フィロリアルマスター
「うう……お義父さん。酷いですぞ」
謁見の帰り道、俺はそう言いました。
「とは言っても、サクラちゃん達もとても楽しそうだったじゃないか」
「確かに……メルティ王女のあの様な顔は見た覚えがない。ユキ達も楽しげにしていた」
会議を終え、一旦応接間に戻った俺達ですぞ。
尚、エクレアも同席していますな。
なんですかな? お前も俺の敵なのですかな?
そういう事ならこれからキビキビ働いてもらいますぞ。
「さながらフィロリアルマスターだね。第二王女様」
「それは俺の称号なのですぞ!」
どうして婚約者がそんな羨ましい称号を持っているのですかな!
「俺もフィロリアルマスターなのですぞ!」
「自称フィロリアルマスター……」
「キタムラ殿のぶれない所は安心して見て居られると私も感じている。さて……」
そう言ってからエクレアはシルトヴェルトの代表達に一礼をしてから敬礼交じりに答えました。
あっさりと流された気がしますぞ。
「改めてメルロマルクから勇者様方の警護の為に派遣されたエクレール=セーアエットと申します」
「盾の勇者様がメルロマルクから召喚され、シルトヴェルトに来る道中を補佐した実績、友好の代表としての家柄、人材としてはこれほど適した者がいないであろうな」
シュサク種の代表は納得と言った様子で頷いております。
異議は無いのですな。
「先日の戦に関してもメルロマルクの女王との連絡役もこなしたのだ。シルトヴェルトの者は誰でも彼女を認めるでしょうな」
ゲンム種の翁も異議を唱える気は無い様ですぞ。
まあ今までのループ的に考えても、エクレアは信用出来るでしょうな。
「シルトヴェルトの代表としてエクレール=セーアエットが盾の勇者様の護衛を任を受ける事を許可する」
と言う訳でエクレアが正式にお義父さんの護衛組に組み込まれる事になった様ですぞ。
「これからよろしくね、エクレールさん」
「うむ。イワタニ殿達もしばらく見ない内に仲間が増えたのだな」
エクレアがパンダとゾウに顔を向けますぞ。
「うん。なんて言うか……この前の戦争で活躍したラーサズサさんと、タクトの妹を捕縛したエルメロ=プハントさん。それぞれ功績を上げた事で、俺の守護騎士に任命されて護衛をしてくれるようになったんだ」
「なるほど。何度も耳にしていると思うがエクレール=セーアエットだ。これから一緒に仕事をする事になる。よろしく頼む」
そう言って握手をエクレアは求めますぞ。
パンダはそんなエクレアと握手をしました。
「あいよ。あたいはラーサズサ。お堅いのは勘弁願いたいね。あんまり序列とか騒がないでくれよ?」
パンダは若干無礼な口調でエクレアに答えますな。
「ラーサ、失礼でしょ。すみません。コイツは根っからの傭兵でして、活躍で抜擢されたから騎士の地位を与えられたんです」
「そうか……シルトヴェルトは野生的な所に美的を感じる風潮がある。私も些細な事を気にするつもりは無い。して……貴方はエルメロ=プハントと言ったか」
「はい。本日任命されたばかりの新参者ですが、よろしくお願いします」
ちなみにゾウは城内で常時屈んだ姿勢で行動していますぞ。
天井に頭が当たるのですな。
しかも場所によっては廊下や扉を通る事が出来ません。
巨体故に色々と困る様子ですな。
シルトヴェルトの様に大柄の人種を前提にメルロマルクの城は作られていないのですぞ。
「プハント……ああ、あのシルトヴェルトでも代表四種とは別に、力強さに名を轟かせる名家の者か」
「……はい」
ゾウが若干顔を背けながら頷きますな。
エクレアが僅かに首を傾げつつゾウとも握手をしましたな。
「あたいを元傭兵って言うけど、そういうアンタは放蕩するなんちゃって騎士だったじゃないのさ。それといつまで借りてきた猫のフリをするんだい?」
「ラーサ!」
パンダとゾウは知っているからこその言い争う関係の様ですぞ。
最初の世界のお義父さんと婚約者がこんな感じだった気がしますな。
きっとめちゃくちゃ仲が良いんですぞ。
「いえ、気にしないでください。ラーサは本当に口が悪くて、ほほほほ……」
「問題ない。盾の勇者であるイワタニ殿と私の経緯は耳にしていると思うが、あまり気にしないで欲しい。諸君達も各々役目があって任命されたのであろう?」
「そりゃあね。あんまりがっつく気も無いよ」
「はい。十分に存じております。この任を受け持つだけでも栄誉ですので」
各々の目論見は承知の上と言った様子で話をしているようですな。
「まあ、既にイワタニ殿達は己自身で十分に身は守れると思うが、共に騎士という立場……後でどれほどの実力者であるのか教えてもらえると嬉しい」
「あいよ。最近は肩が凝ってた所だから良いかもしれないね」
「騎士仲間の強さがわかれば力も合わせやすくなるからね」
ゾウの言葉が若干、柔らかい感じになってきていますな。
エクレアみたいなタイプの方が話し易いという事でしょうか?
「竹林の二つ名を見せつける事になるんでしょうね?」
「地響きの女王様程じゃないよ」
メラメラとパンダとゾウがそれぞれ闘志を燃やしているのがわかりますぞ。
竹林と地響きの女王?
う~ん? どこかで聞いたフレーズですな。
どこでしたかな?
「何かカッコイイね、二人共」
「愛の狩人! 北村元康も負けられませんぞ」
「いや、元康くんの場合は自称だし……」
「うむ、実に楽しみだ。それでイワタニ殿、メルロマルクに来た本来の目的は何なのだ?」
おっと忘れる所でしたな。
本来の目的はエターナルフィーロたん計画ですぞ。
「あー……エクレールさんに話すとメルロマルクの女王様に伝わっちゃうんじゃない?」
「イワタニ殿、私も機密に関わる立場なのだ。友好国としての関係を築いているシルトヴェルトの問題に関して不利になる様な真似をする気は無い」
「それなら良いんだけどね……簡潔に言うとシルドフリーデンでの統治とタクト残党の処理をする為に色々とメルロマルクでする事があるって感じかな。元康くんの知識を元に仕入れた情報でね」
「なるほど……」
これまでループなどの知識を話していた影響か、エクレアは何の引っ掛かりもなく信じてくれました。
スムーズで良いですな。
「それと……まあ、こっちもオルトクレイの脱走に関して咎められない程の不祥事がね。そう言った面で手打ちにして欲しいかな」
「現状のメルロマルク側から強く言う事は出来ないので問題ない。それで具体的に何があったのだ?」
「タクトのドラゴンの核石が盗まれたんだ。だから色々とメルロマルクの方で手立てをね」
おお……これは竜帝の仕組みがわからねば伝わらない話ですぞ。
まあ今までの道中でエクレアも少しは耳にしているはずですが、詳細まではわからないはずですぞ。
「ふむ……オルトクレイの問題と似通った点があるな。同一犯の可能性が高いな」
「そうだね。まあ、ここまでは女王の方に聞いてもらっても良かったかもしれないから、後で話をしておいても良いよ」
「良いのか?」
「うん。元康くんからの信頼もあるし、実際に話してみてそう思ったんだ。で……このドラゴンの核石なんだけど、使い方次第でとんでもない化け物を呼び出しかねないってわかったから対策をしたい……で判断して欲しい」
「承知した。詳しい話はイワタニ殿……果てはシルトヴェルトが判断した段階で教えてくれれば良い。私は、オルトクレイの暴走からイワタニ殿達を守る為に派遣されたのだからな」
ふむ。
エクレアは真面目なので、基本的に問題ないと思いますぞ。
「それで……元康くんの知識だとメルロマルクの東方面の山辺りで錬が討伐したドラゴンの死骸が元で疫病が蔓延してしまうらしいんだけど、確認出来る? 俺達が処理したい案件なんだ」
「む? その様な話があっただろうか? では少しばかり確認してくるとしよう」
「ナオフミー、サクラ、メルちゃんと遊びたい」
「遊びたーい!」
サクラちゃんとコウが退屈を感じているのか、お義父さんにお願いを始めました。
ダメですぞ!
これ以上、婚約者と関わるとハートが増えてしまいますぞ。
MAXハートだけは避けないといけませんな。
「まあ、移動するまでの間に時間はあるだろうし……良いよ、行っておいで」
「ではメルティ第二王女の下へ案内しよう。伸び伸びとこの城の庭で遊ぶと良い」
「うん!」
「やったー」
こ、これは……流れ的にダメだと言えない流れですぞ。
しょうがないですな。
まあ、婚約者がサクラちゃん達に危害を加える事は無いので、今回だけは見逃してやりますぞ。
今回だけですからな!
「ユキちゃんも行くと良いですぞ」
「はいですわー!」
ゾウがそんな様子を見せるサクラちゃん達を見つめていますぞ。
「……エルメロさんは窮屈だろうし……うん、サクラちゃん達を見守っていてくれないかな?」
「ですが……」
「ラーサさんや元康くんがいるから大丈夫。むしろサクラちゃん達が勝手にどこか行かない様に見ていて欲しいんだ」
お義父さんが察してゾウにお願いしました。
するとゾウは深く頭を下げてから答えますぞ。
「ありがとうございます。では……」
「うむ、こちらだ」
「お義父さん! 俺もご一緒しても良いですかな?」
「元康くんしか詳しい場所がわからないんだから居てくれなきゃ困るよ」
「そんなーですぞ!」
なんて感じでエクレアがサクラちゃん達とゾウを連れて部屋を出て行きました。
シュサク種の代表とゲンム種の翁も何やらメルロマルクの貴族と話があると言って出て行きましたな。
エクレアと似た様な志の連中とこの機会に話し合いをするようですぞ。
やがて城の庭の方からキャッキャと楽しげな声が聞こえてきました。
窓の外から確認すると……ゾウがサクラちゃん達や婚約者を頭に乗せたり、鼻を上にして更に高い所を見せている様ですぞ。
「似合わない事やってるねぇ……」
パンダがそんな事を呟きながら答えますぞ。
「エルメロさんって子供好きなのかな?」
「さてねぇ……ただ、誰かを乗せたりするのは好きなんじゃないかって所があるねぇ。どっちかって言うと細かい攻撃を部下にさせる為にやって居たと思うけど」
ゾウ故に大雑把って事ですな。
しかし……言ってはなんですが、子守の仕方がお義父さんやお姉さんのお姉さん程上手には見えないですぞ。
世話上手や世話好きとも異なる……子供好きという単語がピッタリ来る感じですな。
「似合うと言えば似合うね。なんか安心して任せられる感じがするんだ」
お義父さんは面倒見の良いタイプに弱いですからな。
そう言った意味でシルトヴェルトの者達の選定に間違いは無いのでしょう。
気を付けねばなりませんな。
なんて様子を窓から眺めているとエクレアが帰ってきました。
「イワタニ殿、キタムラ殿、失礼する」
「エクレールさんおかえり、どうだった?」
「うむ……イワタニ殿の証言を元に城内の情報機関や冒険者ギルドに問い合わせたのだが、メルロマルクの東地域でその様な事件は起こっていないそうだ」
「え?」
「そもそもメルロマルクで剣の勇者が倒したドラゴンなどの話が無い」
お義父さんが俺の方を見ますぞ。
そうは言ってもこの時期だと錬が足がかりにとばかりにメルロマルクの東の方でドラゴン退治をして、その死体が腐ったはずなのですぞ。
とはいえ、起こっていないという事は起こっていないのでしょう。
なので最初の波が終わった頃の錬を思い出してみますぞ。
もう随分と過去の事なので、かなり曖昧になっている所ですが……。
「確か錬は、メルロマルクにとって最初の波を乗り越えた後に、クズ共にもっとがんばってもらわねば困る、とか言われたと愚痴っていた覚えがありますな。そう言った不快な所から、ゼルトブルに逃げると言っていたのですぞ」
確かそんな事を言っていたはずですぞ。
「キタムラ殿が脅威的な力を見せつけながら国境砦を強行突破した経緯があるからな。それに引き摺られてそう述べたと証言が出ている」
「となると錬が国への不信感からLv上げもそこそこに、本来は倒してから行こうとしていた、もしくはゼルトブルに行ってから倒したはずのドラゴンは討伐されていないって事なのかな?」
なんと……この世界ではあのドラゴンがまだ存命していると言う事ですな。
最弱を自称する情けないドラゴンが、ですぞ。
「となると無駄足ですかな?」
まあ錬も身体は一つなので出来る事には限界があるでしょう。
その結果、メルロマルクから脱出する為にドラゴンは諦めたのかもしれません。
いえ……錬の性格から言って、気に入らない国であるメルロマルクに貢献したくなかった、と考えるのはどうですかな?
これは当りかもしれませんな。
「いや……仮に今も元康くんの槍の中でその子がいるとなると、俺や元康くんの近くでドラゴンを育てると、本来その子だった子の魂が引き抜かれてしまうかもしれない。危ないけどまずはその子に出来るか実験した方が余計な悲劇を生まずに済むと思う」
「お義父さんは妙に気を使うのですな。ライバルの生死など気にしても問題ないのではないですかな? きっと謎の病死程度でライバルの親や助手は弱肉強食の掟に従う程度で済ませると思いますぞ」
「いや……さすがにこれ以上、悲しませてどうするのさ。出来るならやっておいて損は無いでしょ」
ドラゴン風情に会いに行かなければいけない時間的損失がありますぞ。
と言うと、さすがにお義父さんが呆れてしまうので、黙っていましょう。




