉と果物を取り出して近付きますぞ。
「フィロリアル様、フィロリアル様、どうか話を聞いてほしいですぞ」
「グア?」
野生のフィロリアル様がこちらに気づき、干し肉と果物を見て興味を向け始めました。
この干し肉と果実は割と高価な物なので喜んでくれるはずですぞ。
「これをプレゼントしますぞ」
そして野生のフィロリアル様達の前に干し肉と果物を置いて少し距離を取ります。
するとフィロリアル様達はスンスンと干し肉と果物に興味を持って近寄り、匂いを嗅いで啄み始めました。
「グア!」
「グアグア!」
楽しげに野生のフィロリアル様達は俺が献上した干し肉と果物を食べ始めました。
ああ、ありがたき幸せ。
そうして食べたフィロリアル様達の警戒心が若干落ちたのを確認してから、一歩、また一歩と近づきますぞ。
「受け取ってもらって俺も嬉しいですぞ。せっかくなのでこの辺りをしばらく散歩しませんかな? そして楽しく食事をするのですぞ」
「グア?」
野生のフィロリアル様達が小首を傾げております。
この異文化交流をするような感覚はとても新鮮で楽しい時間ですな。
徐々に信頼を勝ち取り、撫でさせてもらうのが目標ですぞ。
いえ、今回は新たなフィロリアル様としてスカウトするのも良いですな。
俺が世話をすると高確率でフィーロたんに近い背格好になってしまいますからな。
良い事ではありますが、新たなアイドルとしてはより種類がほしいとも思えますぞ。
なんでもお義父さんは子供は恋愛対象にはならないとライバルは分析しておりましたし、より理解を深める為、お姉さんくらいの外見のフィロリアル様も必要になるかもしれませんからな。
最初の世界で言う所のヒヨちゃんなどがそれですぞ。
フィーロたんの右腕をしていた有能なフィロリアル様ですぞ。
お義父さんに新たなフィロリアル様を育てていただくという考えもありますが、サクラちゃんがやきもちを焼くかも知れません。
現にお義父さんが新たなフィロリアル様を育てていた際にフィーロたんが若干うらやましそうにしていました。
喧嘩などはありませんでしたが、フィーロたんの為にも俺が進んでそのような真似をするわけにはいきませんぞ。
「グア!」
フィロリアル様がお散歩に関して承知したとばかりに楽しげに答えてくれました。
俺の後をついてきてくださいますぞ。
微笑ましいですな。
なので少しばかり歩いてフィロリアル様達と楽しい時間を嗜みますぞ。
「ではちょっと待っていてほしいですぞ」
「グア!」
俺は野生のフィロリアル様達にそう告げて少し離れた所に居たコウの下へ戻りますぞ。
「まずはこんな感じでお誘いをするのですぞ。どうですかな? これが大人の男の遊びですぞ」
「これが大人の男のあそびーよくわからないけどコウもやってみたいー」
コウは楽しさがよくわかっていらっしゃらないようですが、チャレンジはするようですぞ。
男の子としての成長が期待されますな。
「では……あそこにいるフィロリアル様に声をかけるのですぞ」
俺が声をかけたフィロリアル様たちから少し離れた所で退屈そうにあくびをしていたり、水辺で休んでいるフィロリアル様を指差しますぞ。
「わかったー」
コウが俺から干し肉を受け取ってボフっとフィロリアルキングのお姿でトテトテと近づいていきますぞ。
ああ、向かう途中で干し肉をコウは少し齧っていますな。
後ろ姿でもわかりますぞ。
「ねえーコウの名前はコウって言うのーよろしくーあのねーお話きいてー」
「グア!?」
「グアアアア!」
「グ!?」
バッとコウがフィロリアルキング姿になると野生のフィロリアル様が立ち上がって一斉に頭を下げました。
コウは俺が見せた手本の通りに干し肉を野生のフィロリアル様達に差し上げますぞ。
「これ、プレゼントー」
差し出された干し肉を野生のフィロリアル様達は緊張した面持ちで近寄り恐る恐る食べておりますぞ。
コウ、ちょっと失敗していますな。
相手が警戒していますぞ。
もっとフレンドリーに行かなくてはいけないのですぞ!
「受け取ってくれてコウも嬉しいーせっかくだから付いてきてー」
「グア!」
「グアグア!」
「グアアアアアアア!」
コウの言葉に野生のフィロリアル様の群れがコウの後ろをついてきております。
その数、俺が誘ったフィロリアル様よりも多いですぞ。
と言うより、俺が誘ったフィロリアル様も混じって群れが同行してしまいました。
「こんな感じー?」
「そ、そうですな」
これは……まさかコウの方にみんなが行ってしまったという事で良いのですかな?
この元康、このような結果になるとは思いもしませんでした。
まさかコウがこんなにもプレイボーイな資質をお持ちだとは……将来が恐ろしいですぞ。
「とにかく、ナンパは成功ですな! ではしばらくフィロリアル様達と楽しい遊びのお時間にしますぞー!」
「おー!」
「グアアアア!」
「グアアー!」
と言うわけでコウの背に乗った俺と一緒に野生のフィロリアル様と街道近くの草原で楽しげな駆けっこと、食料調達の魔物狩り、フィロリアル様達が所有する荷車などの補修などを行う楽しい時間は過ぎて行きました。
お昼が少し過ぎた頃、緊張もほぐれた野生のフィロリアル様達を俺は撫でて羽毛を整えたりしていますぞ。
至福のお時間ですな。
サクラちゃんやユキちゃんの羽毛を整えるのも良いですが、これも悪くはないのですぞ。
で、俺はフィロリアル様達にキラキラと光る宝物の話などや服の話をして盛り上がりました。
最初の世界でフィロリアル様達はこの手の話題をとても楽しく聞いてくださりましたからな。
無駄に高い宝石ではなく、ガラス片や折れた剣のかけら等をどれだけ綺麗にするかでも盛り上がりました。
そのため、ドロップ品にあったガラスを綺麗に磨いて見せたりしました。
「グアアアア……」
みんなキラキラ光るガラスに夢中ですな。
「これもプレゼントですぞ」
「グア!」
野生のフィロリアル様に綺麗にしたガラス片を渡すと喜んでくれました。
「んーっと……キタムラが何を言ってるかよくわかんないけど、おいしい食べ物をくれて荷車を直してくれて、綺麗な物をくれてありがとうーって言ってるよ」
コウが通訳をしてくれますぞ。
途中からコウがクエクエとフィロリアル様語でやり取りを始めておりましたな。
「それは何よりですな。ではコウ、ここでついでに説明してほしいですぞ」
「なーに?」
「せっかくの出会いですぞ。この出会いを大切にして、俺と一緒にアイドルを目指しませんか? と言ってほしいですぞ」
「んー? わかったー。クエクエー」
コウが野生のフィロリアル様達に色々と話をし始めますぞ。
「グア?」
「グアグアー……」
「グアー」
何度も頷くコウが俺の方に顔を向けます。
「『えー? 歌って踊るアイドルー? たのしそー』ってこの子が言って、次の子が、『でもこの人、特徴が聞いてた槍の勇者でしょー?』って言うからコウがうんって返事したら『女王様が槍の勇者に誘われても付いてっちゃダメーって言ってた』ってー」
「なんと……」
大きなフィロリアル様からのお達しですかな?
これは……大きなフィロリアル様が俺を困らせようとしているのではなく、大切な臣下を思いやっての事ですな。
俺も昔、豚との付き合いをする際に面倒な親達を説得した覚えがありますぞ。
豚など出荷すれば良いと今にして思いますが、大切に育てていた豚、おいそれとどことも知れない業者に渡すのはよくないと警戒していたのでしょう。
俺もユキちゃんなど、フィロリアル様をどことも知れない馬の骨になんぞ、安易に渡すのは忍びない気持ちは理解できますぞ。
もちろん、フィロリアル様達が真摯に相手と一緒に行きたいと言うのならその限りではありませんがな。
ですが大きなフィロリアル様はその大きな体に比例して責任感も大きいのですな。
安易に野生のフィロリアル様を勧誘させてはくれないのでしょう。
ここは誠意を見せる時ですぞ。
「では大きなフィロリアル様にお通しをお願いしますぞ。今度お話をしましょう。是非とも会いたいですぞ、と俺が言っていたと話をしておいてくださいですぞ」
なんなら大きなフィロリアル様をアイドルデビューさせるのもやぶさかではないですぞ。
「クエクエ」
コウが通訳をしてくださいます。
「グア!」
すると野生のフィロリアル様達は頷きました。
それからしばらくの間、ゆっくりとした楽しい時間が過ぎました。
「キタムラーそろそろエルメロが来る時間じゃないのー?」
コウがお日様を見て時間が近づきつつあることを言いますぞ。
「おや? もうこんな時間ですかな? では今日はこれくらいにして帰りますぞ」
「わかったー」
そうして俺達は野生のフィロリアル様たちとお別れして城に戻る事になりましたぞ。
「コウ、どうでしたかな? これがナンパであり、新しい出会いを楽しむ遊びですぞ」
「んー? よくわかんなーい! けど、なんかコウ、みんなにすりすりしてもらえたー!」
「モテモテですな!」
「モテモテー!」
HAHAHA、まだコウには恋愛は早いのかもしれませんな。
ちなみに最初の世界のコウはお姉さんを模した魔物の種類と相思相愛になったのを覚えていますぞ。
それでですな。
野生のフィロリアル様から大きなフィロリアル様への連絡をお願いした数日後、城の近くに野生のフィロリアル様達が五名ほどやってきたのですぞ。
「グアグアー」
俺達に向かって親しげに鳴いております。
その姿を見てお義父さんが言いました。
「なんて言っているの?」
「えっとねー」
「グアグアー」
「グアグアー」
「グアグアー」
「なんかサクラちゃんのアイドルって発音と同じなんだけど……」
「うん、そう言ってる」
「アイドルになりたい立候補者って事なのかな?」
おお、スカウトに成功しましたな!
ですが、大きなフィロリアル様は来てくださらないのですな。
お忙しい方ですからお時間が取れなかったのでしょう。
「フィトリアがこれで勘弁してほしいってー」
「勘弁……まあ元康くんはフィトリアさんに話し合いをお願いしたらしいから……生贄……」
「うむ……」
などとエクレアが同意していました。
生贄とは……フィロリアル様が生贄にならねばならないとはどんな事態なのか全然わかりませんな。
そんな訳で野生のフィロリアル様が我がフィロリアルアイドルグループに加入したのですぞ。




