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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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パンダの実家

「ラーサ、話に聞いては居たが、すごい人と知り合いになったのさな」


 ……パンダの言葉使いから、確かに関係者というのがわかりますな。

 どういう関係なのかちょっと気になりますぞ。


「仕事でね。さっきからそう言ってるじゃないか。お父さん」

「ああ、そうだった。すまないさね。お前が帰ってきたってだけで私は興奮してしまって、父さんが悪かったさ」

「……ああもう。それで良いからあんまり興奮しないでほしいさね」


 若干シュンとしていますが……このクジャク獣人、尾羽がなんかすごい派手ですぞ。

 ですが本人の性格の上下で尾羽が開いたり閉じたり、立ち上がったり寝たりを繰り返しております。

 サクラちゃんとコウがその尾羽を見て興味津々ですぞ。


「なんかすごーい。尾羽バサァ!」

「ひらひらー」


 自身に興味を持たれているのを察したのか、クジャク獣人がサクラちゃんとコウにやさしく微笑みかけますぞ。

 それから楽しませるように尾羽を広げたり、両手を上げ下げして見せております。

 フィロリアル様とは違った踊りをしているようですな。


「わー」

「おもしろーい」

「ふふふ……ラーサ、この子たちは?」


 ふむ……悪いクジャク獣人ではなさそうですぞ。


「盾の勇者様の所に居る特別な魔物で元はフィロリアルだそうだよ」


 ボフっとサクラちゃんとコウがフィロリアル様姿になりますぞ。

 クジャク獣人はその様子に驚きの顔を見せますが、すぐに笑い返してサクラちゃん達をなでますぞ。

 良い人のようですな。


「なんと、世の中には不思議な事がまだまだあるようさ」


 バサァっと尾羽を開いたり閉じたりしてサクラちゃん達の興味を引きながらクジャク獣人はパンダにそう言いますぞ。

 即座に認めるとは、中々柔軟な感性を持っているみたいですな。

 フィロリアル様、フィトリアたん……そしてフィーロたん達の深遠にも至る程に深い世界が残っているのですからな。

 まだまだ世界は神秘で溢れているのですぞ。


「そりゃあね」

「退屈していないようで何よりさ。ただ、いつでも私達はラーサ、お前の幸せを願っているよ。傭兵なんて仕事よりもまだ良いかもしれないのさ」

「わかーってるっての!」


 本気で面倒そうといった様子でパンダがそう返し、それから……集落を挙げて賑やかな催しが行われました。

 宴会のような賑やかな雰囲気の中、お義父さんを始めとした俺たちを楽しませるために村の者たちがそろって出来る限りの演目を続けましたな。


 お義父さんは集落の子供達などに目を向けつつ代表をしているらしい老人パンダと何やら話をしておりました。

 俺はクジャク獣人相手に興味津々のサクラちゃん達との時間を満喫したのですぞ。

 結構踊りが得意なクジャク獣人でしたな。

 アイドル活動の参考にするのも良いかもしれません。


 そして、料理が得意なのか仮設で絶賛調理をしております。

 飾り包丁が上手な印象がありますな。

 翼のような手で器用に包丁を持って空中で踊るように食材を切って飾っております。

 後は秘蔵のスープでラーメンっぽい料理を作っておりますぞ。

 なかなかに見せますな。


「ラーサさんの戦闘時の動きを彷彿とさせる時があるね」

「動きは参考にしている自覚はあるねぇ。あたいのはいろんな戦い方が雑多に混ざったもんだけどね」

「それと、なんかすごい職人って感じだね」

「ああ、あたいの親はあれで金を稼いで旅をしながらあたいを養ってくれたのさ」

「旅?」

「そうさね。もう隠すのも面倒だから話すけど、あたいは血の繋がった両親が戦争に巻き込まれて死んでね。後を託されて育ててくれた養父があそこで料理しているアレさね」


 パンダはなんともない顔で言いました。

 随分と壮絶な人生を歩んでいそうなパンダですな。


「え? じゃあこの集落は?」

「色々とあってやっとこさ辿り着いた生まれ故郷ってだけさね」

「うむ……あの時の戦争は悲惨だった……この集落に合流するまでに連絡のあった同族の村が巻き込まれ……皆、散り散りとなっていた」


 と、パンダの祖父であるらしい老人パンダが大きなキセルで煙草を吸いながら答えますぞ。


「あたいからすると物心付いた頃にはあの親が親さね。いろんな国の言葉を知っているのもあの親の影響だよ。あたいの故郷を捜すために色々と旅したのさ」

「なるほど……」

「他にも商売とか色々と手を出していた親だからね。物を見る目とかは養ったつもりだよ」

「ほ!」


 クジャク獣人が両手を広げる、ラーメンらしき料理の器をそれぞれの手と腕に合計四皿載せると同時に上からスープと麺が降り注いで料理が完成した様ですぞ。

 なんとも器用な真似をしますな。


 最初の世界のお義父さんが料理を面倒といいながら食材を軽くはじいて鍋に入るまでに包丁で幾重にも切り裂いて調理していた光景が思い出されます。

 平然とやっておりましたが、他者の追随を許さない料理人なら出来る技能なのかもしれませんぞ。


 むむ、もしかしてこのクジャク獣人、お義父さんが雇用したくなる程の料理人なのではないですかな?


「お義父さん、パンダの親の料理はお義父さん並みに上手なのではないですかな?」

「俺を過大評価するのはどうかと思うけど魅せる料理をする人だね」

「ありがとうございます」


 パンダの親がお義父さん達に料理を並べて礼を述べますぞ。


「他にも色々と出来るんだっけ?」

「勇者様達に比べたら大したことは……」

「嘘吐くんじゃないよ。いろんな所で未だにコネクションがあるだろうに」

「ラーサ……人というのは支えあっているものなんだよ。そして、良い関係を築けたからこそ、私はお前の生まれ故郷に来ることができたんだ。みんなに感謝しなくてはな」

「はいはい」

「うーん……城にスカウトしたら面白そうだけど……」

「勘弁してほしいね。それならあたいは仕事を降りてフリーの傭兵に戻るよ」

「ラーサ」


 クジャク獣人が注意しますぞ。


「お前が恥ずかしくていやだって気持ちを私も理解しているよ。だから安心しておくれ、お前が嫌なら行かないさ」

「ああもう、コイツはやりづらいねぇ……」


 居た堪れない気持ちといった感じでパンダが頭をガリガリと掻いております。

 剥げますぞ?


 これはあれですな。

 授業参観に親が来てみんなに注目されるような気持ちでしょうな。

 嫌なのでしょう。気持ちはわかりますぞ。

 俺もぼんやりとですが小学校の時に珍しく親が来たのを覚えていますからな。


「皆さんの歓迎、盾の勇者として非常に満足しています。なので俺も常日頃から協力してくれているラーサズサのために、お礼として出来る事をしたいと思うので、どうかよろしくお願いします」


 集落の者達がどう答えたらいいか困るようにみんなで見合っていますぞ。

 やがてお義父さんはパンダの親が使っていた厨房を借りて料理を始めますぞ。


「お義父さん! パンダの親と料理勝負をするのですな! ダメ出しをするために技術を見せつけるのですぞ!」

「そ、それは……」

「ナオフミの料理おいしいよ?」

「うん。イワタニの料理はおいしい」


 クジャク獣人にサクラちゃん達が補足しますぞ。

 間違いありませんな!


「違うから! 元康くん、誤解をさせるような事を言わないの!」


 お義父さんが焦ったように注意してきました。

 違ったのですかな?

 それでお義父さんは……ラーメンに合わせるようにチャーハンと肉まんを作って振る舞いました。


「わーい!」

「イワタニの料理ーたまにしか食べられないから良いことあったー」

「確かに久々なのは確かだな」


 サクラちゃんを始め、同行していたエクレアも同意しますぞ。

 国内の情勢などの影響でお義父さんは滅多に料理出来ませんからな。

 ただ、ストレスが溜まった時に偶にお義父さんが厨房の方でやっている事がありました。

 食べられるのは俺やフィロリアル様、エクレアやパンダなど、極一部の者達だけですな。

 それを大々的に、パンダががんばっているからという名目を立てて振る舞っているのでしょう。


「た、盾の勇者様の作った料理……」


 ごくりと集落のパンダ共が唾を飲み込んで出された料理を見つめていますぞ。


「冷めないうちにどうぞ」

「は、はい!」

「こ、これは普段食べているものより歯ごたえも味わいも違う!」

「なんだこれ!?」

「どうなってるんだ!?」

「すごく食べやすい……!?」


 パンダ達はとても驚いていましたな。


 俺は物陰から見ておりました。

 お義父さんがさりげなく材料に筍などを混ぜたり調味料を工夫している所を。

 何も武器の技能だけがすべてではありません。

 いろんな所でお義父さんは無数の工夫を本人も気づかない所でやっているのですぞ。


 それからパンダの集落の者達も緊張が取れたのか思い思いに歓迎の宴を十分に楽しんだようでしたな。

 日が暮れてみんなが寝静まった頃、パンダの実家……集落でも大きな家で俺達は休むことになりました。

 ああ、ゾウは入れないとの事でコウと一緒に納屋の方で休んでおりますぞ。

 山奥ですがそこまで寒くないので大丈夫との話ですな。


「ラーサさん」

「なんだい?」

「ラーサさんの部屋とかやっぱりあるの?」

「あるけど絶対に入れないからね」

「うん。見られたくないものがあるんだよね。俺も経験があるからさ、わかるよ」


 俺もわかりますぞ。

 健全な男子たるものエロ本の一つや二つ持っていて当然ですからな。

 ちなみに俺は仲良くなった豚の写真集などを持っていました。

 今考えると完全にゴミですな。

 尚、最初の世界では俺の部屋にはフィーロたんグッズが沢山ありました。

 こちらは他者に見られたとしても恥かしいとは思いませんがな。


 自分の部屋と言えば、最初の世界のお義父さんが『ラフタリアにエロゲを見られたのはまずかったな……』などと言っていた覚えがありますぞ。

 う~ん、いつ頃でしたかな?

 記憶が曖昧ですぞ。


「あんた……絶対にいつか泣かすから覚悟しておくんだよ」


 パンダが何かお義父さんに殺気を向けておりますな。


「ちょっと部屋に行ってるから、絶対に来るんじゃないよ」


 パンダが何度も振り返りながら家の自室らしい所に帰って行きました。

 きっと何かしらのグッズなどがため込まれているのでしょうな。


「とても有意義な時間であったな。最近は殺伐としていて私も緊張していたのだと実感する」


 エクレアが囲炉裏の前に腰掛けて言いますぞ。


「そうだね。なんだかんだ最近は色々あったもんね」


 お義父さんは懐かしむように答えますな。


「色々と世界を見てみたいと思ったからラーサさんの地元に来れてよかったよ」


 お義父さんが満腹で寝息を立てているサクラちゃんをなでております。

 絵になる光景ですぞ。

 ライバルには絶対に譲れませんぞ!


「盾の勇者様一行の皆さま、本日はラーサズサをこの集落に連れてきて、誠にありがとうございますさ」


 クジャク獣人とパンダ老人がお茶を持ってきて囲炉裏に腰掛けますぞ。


「いえいえ、急の訪問に対応して頂き、こちらも感謝しかありません。なんていうか……ラーサさんってあれですから、あんまりここに帰ってこない感じですか?」

「ええ……定期的に連絡はくれるのですが滅多にきませんね。ここ数年は特に……」

「やっと落ち着ける場所が出来たと思ったら飛び出して行きおったからのう……」


 老人パンダも困ったといった様子ですぞ。


「そうですか……ラーサさんってお金を貯めているみたいなんですが、もしかしてここの人達が裕福に暮らせるようにしているんですか?」


 お? お義父さんがここでズバッと聞きますな。

 みんなが興味を持っていた題材ですし、なんとなく察しは着きますぞ。


「ラーサさんには色々と助けてもらっていますし、シルドフリーデンとも勇敢に戦った事もあって、何か事情があるのであればシルトヴェルトも援助は惜しまないとの話です」


 その辺りの保障をシルトヴェルトはやっているみたいな話でしたな。


「確かに時々金銭や物資が送られて来ることはありますさ。ここ最近は国の援助も加わってこの集落は以前より生活が楽になってきていますさね」

「やはりそうですか……」

「ただ……ここはそこまで貧困に困った地域ではないので、私の貯蓄やコネクション、行商をしているのでラーサの金銭は別の事に多く割かれていると思いますさね」


 お義父さんが意外と言った表情になりました。

 クジャク獣人はお金の使い道を知っている様ですな。


「あの子は面倒見は良いけど素直じゃない所がありますさね。そんなあの子が妙な事に首を突っ込んで、盾の勇者様が給金を何に使っているのか気になるのも至極当然でしょう」

「いえ……てっきり実家に送金しているだけだとしか……」

「あの子も色々とありましてね。ああ……思えばあの子と会ってから今までの出来事がとても早く感じられる……」


 クジャク獣人が思い出に浸るような顔で言いますぞ。

 これまでの出来事で敢えて俺も考えないように思っていましたが、お前は娘を思い過ぎなのではないですかな?

 めちゃくちゃ過保護ですぞ。

 家出したようにしか見えませんな。


 話から想像するに、このクジャク獣人は隠居した凄腕の料理人兼、行商人って事なのでしょうな。

 しかも錬金術なんかにも造詣が深いと思いますぞ。

 パンダの実家内にはいろんな機材や商品らしき物が置いてありました。

 ぼんやりと光るクラゲを入れるアクアリウムみたいな照明などがあって、飽きさせない内装をしております。


 場所は山奥なのに結構近代的な家なのではないですかな?

 別の意味でスカウトしたら役立ちそうですな。


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