模擬戦
「お義父さん、どうしますかな?」
「まあ、連携を取るにしても出来る事を把握するのは重要だよね。魔物を相手にしてから理解を深めるのも手だけど、組み手も良いと思うよ」
「……盾の勇者様が許可を下さるのでしたら」
「なの。よくワイルドなおふみの所でも似た様な勝負は見たなの!」
ライバルがそんな様子を眺めながら言いました。
確かにお義父さんの村では稽古をよくしていましたからな。
「着飾りパンダと女騎士の勝負なの」
「ガエリオンちゃんはラーサさんとエクレールさんを知ってるんだよね? 未来だとどうだった?」
「んー……女騎士は未来だと勝負とかした事無かったはずなの。そもそも異世界の眷属器を持っていたなの」
「へー、異世界ね……」
「ちなみにパンダはツメの勇者になったループがありましたな」
「あ、じゃあラーサさんも強くなれば七星武器の勇者に?」
「なれるかもしれないなの。まあ、ガエリオンも狙うなの」
「ツメはフィーロたんの武器ですぞ!」
「この世界の周回でサクラに持たせて龍刻のシリーズを入手させたら面白い事になりそうなの」
ぐは!? つまりそれはどのループでもサクラちゃんですかな!?
フィーロたんがサクラちゃんに!?
禁断のエターナルサクラちゃんになってしまいますぞ。
うう……サクラちゃんもフィロリアル様として愛しておりますが、フィーロたんを消してしまう存在となる可能性があると言う事ですぞ。
これは考えねば危ない道に進んでしまいそうですな。
警戒しなくてはいけません!
「俺の贔屓目もあるんだろうけど、エクレールさんって動きが速いからラーサさんを翻弄出来そうだよね」
確かにエクレアの戦い方は速さ重視ですぞ。
小剣で地道に相手を突いて仕留める戦い方ですな。
貴族っぽい戦い方だと最初は思いましたが、中々に無駄が無いので馬鹿には出来ませんぞ。
刺すという意味では俺とも通じる部分がありますな。
「腕力とかそう言った所はラーサさんが有利そうだけど……どうなる事か。エルメロさんも一撃重視って感じなイメージだけど、どうなのかな?」
「確かに私は種族的に足が遅いのは理解しています。ですが、短所を短所のままにしていたら二つ名を囁かれるほどにはなりません」
「速い相手の対策は既に出来ているんだ……じゃあどうなるかな?」
傭兵は戦闘能力に優れているからやっていける職業ですぞ。
ゾウの言う通り、弱点などあってはならないでしょうな。
ふむ、中々読めない戦いになりそうですな。
「で、ガエリオンちゃんは二人の手の内を知っているの?」
「女騎士の方だけ覚えてる程度で、この段階では知らないなの。着飾りパンダは竹を使うくらいしか知らないなの」
「そういやラーサさんの二つ名は竹林なんだっけ。なんで竹林? 魔法で竹を出せるみたいだけど」
「ああ、盾の勇者様はラーサの戦闘スタイルを知らないんですね」
双方勝負をする為にワクワクしている二人を見つめながら答えますぞ。
俺は知っていますぞ。
風呂場で魔法を打たれましたからな。
まあ、それ以前にこれまでループで見た事がありますぞ。
「勝負は相手を戦闘不能直前にまでするか、双方納得が出来るまでで良いさね?」
「ああ、問題ない」
「騎士様の戦い方ってのは趣味じゃないから、傭兵としての戦いを存分に教えてあげるよ。負けたからって文句を言うんじゃないよ」
「無論だ。しっかりと見せてもらうとしよう」
「それじゃあ……勝負……」
エクレアとパンダが双方、構えてから睨み合いを始めますぞ。
「「開始!」」
双方の声と共に勝負が始まりました。
バッとエクレアは開始と同時に前に飛びだし、パンダはバックステップをしながら魔法の詠唱に入りました。
「む!?」
追撃とばかりに剣で突くエクレアの攻撃をパンダは転がって避けました。
「おうおう速いねぇ。踏み込みも良いと来たもんだ。お飾りの騎士様じゃないってことかい?」
「抜かせ! 私の憶測より貴殿の方が速い。ではこちらは更に速さを上げよう」
「戦いには慣れているんでね……よっと」
パンダはエクレアの腕を蹴り上げつつバク宙をして大きく飛びのきますぞ。
外見に似合わず器用な事をしますな。
「まだまだ!」
剣を持つ腕を蹴り上げられたエクレアでしたが流れる様な動作で立ち直り、素早く追いかけますぞ。
パンダの不意打ちに近い攻撃への対処は早かったですな。
「先ほどから随分と距離を取りたがるのだな。てっきりツメによる豪快な戦いを望む主義かと思っていたのだが、近接も出来る魔法使いだったのか?」
「それを知るのが今回の試合だろう? さーて、あたいの手の内を全部見る事が出来るかね?」
ギギギとパンダのツメとエクレアの剣が鍔迫り合いを始めますぞ。
パンダの爪が思ったよりも硬いですな。
そう思っていたらパンダのツメが淡く光り始めました。
魔法で強化している様ですぞ。
「じゃあ行くよ!」
『力の根源足る。あたいが命じる。理を今一度読み解き、大いなる植物よ。愚かなる者を貫け!』
「ツヴァイト・フットバンブースパイク!」
パンダが強く足を踏みしめると地面から竹が飛び出しました。
「なんの!」
飛び出してきた竹をエクレアは、一旦鍔迫り合いから突き飛ばしをし、距離を僅かに開いてから受け流してそのままパンダの懐に再度入りますな。
「本来は傭兵と聞いていたが、なるほど……不意を突く戦い方が好みの様だ」
「お堅い騎士様は卑劣だとか能弁を垂れるのかい?」
「……いいや、先ほどから聞いていたのでな、こう言った攻撃方法もあると感心していたのだ。ここから先に出て来る者達は卑劣を絵に描いた様な存在だそうだ。その知識も時に役に立つであろう」
「上から目線で語っても、何も出来なきゃ意味なんて無いよ! オラ!」
パンダが力任せに腕を振りかぶって薙ぎますぞ。
それをエクレアはしゃがんで避け、パンダの眉間目掛けて剣を突きました。
「おっと!」
しかし避けられてしまいましたな。
お互いに攻撃を避けた形ですぞ。
「これも避けるか! 舐めてもらっちゃ困るね」
「ではこちらも不意打ちをさせてもらうとしよう」
「ご丁寧にそんな事を言っちゃ意味なんて無いよ?」
「そうかな? ファスト・シャイニング!」
パンっとパンダの目の前に一瞬だけ強い光が出ました。
そう言えばエクレアは光魔法が少しだけ使えるとか聞いた覚えがありますぞ。
お姉さんの様な光と闇を掛け合わせた幻覚ではなく、光を出すのでしたな。
「う……姑息な事まで出来る騎士様だねぇ」
パンダはエクレアが目暗ましに放った魔法で目が眩んでいるにも関わらず、器用に転がってエクレアの剣の追撃を弾きますぞ。
先ほどからパンダはよく転がっていますな。
妙な避け方や転がり方ですな。
「いい加減、私を侮るのは大概にして欲しいものだ」
「ならそっちももう少し力を入れる事だね。なんだいその手加減してる手付きは!」
「私もキタムラ殿とフィロリアル達の強引なLv上げを経験しているのでね。キタムラ殿との稽古も経験していて、やり過ぎるかもしれないと恐れがあるのだ」
ああ、シルトヴェルトの道中は元より、到着後も少しはエクレアと稽古をしましたな。
軽く気の使い方まで教えたのでしたかな?
大分前なので曖昧ですぞ。
「あたいを舐めるのはやめな。こっちは生き残る為に修練はしてきたし、Lvは高いつもりだよ」
「そうか。では……いい加減、貴殿の本気を見せてもらうとしよう。その、密かに詠唱している随分と発動に時間の掛る魔法が切り札なのであろう?」
「は……お見通しってことかい。これを知らずに倒れたりしちゃ話にならなかった所だからね!」
エクレアは譲歩とばかりにパンダに魔法を発動させる余裕を見せておりますぞ。
手の内が知りたいのですな。
「そうそう……勇者様方、なんでラーサの二つ名が竹林なのかの説明がされていませんでしたね」
そんなパンダとエクレアの戦いを傍観していたゾウが俺とお義父さんに向けて説明をしますぞ。
「竹を呼び出す魔法を使うからじゃないの? 魔法戦士的な感じで」
「ですな。少なくともパンダは魔法使いではないはずですぞ」
竹魔法の使い手だから竹林だと思ってました。
今までのループでもそんな感じだったはずですぞ。
「いいえ、確かに単純にラーサの使う魔法は植物系の魔法ですが、二つ名になるほどの特徴かと言えば否でしょう。その場合は竹使いなんて呼ばれたでしょうね」
「じゃあなんで竹林なの?」
「それは……」
と、ゾウが説明をするよりも早くパンダの魔法の詠唱が終わった様ですぞ。
中々に唱えるのが面倒な魔法の様ですぞ。
半合唱魔法の領域に足を踏み入れております。
お姉さんのお姉さん程ではありませんが、パンダも中々の強者な様ですぞ。
『力の根源足るあたいが命じる。真理を今一度読み解き、竹よ林と成せ!』
「ドライファ・バンブーフィールド!」
パンダが手を広げて自らが作りだした魔法の玉を弾くと、地響きと共に辺りに無数の竹が勢いよく生えましたな。
「広範囲魔法か! だが、この程度!」
無数に伸びて来る魔法で作りだされた竹をエクレアは避け、弾き、切り伏せて答えますぞ。
「それが貴殿の必殺か?」
「違うねぇ。これで倒れられちゃ面白くないだろ?」
「では何なのだ?」
「ま、この状態のあたいを相手にして、まともに立っていられるか、しっかりと見るんだよ」
パンダは徐に近くの竹に向かってジャンプしますぞ。
そして竹にしがみつき大きくしなる竹の反動を利用して辺りを飛びまわり始めました。
今までの数倍は速く移動をしていますぞ。
一瞬にしてエクレアの背後に回り込み、突撃していきました。
アレですな。
ドッジボールの中当てを一人でやっている様な物ですぞ。
避けなきゃいけないのはエクレアで、パンダは常時攻め側ですな。
「なんと!? こんな攻撃があるのだな!? 当たったら痛いでは済まないだろう」
エクレアは振り向きながら飛び上がってパンダの突撃を避けますぞ。
「アレがラーサお得意の竹を利用した高速移動と加速による重い一撃を与えられる戦闘スタイルです」
「竹林を呼び出した、竹を利用した攻撃と移動……速さが足りない問題を解決する戦い方か。工夫しているんだなぁ」
「アレでラーサの出した竹は頑丈でして、壊すのに苦労するんですよ」
「その特性から竹林を破壊すれば良いだけですからな」
しかもパンダの表情を見ると魔法を維持するのに魔力を消費しているのがわかりますぞ。
俺なら火の海にするか、ブリューナクで吹っ飛ばす所ですが、エクレアでは不可能でしょうな。
「まあ、これだけでのし上がれるほど傭兵は甘くは無いです。あくまでラーサの戦闘方法にある手札の一枚でしかありません。竹林に固着なんてしませんよ」
「壊されたら再展開を頻繁にしないって事?」
「はい。そもそも竹林に入らず、遠くから無数に竹を出し続けて串刺しにする戦いなども行なう時があります。それは通じないと判断し、速さに自信のある相手の鼻をへし折ろうとしているのだと思われます」
なんて話をしている間にパンダは縦横無尽にエクレアに向かって飛びかかっておりますな。
しかし、当初は翻弄されていたエクレアでしたが、徐々に動きに馴れてきたのか闘牛士の様に紙一重で見切れる様になってきました。
エクレアが剣に光の魔法を込めました。
決める気ですな。
「そこだ! はぁ!」
そして飛びかかって離脱するパンダを追い掛ける様に剣を振るいますぞ。
このままでは攻撃が当たると判断したパンダは拳で地面を殴って軌道を逸らして着地しました。
僅かにパンダの毛が切られて宙を浮きますぞ。
「おおっと、こんなに早く対処出来るようになってきたのかい? 驚きだね!」
「何が飛び出しても驚かない事が重要な様だ。そもそも……まだ手立てがあった様に見えた」
「そんな事を言いながらあたいの動きを読んで逆に竹でダメージを与えようとしていたのを見抜いていないと思ったのかい?」
「さすがにそんな間抜けな事はしないと思っていた。だが、この場は貴殿にとって戦いやすくもあり、時に戦い辛い場所なのだろう? この竹で動きが制限されている様に見受けられる」
「そうだねぇ……自分で出した竹に叩きつけられたりする事もあるから、厄介さね」
パン! とパンダが手を叩くと竹は一斉に弾けて消えました。
あくまで魔法で作り出された竹ですからな。




