青髪の幼女
なんて重い空気が辺りを支配して行きますぞ。
「まあ、応竜単体で出てきたのなら俺だけでも倒せますがな」
ズルッとお義父さんが転びかけております。
周りの者達も揃って似た様な反応ですぞ。
おかしな事を言いましたかな?
「勝てるんだ……それを早く言ってよ」
「あの時は色々と不幸がドミノ倒しの如く重なりましたからな」
錬と樹が勝手に霊亀と鳳凰の封印を解いた挙句、タクトが説得に応じずに襲い掛ってきて、その繋がりで応竜が出て来たのですぞ。
封印が三つも同時に解かれた事で、麒麟まで連鎖的に出てきたのが敗因だったと思います。
この元康であっても様々な場所で暴れ回る四霊を一人で駆逐するのは不可能ですぞ。
結果、あのループではお義父さん達と別行動を取って討伐する事になりました。
「同時撃破が条件だったので俺でも手を焼きましたが、今の内に戦力を整えれば対処出来ると思いますぞ」
守護獣単体は雑魚ですからな。
対処法が判明している今なら連鎖する前に終わらせられるはずですぞ。
「そうならない事を祈るしかないね。とはいえ……いきなり計画が頓挫しちゃったなぁ」
「核石自体が欲しいなら市場で買ったり、俺が野山から調達しますぞ」
「あくまで知り合いであるはずのドラゴンに頼らない方針を貫こうとする元康くんは称賛すべきなのかもしれない。ただ、仮に育てたとしても敵の竜帝を凌駕出来るかと言うと……限界突破は難しいみたいだし」
お義父さんが更に考え始めました。
「そもそも元康くん、そのライバルって子は味方のドラゴンの近くだと上書き状態になる様なものなんだよね?」
お義父さんの言っている意味がよくわかりませんが、俺は嘘を言いません。
事実を話しますぞ。
なので、ライバルが俺の槍を経由したケースの内容を話しました。
「それならこの場で育てても似た結果になるんじゃない? 上書きと言うか乗り移る訳だし、どんなドラゴンでも近いとやりそうじゃない?」
「ですな」
「ただ……この世界、ループだと、本来のその子がいるわけでしょ? 産まれていない訳じゃないんだから、仮に手繰り寄せた場合、この世界のその子が抜け殻になりかねないよね」
「奴の心配は無用ではないのですかな? 元々呼ぶ必要は無いですからな」
そんな気遣いは不要ですぞ。
奴が必要なのではなく、奴が使っていた場所が必要なだけなのですからな。
俺のエターナルフィーロたん計画の為に、ライバルには消えてもらいますぞ。
「そもそも時期的に死んでいると思いますぞ。ですから俺達が育てればあの世から帰還しますぞ」
「……どう言う意味?」
お義父さんが眉を寄せながら説明を求めてきました。
「それはですな。ライバルの親はメルロマルクで勇者が参加する最初の波が終わった後に錬によって討伐され、それから少しして親の巣穴に近くの村の冒険者が乗り込んで来て魔物共は皆殺し、助手は奴隷行き、卵は持ち返って売り払われるのですぞ。ライバルはその時に死ぬらしいですな」
「……」
お義父さんが額に手を当てました。
「ちなみにドラゴンの死骸から疫病が発生し、近隣の村を襲うので因果応報ですぞ」
「メルロマルクの自業自得だけど悲惨だねぇ」
「愚かな……メルロマルクの者はその程度もわからないのか」
シュサク種の代表が蔑む様に言いました。
あの村の連中は強欲でしたからな。
そんな知恵があったとは思えませんぞ。
「話によると錬はメルロマルクからゼルトブルの方へ逃亡したんだっけ? そうなると疫病が広まっていてもおかしくないんじゃない?」
「時期的に発生してから少しですから、まだそこまで問題になってないと思いますぞ」
少なくとも日付的には二度目の波までまだ猶予がある時期ですからな。
最初の世界のお義父さんがドラゴンゾンビを倒した頃より少し早いと思いますぞ。
「とは言ってもな……限界突破とか戦力増強の手立てが無くなった状況じゃ、その子が居た方が迅速に事を運べそうなんだよね」
世界の裏側で密かにそう言った路線に導こうとしているのではないかと思えるほどに奴の必要性が上がって行く。
ぐぬぬ……。
エターナルフィーロたん計画の為に話をしなければなりませんが面倒極まりないですぞ。
「ドラゴンに頼らねばならない状況自体が不愉快ですわね。元康様」
「そうですな……ですが、これも俺の野望を叶えるためには不可避……サクラちゃん、我慢ですぞ」
「んー?」
サクラちゃんがボケっとした感じで首を傾げております。
「ドラゴン……イヤ~」
嫌がってはおりますがおっとりであるのは変わりません。
これがフィーロたんであったらどうですかな?
『ドラゴンはヤー!』
と、お義父さんの方を見ながら張り裂ける様に叫びますな。
このギャップ……やはりサクラちゃんとフィーロたんが俺の中でどうも繋がらないのですぞ。
「そもそも樹が居ないからメルロマルク方面の波だって俺達が鎮めないといけないんだよ?」
四聖勇者だと、錬はゼルトブルへ潜伏、樹は戦死、残されたのは俺とお義父さんだけですぞ。
七星勇者は……シルトヴェルトにツメと槌と鞭が存在しますが所持者不在。
他はクズの持つ杖以外はフォーブレイの指示で世界各地で指名手配ですぞ。
きっと小手の所持者はまだ見つかっておりませんな。
となると斧、投擲具が消息不明ですぞ。
かなりどうしようもない状況ですな。
「メルロマルクの波はクズと女王に任せれば良いだけですぞ」
「いや……まあそうなんだけどね」
お義父さんがシルトヴェルトの者達に視線を向けながら同意しますぞ。
一応、表面上は偽者のクズを生け捕りにした事にしてあるのでしたな。
あのクズが波で役に立てますかな?
非常に怪しいのは事実ですぞ。
まだ俺のループ条件自体の解明は出来ていません。
錬や樹が死ぬ事でのループでは無くなっただけで、波での敗北等が条件でしたら話になりませんな。
「メルロマルクに恩を着せる名目でも行くべきだよ。エクレールさんだって俺達の為にがんばってくれたんだし」
「ほっほっほ、セーアエット嬢が尽力してくれたのもまた事実。友軍として、果ては未来のシルトヴェルトの為にも一度メルロマルクに勇者様方が挨拶に行くのも手ではあるでしょうな」
ゲンム種の翁が同意しますぞ。
偉くあっさり同意しましたが、何か理由でもあるのですかな?
お前等はメルロマルクの事を敵国にしていたと思いますが、どうなのですかな?
「三勇教も邪教と認定されて壊滅状態……今後の為にも勇者様方が視察をするのも良いでしょう。シルドフリーデンを操る手立てを持つ者がいるなら尚の事」
シュサク種の代表もお義父さんの方針に同意しておりますぞ。
だからシルトヴェルトの代表種族であるお前等が何故そんなにメルロマルクとの友好を望んでいるのですかな?
う~ん……あれですかな?
応竜復活の可能性……世界の三分の二の犠牲が必要と聞いて、こやつ等はビビッているのかもしれませんぞ。
「とはいえ、メルロマルクは英知の賢王と雌狐の支配領域。重々気を付けねば隙を突かれるのもまた事実……十分にご注意ください」
「方針は決まったね。じゃあ早めにメルロマルクに行くとしようか……何だかんだ言ってここまで迷惑を掛けた連中への嫌がらせは達成したんだし」
この周回でのお義父さんは召喚初日に馬車で連れ出されて罠に掛けられたのでしたな。
道中でも無数の妨害がありました。
その首謀者には報いを受けさせましたが、その果てにお義父さんがメルロマルクに凱旋するのはこれでもかと言う程の嫌がらせになりますぞ。
「エクレールさんに挨拶もしたいし……メルロマルクへ行こうか」
「わかりました! ですが……」
俺はサクラちゃんへと視線を向けますぞ。
「なーに?」
メルロマルクに行くという事はサクラちゃんとは切っても切り離せない問題が残っています。
出来るだけその芽は摘んでおきたいですぞ。
「あそこは敵地。サクラちゃんは安全の為に留守番をすべきですぞ」
「えー?」
サクラちゃんが不思議そうな表情を浮かべました。
お義父さんもサクラちゃんと同様の表情をしていますな。
「ユキは?」
「コウはー?」
「ユキちゃんとコウは大丈夫ですぞ」
「えー? サクラはダメなのー?」
「なんでサクラちゃんだけ?」
ごもっともな質問が来てしまいました。
それはフィーロたんやサクラちゃんと物凄い速度で仲良くなってしまう婚約者がいるからですぞ!
……とは口が裂けても言えませんな!
なんとか理由を付けてサクラちゃんには留守番をしてもらいますぞ。
「ぶー」
サクラちゃんが頬を膨らませて仲間外れにされたと怒っております。
違うんですぞ! 俺の願いなのですぞ!
婚約者と不健全な関係になる事を許してはいけないのですぞ!
俺だってフィーロたんと婚約者が親友という間柄であるなら何も言いません。
美しい友情を作って欲しいとすら思います。
ですが、あの婚約者はフィーロたんとチョメチョメ……なんと羨ま……いえ、ここから先は言えませんな。
そんな未来を阻止しなければいけませんぞ。
「危ないなら尚更サクラちゃんがいると助かると思うんだけど?」
「元康様のお考え、理解したいのですが……サクラは戦力外になるほどでございますか?」
そんな事は無いですぞ!
サクラちゃんは立派にお義父さんを守ってこられました。
それは俺が保証しますぞ。
「留守番はやー、モトヤス、サクラの事嫌いー?」
サクラちゃんが小首を傾げて俺を見つめてきますぞ。
フッとその動作が涙目でお義父さんにお願いするフィーロたんのお姿と重なりますぞ。
うっ……。
「サクラちゃんの事は大好きですぞ! ですが危険なのですから十分に注意するのですぞ! 特に青い髪をした幼女には!」
「何その具体的な指定……元康くん、ループ知識があるならきちんと教えてくれるとどう対処すれば良いかわかるんだけど。例えばサクラちゃんがどのループでもその人物にメルロマルクで殺されてるとか?」
「殺されてはおりませんぞ」
「そこは素直に答えるんだね……つまり元康くんにとって非常に都合の悪い人物がメルロマルクにいると」
概ねお義父さんに理解してもらえましたな。
などと考えているとシュサク種の代表が呟きました。
「フィロリアル……そしてメルロマルクにいる青髪の幼女。それはもしや……」
ギク!?
これは早く向かわねばお義父さんに怪しまれますぞ!
「では出発しますぞ! ささ! お義父さん、思い立ったが吉日ですぞ! 出発ですぞ!」
「え? うん、わかったよ。それで――」
させませんぞ!
心当たりのあるシュサク種の代表に声を掛けようとするお義父さんの間に入って、俺はお義父さんを催促しますぞ。
「早く行かねば日が沈みますぞ! 奴の住処は遠いですからな!」
「わ、わかったよ、元康くん。それじゃ行こうか」
「わーい」
そんな訳で俺達は急遽メルロマルクへと向かう事になったのですぞ。
もちろんメンバーは俺、お義父さん、ユキちゃん、コウ、サクラちゃんが固定ですな。
そしてシルトヴェルトからお義父さんの護衛としてパンダとゾウが同行しますぞ。
ああ、一応、ゲンム種の翁が付き添いの者数名と一緒に女王と話があるそうですので一緒に行きますぞ。
この面子で俺達はさっそくポータルでメルロマルクへと飛びました。
「あははー! メルちゃん待ってー!」
「サクラちゃーん!」
あれから俺達はメルロマルクの城に到着し、女王への謁見を申請したのですぞ。
その間、サクラちゃん達から少しだけ目を離していたら、いつの間にか婚約者がサクラちゃんと遊んでいる状況になっておりました。
どういう事ですかな!?
ずっと見張っていたつもりだったのに女王への挨拶とエクレアが来るとの話に意識を向けた一瞬の隙を突かれて、婚約者がサクラちゃんと接触してしまいました。
そもそもサクラちゃんはおっとりとしておりますが好奇心は旺盛なのですぞ。
チョコチョコと目に入る範囲で探検をしている間に……婚約者の毒牙に掛ってしまったのですぞ!
「あれ? いつの間にかサクラちゃんと遊んでいる子がいるね。城に来ていた貴族の子供かな?」
「あの者はメルロマルク第二王女、メルティ=メルロマルクでしょう。王族として勇者様達を偵察に来ていたと思いますが……ほっほっほ、微笑ましいですな」
ゲンム種の翁がここぞとばかりお義父さんに説明しますぞ。
ぐぬぬ、ですぞ。
「さっき元康くんが注意していた人物にどこまでも該当する容姿だね」
お義父さんが呆れる様な困った様な、微妙な表情で言いました。
だから俺は注意したんですぞ。
ここは婚約者のテリトリー……もっと警戒するべきでした。
やはりあの時、無理を通してでもサクラちゃんを留守番させるべきでしたな。
「ぐぬぬ……」
「サクラちゃんと随分と楽しそうに追いかけっこしてるし、ユキちゃん達も混ぜて欲しそうにしているよ」
お義父さんがサクラちゃんと婚約者の方に近寄っていきます。
接近に気付いた婚約者はハッと我に返ってスカートを軽く上げ、挨拶をしてきました。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう。サクラちゃんと仲良くしてくれているね」
「は、はい」
「ああ、あんまり緊張しないでくれると助かるけど……それは無理か」
まあ初対面ですからな。
しかもお義父さんは盾の勇者。
第二王女である婚約者と仲良くなるには色々な手順が必要なのですぞ。
「メルちゃん、この人はナオフミー。サクラ達が守ろうとしている勇者なんだよー」
「そう……その持っている武器からして盾の勇者様と見受けられます。私の名前はメルティ=メルロマルクと……申します」
「あ……うん。少し前にこの城で召喚された盾の勇者で、今はシルトヴェルトの代表として謁見に来た岩谷尚文だよ」
「此度は盾の勇者様や槍の勇者様につきましては、我が国の邪教、三勇教と父上、姉上を騙る偽者が起こした数々の無礼……メルロマルクの王女として非礼をお詫びいたします」
婚約者はペコリと礼儀正しく頭を下げました。
名目上は赤豚とクズは偽者と言う事でしたな。
いや、赤豚を騙るマインという冒険者を処分した事になっているのでしたかな。




