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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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無知の脱走

「あ、うん……えーっと、気にしないで良いよ。首謀者は報いを受けた訳だしね……」


 何やら婚約者とお義父さんの会話がギクシャクしていますぞ。

 これは……錬や樹を説得してフォーブレイへと行った時と似た感じの雰囲気ですぞ。

 つまりお義父さんが婚約者に懐柔される可能性が低いという事ですな!


「お義父さん! がんばって奴を追い出せですぞ!」


 ここで俺は提案しますぞ!

 まだ、ですぞ!

 まだ婚約者はサクラちゃんと仲良くなったばかり。

 今ならどうにか出来るはずですぞ!


「元康くん、さすがに失礼だよ」


 お義父さんが眉を寄せて俺を注意してきました。

 ですがお義父さん、このままでは婚約者の毒牙でサクラちゃんが抱え込まれてしまいますぞ。


「えっとね……メルティ第二王女はサクラちゃん達の事はどう思ってるのかな?」

「えっと……」


 婚約者は視線を落としてサクラちゃんの方を見ますぞ。


「この子達はね、本当はフィロリアルって魔物なんだ。俺達はこの子達のお陰でとても助かっているし、頼りになる位強いんだ」

「はい……さっき、背に乗せてもらいました」


 なんと! いつの間に乗ったのですかな!?

 婚約者とサクラちゃんが運命の赤い糸で結ばれているだなんて、俺は認めませんぞ! 認めませんぞぉおおおおおおおお!

 俺の放つ気配に気づいたのか、お義父さんが俺の方を二度見してから何故か汗を流しつつ婚約者に声を掛けます。


「だから十分に気を付けてね」

「ナオフミーサクラ、メルちゃんともっと遊びたいー」

「うーん……メルティ第二王女が良ければね?」

「う、うん! 私もサクラちゃん達と遊びたいです!」


 ここぞとばかりに婚約者が同意しました。

 引っ込めですぞ。


「じゃあ……あまり離れない範囲で……女王様と話をするまでの間、遊んで欲しいんだけど……王女様、お願いできますか?」


 お義父さんが日和ました!

 高圧的にサクラちゃんと引き離して欲しいのですぞー!

 前回のお義父さんの様な態度で拒否してほしいですぞ。

 しかし……前回のお義父さんも何故かフィーロたんを婚約者と仲良くさせていました。


「はい!」

「それと……お姉さんに関して、ごめん……恨んでるよね」

「えー……姉は、生存(書類上)していますので、勇者様達に討伐されたのは国を転覆させようとした犯罪者です。お気になさらないでください。こう……次世代の女王としてどちらが継ぐか、色々とありまして……」


 婚約者が小声で呟いた事を元康イヤーは聞き逃しませんでした!

 心の底から赤豚の生死に関しては気にしていないのがわかりますぞ!

 まあ、聞いた話だとクズに気付かれない範囲で色々とやっていたらしいですからな。

 赤豚は豚の中でも底辺中の底辺ですからしょうがないですぞ。


「盾の勇者様が我が国に関して、お気になさる事はありません。どうか……メルロマルク訪問、ごゆっくりと堪能ください」

「うん、よろしくね。じゃあ……サクラちゃん達、メルティ第二王女と仲良くね」

「はーい」

「わかりましたわ」

「わーい!」


 サクラちゃん達、フィロリアル様に連れられて婚約者が遊びを始めました。

 ぐぬぬ! なのですぞ!


「……元康くんがなんであんなにサクラちゃんを留守番させようとしたのかわかったよ」


 お義父さんが半眼になって俺の方へとやってきました。

 理解してくれたのに何故、聞き入れてくれなかったのですかな!?

 俺にはお義父さんのお考えがわかりませんぞ。


「お義父さん! 何故ですかな! 何故サクラちゃんと奴が遊ぶ事を許可したのですかな?」

「元康くん、多分あの子……フィーロって子と親友になる子でしょ? 物凄い速度で仲良くなってるし、危険じゃないんでしょ?」

「危険ですぞ! 奴は……婚約者とサクラちゃんは同性ですぞ! 不健全なのですぞ!」


 俺はフィーロたんに健全になってほしいのですぞ。

 私利私欲で俺と一緒になれない可能性を排除したい、という訳ではありません。

 本当ですぞ!


「……はぁ」

「槍の勇者ってのは……バカだねぇ」

「ラーサ……しー!」


 パンダとゾウがここぞとばかりに俺を憐れむ様な眼を向けますぞ!

 なんですかな!?


「やっぱりそうなんだ……それにしても婚約者って……」

「お義父さんが認めてしまったのですぞ!」

「そうしないといけない理由があったんだろうね」

「不健全な関係なのですぞ!」

「あの第二王女様だと、どう見ても友情止まりでしょ。楽しそうだから見守ってあげようね、元康くん」

「くう……サクラちゃん! ダメなのですぞー!」


 俺の叫びは辺りに響き渡りました。




 やがて呆れた表情をしたエクレアが女王への謁見を案内する役目を持ってやってきました。


「キタムラ殿の声が城内に響き渡っていたぞ」

「ああ……ごめんね、エクレールさん」

「いや、逆に安心したが……イワタニ殿、相変わらずの様で何よりだ」

「うん」

「では女王がお待ちかねだ。盾と槍の勇者とシルトヴェルトの皆さま、こちらです」


 そう言ってエクレアは案内を始めますぞ。

 もちろん、婚約者はエクレアが来ると同時にサクラちゃん達に手を振って先に行ってしまった様ですぞ。

 俺達はエクレアの導きで女王のいる玉座の間に通されました。

 女王は既に玉座に腰かけております。


「よくぞおいでなさいました……私はメルロマルクの長を務める女王、ミレリア=Q=メルロマルク。以後、よろしくお願いします」

「えー……ここで自己紹介するのも二度目だね。盾の勇者として召喚された岩谷尚文です」

「愛の狩人、北村元康ですぞ!」

「元康くん……まあ、相手もわかっているだろうから良いけど……」


 代表として俺達が自己紹介をしましたぞ。

 その後にシルトヴェルトの者達もしていましたが、通過儀礼って奴ですな。


「此度は我がメルロマルクの過激派の暴走により、盾と槍の勇者様、シルトヴェルトの皆さまに多大な迷惑を掛けた事を、国を代表して謝罪致します」


 女王はそう言って軽く頭を下げますぞ。

 うんうん、やはり女王は殊勝な心がけの出来る奴ですな。


「いえ……何事も無くシルトヴェルトに行く事が出来ましたし、首謀者達の処分が済んでいる今、いつまでも禍根を残しては双方未来は無いかと思います」

「盾の勇者様の慈悲に感謝致します。それで……今回は我が国にどのような用件で来訪をなさったのでしょうか?」


 女王は通例的な会話をしてから俺達の目的を尋ねますぞ。

 ちなみにシルトヴェルトの者達は揃って警戒気味ですな。

 まあ、メルロマルクの雌狐と呼ばれる女王ですからな。

 何か裏があると考えたのでしょう。

 女王の立場から考えればお義父さんがメルロマルクに良い感情を持っている、とは思えないでしょうし、しょうがない事でしょうな。


「えー……今回の来訪に関しては、フォーブレイで勇者を騙っていた、重罪人タクトの派閥残党に関する問題を解決する為に、必要不可欠な事をメルロマルクで行わねばならない、とわかったのでやってきました」


 お義父さんはタクト派閥残党に関する問題を女王に説明して行きますぞ。

 ですがシルドフリーデンでの支持を得るために、と言う名目は語りませんな。

 おそらくですが付け入る隙と捉えられないためですかな?


「そして同盟国として波の脅威に弓と剣の勇者が欠けて挑む形になってしまっているメルロマルクに友軍として協力したいと考えています。つきましては国内で自由に動ける権利を頂きたく思います」

「そうでしたか……良いでしょう。世界の危機を乗り越えるため勇者様方が活動しやすい様に協力するのがメルロマルクの責務。国内での活動を全面的に許可、援助致します。どうか必要な物があるようでしたらいつでも仰ってください」

「ありがとうございます」


 やはり女王は話が早いですな。

 これ位スムーズではなくてはいけませんぞ。

 シルドフリーデンには見習ってもらいたいものですな。


「そして……もう堅苦しいのはこれくらいにしましょうか。こちらも本来は話す訳にはいかない問題があるのですが、その末に勇者様、果てはシルトヴェルトの皆さまに多大な迷惑が掛りかねない問題があるので、どうか耳にして頂けると幸いです」


 女王が扇を上げて指示すると兵士や大臣達の一部がその場から出て扉などが閉められました。

 内緒の話って奴ですな。

 シルトヴェルトの面々は警戒態勢に入りました。

 安心しろですぞ。

 仮に女王が何かしたとしても俺が全て消し飛ばしてやりますからな。


「潜伏している者も警戒しますかな?」

「ええ……聞かれると非常に困る話をします。皆さま、十分にご注意頂けると……」

「では潜伏する者を炙り出す魔法を唱えますぞ。女王の息が掛っているのなら正体を現すか離れろですぞ」

「どうぞ」


 女王の言葉で俺はリベレイション・ファイアフラッシャーの魔法を唱えますぞ。

 これで隠れて盗み聞きは不可能ですぞ。

 盗聴器などの可能性も無くはないですがこのような場所に仕掛けなど、一発でわかるはずですぞ。


「それで何か問題が?」

「はい……実は、騎士エクレールに連行され、投獄された英知の賢王を騙る偽者が何者かの手引きにより脱走しました。現在、内密に追跡部隊を派遣している次第なのです」


 女王が若干溜息交じりに語りますぞ。

 クズが脱走?

 本当、どいつもこいつも何をやっているのですかな?


「それは……つまり……」

「はい。どこかに英知の賢王を騙る者が潜伏し、機会を窺っている事になります……この件に関しましては、勇者様方に面目ない程の不祥事だと、女王としての判断で話をしています。どうかご注意をお願いします」

「随分と杜撰な……ワザと逃がしたのではないか?」

「返す言葉もありません」


 そうですな。

 本当に返す言葉もない程の失態ですぞ。

 しかし、これまでのループを考えれば女王がこんな初歩的なミスをするとは思えませんぞ。

 何か理由があると考えた方が自然でしょうな。


「状況的に出来過ぎてる……失礼ですが、理由を伺っても良いですか?」


 お義父さんも何かに気付いたのか女王に尋ねました。


「もちろんです。警備をしていた国内有数の騎士が手も足も出ずに殺されてしまったのです。偽者の英知の賢王を逃がす為に、組織だった犯行が行なわれたと思われます」


 などと言いながら女王の指示で残った……若い男貴族が資料を俺達に渡しました。

 わかりやすい様に、犯行現場の絵と映像水晶が表示されておりますな。

 手慣れた様子で、剣で刺し貫かれた騎士の死体と、開けられた幽閉用の塔……クズが幽閉され入れられた塔ですぞ。

 覚えがありますな。

 つまりクズが何者かの手引きによって脱走したという事ですな。


「……」


 お義父さんが資料と映像を確認してしばらく考え込みましたな。


「英知の賢王を騙る偽者……は収監されるまでの間、槍の勇者に処分された冒険者マインの仇を討つ! などの言葉や罵詈雑言を繰り返していまして、このままでは勇者様方へ更なる迷惑を掛けかねないのが現状です」

「それは……」

「本気になった英知の賢王を騙る偽者がどれほどの能力を発揮するのかは未知数……十分にご注意ください」


 本気になったクズが知恵を捻りながら俺達に復讐をしようとしているのですかな?

 HAHAHA!

 幾らクズでもそれは無理ですぞ。


「この問題への対策の為、メルロマルクは盾と槍の勇者様方の護衛として此度の騒動で多大な貢献をした、騎士エクレールを派遣する事を決定いたしました。どうか受け入れてくださる事を祈るばかりです」


 女王の指示を受けてエクレアが一歩前に出て敬礼と共に頭を下げますぞ。


「わ、わかりました。メルロマルクの判断、確かに受け取りました」

「改めてよろしく頼む。イワタニ殿、キタムラ殿」


 つまりクズが脱走した問題を解決するためにエクレアが正式にお義父さんの護衛として派遣されたという事ですな。

 まあエクレアなら良いのではないですかな?

 デカイ図体のパンダとゾウばかりでは見栄えに問題がありますからな。


「他に何か……メルロマルクに要請したい事はあるでしょうか?」

「なら、次の波に備えて龍刻の砂時計での登録をしておきたいです」

「わかりました。では勇者様方を龍刻の砂時計へと案内してください。国内での活動資金に関しては騎士エクレールが承ります」

「はい。ありがとうございました。後は……」


 お義父さんがチラッと俺とサクラちゃん達の方を見ましたな。


「謁見前にこの国の第二王女様と会う機会に巡り合えたのですが、その際にこちらの仲間をしている子達ととても有意義な時間を過ごしたみたいです。また機会があれば遊んであげてもらえないでしょうか?」


 お義父さん、なんでそんな気遣いをするのですかな!?

 女王は配下の者から経緯を聞いて納得した様に頷きますぞ。


「承知しました。勇者様方が城に滞在する限り、我が国の第二王女との接触を全面的に許可致します。どうか友好を育んでください」

「ありがとうございます」


 玉座の間で黙って成り行きを見守っていた婚約者の表情が若干明るくなった気がしますぞ。

 サクラちゃん達も婚約者に向けて手を振っております。

 友達! って雰囲気が出てますぞ!


 ダメですぞ、ダメなのですぞ!

 不健全な関係はダメなのですぞぉおおおお!


 と言う俺の心の声は無情にも辺りに響く事なく……女王との謁見は問題なく済んでしまったのでした。


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