ラクーン問題
「元康様は不必要な事を覚えていないだけですわ! 現に優雅な振り付けを教えてくれてますわ」
「わーい」
「こーだっけ?」
ユキちゃん達が最近、俺が教えているアイドルとしてのダンスを俺の後ろで踊ってくれました。
しっかりと教えた通りに踊ってみんなの視線は釘付けですな。
呆れ顔だったお義父さんも、みんなのダンスのクオリティの高さにちょっと関心していますぞ。
「話が逸れたなの。ワイルドなおふみを悩ませた原因の話なの」
「そういえばガエリオンちゃんは元康くんが知る最初の世界の俺と会った事があるんだったね」
「なの。今のなおふみと比べるとワイルドだからワイルドなおふみなの」
ライバルがそう言うとお義父さんはテンションが下がりました。
何かありましたかな?
「ああ……盗賊は資源とか言っちゃう俺ね」
「そうなの。子飼いにしていた盗賊は最終的に義賊として大成したからあんまり気にしなくて良いなの」
「それもどうなのかな」
「実家の問題も解決して、義賊も満更でも無い感じだったから同じなおふみなんだし悪く思わないでほしいなの。ってまた話が逸れたなの」
「ご、ごめんね」
お前も脱線させまくってお義父さんを困らせていますぞ!
ざまぁないですな!
「別に良いなの。なおふみと話が出来ると気分が良いなの」
「ガエリオンちゃんはとても良い人……じゃなくてドラゴンなんだね」
おや? さっきと同じ妙な雰囲気になってますぞ。
「そう言われると嬉しいなの」
ライバルは特に気にする様子も無いですぞ。
そんなに仕事が忙しいのですかな?
まあ、俺もフィロリアル様達のアイドル活動の準備に大忙しですがな。
「概要だけを簡潔に纏めるとワイルドなおふみの右腕をしていた、ラフーの大元と同族がこの地の問題である亜人種と同種と思われていて悩んでいたみたいなの」
「つーことは、槍の勇者が信仰している盾の勇者の右腕はラクーン種って事になるんだねぇ……」
パンダが溜息交じりに言いますぞ。
なんですかな?
お姉さん下げですかな?
お前等そんな事をしたらお姉さんに叩き潰されますぞ。
何度ループする際に吹っ飛ばされたかわかったものではないですからな。
最初の世界のお姉さんだけは怒らせない様にしないといけませんぞ。
「結果的に世界を平和に導いたって事は……よく真面目なラクーン種を引いたもんだね」
「ラクーン種?」
「ああ、ラクーン種ってのは亜人種の中でも身体能力は平均っちゃ平均なんだけど、何分シルドフリーデンのあの地の悪名の所為で評価が悪いんだよ。幼少時は大人しい方だけど大人になると気性が荒くなって怠け癖が出る奴等でね。見た目もそこまでよくないってんで種族的な評価は総じて良くないねぇ」
パンダは人種に詳しいですな。
しかし、お姉さんの種族にそんな悪評があるとは知りませんでした。
お姉さんはとても真面目で努力家ですぞ。
暇な時間を見つけては鍛錬に力を注いでいる様な、お義父さんの隣を歩くのに相応しい人格の持ち主ですぞ。
「正確にはなおふみの右腕をしていたラクーンはラクーンの近隣種でガエリオンみたいな魔物からすれば一発で違うのがわかるなの」
「あ、そうなんだ?」
「そもそも問題のラクーンはラクーン枠の中でも、とりわけ別種なの。ラクーン本種とも異なるけれど、ラクーンって扱いをされている感じなの」
よくわかりませんな。
ですが、フィロリアル様にも沢山の種類がいるので、お姉さんの種族でラクーン種に種類があるのもわかりますぞ。
要するにラクーン種シルドフリーデンみたいな感じでしょう。
「似て非なる種族って事なのかな? 確か……同種に思われていたけど詳しく調べると別種ってパターンは結構多いんだったかな」
それは地球の生物の事ですな。
「なの。その事実が判明するのは問題解決後の話なの」
「んじゃあ、シルドフリーデンの代表ドラゴン様ってのはラクーンの見分けが付くのかい?」
「当然なの。だってラフーとラクーン種の違いは尻尾がガエリオンの目だと縞々に見えるなの。人間はわからないらしいけどラフーに縞々は無いなの」
「……ん? ラフー……ガエリオンちゃんの姿から考えて、タヌキとアライグマみたいな感じに聞こえてくるんだけど……? この理屈だとレッサーパンダの亜人とかもラクーン種の枠に入れられてそうな気がするな」
確かに見た目だけなら似ている様な気がしますな。
俺も子供向けアニメとかで見た様な気がしますぞ。
タヌキと言いながら尻尾が縞々なキャラクターを覚えております。
あれは違ったのですな?
「纏めると最初の世界で俺の右腕をしていた子とラクーン種、それと今回のラクーン種の三種類いる感じ?」
「そうなの。後者二つはちょっと見分けが付け辛いけど、それは顔付きや性格でわかる様になるなの」
俺もフィロリアル様の種類を見分けられるのでわかりますぞ。
昔は外国の豚もわかりましたが、今はよくわかりませんな。
「その右腕をしていた子を仲間にしなくて良いのかな?」
「あー……なおふみ、ガエリオンちょっと説明するのは勘弁してほしいなの。ガエリオンの偏見じゃなくて、これまでのループ知識からすると……ちょっと難しいなの」
ライバルが言葉を濁しました。
まあ確かにこのループではお姉さんに会うのは難しいでしょうな。
もっと前の時間に戻れれば確実なのですが……。
「助けられないの?」
事情を察したお義父さんが心配そうに聞きました。
「手遅れなの。槍の勇者がこのループに来た時には所在地がわからなかったし、戻ってきた時も既に手遅れになっているはずなの。槍の勇者も悪くは無いなの」
な、なに……?
ライバルが何故か俺を弁護していて気持ち悪いですぞ!
確かにお姉さんはこのループではおそらく手遅れだとは思いますが、お前に庇われる理由はないですぞ。
一体何が目的ですかな!?
「そっか……」
「でも、この周回では既に助ける事が出来ている奴もいるなの」
「あ、そうなんだ」
「ガエリオンとなおふみが最初に会った世界では、そこの女騎士は獄中死したなの」
そんな事もありましたな。
カルミラ島から帰還した時、大々的に葬儀が行なわれていました。
あれはこのループの次の世界だったはずですぞ。
「私か?」
「え? エクレールさんって条件を満たさないと死んじゃうの?」
う~ん、どうですかな?
最初の世界では無事なので、死ぬ方が珍しい気もしますぞ。
「エクレア、このループのお義父さんの助言通り、最初の世界に近付けたら何故か死んだだけですぞ」
「イワタニ殿!?」
「ちょっと待って! そんな意図は無いから! 誤解を招く様な言い回しはやめてね!」
おや?
言い方を間違えましたかな?
ですが、エクレアはあの世界以外では生存していますぞ。
つまり、エクレアの頑丈性に問題があるのでしょう。
「エクレア、ずっと拷問されていた位で死ぬお前が弱い所為ですぞ」
「いや、ずっと拷問されてるなら死ぬんじゃないかい?」
「脱獄しなかったお前が悪いんですぞ」
「言い直した……えっと、エクレールさんを救出するとメルロマルクに留まる事に納得してもらえないから、とかそんな感じ?」
「そうですぞ。最初の世界では生きていたので放置したのですが、死んだのですぞ」
「……」
なんとも暗い雰囲気になってしまいました。
ここはフォローを入れましょう。
「次のループのお義父さんの分析によると善行し過ぎたのが原因らしいですな。エクレア、その次の世界では連れて行ったので安心しろですぞ」
「それはそれで安心出来ないのだが……いや、今は別の世界の私の不幸はどうでもよいか」
エクレアは何か言いたげでしたが納得したみたいですな。
「だから、あんまりワイルドなおふみを手本にし過ぎない方が良いと思うなの」
「うん……そうなんだけど、助けられるなら助けたいね……」
「他の者達はきっと女王とかの活躍で生活は保証出来ているはずなの。それくらいには有能なのは今までのループでわかっているなの。ガエリオンもある程度助言はするなの。安心してこのループのなおふみは世界を守るなの。それがワイルドなおふみの世界の仲間達の願いにもなるはずなの」
ライバルが落ち込むお義父さんを励ます様に言いました。
で、ライバルはドラゴンを推進した議員に顔を向けますぞ。
「近隣に物資は公平に配布したのをしっかりと証明して、アピールはさせたなの?」
「はい」
「ではその後は兵糧攻めなの。奴等が近隣の集落や町村に略奪に出た所を抑え込んで、しっかりと名目を立てて奴隷にして強制命令するなの」
ライバルはそれからしっかりと概要を説明しました。
まず、その周辺地域に万遍無くバイオプラントの種を植えて食料支給。
それを元にその地域の者達は治安維持と生活の安全を図り、真面目に働く事を指示。
これに従えず他の集落に略奪に行こうものなら現場を押さえて捕縛し、重罪として奴隷にしてから様々な作業に従事させるとの話でした。
犯罪者には罰をしっかりと与えなければいけませんからな。
「奴等は間違いなく子供をネタに同情を誘発してくるなの。自分達の方が恰幅が良い癖に飢えた子供を盾にする外道なの」
「捕まったら子供を名目に罪から逃れようとするって事? それは……」
「貧困に喘ぐ者達がよくやる常套句ではあるのだが……何分、あの植物を既に薪にして売ったと前情報があると……」
自業自得としか言いようがないですな。
どうしようもない連中ですぞ。
それがお姉さんと同族を装っているとは……速攻で処分した方が良いのではないですかな?
「守銭奴であるタクトですら手に負えない相手とは……恐ろしいですな」
いろんな意味で逞しい連中ですぞ。
……そう言えばお義父さんが村を開拓中にお姉さんと親戚だと言い張った奴等が来て、お姉さんのお姉さんにやんわりと追い返されたという話を村の者達から聞いた気がしますぞ。
極一部の真面目な者が婚約者が統治していた隣町に移り住んだと聞きましたが……もしやお義父さんの偉業を耳にして集りに来ていたのではないですかな?
「確かワイルドなおふみの話だとメルロマルクの隣国が飢饉にあって食べるのに困っている時の者達とは次元の異なる邪悪な連中だって言ってたなの」
ああ、そう言えばそんな話を俺も聞きましたな。
キールだったかがやっていた演目なのは元より、この世界の次のループで巡りました。
「物々交換でどうにか食料を恵んでもらおうとメルロマルクに密入国していた者達ですな。確かにあっちの方が健全ですな」
「飯の種を自ら伐採して困ったら奪いに行き、捕まったら子供をダシに罪から逃げようって……密入国して物々交換で食料を買いに来る人達とは確かに比べるまでもないね……」
まあ悪いには悪いんだろうけど……とお義父さんが同情していますぞ。
お義父さんが頭を悩ませていますな。
「なので子供達は虐待の被害から生命優先で保護し、同時に愚かな親から引き離して教育を優先させるなの。聞きいれなかったら元の場所に保釈し、親と同じ犯罪を起こしたら同様の罰を課して真面目に従事させるように命じるなの」
奴隷紋の束縛は中々にしんどいそうですからな。
怠け者では逆らえないと言う事でしょう。
それでも怠けると……死が待っていますぞ。
「子が親になり、子を産み、子を隷属させて、働きもせずに援助品を貪る。負の連鎖が続いているのを断ち切る時なの」
「おおせのままに……シルドフリーデンがシルトヴェルトに敗北していなかったら出来なかった事ですね。以前のこの国では奴隷は禁止でしたので」
ああ、一応名目上では奴隷制度をシルドフリーデンは廃止していたのでしたかな?
戦争で負けて属国になったのでシルトヴェルトの法律が適応するのでしょう。
何事もやり方ですな。
「というか、それが最初の世界の俺がやった事なの?」
「ワイルドなおふみはラフー以外の件では悩みはしたけど直接関わらなかったなの。関わったのはなおふみに権利委託をされたメルロマルクの王族なの。世界統治を任されていたからしょうがないなの」
「メルロマルクが、とは……」
エクレアが何やら唖然としておりますぞ。
メルロマルクがやったら何かおかしいのですかな?
国家を運営するのですから、それ位してもおかしくないと思いますぞ。
「あたい等からは想像も出来ない、随分と混沌とした世界になっているんだねぇ」
「あまり良い話には聞こえないのですが……」
「一応、これでワイルドなおふみの世界じゃ問題は解決して行ったなの。膿を出さねば傷はいつまで経っても治らないなの。ここは非道となってもやらねばいけない難問なの」
「ここぞとばかりに名目を立てそうだけど……」
政治とやらは面倒で嫌ですな。
みんなコンサートを見に来れば心は一つになるはずなのに、ですぞ。
「バイオプラントを自ら伐採して飢える様などうしようもなく、他所の集落を襲う蛮族を庇う奴にはそいつらを送りつけてやるだけなの。批判するならそいつらの面倒を見ろって事なの」
「こう……俺の世界基準だとボロボロの論理に見えるけど、これがこの世界では通じる方法なんだろうね……」
「後はしっかりとガエリオンやなおふみ、槍の勇者辺りが被害者アピールと正義主張で問題は大体片付くなの」
なんて感じでライバルが命じた通りに問題の地域の難問は解かれて行ったのですぞ。
しかし、コイツ等凄いですな。
ライバルが指示して三日目で近くの集落へ略奪を始めたそうですぞ。
関係者の根はかなり深かった様ですが、タクト派閥の消失で奴等も多少はグラついていた所為で上手く駆除を終えたのだとかなんとか?
ライバルが何をしたのかよくわかりませんな。
小耳に挟んだ話だと、問題ラクーン種への援助関係を影で糸を引いていた連中は魔物の襲撃とか色んな不幸が周囲で起こったとか。
ただ、俺を含めシルドフリーデンでの外交中に食事に毒物や、タクト派閥ではない連中が仕掛けた爆発物の問題がしばらく続きました。
ライバルの話では都合が悪いから消そうとしている連中だとの話でしたが、それもしばらくすると静かになりましたな。
シルドフリーデン方面にいる魔物商をライバルが探して会いに行っていましたが、何か関わりがあるのですかな?
結果的にライバルが就任してからシルドフリーデンの治安と財源が徐々に上向きになったとの話が聞こえて来る、腹立たしい状況へと進んで行ったのですぞ。




