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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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妹泥棒

「はぁ……はぁ……元康くんの車輪の跡を追って来たけど……」

「キタムラ殿は益々奇行に磨きが掛って来ているのではないか?」

「否定できない。何度もループして、悪い意味で成長したのかも……」


 お義父さん達が肩で息をしながら追いついて来ましたな。

 俺はトロフィーを自慢する様にお義父さん達を出迎えました。


「やーやーお義父さん達、来てくれましたな」

「も、元康くん!?」

「ギャオオオオオオオ!」

「まだ諦めないのですかな? お義父さんの御前ですぞ! 静かにしろですぞ!」


 俺はライバルの親の頭、鼻先を思い切り踏み付けて抑え込みながら言いますぞ。

 ライバルの親は死なない程度にボコボコにしておきました。

 しかも踏みつけた鼻先を持ち上げる事すら敵いませんぞ。

 これでもかと抵抗していますが、それも時間の問題ですな。

 そもそも噛みつこうが何をしようが痛くもかゆくもありません。

 お義父さん直伝の歯が立たない事を身を以って叩きこんでいるのですぞ。


「いやぁ……元康くん、幾らなんでも交渉に来たのにそれは無いって! もう交渉は無理だよ! 思い切り怒らせてるじゃないか!」

「大丈夫ですぞ! 俺に負けを認めたら素直に従えと言ってありますからな」

「いや、負けを認めるのは死んでもイヤだと思うよ……何されるかわかったもんじゃないって思うし。というか、わざとやってない?」

「ギャ、ギャオオオオ! オオオオオオオオ!」


 うーむ……ライバルの親がこれでもかと抵抗するのにはそんな理由があるのですな。

 しょうがないので、もっと恐怖を与えて屈服させましょう。


「ではこうしましょう。ここでお前が死んだらここをフィロリアル様の聖地にしますぞ。なので死んだらもっと悪くなりますな……パラダイスの時間ですぞ!」

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 本当にうるさいですな。

 吼えれば思い通りになると思ったら大間違いですぞ!

 ここはフィロリアルパラダイスになると決まったのですから、諦めろですぞ。


「お前を動けない様にして巣穴を漁りますぞ!」

「元康くん……交渉下手くそなんだから、大人しくしててよ!」


 ライバルの親の所為でお義父さんに怒鳴られてしまいました。


「というか、交渉を失敗する様に誘導してない?」

「そんな事はありませんぞ」

「……」


 お義父さんは俺に何か言いたげでしたが、ライバルの親の方に視線を向けました。


「えー……すみません。彼にはほとほと手を焼いていまして、かと言ってこちらにも目的があって今日はここに来たんです。どうか話を聞いてもらえませんか? そうしないと貴方の娘が死ぬ事になってしまうかもしれないんです」

「ギャ……」


 お義父さんがライバルの親を抑え込む俺に注意してから、ライバルの親にそっと近づいて語りかけますぞ。

 それを聞き入れたのかライバルの親は抵抗するのをやめました。

 さっさとそうしないから、痛い目を見るのですぞ。


「……本当は話などしたくないのだ。だが、貴様はこの無礼者に対して命ずる事が出来る様だし、気になる事を言っているのでな。聞こうではないか」


 このドラゴン! 半べそ交じりですぞ。

 俺の言う事は聞けなくて、お義父さんとは話が出来るとはどういう理屈ですかな!?

 お義父さんのカリスマがなせる技なのか、それともドラゴンのワガママですかな!?

 最近、ドラゴン関連の問題でストレスで胃に穴が空きそうですぞ!


「お義父さん、こいつ半べそですぞ!」

「元康くん!」


 お義父さんが俺を睨みました。

 俺は間違っていませんぞ!


「えっと、実は……」


 お義父さんはライバルの親に向けてこれまでの経緯を説明しました。


 タクトのドラゴンが無数の竜帝の核石を所持したドラゴンであり、そのドラゴンを倒しはしたが、核石が何者かに盗まれてしまった事。

 その核石の中に応竜の封印まであり、悪用されるととんでもない事態になってしまう事。

 俺の槍の中にはループに便乗出来るライバルの記憶が眠っており、それを別のドラゴンの卵などに使用するとライバル自身の魂が抜け出して死んでしまうかもしれない事。

 そして、味方のドラゴンの協力がシルドフリーデンを統治する為に不可欠である事を説明しました。


「なので実験だけでも良いので、貴方の娘に確認を取りたいんです。ダメでしたら何もせずに帰りますが、何かあっても保証は出来ません」

「……なんとも荒唐無稽な話をして来るものだ」


 ドラゴンが偉そうに答えますぞ。

 身の程を知れですぞ。


「それでループ時の人格移行が起こらないなら……なんなら話が出来る貴方でもシルドフリーデンを納得させる手伝いをしてもらえないでしょうか」

「……こうして無理矢理抑え込まれている我が今出来る事は自害しか無い。拒否をしても汝が居れば問題無さそうだが……」


 ドラゴンは非常に困った様に唸り始めました。


「我としては魅力を感じる所が無い訳ではない。だが……脅威となる応竜の問題は元より、その様な愚か者共の顔色を伺いつつ国政を担うなど、我は勘弁願いたい。しかも我をここまで挑発した者が望む真似をしろと言うのはな……」

「文句でもあるのですかな? お前などその気になれば一突きであの世に送れるのですぞ?」

「元康くんは黙ってて」


 お義父さんに怒られてしまいました。

 酷いですぞ!

 お義父さんの為にがんばったのに、ですぞ。

 現に前に交渉した時よりもアッサリと話が通じていますぞ!


「……何より、娘達の為……どうせ敵わぬ相手の無理強いだ。ここで我が死すれば全て奪われるだけの事。そして世界が滅ぼされては元も子もない……上手く事が運べば何もせずに去ってくれるのだな?」

「はい。それは何があろうとも約束します」

「偽りはどんな手段を介したとしても貴様等を呪うが、それでも良いか? これは契約だ」


 ライバルの親が何やら魔法を詠唱し始めました。

 その魔法がお義父さんを中心に展開されました。


「何かするなら俺が許しませんぞ!」


 コヤツの言う事など聞く必要は無いのですぞ!

 ですが、お義父さんは何かステータスを確認するように目を動かしてから何かを押してしまいました。


「これで契約は成立した。短い期間であるが……破ったら相応の報いが来るぞ」

「ええ……こちらも承知の上で了承しました」

「こんな魔法、今まで使っているのを見た事がありませんぞ!」

「知らんな。使うまでも無く、信用に値すると貴様の知る別の我は思ったのだろう」

「それだけ今回は信用されて無いって事だよ、元康くん」


 く……俺の所為ですかな!?

 お義父さんは俺がライバルの親を抑え込むのをやめる様に指示を出したので、俺は足をどけてやりました。

 ライバルの親は立ち上がると若干ふらついた様子で歩き出しました。


「ツヴァイト・ヒールⅩ!」


 お義父さんは最近覚え始めた魔法をライバルの親に施しました。

 ライバルの親の傷が見る見る塞がっていきますな。

 手加減するのが面倒だったのですぞ。


「……では行くか。ついて来るのだ」

「まあ、野蛮な方法だけど、上手く行ったようだねぇ」

「本来はもっと穏便に済んだはずの様だが?」

「恐ろしい状況ですね」


 などとエクレア、パンダ、ゾウは各々呟きながら付いて行く様ですぞ。

 俺達はライバルの親の巣穴……助手がいる巣へと向かいました。




「お父さん、おかえりなさい!」

「ガウガーウ!」


 ライバルの親が巣穴に帰還すると助手とライバル、そして無数の魔物共が出迎えてきましたな。

 そして俺達を見るなり、眉を寄せました。


「お前等、一応客人だ。襲いかかる様な真似はしない様に」


 ライバルの親も凄く眉を寄せつつ周りの者達に声を掛けますぞ。

 何が起こるかわからないと言った様子で助手がこちらを見ております。

 残念ですが、今回はお前に用は無いですぞ。


「それで……どの者を汝等は指名しているのだ?」

「元康くん」


 お義父さんが俺に尋ねますぞ。

 一応、今までの話からして誰であるかは分かっている様ですが、念の為の確認と言う奴ですな。

 俺は迷うことなく、助手の隣にいるライバルの幼い姿を見つめますぞ。


「やはりそうか……」


 異変を察知したのか助手がライバルにしがみつきました。

 中々勘の良い助手ですな。


「この子に何かする気!?」

「ウィンディア、良いから落ちつくのだ」


 ライバルの親が注意しますぞ。


「でも!」

「汝等、早くせよ。汝等の証言通りの事が起こらなければ早々に立ち去れ」

「元康くん、お願いするよ。これで契約が満了するんだから」


 お義父さんとライバルの親との妙な取り決めの所為でやらねばならないようですな。

 俺はそっと助手とライバルに近寄りますぞ。


「ガウウウウウウウ……」


 いつでも飛びかからんとばかりに幼いライバルが歯をむき出しにして威嚇しておりますな。

 助手はどうにかして守ろうと必死な様ですぞ。

 俺はゆっくりと槍の核の部分をライバルの耳っぽい所に近づけたのですぞ。


 ……。

 …………。

 ………………。


「ガウウウウウウウウ……!?」


 ハッと我に返ったかの様に幼いライバルは辺りを見渡しました。

 そして引っ付いている助手に目を向けましたな。

 で、深々と溜息を漏らしたのですぞ。


「気分はどうですかな? ループしたのですかな?」

「ガウガウ……ガーウ」

「む!?」


 ライバルの親がそこで眉を寄せつつ、何か魔法が弾けた様な音が聞こえました。

 どうやら契約とやらが解けた様ですな。


「ガウ、ガウガウ」

「え!?」


 助手がそこで信じられないと言うかの様な声を上げながらライバルから離れますぞ。


「何を言ってるの? 貴方赤ちゃんでしょ? いきなり巣立ちってどう言う……」

「ガウガウ」

「なんであの人達の所に行こうとしてるの……?」


 助手が困惑した様子で魔物言語っぽい鳴き声を出し、必死に説得を試みていますぞ。

 ですが、ライバルは一歩も引かないと言った様子で歩き出しました。


「ガーウガウ」

「……わかった。汝の好きにするが良い」

「ガウ! ガウガウ」

「それは……まあ良い」


 ライバルの親とも会話を終えたのか、ライバルは……お義父さんの足元に近づいて腿辺りに頬ずりしました。

 そして助手に手を振りましたな。


「いや! だめ! 行っちゃダメー!」

「ウィンディア!」


 ライバルの親が助手を器用にツメで摘まんで押さえています。


「ガーウ!」


 ライバルが出発とばかりに手を上げて行く道を指差しますぞ。

 ……修羅場みたいですが、良いのですかな?

 やがてお義父さんが困った表情を浮かべながら言いました。


「えーっと……じゃあ行こうか」

「わかりましたですぞ」

「ガウ!」


 俺達はライバルの親の巣穴に背を向けて歩き出しました。

 作戦成功ですな。

 俺としては失敗でも良かったのですがな。


「ダメー! 私の妹を返せぇえええ!」


 助手がここぞとばかりに声を上げて異議を唱えていますぞ。

 親と同じでうるさい助手ですな。


「ウィンディア、我慢するのだ。妹か弟なら代わりを幾らでも用意する。あの者は……巣立ったと思って諦めよ」

「いやあああああああ! お父さん放してぇえええええ!」


 助手がこれでもかと声を上げ、ライバルに声を掛けますぞ。

 ライバルの方は助手と違い、気楽な表情を浮かべています。


「ガウガウ。ガッウガーウ!」


 これは完全にバイバイ、行ってきまーす、の声音ですぞ。

 間違いないですぞ。


「何か凄く後ろ髪引かれるんだけど……」

「今までのループでも似た様な事があったのですぞ」


 あの時はライバルの卵と一緒に助手も預けられましたがな。

 何故か今回はライバルだけみたいですぞ。


「果たして私達は正しい事をしているのだろうか?」

「なんとも後味が悪いねぇ」

「どうにかならないのですか?」


 なんて言葉を放つエクレア達にライバルが振り向いて鳴きますぞ。


「ガウ!」


 問題ないって様子で片目を瞑ってウィンクをしました。

 イラっとしますな。


「返せぇええええええ! 妹泥棒ぉおおおおおおお」

「す、凄いセリフだ……」


 こうして俺達の計画は進み、助手の叫び声がメルロマルクの山奥で木霊したのですぞ。




 さて、ライバルの親が生息する山を下山した俺達は待機していたユキちゃん達と合流しました。


「ガウ!」


 挨拶とばかりにライバルが鳴きますが、ユキちゃん達は揃って渋い顔をしておりますな。

 相手がドラゴンなので当然の反応ですぞ。


「仲が悪いって言うのはわかってるけど、ここまで露骨な顔をされるとは……」

「ナオフミーそれが目的の子ー?」

「そうだよ」

「ガウガウ!」

「なんて言うか……元康くんの槍で洗脳して連れてきたみたいな感じになっちゃったね……」


 と、お義父さんが呟きました。

 そんな! お義父さんが罪悪感を抱く事は無いですぞ。


「ガウ! ガウガウ」

「え? 訳せ? イヤですわ」


 ユキちゃんがライバルの言葉に拒否していますぞ。

 ですがライバルは知った事では無いとばかりにガウガウ鳴いています。


「ぶー……あのね。話がしたいけど、それには竜帝の欠片かLvを上げないと難しいってー。そう伝えないとナオフミ達が困るだろって脅してるー」


 サクラちゃんが渋々と言った様子で言いました。

 お義父さんの為に……サクラちゃんは健気ですな。


「ああ、やっぱりそうなんだ? ただ……竜帝の欠片ってそんな簡単に確保出来るの?」

「そこまで難しくはないですぞ。俺がぱっと行って来れば今夜中に少しは集められますぞ」

「この子の親を今から狩りに行くとかはやめてね」

「ガウガウ」


 ライバルが……何やら方角を指差して鳴いていますぞ。

 その方向に居るという事ですかな?


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