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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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人員交換の意義

 翌日。

 昨日は宿に戻り、温泉に入ってぐっすりと休んだ。

 少しずつだけど体が軽くなっているような気がしなくもないし、影が言っていた和風の温泉も入った。

 日本風と中華風が若干混じってたけど……。

 唐傘に雷門とか……障子とか色々と中華っぽい、外人が作ったエセ日本のような風呂だった。

 文句を付けるつもりは無いけど、東方ってどんな国なのか興味が湧いて来た。良い意味でも悪い意味でも。


「じゃあ行って来る」

「いってらっしゃいませ」

「今日は錬だったか……元康のような真似は無いと思うが十分注意しろよ」


 むっつりスケベである可能性は否定できないんだよな。

 クール気取ってる奴って何だかんだで女の子の尻を追っているパターンがある。

 野郎は助けないのに、女だけは助ける奴とかな。

 というか、俺はアイツの事を全く知らない。自分が相手を傷つけたとかだと素直に話を聞く奴……くらいだ。

 なんていうか正義の味方に憧れる自称クールな少年、というのが俺の中の錬だ。


「はい」

「いってらっしゃーい」



 錬の仲間がいる部屋に行く途中。


「……なんか不毛だよな」


 人員交換について影に不満をぶつける。

 女王の考えは理解しているが、受けるストレスは無くならないからな。


「そうでごじゃるなぁ。女王は何故、人員交換を提案したでごじゃるか。今まで問題無かったのなら、このままでも良いと思うのでごじゃるが」

「お前……長いこと女王に付き従っている割りに理解していないのな。まあ、俺もそこは同意するが考えられるのは何個かある」

「なんでごじゃる?」

「お前等にも情報の裏取りとかをさせているんだろ?」

「良く分かったでごじゃるな」

「あの女王の事だからな、考え付きそうな事は大抵させているだろ」


 客観的観測では限度と言うものがある。


「お前等は確かに他の勇者の行動を教えてくれるだろうよ。だけどラフタリアのように差を説明できない」


 雑多過ぎる情報の中で本物を見分けるのは困難だ。


「仮に勇者の情報を収集したとしよう。だけどな、お前等は肝心な事を忘れている。どれが勇者の強さの秘密か理解できないだろ?」


 何処何処で何の素材を武器に吸わせていました!

 とか、そんな中で俺との違いを理解できるのか?

 影は複数人で行動しているだろうし、同じ人間が見ているわけじゃない。結果、収集した情報は雑多と化す。

 客観的で文面のような調査報告じゃなくて生の声を参考にしないと意味がない。


 勇者の武器を持った者じゃないと分からない事だってある。これは情報交換で聞かないとダメだ。その為の裏取りも兼ねている。あいつ等の秘匿癖を考えるに、裏を取っていないと嘘を付く可能性が高い。

 自分にしかない、特別な物! って隠しているだろうしな。

 だけど、奴等が安易に話すはずがない以上、自分達で調べるしかなくなる。


「それはしょうがないでごじゃる。盾の勇者殿の専属にはなったでごじゃるが、拙者が盾の勇者殿と行動を共にした期間はそんなに長くは無いでごじゃる故」

「ああ、しょうがない事だ。一朝一夕で出来たら苦労しないしな」


 それに……重要な事なのだが、仲間は一人の勇者の価値基準に染まりやすい。

 現にラフタリアは元康の方針に異議を唱えている。俺もどうかと思うが、元康の仲間も同じだろう。

 しかし人員交換をすれば多少は視野が広がる。

 姫プレイが当たり前になってしまった仲間に別の勇者がこう言った戦い方もあるんだと多角的に見れる機会ができる。


 ビッチは話にならなかった訳だし、女1は思いっきり冷め切っていたから視野が広かった訳だけど、女2の視点で考えると俺が異常者に見えただろう。だけど、錬や樹と一緒に戦えば多少はわかるはずだ。

 ビッチと似たもの同士らしいが……それくらいは分かってもらわないと死ぬな。

 これで文句を言ったらそれまでだ。


「そして他の勇者の戦いを仲間達に見させて危機感を持って貰おうとしているんだろう」

「危機感でごじゃるか? 勇者殿と行動している以上、常に危険とは隣り合わせだと思うでごじゃるが」

「逆だ。勇者は世界の知識に長けている。要するに自分より強い敵の所には近付かないんだ」

「なるほど……そういう考えもあるでごじゃるか」


 あいつ等は普段、安定したLv上げをしているようだから、危機感が足りない可能性は高い。

 ゲーム感覚の勇者に付きしたがっているんだ。勝てる敵としか戦わないだろうし、緊迫感も薄まる。

 他にありうるのは自分達は特権階級にいるという錯覚。

 勇者の仲間をしていると言うだけで優遇してもらっているのかもしれない。


 無論、勇者も完璧では無く一度や二度危機的状況に陥っているのは事実だ。

 運良く生き残れたとも言えるが、勇者がアレだと仲間も安心してしまうだろう。

 三人の勇者は皆自信家だからな。

 そもそも元康パーティーの様に危機感を抱いた奴等は抜けるなりしている訳だし。


「後は勇者の違いを仲間なら毎日見ているから辛うじて分かるかもしれない。差分程度の僅かな物だろうけど。それに、これは友好を育むためとも考えられる」

「それは承っているでごじゃる。何か騒動が起きたら収める様言われているでごじゃる」


 メルロマルクや世界の基準で言えば、勇者達には仲良くしていてもらいたいはず。

 仲間割れで波に負けましたじゃ話にならないし、ただでさえ仲が悪いんだ。俺は仲良くなりたくも無いが、連携が必要になってきているのは理解できる。

 教皇だって俺達だけじゃ勝てなかっただろう。

 これからは連携が重要になってくる。この島のイベントが終わったら他国に派遣されるようになるらしいが、波で一緒に行動するのは変わらない。


 しかし、話をする機会は一気に減る。

 俺としては大歓迎だが、波……グラス達との戦いを考えれば我が侭は言えない。

 例え嫌いな奴等でも同じ組織に属している以上、協力する必要があるからだ。


 そういえば……どうやって世界中の波に参加させる?

 勇者を召喚したメルロマルク近隣だけに波は集中するのか?

 これも女王に聞かなければいけない事だ。


 大方、人員交換が終わった後にでも、影の調査結果は報告するつもりなのだろう。

 もしくは秘匿癖のある勇者共に指摘する腹積もりか。

 どちらかというと、今回の目的って、勇者の仲間を使った相互理解が目的だな。

 あの勇者は上手に人を誘導していました。とか、自身には欠けているモノを信頼できる仲間から聞くとか……か?

 アイツ等、上から目線だと聞かない所があるからな。自分でわかってもらうのが早い。

 ま、単純に勧誘と思っている可能性もあるが。


 元康の野郎は俺の仲間を自分なりの手段で勧誘した。

 錬や樹も勧誘してくる可能性はゼロじゃない。むしろ高いだろう。

 アイツ等の場合は、自分達で1から育てるとかをしそうだけど……。

 亜人や魔物ってあそこまで強くなるんだ? じゃあ俺もって感じで。


 しかしこの理論だと一つ、大きな矛盾が生じる。

 強くなるはずなのにしなかった。という事はあいつ等のやっていたゲームじゃ、亜人や魔物はそこまで強くならないとなるのだが……どうなのだろう。

 ありうるのは試していないとかやっていなかったとか。

 知っていたけどまずは自身の強化をしてから?

 分からない。


 なんていうか、女王の目的は勇者全員の底上げである気がする。

 俺を優遇するつもりらしいが、世界基準で言えば他の勇者が弱くては困る。

 その妥協案だったという所か。

 影だけで調べるのではなく、俺達自身にも調べさせて確実な物にしようとしているんだな。

 どっちか一つじゃないといけない訳じゃない。

 一見、無駄とも思える人員交換だけど、情報収集をやりやすくする為のおとりなのかもしれない。

 丁度活性化という名目に集まって、勇者が集合している訳だしな。


 ……深読みし過ぎか。

 深読みし過ぎだが、これを踏まえて錬や樹のパーティーと行動するとしよう。

 何も無ければ特に困らないが、何かあったら大損だからな。



「ここが剣の勇者の仲間達が宿泊している部屋でごじゃる」


 考え事をしている内に錬の仲間がいる部屋の前にたどり着いた。


「ああ」


 俺は頷き、部屋の扉をノックする。


「どうぞ」


 今回はまともな返答が来たな。元康の所とは大違いだ。

 扉を開けて、中に入る。


「ようこそいらっしゃいました。盾の勇者様」

「お、おう……」


 前回が前回だっただけに拍子抜けだ。

 えっと……錬の仲間の人数は4人。

 元康と比べると1人多いな。だけど最初、5人だったのだから1人減っている。

 メンバー入れ替えが起こっていると考えるのが妥当だよな。


「分かっていると思うけど、人員交換で今日から明日まで一緒に行動する盾の勇者の岩谷尚文だ」


 なんか初日で見たことのある奴が3人、もう1人は追加かな?


「よろしくお願いします、盾の勇者様」

「ああ」


 全員礼儀正しいな。

 だけどコイツ等……俺の仲間に入るのを嫌がって錬の後ろに隠れたんだよな。

 それは忘れない。

 油断してはならないし、信用を置いてはいけないな。


「あの時は申し訳ございません」

「へ?」


 代表らしい男の……戦士かな? が俺に頭を下げる。


「何分、メルロマルク国王がいる場で盾の勇者様の味方をしたらどんなお咎めを受けるか分からなかったもので」


 代表に合わせるように他の奴等も頭を下げた。


「都合の良い話だとは思いますが、これから二日間、ご教授お願いいたします」

「わ、分かった」


 なんか……妙に相手の腰が低くて拍子抜けだ。

 今までの経験から何か裏があるんじゃないかと疑いたくなる。


「さっそく出発なさいますか?」

「そうだな」


 何だかんだで話が早い。

 元康パーティーがアレだったからな。話が早いのは助かる。


「では、私達は何処でLv上げをしていればよろしいでしょうか?」


 後ろの魔法使いっぽい奴が、当然の様にそう尋ねてきた。


「……はい?」

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