混合レース
「ゼルトブルのコロシアムで人気闘士をしてるアタイからしてもダメなんじゃないかと思うねぇ」
「えーっと……コウさんをはじめとしたみんなのやる気はあるのですけど……もう少しやり方を変えたほうが良くなるかと」
パンダとゾウまで知りもしないで言いましたな!
ゼルトブルなどのチョロイ場所なら俺だって人気になりますぞ!
クエーですぞ! ブルンブルンですぞ!
「こうなったら演目に俺のドライブモードを挟んで大々的にアピールですな」
「いや、それは勘弁」
お義父さんに断言されてしまいました!
絶対に俺は間違っていないのですぞ!
「ここは拠点としてファンの聖地にして人気を稼ぐのですぞ。大人気アイドルだったフィーロたんであるサクラちゃんと、それに負けないユキちゃんなら自然と集まるのですぞ!」
「うん、それは同感だけど……なんというのかな。こういう地下アイドルって、アイドルって文化が既に浸透しているから成立している所があると思うんだ」
むむむ?
確かにここは異世界なのでアイドル文化はまだまだマイナーですな。
ですが、マイナーだからこそコツコツと積み上げている最中なのですぞ。
「だから……そうだな。元康くん、ここで毎日ショーをするのは良いから、暇なフィロリアル達を貸してもらっていいかな? 俺も手伝いたいからさ」
なんと! お義父さんが協力してくれるのですかな!?
これは百人力ですぞ!
ふふふ……ライバルよ、お義父さんは俺達の方に可能性を見出してしまったみたいですぞ。
俺の勝利は確定したようなものですな!
「もちろん良いですぞ」
「ありがとう。じゃあショーに参加せずにいるフィロリアル達ー」
「なーにー?」
遊びに来ていたフィロリアル様達がお義父さんの呼び声でサクラちゃんと一緒に集まってきますぞ。
ちょっと待ってくれですぞ。
サクラちゃんはセンターとして活躍してもらう予定なのですが?
「みんな、これからどこでもいいけど酒場とかで好きに歌ったり曲を集めたりしながら、ここでみんなで楽しく歌って踊っているって最後に言って来てほしいんだ。それこそシルドフリーデンは元より世界中でね」
「「「んー?」」」
「酒場で楽しく! いつでも歌って踊る!」
「わー! 楽しそう! やってみたーい!」
「時にひどい言葉を言われるかもしれないけど、それでもがんばって。みんなが楽しく歌うと俺も元康くんもうれしいからさ」
「わかったー!」
「じゃあ行ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
お義父さんのお願いを聞いてフィロリアル様達はそろってお出かけしていきました。
ふむ、宣伝ですな。
確かに拠点を作った後は広報も必要ですぞ。
お義父さん曰く、情報収集も兼ねているとかなんとか。
今は少しでも潜伏しているタクト派閥の情報が欲しいですからな。
「ねえエルメロー、コウの踊りはどうだった?」
「よかったと思いますよ」
「今度一緒に歌っておどろー」
「ええ、盾の勇者様の警護が空いた時間に遊びましょう」
コウが楽しげにゾウに遊びの約束をしておりました。
そんな感じで俺が主催した会場をお義父さんにお披露目することができたのですぞ。
徐々にですが当初の予定通り、客が日を追う毎に増えてきております。
やはり俺の読みは外れてなどいなかったようですな。
ただ……不服なのはユキちゃんやサクラちゃんをモデルにしたグッズがあまり売れておらず、お出かけしたフィロリアル様によく似たグッズが売れている点ですかな?
もう少し大々的に会場を確保して新曲とともにショーをすることが必要になりそうですな。
……おや?
最初の世界のお義父さんが俺の脳内で何か言っている様な気がしますぞ。
上手いのは当然?
必要なのは別の要素?
ははは! それはユキちゃんとサクラちゃんの魅力で万時解決ですぞ!
最初の世界のお義父さんが先ほどのお義父さんと同じようなポーズを取ったような気がしましたが、きっと気の所為ですな!
なんて感じでアイドル業は順調なのですぞ!
メルロマルクの第二の波の時期になり、女王の頼みもあって俺達は友軍として颯爽と波を解決させました。
俺とフィロリアル様達が戦うだけで速攻で終わりますぞ。
ですが、前回のループではタクトが調子に乗って姿を現していたのでしたな。
何かしらの罠などが仕掛けられているかもしれないと思いましたが、特に何もなかったですぞ。
お義父さん達の手を煩わせる必要すらありませんな。
とはいえ、お義父さん達も協力という名目で波には参加しております。
ライバルもですぞ。
お前はシルドフリーデンで貴族の顔色でも窺っていろですぞ。
シルトヴェルトの波は後半月くらいまで近づいてきているところですな。
「ナオフミーメルちゃんの所に遊びに行くー?」
「行ってきてもいいよ。サクラちゃんも最近はアイドルやっててあんまり会えなかったもんね」
「歌うの楽しいよー? メルちゃんもやらないかな?」
「さすがにメルティちゃんはアイドルにはならないんじゃないかな?」
「ワイルドなおふみの世界では時々フィーロと一緒にやってたなの」
「え? そうなの?」
お義父さんがライバルの説明に小首を傾げて尋ねますぞ。
確かにやっていましたな。婚約者は。
そもそもフィーロたんのマネージャーは実質奴がやっていたようなものでした。
バックで演奏をしていたり、一緒に歌うのも外交上で良いとかでしておりましたな。
俺だって演奏はできますぞ!
「ただなー……メルロマルクでやるなら良いかもしれないけど、シルドフリーデンじゃ今は無理かな」
「そうなのー? じゃあサクラ、メルちゃんと歌う為にこっちでもアイドルしたい」
「それは元康くん次第かなー」
「モトヤスーサクラ、メルちゃんとアイドルやりたい」
ぐ……これはどう答えれば良いのですかな?
サクラちゃんは今、ユキちゃんとのペアをしているアイドルなのですぞ。
コンビ解消はユキちゃんに悪いですぞ。
そもそも俺達のメインアイドルをしてくださっているユキちゃんとサクラちゃんは欠けては困る状況ですぞ。
「元康くん、俺としては良いと思うんだけどな」
「ユキちゃんはどう思いますかな?」
「ユキですか?」
俺の問いにユキちゃんは若干困ったように人差し指を頬に当てて考えておりますな。
「活動拠点から離れすぎるのはあまり良いことではありませんわね。そもそもメルティちゃんが話を受け入れるかにもよりますわ。ユキとしては試すのは悪いとは思いません」
「ユキは正直、フィロリアルレースに参加した方がアイドルより人気を稼げると思うなの」
ライバルがここぞとばかりにユキちゃんにアイドルを引退させようとしていますぞ!
ダメですぞ。
「お前の思う通りにはさせませんぞ! ユキちゃんだって素敵なアイドルなのですぞ!」
「フィロリアルレース……ドラゴンに提案されて不愉快ですが甘美な響きですわね。どんなものなのでしょう」
「お? フィロリアルレースに興味があるのかい?」
パンダがここぞとばかりに目を光らせつつ、ノシっと間に入ってきますぞ。
何のつもりですかな。
「ラーサ……」
ゾウが嘆くように注意しますぞ。
「私もどのような代物であるかを知ってはいるのだが……確かにラーサ殿が好みそうな件であろうな」
エクレアもため息交じりに答えますぞ。
「響きからフィロリアル達を競わせる競馬みたいなものなんだろうってのはわかるね」
「ユキはサラブレットなの。走るために生まれたエリートなのをガエリオン知ってるなの。アイドルよりも良いと思うなの」
「ドラゴンに勧められるのは不服ですわ! ですが走るのは好きですわ!」
「うーん……元康くんの推しがユキちゃんとサクラちゃんなのはわかるんだけどねー……」
「何か問題があるのですかな!?」
お義父さんが何やら考え込みながら俺に顔を向けました。
このやり取り、覚えがありますぞ。
ライバルを復活させる時に行ったエターナルフィーロたん計画の提案ですぞ。
進展はありませんが諦めてはおりません。
今度もお義父さんが何やら名案を提供してくれるのでしょうか?
「ユキちゃんをアイドルとして更に昇華させるために、シルドフリーデンであるかわからないけど、フィロリアルレースをさせて人気を稼げばフィロリアルレースファンから信者を増やせるんじゃないかな?」
なんと!
確かにその手がありますな。
さすがお義父さん、いつも俺達に良い助言をしてくれますな。
「ガエリオンがシルドフリーデンに掛け合ってみるなの。財布の紐の堅い連中から金を搾れる案件になるから悪い手じゃないなの」
「ライバル! お前の思う通りにはさせませんぞ!」
「槍の勇者のフィロリアルが一位を取ったら表彰台で歌えば人気を得られるんじゃないなの? これも全部なおふみのためなの」
く……ライバルの奴、屁理屈を!
お義父さんの為と言われたら断れなくなりますぞ。
「槍の勇者の所のフィロリアルが特別早いってのは伏せてやるんだろう?」
パンダが目を金にして聞いてきますな。
どうせユキちゃんに賭けてがっぽり稼ごうと思っているのでしょう。
「驚きは大きい方が良いと思うなの。そもそも勇者が育てたフィロリアルって聞いても人気になるかは怪しいから最初の数レースは賭ければ当たるんじゃないなの?」
「是非やってほしいもんだよ。絶対に勝てる賭け事ってのは面白くもないもんだけど、最初の数回くらいはやって儲けさせてもらうのは良いねぇ」
賭け事は負ける可能性、スリルが楽しいそうですからな。
しかしパンダ。
お前の場合は楽しさよりもお金と顔に書いてありますぞ。
「うーん……まあ、その手の業者はみんな自分の育てた子が勝つって確信を持って投入しているようなものだから……良いのかもしれないけど……大丈夫かな?」
「何をしても成功したら敵は勝手に出てくるなの。ワイルドなおふみはその辺りを割り切っていたなの」
「まあねー……」
「賭博とは……貴族が嗜みですることがあるのでわからなくもないが、これは裏取引などの類ではないのか?」
エクレアが眉を寄せてパンダとライバルに注意しますぞ。
「走る相手と打ち合わせしていたら良くないけど、こっちはベストを尽くしているに過ぎないなの」
「ふむ……それならいいのかもしれんな。主催者は誰が勝つのかわかっているところに引っかかりを覚えるが」
「その辺りはシルドフリーデンの暗部辺りと話し合いをして折り合いをつけてみるなの」
ライバルがここでユキちゃんに向けて若干邪悪な笑みを浮かべますぞ。
どいつもこいつも金金金とがめついですな。
お優しいお義父さんの様に徳を積めですぞ。
「主催者権限で多重の過負荷を掛けて負けさせてやるなの。精々がんばるなの」
「く……ここまで売られた喧嘩! 買わずして何がユキですわ! 元康様! ユキはフィロリアルレースに出ますわ!」
「そうですな! ついでに優勝してアイドル業を発展させますぞ!」
ここまで喧嘩を売られたら勝たねば腹立たしいだけですぞ!
シルドフリーデンでの人気も微妙な自覚はありますからな。
ライバルの妨害を撥ね退けて優勝し、シルドフリーデンにフィロリアル様フィーバーを発生させてやりますぞ。
「ねーサクラとメルちゃんのアイドルー」
サクラちゃんがお義父さんの手を引っ張ってアピールしております。
「なんか上手い事、焚きつけられているけど……サクラちゃんはどうする? ユキちゃんと同じでレースに出たい?」
「んー?」
サクラちゃんはあんまり興味がないといった様子で小首を傾げていますな。
フィーロたんも走ることは好きでしたがユキちゃんほどの情熱は確かに持っていなかったと思いますぞ。
何せユキちゃんはフィロリアル様達の追いかけっこ遊びを始めると、特に何かあるわけではないのに一番を目指しますからな。
フィーロたんやサクラちゃんはちょっと出遅れますぞ。
「サクラ、ユキはレースで忙しくなるので好きにすると良いですわ!」
「わかったーじゃあ後でメルちゃんにお願いしてみよー」
「頷いてくれるかはわからないけど……メルロマルクの夜会パーティーとかの前座とかで歌うとかはさせてもらえるかもね」
「うん」
というわけでライバルの提案もあり、急遽シルドフリーデンでレースが開催されることになりました。
問題はフィロリアルで統一するのではなく、各地のレースで参加する魔物の総合レースになりましたがな。
ドラゴンなんかも参加するみたいですな。
それから数日はユキちゃんは必死に訓練をしました。
思えばユキちゃんの子供は……ライバルがチョコレートから別の体になった際に乗り移った体の親を好きになっていた記憶がありますぞ。
きっとライバルの戯言でしょうな。
そんなおぞましいことは絶対にさせませんぞ。
あのフィロリアル様……? は、お義父さんの教育が影響しているのか、とても食べるのが好きな方でしたな。
チョコレートボディのライバルを虎視眈々と狙っていたのを覚えておりますぞ。
ライバルが食われかけた思い出が浮かんで来て楽しいですな。
きっとあの時のことを根に持っているのでしょう。
俺も今までのループ経験による調教師からの助言から、設備などをフル活用してユキちゃんの体を走るのに適切な状態にさせました。
ユキちゃんが今までにないほどに生き生きとしておりましたな。
ダンスの振り付けよりも熱心に走る練習をしていました。
さすがはユキちゃんですな。
元から偽ベガスみたいな町にレース場があったので、国が主催する結構な規模のレースを催すことができたみたいですぞ。
レースで出るのがフィロリアル様で統一されていない点も然ることながら、どこまでもパチモンな所がシルドフリーデンと言った感じですな。
ユキちゃんをこんなレースに参加させて良いのか不安になってきました。
戦争に負けて暗いムードだったのでシルドフリーデンの者達も往々に娯楽のために集まっているという話ですぞ。
しかもタクト由来や元からあった機材なので通信設備も完備、シルドフリーデン中に放送を配布でき、国のどこに居ても賭博ができる大レースにまで発展しました。
各地のギルドを橋渡しにしながらレースの幕が上がる感じになってきました。
ですが……ことはレース開始当日に起こりました。




