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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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槍の勇者の狙撃

「シルドヴェルトからの要求に日々眠れぬ想いだったのは百も承知ではあります。シルトヴェルトはシルドフリーデンをどう思っているのか、それは……貴国の代表をしていたネリシェンを筆頭としたタクト一派の者達に搾取された犠牲者だと認識すると同時に、まだタクト一派の影響が根強く残っていると言えるでしょう。その改革の為、貴国が望む、俺に欠けた存在を、ここで紹介したいと思います」


 そうお義父さんが言うと共にライバルが浮かび上がり、徐々にその姿を変えて行きますぞ。


「グルァアアアアアアアアアアアアア!」


 ライバルは滅茶苦茶大きな咆哮を上げながら変身しますな。

 普段はコロコロと何の苦労も無く姿を変えているのによくやりますぞ。


 やがてシルトヴェルトで練習していた赤を基調とした白く神々しい感じのデザインのドラゴン姿になりました。

 羽が若干鳥っぽい意匠を混ぜている様ですな。

 それはフィロリアル様の特権ですぞ!

 しかも四枚羽とは何なのですかな?

 魔法まで使って光が空から差し込む様な演出までするとか演技過剰ですぞ!


「おお……」


 観衆が感嘆の声を上げたのが聞こえてきますな。

 この程度で騙されるのですかな?

 なんとちょろい連中ですぞ。

 みんな騙されるな! ですぞ。


「此度、盾の勇者の声に応じて馳せ参じた。我の名はガエリオン。我の愚かな同族がした責任を償う為、シルドフリーデンへと舞い降りた。シルドフリーデンの者共に命ずる。愚かな偽者の勇者であったタクトの配下をしていた邪竜の呪縛から目覚める時が来たのだ!」


 ライバルがここぞとばかりに遠くまで響き渡る低い声で言いました。

 するとライバルの顔面辺りに火花が散りましたな。


 俺には見えていますぞ。

 高々に飛んでいたライバルを迎撃しようと少し離れた所から銃器で狙撃している奴等がいた事を。

 お義父さんが若干心配そうな目をしましたが、ライバルは手を振って問題ないと答えている様ですぞ。


「ふざけるな! 偽りの神に騙されるものなど我等シルドフリーデンには居ない!」


 そんな声が観衆の中に紛れて聞こえますぞ。

 さすがに俺もあの中から言った奴を射抜くのは骨が折れますな。

 あの辺りですかな?

 ま、ライバルが狙撃された程度で前には出ませんがな。

 お義父さんが狙われたのであれば即デストローイですがな。


「……愚かな。どうやら我の力を披露するしかない様だな。5秒猶予をやろう。今すぐ命乞いをするなら命だけは助けてやろうではないか」


 語尾とふざけた口調が無いと違和感がありますな。

 お前はいつもお義父さんを相手に媚び媚びしていて失敗する姿以外はあり得ませんぞ。

 それから5秒ほど、何度も銃撃音が聞こえてきましたな。


「我の強さを侮ってもらっては困るな……我からすれば貴様等を驚かせた槍の勇者の攻撃であろうと造作も無い」


 なんだと、ですぞ!

 言いましたな! では見せてやりますぞ!

 銃弾に擬装してエアストジャベリンを投げつけてやりましょう。

 俺は槍を爪楊枝の様に小さい物に変えてから言いました。


「エアストジャベリン!」

「ちょ――」

「ぬるい」


 く……ライバルに叩き落とされてしまいました。

 偽装したので威力が出ないのが敗因ですな。

 本気の攻撃であればライバルなんぞ雑魚も同然ですぞ。


「はぁ……嘆かわしい。あのような邪竜と偽勇者を信仰する者がこれ程にのさばっているとは……そして、わかったな? 槍の勇者であろうと我を脅かせん」


 俺に視線が集中した様な気がしましたぞ。


 俺を踏み台にしたつもりですかな!

 ブリューナクを放ってやりますぞ!


 と言う所でお義父さんが注意する様な目をした気がしたので自粛しました。

 おのれぇえええええ……ライバルめぇえええええ!


「では、死ぬが良い!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアア――!?」


 ライバルが指を鳴らすと一斉に観客の中に居た犯人と、遠くから狙撃をしていた奴が燃え上がった様ですな。

 ちなみに5秒の猶予と言うのはおそらく狙撃手に狙いを定める時間ですぞ。

 猶予なんて最初から無いって事ですな。

 俺ですかな?

 はは、この程度の魔法で燃え上がるはずもないですぞ。


「キャアアアア!?」

「おおお!?」


 もちろん、銃器で撃ちまくっていた奴は輪が広がる訳なので狙いやすいのは当然ですが、突然の発火に周囲の観客は大混乱になった様ですぞ。

 はは、所詮はライバルの演説ですな。

 大失敗ですぞ。


「落ちつけぇええええええええええええ!」


 ライバルの咆哮を受け、大混乱となっていた者達が恐慌状態になり動かなくなりました。

 広範囲の束縛魔法ですな。

 確かに物理的な混乱は抑える事は出来たでしょうがコレで良いのですかな?


「何を戸惑う? 偽りの神を信仰する者を選定し、裁いたに過ぎない。奴等は……自ら引き金を引いたに過ぎん」


 自業自得なのは当然ですな。

 それだけ奴等にとってお義父さんとライバルの存在は邪魔なのでしょう。

 俺もライバルの存在は激しく邪魔ですぞ。


「これからはタクトとネリシェン、邪竜レールディアが煽動した偽りの自由ではなく、シルドフリーデンが初心とする真なる自由へ至れる様に助力をする。国民共よ……力を合わせ、国を生まれ変わらせるのだ!」


 と大声でライバルが宣言すると同時に恐慌状態が解除され、唖然として見上げる国民達の中からまばらに拍手が聞こえてきました。

 徐々に拍手の音が大きくなり喝さいが起こりましたな。


 くっ……非常に不服ですがライバルの演説は成功してしまった様ですぞ。

 やがてライバルは姿を変えて人型姿で着地し、お義父さんの隣に立ちました。


「では、シルドフリーデンの皆さま、これからよろしくお願いします。国の負債を解消するのは元より、勇者としての役割である波の対処はしっかりと行うつもりなので……邪魔をするのなら、どうなるか、此度の件で理解したと思います」


 お義父さんが若干ドスを最後に利かせて演説の席からライバルと共に降りて戻ってきました。

 観衆達は戸惑いとも取れる声がザワザワと聞こえて来ましたな?

 それをモノともせずに俺達は再度建物の中へと戻ったのでした。





「さて、元康くん?」


 背筋がぞっとする様な気配を纏った笑顔のお義父さんが俺の方へ来ました。

 この気配、最初の世界のお義父さんとは異なる、寒気を俺に与えて来ております。

 何に似ているのか……ああ、何でしょう、俺を刺したあの豚の殺気を連想して怖いですぞ。

 コウがへらへらしながらキールとモグラを食べると言った時と似ていますな。


「な、なんですかな!?」

「ガエリオンちゃんに挑発されたからって銃弾に紛れて攻撃したでしょ。丸見えだったよ」


 ギクゥ!?

 やはりお義父さんに見られていました。

 ここは誤魔化すべきですかな?

 いえ、俺はフィーロたんに誠実に生きると誓ったので正直に言いますぞ


「売られた喧嘩を買っただけですぞ。悪いのはライバルですぞ」

「まあ、槍の勇者ならやるだろうと挑発したなの。これで奴等も脅威と思っている槍の勇者さえも退かせるガエリオンを信仰すべきか悩むはずなの」


 ライバルがここぞとばかりに溜息交じりに言いますぞ。

 俺を踏み台にするとは許せませんぞ!


「元康くんが脇目も振らずに本気で攻撃してきたらどうするつもりだったの?」

「避けられる程度には鍛えていたなの」

「調子に乗るなですぞ! お義父さん、俺が本気なら今頃ライバルは消し炭ですぞ!」

「気持ちはわかるけど、あの場面で消し炭にされると本気で困るんだけどね……」

「ドラゴンとフィロリアルの仲の悪さは筋金入りだねぇ」

「無論、キタムラ殿の蛮行なのは揺るぎ様が無い」


 パンダとエクレールまで煽動されていますぞ!

 俺は悪くないのですぞ!

 殺す程の力は入れてませんぞ。

 精々豆鉄砲程度の嫌がらせですぞ。


「ライバルが俺を嵌めようとしていますぞ。お義父さん、これは陰謀ですぞ」

「はいはい。元康くんも分別は付けようね? ガエリオンちゃんもアドリブで元康くんを挑発しないでよ……」

「結果オーケイなの!」


 何が結果オーケイですかな!

 お前の所為で俺の立場が危うくなっていますぞ。


「大丈夫なのかな、これで……余計不安になってきたよ」

「大丈夫なの」

「不安な気持ちは十分に察する事が出来るぞ。イワタニ殿」

「先が思いやられるってもんだね」

「えー……皆さんと同じです」


 三騎士共がライバルの演説の感想を述べました。

 ハッハ! 所詮ライバルなんぞこの程度ですな!

 みんなの不安を煽るのが仕事みたいなモノですぞ。


「ところで槍の勇者」

「なんですかな?」

「ガエリオンのカリスマを盤石の物にする為に既に持っているバイオプラントの種を量産して寄こせなの。まずは衣食住が重要なの」


 くっ……ずけずけと俺の手柄に土足で踏み込んで来ますな。

 ここはしっかりと権利を主張しないといけませんぞ。

 じゃないと樹みたいになってしまいますからな。


「これは俺とお義父さん、フィロリアル様の手柄なのですぞ!」

「ああもう……」

「これが語るに落ちると言うのだろうな」

「そこまで改革的な代物を持っているならサッサと出すべきなんじゃないかい?」

「はい。それが世のためだと思います、槍の勇者様」

「元康くん、良いよね?」


 お義父さんが手を前に出しているので渋々出しますぞ。

 既に入手はして改造済みではありますが、納得できません。

 後々必要になった場面でお義父さんに渡す予定だったのですぞ。

 使い方一つで危険な物になる可能性もあるのですからな。


「これは……Lv上げの時に元康くんが言ってた、俺が未来で改革に使った植物の種かな?」

「そうですぞ! 俺の不手際が起こる前に回収して改造済みなのですぞ! これでお義父さんの威光を全世界に示しましょう!」

「まあ、今の俺達に必要な事はシルドフリーデンを立て直しつつタクト派閥を炙り出す事だからね……とはいえ、最終的には元康くんが第一発見者って事にはするけど、世間的にはガエリオンちゃんが提供したって事にした方が支持は得られそうだね」


 お義父さんまでそんな事を言うのですかな?

 何が悲しくてドラゴンなんぞの手柄にしなくてはならないのですかな?

 合理性なんてクソ喰らえですぞ。


「なの! 結果的に槍の勇者が広めた事は教えるべきだけど今は我慢なの」

「くうう……覚えていろですぞ!」


 と言う訳でお義父さんにバイオプラントの種を量産して渡し、ライバルはその種を持ってシルドフリーデンの各地に演説をしながら回る事になった様ですぞ。

 お義父さんの方は時に公務でライバルと一緒に演説する事はあっても、それ以外の時はポータルでシルトヴェルトの方にいる感じになりました。


 予定通りではありますが、少々意外ではありますな。

 あのライバルがお義父さんに付き纏わない光景は不気味ですぞ。

 誰が何と言おうと警戒しておく必要があるみたいですな。


 みんな騙されるな! ですぞ。


 俺は当初の予定通り、シルドフリーデンでフィロリアル様を布教する活動を始めました。

 ああ、世界各地で起こる波に関しては報告する必要も無い程の雑用ですな。

 大体が俺やお義父さん、エクレア達とフィロリアル様の協力の下、即座に鎮圧されて行きました。




 しばらく経過した頃。

 シルドフリーデンの城でライバルに一室が用意され山の様な書類が積み上げられ始めた様ですな。

 お義父さんと一緒に様子を見に行くとライバルが書類整理をしていました。


 ちなみにライバルに渡したバイオプラントの種によってシルドフリーデンでは食糧問題が改善に向かいつつある様ですぞ。

 結果的に食うに困らない状況から支持率が上昇してきたのだとか。


「うわ……山の様な書類だね」

「なのー毎日毎日よくもまあ、やってるなのって位来るなの」


 若干ライバルの声に張りが減っている様ですぞ。

 おや? お義父さんにドラゴンを提唱した議員が補佐とばかりに書類整理の場に混じっております。


「ドラゴン様が毎日寝ずに結論を出してくださっております」

「寝ずに!? ガエリオンちゃん大丈夫!?」

「この程度、問題ないなの。ドラゴンはその気になれば何年だって寝なくたって戦えるなのー……」

「いや、疲れていない?」

「問題ないなの。これも全てなおふみの為なの」

「ガエリオンちゃん……」


 何やらライバルとお義父さんの間に妙な空気が漂っている様な気がしますな。

 ライバルは書類に視線が向かって居て気付いている様には見えませんがな。


「ここの出費がおかしいなの。問い合わせろなの。人情を理由に私腹を肥やしそうなら速攻で処理なの」

「はい。こちらの問題はどういたしましょうか?」

「こっちは働き過ぎなの。休みをやらねば持たないなの。生かさず殺さず、それでありながら長く続く健全な仕事をさせてなんぼなの。と言うか……先任者の息がいろんな所で毒となって全体が壊れ過ぎなの」

「返す言葉もありません……」


 補佐をしている議員が謝罪していますぞ。

 まあやる事はやっているみたいですな。

 そのまま奴隷の様に働けですぞ。


「ガエリオンちゃん、本当に大丈夫?」

「だから大丈夫なの。ガエリオン別世界の魔王の力も使えるから、配下にした魔物共に疲れを肩代わりさせているからそこまで疲れないなの」

「そんな真似を……いつの間に……」

「演説の為にシルドフリーデンの各地を回っている間にちょっとした縁で配下にした奴等なの。魔王ガエリオン降臨でもあるなの」

「いや、本当に大丈夫なわけ? いろんな意味で」


 と言う所でライバルがゴキゴキと首を鳴らしながら書類を見ております。


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