重量級
「近接も遠距離も両方を兼ね備えた戦い方かー……」
「もちろん飛んでいる相手にだって遅れは取らないのはわかるだろ?」
「岩投げだもんね。近づいたら動きの速い鼻で絡め取られて叩きつけられたり、締めあげたり……殴られたり」
「その辺りのパフォーマンスも人気の秘訣だねぇ。地響きで相手を躍らせつつ嬲る……だからゼルトブルのコロシアムで付いた二つ名が地響きの女王って訳さ」
「ラーサ! さっきから私の悪口を言うのはやめな!」
「ああ、はいはい。もう完全にスイッチ入ってるねぇ」
「女王様って感じなのかー……」
お義父さんが若干引いてますぞ。
パンダはニヤニヤしていますな。
「ま、エルメロの名誉とかの為に言うと、好きでやってる訳じゃないから気にしないで良いんじゃないかい? 闘士としてやらされてる感じさ。素ではあるみたいだけどね」
「まあ……サクラちゃん達と遊んでいる時は凄く楽しそうだったもんね」
これはアレですな!
子供達の為にコロシアムで戦う闘士……フィロリアルマスクのライバルですな。
そう言えば、前回のループで戦った様な気がしますぞ。
開始と同時に仕留めたので忘れていました。
「コロシアムではフィロリアルマスクが大活躍ですぞ」
「何、その微妙に気になる人物」
「前回のループで俺がコロシアムで使っていたリングネームですぞ」
「子供好きって方向性は同じかもしれないけど、絶対に戦いたくない」
「だねぇ……槍の勇者の強さを知ってるから言うけど、エルメロ程度じゃ話にならないんじゃないかい?」
「HAHAHAですぞ!」
「笑ってないで……ゼルトブルで元康くんに遭遇する人には同情するよ」
タクトですな!
今度コロシアムで会ったら大会後に処理しておきますぞ。
「あたいはどうだったのかねぇ?」
「会ったかもしれませんな」
ただ、さすがにパンダは覚えているとは思いますぞ。
豚に変身していたら知りませんがな。
ですが、時期的に俺達が滞在していた頃にはいなかったのかもしれません。
お義父さんとメルロマルクで行商をしているループでは二度目の波前後位まではシルトヴェルトに居ましたからな。
「覚えて無いとか……ラーサさん、成仏してね」
「洒落にならないからやめてほしいねぇ。で、騎士様はそんな地響きの女王にどう対処するのかね?」
「あ、エクレールさんが何か仕掛けるみたいだよ」
エクレアが避けながら剣に手を添えて魔力と力を込めておりますぞ。
そして姿勢を低くしたまま、ゾウが投げた岩を避けて急接近しますな。
「貴殿の短所はやはり動きが緩慢な所とその巨漢故の的の大きな所だ。なのでそこを突かせてもらう。はぁああああ!」
そして股下を潜る動作で近づき、ゾウがそれを警戒して背後を守る為の魔法を使う直前、ゾウの目の前で足を止め、エクレアは剣でゾウのみぞおち目掛けて突きました。
バシンと良い音と共にゾウの背中にまで何やら衝撃が通り抜けましたな。
ゾウが浮いた様に見えました。
「うぐ……」
バッと即座に後退したエクレアは次の攻め手を考える様に小刻みに動いております。
蝶の様に舞い、蜂の様に刺すスタイルですな。
そんな様子にゾウは諦めた様に尻餅を着いて座り込みましたぞ。
「いたた、中々の一撃を持ってるわねー」
「おや? ここでやめるのか? そこまで深く入った気はしなかったし、次の手を考えていたのだがな……」
やや不完全燃焼と言った様子でエクレアは剣を収めますぞ。
「先読みを間違えたこっちが負けです。貴方を侮り過ぎました」
「ちなみに同じ手を私がするとわかったら何をする気だったのだ?」
「そりゃあ……」
ブンブンとゾウは凄い速度で鼻を動かしていますな。
ゾウの動きの中で一番早い部位なのでは無いですかな?
「……なるほど、その攻撃をされたら正面から腹を狙うのは難しい」
「警戒しているから正面から来るなんて思わなかったんですよ。大胆なんですね」
「時に必要だとは心得ている。手ごたえからすると、貴殿の体力と耐久性は骨が折れそうだ……イワタニ殿の守護騎士に任命されるのも当然であろうな」
確かにあの頑丈さはお義父さんのボディガードにはもってこいですぞ。
まあお義父さんは盾の勇者なので必要なのかは怪しい所ですがな。
ですが、防御が出来る味方がお義父さんだけよりも戦略の幅があるはずですぞ。
何よりゾウはパワー系なのでお義父さんが攻撃を引き付けて、ゾウがトドメを刺す、みたいな事も出来るでしょうな。
「騎士様はもう少し魔法を使う事を意識すべきじゃないかい? 剣術だけに縛られ過ぎだよ」
「……耳に痛い話だな。折角の機会だ。私も学んで行くとしよう」
「ちなみにエクレアは最初の世界だと変幻無双流という流派でいろんな技を覚えて魔法の様に使っていましたな」
「……」
エクレアは何やら微妙そうな顔をしていますぞ。
ループ経験から助言したのですが、反応は微妙ですな。
何が嫌なのですかな?
「元康くん……」
「時と場合を選べなの」
お義父さんとライバルが何やら呟いております。
何か間違った事を言いましたかな?
「……ま、騎士様の戦い方なら大体の重量級に通じると思うさね」
「ちなみにラーサズサ殿はどの様にエルメロ殿に勝利をするつもりなのだ?」
「前に勝った時は竹で締め上げたりしたねぇ。あっさり捕まったもんだよ」
「逆に不用意に突撃して私に捕まって叩きつけられてKOされた事もあるじゃないか」
「ハッ! そんな昔の事は忘れたねぇ!」
パンダは知らないとばかりにゾウの返事を聞き流しますぞ。
「で、盾の勇者様。あたい達の戦い方はわかったかい?」
「うん、みんな凄く強いね。運用を考えたら面白そうだよ」
「なの!」
お義父さんはこの手の連携をするのが好きな様ですからな。
ライバルの育成などと言う事さえ無ければサクラちゃん達にお願いする所ですぞ。
「あたいとしては盾の勇者様を文字通りエルメロの腕か鼻辺りに持たせて盾にするのが丁度良いと思うんだけどねぇ」
「ラーサ!」
「さすがにそれは……どうなのだ? イワタニ殿を守らねばならないと言うのに」
「あはは……完全に重量級のタンクだね。その組み合わせは……そもそも俺は盾の勇者でみんなを守って支えるのが役目なんだよ」
お義父さんが苦笑いをしました。
「パンダ……そんな真似をお義父さんにさせたら承知しませんぞ」
「フィロリアルに乗せて走らせながら守るのと何が違うんだい? 陣形としては良いと思うよ?」
お義父さんがゾウの背に乗ったり、鼻で抱えられたり、手に乗るのですな。
……ゾウの足の遅さを考えると、良いのかもしれませんが……。
まあ、ゾウ自身に攻撃を担当してもらえますからな。
先ほどのエクレアの様にみぞおち目掛けた攻撃もお義父さんがサポート出来ますぞ。
ですがゾウを入れなければ、より素早く皆を守れるのではないのですかな?
「エルメロさんの戦い方を見た感じだと、後方で岩投げをして援護をしてもらったりする方が効率は良いかも知れない。もしくはそれこそ仲間を投げて敵に急接近させるカタパルトスタイルかな?」
「ちょ! なんて事を言うんだい!」
するとゾウは悪だくみしている様な邪悪な笑みを浮かべつつ拳を鳴らしておりますぞ。
「それは良いですね。ラーサなら受け身と攻撃が出来るでしょうし、是非とも投げ飛ばしたいと思っていました。丸くて丁度良いと思います」
「冗談じゃないよ!」
「うむ……中々に変わった編成で戦いに挑めそうだ」
エクレアが満足した様に頷いていますぞ。
「わー、もう終わりー?」
声の方を見ると婚約者とサクラちゃん、ユキちゃんやコウが少し離れた城の窓の所から見ている姿を発見しました。
どうやら観戦してくださっていた様ですな。
俺が手を振るとサクラちゃん達が振り返しております。
そんな感じでエクレア達の稽古は終わったのですぞ。
それからお義父さんはエクレア達を連れてシルトヴェルトで、ライバルを育てる為に魔物退治に出かけて行きました。
俺達はその間に、世界各地を周ってドラゴン退治の旅ですぞ。
本当はやりたくないのですが、何もせずにいるよりはマシでしょう。
フィロリアル様達のパワーアップも併用して出来ますからな。
なので定期的に城のフィロリアル様達を交代させながら各地のドラゴンや魔物を退治して周って行ったのですぞ。
「エイミングランサーⅩ! ブリューナクⅩ! グングニルⅩ! リベレイション・ファイアストームⅩ! リベレイション・ファイアアイⅩ! リベレイション・プロミネンスⅩ! ハハハ! 弱い! 弱過ぎるぞぉおお!」
人里から離れた魔物の巣で湯水の如く出現してくる魔物を相手に俺はシルドフリーデンの連中やライバルの所為で溜まったストレスを発散して行きますぞ。
「元康ビィイイイイイイイム!」
リベレイション・ファイアアイはブリューナク並みに便利ですな。
薙ぎ払いもお手のものですぞ!
「わー! すごーい!」
「目から魔法が出てるー!」
「こっちもがんばろー!」
連れてきたフィロリアル様もやる気満々で走り回っていて微笑ましいですぞ。
狩りのついでに食料調達も出来ますな。
もちろん各地を周るついでにバイオプラントの種も回収済みですぞ。
この種はお義父さんが有効活用している姿は幾らでも見ておりますからな。
これでシルドフリーデンは元より、世界各地で起こっている食糧問題等も一挙解決ですぞ。
お義父さんの評価対象の中にライバル等が入る隙等、ありません!
「フハハハハハ! ドラゴン、グリフィンなんぞ根絶やしにしてやりますぞー!」
もちろん、ついでとばかりにメルロマルクの三勇教の秘密砦も破壊しておきました。
どうやら本格的に稼働はしていなかった様で収穫はあまりありませんでしたがな。
女王にはしっかりと報告してありますぞ。
クズの捜索がてら突入したのですぞ。
残念ながらいませんでしたがな。
一体どこに潜伏しているのですかな?
そんな訳で俺は俺で有意義な時間を過ごし、山の様な素材やドロップ品、竜帝の欠片等を調達して戻ったのですぞ。
シルトヴェルトの城に戻るとお義父さん達も狩りから帰ってきたのか休憩中といった様子で庭で休んでおります。
もちろんシルトヴェルトでは盾の勇者であるお義父さんを丁重に扱いたいのか、お義父さんの周りに仮設で椅子やテント等を設置しようとしているようですな。
ただ休んでいるだけだからと困った様にお義父さんは説明しております。
「なおふみ、槍の勇者が帰って来たなの」
ライバルが俺を見つけてお義父さんに言いますぞ。
大分成長してきているのではないですかな?
お義父さんと同じくらいまで大きくなっていますぞ。
ですが! フィロリアル様の成長速度には足元にも及びませんな!
「あ、元康くん達も帰って来たんだ」
「ですぞ! これは手土産ですぞ」
俺はライバルに向かって袋に詰めた竜帝の欠片を投げつけますぞ。
パクッとライバルはその袋を口にくわえて受け取りました。
そのまま顔面にぶつけて無様な姿を見せてあざとくお義父さんのポイントを稼ぐかと思ったのですが大人しいですぞ。
「他の素材は量が多いので後でお義父さんも回収に来てくれるとありがたいですぞ」
「うん。一応、俺達の強化には必要不可欠だし、これからの戦いに備えて物資は集めて損じゃないもんね」
「順調に集まっているなの」
ライバルが俺が渡した袋から竜帝の欠片を舌で取り出して全て飲み込んで言いました。
サイズが小さくなっていますぞ。
「……なんか縮んでない?」
「サイズ調整も出来る様になったなの。変身バリエーションも増えているからなおふみのリクエストに答えた大きさになるなの」
「相変わらずあざとい奴ですな!」
「汎用性と言って欲しいなの」
何が汎用性ですぞ。
お前なんぞ、Lvの限界突破ぐらいしか役に立ちませんぞ。
「まあまあ……」
「戦闘に入ったらよりなおふみ達の補佐が出来るなの。それとも前衛で戦った方が良いなの?」
「うーん……何だかんだ言ってエクレールさん達が有能だしなぁ。手数自体はどうにかなってるのかな?」
「槍の勇者やフィロリアル共の様な破竹の進みとは言い辛いなの」
「アイツ等と一緒にするんじゃないよ!」
ライバルの台詞に後方で休憩中のパンダが異議を申し立てますぞ。
当然ですな。
お前等がいくら傭兵や騎士として優秀だとしても、負けるつもりなどありませんぞ。
「まあ……効率的に行くならエクレールさん達を元康くんに任せてLvを上げてからこっちで上げてもらうのが良いのかな?」
そうお義父さんが呟くとエクレアがビクッと反応をしてから平静を装いつつ、出された茶を飲んでおりますぞ。
「あの……エクレール嬢、槍の勇者様と同行してのLv上げに何かあるのでしょうか?」
「……簡単に説明すれば、フィロリアルの背に乗って野山を駆けるものだ」
エクレアがゾウの質問に静かに答えますぞ。
そうですな! とても楽しいドライブですぞ!
「揺れがちょいと激しいだけじゃないかい? ドラゴンの所に向かう途中でも乗ったじゃないか」
「そんなもので片付けられるものではない。アレは……轢き逃げだ」




