フィロリアル49
「なんか大変そうだけど……大丈夫?」
「状況的に今は忙しい時期なの。なおふみをシルドフリーデンにばかり置いてはおけない状況だってあるはずなの」
「まあ……そうだね」
……一理ありますな。
本来、シルドフリーデンなんぞ金銭を頂けば終わりの連中ですぞ。
しかし、色々な理由からシルドフリーデンでやらなければいけない事が出来ています。
この問題を出来るだけ素早く解決し、タクト残党を駆逐したり、クズを捕獲したり、波の対処をしなければいけません。
「何よりもう大丈夫なの。タクトの女共が出てきたら生け捕りにしてやるなの。仮にガエリオンが戻って来なかったとしても槍の勇者の槍に定期的にバックアップしておくから近くにドラゴンの卵を置けば蘇るなの」
「いや、それは大丈夫じゃないと思うんだけど……」
「心配してくれるなの?」
ライバルがここぞとばかりに流し眼でお義父さんの顎に手を当てますぞ。
「え……いや、さすがに死んでも大丈夫だなんて言われて、はいそうですか、なんて言えないよ」
「お義父さん! 悩殺をしようとしていますぞ! 注意するのですぞ!」
「ぶー!」
俺の抗議にお義父さんが何やら半眼になって僅かに溜息をしながらこちらを向きますぞ。
ですが、これは当然の主張ですぞ。
「あのね、元康くん……この程度で騒いでどうするのさ」
「ですが!」
「とりあえず準備は整った訳だからシルドフリーデンに行こうか」
「ガエリオンの御披露目なの」
く……どうしてここまで面倒臭い国の為にライバルを連れて行かねばならないのですかな!?
それもこれもシルドフリーデンがドラゴンなんぞを信仰している所為ですぞ。
……ドラゴンを信仰しているのが悪い?
「俺は独自にフィロリアル様教をシルドフリーデンに広めますぞ! サクラちゃん! 俺達はアイドル路線で行きますぞ!」
「アイドルって……まあ、上手く行けば張り合えるかもしれないけど」
最初の世界の様にフィーロたんがアイドルとなって世界を一つにまとめた様に、サクラちゃん達にがんばってもらいますぞ!
サクラちゃんはフィーロたん。
同じ事が出来るに違いないですぞ。
「安心してください。俺はフィーロたんファンクラブナンバー00、アイドルに関しては一言ありますぞ」
「え? 元康くんってドルオタだったの?」
「違いますぞ。俺はフィーロたんオタですぞ」
「そ、そうなんだ……」
この際、マネージャーとして有能だった婚約者を起用するのが良いかもしれませんな。
ですがシルドフリーデンに婚約者が来てくれるか怪しいですぞ。
ちなみにサクラちゃんはライバルを育てる一週間の間、メルロマルクで婚約者と仲良く遊んでいました。
また遊ぶ約束をしているらしいですな。
「えー? サクラ、アイドルー? アイドルってなにー?」
サクラちゃんがおっとりとした口調で答えますぞ。
「アイドルはアイドルですぞ」
「アイドルー」
「そうですぞ。アイドルですぞ」
「アイドルー」
サクラちゃんはのんびりした様子で答えてくれました。
両手をパタパタとさせていてかわいらしいですぞ。
これなら行けるのではないですかな?
「説明になってない……えっと、わかりやすく説明するとね、みんなの前で可愛く踊って歌う職業、かな」
「えー、それって楽しいのー?」
「もちろんですぞ! キラキラしていますぞ」
「キラキラー? んー?」
くっ……サクラちゃんにアイドルの良さが伝わっていません。
サクラちゃんのルックスなら人気アイドルだって夢ではないはずなのですぞ。
「サクラちゃんはおっとりだからねー……アイドルをするには難しいかもね」
「出来るはずですぞ!」
フィーロたんが出来る事はサクラちゃんも出来るのですぞ!
ですが……確かにサクラちゃんはおっとりなフィロリアル様。
機敏に踊って歌う姿は想像し辛いですぞ。
アイドル目線も出来るか……これは練習しなくてはいけませんな。
それならばユキちゃんも一緒にデビューですぞ!
ユニット結成ですぞ。
二倍でドンですぞ!
静かに話を聞いているユキちゃんの冠羽がピコピコ動いているので、嫌ではないはずですぞ!
「ユキちゃんもですぞ」
「わかりましたわ!」
ユキちゃんがやる気満々な様子で応じてくれました。
リーダーシップのあるユキちゃんに任せると、最初の世界のクー達の様にフィーロたんを盛り上げるライバル路線で盛り上がるかもしれません。
サクラちゃんとユキちゃんならお互いの個性を潰す事もありません。
見える……見えますぞ。
優しげでゆるふわなサクラちゃんとキリッと透き通る様な声のユキちゃんが煌びやかな衣装を纏って舞台に立つ姿が……。
これは行けますぞ!
「コウはー?」
「コウはアイドル服を着れる? ユキちゃん達の着ているワンピースを派手にした衣装になると思うけど……まあ、少年アイドル路線でやれば行けるのかな?」
「えー……」
コウが眉を寄せておりますぞ。
みどりは喜んで着ておりましたが、コウはイヤみたいですな。
ですが、安心しろですぞ。
アイドル活動で稼いだ資金でコウには好きな食べ物を沢山食べさせてあげますからな。
「フィロリアル様を総動員してアイドル路線で行きますぞ! 最初の世界のお義父さんは握手権等を商品に付属して売り出しておりました! それを参考に沢山のフィロリアル様を数で売り込みましょう」
ふふふ……ライバル、所詮お前は一匹ですが、こちらには無数のフィロリアル様がいるのですぞ。
一緒にシルドフリーデンの国内を巡りつつ治安維持と食料需給の上昇を測り、お義父さん直伝の商売を並列して行けばドラゴン信仰など、容易く廃れますぞ。
しかもタクト派閥を人海戦術で炙り出せます。
一石二鳥ですな。
「フィロリアル49……って感じになるのかな?」
「それはなんですかな?」
「数が多いアイドルのチーム名だよ。俺の世界では握手権とかの商法で有名なアイドルがいるんだよ。好みは人それぞれだからね。何人もいるとその中に推しとなるアイドルが出るモノなんだよ」
おお! それは良いですな!
早さで競い合うのが好きなフィロリアル様にぴったりですぞ。
おや? 昔、アイドルを夢見ていた豚との出来事が思い出されますな。
何人か出会った覚えがありますぞ。
俺が甘い言葉を投げかけたらアッサリと夢を捨てた豚やより努力してアイドルになった豚……海外に進出した豚等もおりましたな。
ともかく、あの時の様に俺独自のプレゼン等のアイデアを利用すればきっと上手く行くはずですぞ!
「なおふみの為にがんばれーなの」
ムキー! ですぞ!
いつか吠え面をかかせてやりますぞ!
「どんな状況でも、キタムラ殿がああしてぶれない限り、どうにかなるのではないかと私は思い始めている」
「諦めの境地に入ってないかい?」
「私もそう思います」
などとエクレア達が何やら言ってましたが、無視ですな!
フィロリアル様達を総動員させるのに少しばかり時間が必要でしょうが、すぐに後れを取り戻しますぞ!
こうして俺達はライバルの御披露目をする為にシルドフリーデンに移動したのですぞ。
そんな訳でシルドフリーデンへとライバルを連れてやってきた俺達は、シルドフリーデンの首脳陣を召集し、ライバルのお披露目を行なったのですぞ。
お義父さんにドラゴンを使役させるべきだと提案した議員が我先にと迅速にやって来て会議の場でお義父さんに会釈して席に座りました。
やがてポチポチと議員が集まって来ましたな。
「では……盾の勇者様達の声によりシルドフリーデンの改革を再度始めようと思います」
と言う声と共に、会議は始まりました。
「盾の勇者様。こちらの提案通りにドラゴンを育成したとの話ですが……」
ドラゴン育成を提案した議員が挙手し、了承を得てから立ち上がって尋ねてきましたな。
するとお義父さんが頷き、答える前にライバルが手を上げますぞ。
実に調子の良い反応ですな。
「それはこのガエリオンなの。その提案通りに応じてここに来たなの」
訝しげに見る議員が居る中で提案した議員はしっかりと頷きました。
「タクトのドラゴンも人の姿を取っている事が多くありました。ですのでガエリオン様、貴方がドラゴンである何かしらの証明をお願いしてよろしいでしょうか?」
「当然なの。それにここでの話が終わったらプレゼンをするのは決定事項なの」
ライバルは立ち上がるとバサッ! っとドラゴンの羽を出して自己主張しますぞ。
「タクトのドラゴンの様な雑魚と一緒にされては困るなの。けど、こんな真似も造作も無いなの」
サービス精神とばかりにライバルは子竜状態に即座に姿を変えて会議室のテーブルの上で滞空しますぞ。
ガタッと提案した議員の後ろに居た議員が驚きの表情を浮かべますな。
なんですかな?
お義父さんがタクトの飼っていたドラゴンを再現出来ないとでも意気巻いていたつもりだったのですかな?
残念ですがライバルはタクトのドラゴンよりは厄介な奴ですぞ。
「確かに把握いたしました。ですがそのようなか弱き姿を取るのは余りお勧めいたしませんが?」
「相手の油断を誘うと言う考え方もあると思うなの……そもそも」
ライバルが滞空したまま一旦目を瞑り、キッと議員共を睨みますぞ。
ああ、何やら殺気を放っていますな。
魔物特有の独自の雰囲気がありますぞ。
「ぐ……」
「う……」
ライバルの放った殺気に当てられて議員の一部が呻き始めましたな。
かなりの議員が青い顔を始めました。
この程度の殺気でうろたえるとは程度が知れますな。
「ドラゴンを舐めるな……虚勢を張るだけが王者ではない」
今までの媚び媚び声は鳴りを潜め、ライバルは親みたいな言い回しで応えました。
その親だって情けないドラゴンですがな。
HAHAHA、情けない親子がカッコつけても何にもなりませんぞ?
「然るべき時には相応の姿を見せよう。それで良いのだろう?」
「ええ、それだけの威圧が出来るのでしたら私共の期待に、シルドフリーデンの信仰に十分に答えられるかと思います。助力は致しますが先の長い戦いをご理解下さい」
提案した議員は顔色一つ変えずに応えますぞ。
「人の世は面倒なものなの」
殺気を消して若干溜息交じりにライバルは人型に戻って席に着席しましたな。
「不服に思うのならいつでも相手をするなの。掛ってくるなの」
チョイチョイとライバルは余裕を見せるように手招きしておりますぞ。
完全に調子に乗っていますな。
海で一週間、お義父さんと一緒に狩りに出た程度で王者になったつもりですかな?
最強はお義父さんですぞ!
次点で俺とフィーロたんとお姉さん。
その次がフィロリアル様達で精々お前は錬と樹がしっかり強化されたら同列になる程度なのですぞ!
くう……お義父さんが俺を見ていなければ注意する所なのですが。
「では……本日の午後、このシルドフリーデンの首都で国民に大々的なプレゼンテーションをお願いしてよろしいでしょうか?」
「当然なの。ガエリオンの神々しさを見せてやるなの」
「よろしくお願いします」
そんな訳で会議の場は粛々と進んで行きました。
前回話し合った改革に関しては、まずは国民の支持を得ないと何も出来ないとの話でしたからな。
ただ、提案した議員は色々と根回しを行っていたそうで、若干の問題点となる利益問題の整理は進みつつあるのだとか?
尚、ライバルがいる事で緊張のあまり、会議の席中に体調を崩して席を立った議員が数名いましたな。
雑魚にも程があるのではないですかな?
やがて会議もある程度一区切りした所で……準備が終わったのかシルドフリーデンの建物の外へと俺達は移動する事になりましたぞ。
「おおー……沢山人が集まってるね」
建物の外を見ると鉄柵の外に沢山の人が集まっていますな。
日本で言う所の国会議事堂前に無数の人だかりが出来ている感じですぞ。
どんな状況だったかはよく覚えてませんな。
あ、でも昔、外国に行った際に姫をしていた豚が国をひとまとめにする際もこんな感じで人が集まっていた様な覚えがありますぞ。
……思えば姫を自称する豚には何度かあったのでしたな。
完全に忘れていました。
まあ、どうでも良い記憶ですな。
「では、ここでガエリオンのお披露目なの」
「ガエリオンちゃん、気を付けてね」
「大丈夫なの!」
そんな訳で俺達は見晴らしの良い庭に出てステージにまでゆっくりと歩いて行きました。
それからお義父さんとライバルがステージに上がり……大々的にプレゼンを行う感じで席の前に立ちます。
俺はそんな調子に乗っているライバルをサクラちゃんを始めとしたフィロリアル様と一緒に歯をギリギリさせながら見届けておりますぞ。
「此度、シルトヴェルトから視察に来た盾の勇者の岩谷尚文です。シルドフリーデンの皆さん。ここ二週間の範囲で俺は、貴国の内情に関して色々と見る機会に恵まれました。そして……貴国が盾の勇者に何を望んでおり、俺に何が欠けていたのか……それをここで証明をする為に、この席を設けさせて頂きました」
と、一旦お義父さんは区切ってからライバルの方に一度視線を向けますぞ。
ライバルは相変わらず王者の様な雰囲気を作っていますな。
みんな騙されるな! ですぞ。




