優雅
「どうしようもないほど腐った国民性? もう見捨てたくなってきた」
「優雅ではないですわね。負けを負けと認め、自らの一部を差し出して許しを請うのも時には必要ですわよ?」
ユキちゃんがスッパリとシルドフリーデンの風潮を切り捨てていますな。
中々にシビアな所があるのがユキちゃんの聡い所ですぞ。
「平民はそこまでじゃないと思いたいねぇ……」
「この辺りは国民に問わなきゃいけなさそうだね。幸いシルドフリーデンは一応、民主主義っぽい感じみたいだし」
ちなみに民主主義っぽい、という所に非常に引っかかりを覚えるのは当然ですぞ。
何だかんだ言って移民建国時に代表をしていた種族等がそのまま代表として政治をしていた歴史がありますからな。
一応、民間人からも議員になる可能性があるのでしたかな?
お飾りだと最初の世界のお義父さんや婚約者達が呟いていましたが。
つまり自由を謳っていますが、能力ではなく、種族によって権力が変わるのですぞ。
歴代のアオタツ種のほとんどが権力を握っていたのですからな。
そういう意味ではシルトヴェルトよりも権力が一部の種族に集中していた事になりますな。
「こう……ここは異世界だし、郷に入れば郷に従えって所もあるし、わかるんだけどさ。波っていう脅威が迫っているんだからそんな事言っていられないはずなんだ」
そうですな。
これが世界の危機、波の無い世界であったなら、勝手にしていろと思ったでしょう。
異世界人である俺が関わってもしょうがない、とか昔の俺なら思ったでしょうな。
しかし、フィーロたんと約束した真なる平和な世界の為、変えなければいけない場所は変える必要があるのですぞ。
「盾の勇者の看板で支持って得られないのかな?」
「亜人達の神様としてのポジションで信仰されているはずですぞ」
「その割には適当だった感じがするんだけど、それはタクトの所為だと思ったんだけどね……」
「シルドフリーデンはねー……あたいもよくわからないけど、宗教関連が面倒だった覚えがあるね。特にアオタツ種が自分達を聖人に見立てていた所もあったはずだよ」
「盾の勇者を信仰していなかったって事ですかな?」
「一応神の座にはあるのさ。だけどそれ以外も多いって事じゃないかい? あたいも詳しくないからそれ以上は知らないよ」
ふむ……中々に面倒なのですな。
まあ、最初の世界や前回の周回等ではそこまで関わらなかったので知りませんな。
ゲーム時代だと……フォーブレイと似た感じの国くらいしか知りません。
豚共と遊んでいたので世界設定を詳しく掘り下げていなかったのですぞ。
全体的な歴史関連は多少知っている程度ですな。
「次の会談で色々と聞いたり調べたりする必要があるか……ラーサさんも俺の護衛以外で余裕がある時に調べたりしてくれない?」
「あいよ。ちょっとした話をするには良いかもしれないね。後で調べておくよ」
なんて感じでお義父さんはパンダを後ろから抱きついて撫でるのをやめ、サクラちゃんとじゃれあいを始めました。
それでやっと精神的な疲労が取れたのか、俺にいつもの笑みを浮かべてくれたのですぞ。
「さて……これからどうしようか?」
「お風呂の時間ではないのですかな?」
「そうだね。元康くんは……相変わらず覗き?」
「覗けるならしますぞ」
「毎度思うけど槍の勇者は何がしたいんだい?」
「覗く事で見られた女の子は魅力が上がるんだってさ。エクレールさんも呆れていたよ」
「その程度で上がったら苦労しないんじゃないかい?」
「だろうねぇ……」
「後はそうですな。既にポータルは所持しているのでシルトヴェルトに帰る事も出来ますぞ?」
なんならメルロマルクでも可能ですな。
安全な我が家も同然のシルトヴェルトで休めば余計な襲撃等、恐れる必要はありませんぞ。
「うん。それはわかっているんだけど、シルトヴェルトはね……あれはあれで気が休まらないんだよ。ラーサさんやサクラちゃんに見張ってもらわないと何が起こるか……」
「フォーブレイとか色々と出かけたがるのはそれが理由だろうしねぇ」
「じゃあこの際ですからゼルトブルにでも行きますかな? 流れの冒険者を装えば簡単に宿を取れますぞ」
俺の問いにお義父さんがグラっと揺れている様な態度を取りますぞ。
「非常に魅力的な提案だけど、敵の注意を引く為にもここにいる必要があるから……何日か待って」
「結局は行きたいんだねぇ。ゼルトブルならあたいも遊びたいから良い案だと思うよ」
「じゃあ、ある程度気分転換も済んだし、お風呂にでも行こうか」
「わかりましたですぞー!」
こうして話を終えた俺達は風呂へ向かいました。
そんな訳で俺達は入浴をする事になりました。
ちなみにシルドフリーデンが用意した風呂は女湯が柵などで区切りがある訳ではない、少しばかり離れた部屋にある面白くない作りでしたな。
シャワーがメインで風呂の方は雑……ではなく、噴水みたいな構造ですぞ。
奥にはガラス張りの窓から月が見えますな。
俺は体を洗い終え、風呂に入り髪をかき上げながら、大きな窓を背景にポーズを取ります。
バサァ! ですぞ!
髪が優雅に舞いますぞ。
「わー! 楽しそー! コウもやるー!」
「良いですぞ。コウ、俺に続けですぞ」
コウも俺と同じく体を洗い終えた後に風呂に入って髪をかき上げますぞ。
バサァ! ですぞ!
髪が雅に舞いますぞ。
「なんかイラっとする妙な遊びをしているなぁ……体を洗ってるから良いけど、迷惑になるから他の人がいる所ではやっちゃダメだよ」
温泉などに行った際に他の客が居ないから潜っても良い? と子供が言っているのを渋々許したみたいな雰囲気でお義父さんが注意していますぞ。
やがてお義父さんがゆっくりとシャワーを終え、湯船に入ります。
しかし……この風呂は少し小さいと言うか、やはり噴水にしか見えませんな。
「では、お義父さんも一緒にやりましょう。まず手を額に当てて、髪に付いた雫を……」
「いや、やらないよ」
優しいお義父さんならやってくれると思ったのですが、興味が無いみたいですぞ。
個人的にはユキちゃんが気に入りそうなので、もっと雅で優雅な動作で出来る様に練習しておきたかったのですが、しょうがないですな。
「さて……ですぞ」
ここの女湯は少しばかり離れていますが、覗く事は可能ですぞ。
窓から這い出して壁伝いに行けば見る事が出来るかもしれない感じですぞ。
具体的にはデコボコのボコ型で飛び出た所に風呂がそれぞれ用意されています。
つまり、窓から出て壁を移動して行けば女湯の窓を見る事は出来るはずなのですぞ。
俺は窓を開けて辺りを見渡しますぞ。
警備のサーチライトが所々辺りを照らしております。
そして警備兵が辺りを常時巡回しておりますな。
しかも空にも見張りがいる様な気配……警備が厳重ですぞ。
「元康くん? 何やってるの?」
「当然、覗きを行うのですぞ。どれだけ困難であろうとも、ユキちゃんは元より、サクラちゃんのお姿を見ないといけませんからな」
俺は槍を構え、クローキングランスとファイアミラージュの準備をしますぞ。
「もうさ、隠れて行くなら脱衣所から潜入すれば?」
「お義父さん、それはいけませんぞ。困難なミッションを達成するからこそ意味があるのですぞ」
「いや、その理屈は理解できない」
「お月さまキレー!」
「そうだね。コウ、元康くんの真似をしたらダメだよ?」
「えー?」
む……このコウの態度、お義父さんを内心舐めている気配がしますぞ。
俺は準備体操をしながらコウを見ますぞ。
「コウ」
「なーに?」
「あまりお義父さんを侮ってはいけませんぞ。じゃないと……とても怖い目に遭ってしまうのですぞ」
「んー?」
どうにかしてコウに理解させなければいけません。
最初の世界基準のお義父さんか、お姉さんが居ればコウは大人しくなるのですが、この世界では難しいでしょうな。
お義父さんは既にお優しいですし、お姉さんも……時期的に既に死んでいるでしょう。
どうにかして今のお義父さんを怒らせずにコウを諭す良い方法は無いですかな?
とは思いましたが……キールやモグラもいませんからな。
もしかしたら大丈夫かもしれませんぞ。
注意しなければいけないのはその手の連中が出てきた時ですぞ。
つまり小さい動物ですな……シルトヴェルトもシルドフリーデンも居ない訳ではないのですぞ。
そこの所を気を付けねば。
ですが! 今は覗きですぞ。
「お義父さんも行きますかな?」
「行かないよ? コウも行っちゃダメだよ?」
「裸見て楽しい? コウよくわかんない」
ハハハ、まだコウには早いかもしれませんな。
いずれわかる時が来るでしょう。
なんせ最初の世界のコウはお嫁さんをもらっていますからな。
「まあ、フィロリアル姿だと全裸みたいなものだし、わからないのも当然だよね」
「ではお義父さん、出来ればエアストシールドを出して頂けると助かりますぞ。足場に出来ますからな」
「しないよ! なんで協力しないといけないの!」
「そこを何とか! ですがエアワンウェイシールドは勘弁してほしいですぞ」
足場にしたら滑り落ちてしまいますぞ。
「いや、やらないって」
「いい加減、覗かないとユキちゃん達がのぼせてしまいますな。では行きますぞ!」
シュバッ!
俺は隠蔽状態になって窓を潜り、壁伝いに素早く忍者の如く僅かな足場やとっかかりを利用して女湯方面へと移動して行きますぞ。
「あの熱意は一体どこから来るんだろうなぁ……」
お義父さんが窓から素早く動く俺を見て呟きました。
わかりませんかな?
そこに桃源郷があるから行くのですぞ。
なんて感じで俺は女湯の方の屋根にどうにか到着しました。
途中止む無く壁を少しばかり槍で突かねば落ちてしまいそうな場所がありましたが、概ね順調ですぞ。
さーて……では屋根から壁に引っ付く様にして逆さのまま窓から覗きますぞ。
髪が張りついて若干うっとおしいですな。
ですが我慢ですぞ。
ここは桃源郷ですからな。
するとユキちゃんが優雅に足を延ばして湯船に浸かり、ポーズを取っておりますぞ。
俺が見ている事をしっかりと理解しているのですな。
ユキちゃんも女性として成長しているという事でしょう。
この元康、親として嬉しい限りですぞ。
「……一体何をしているんだい?」
パンダとサクラちゃんがボケっとそんな姿のユキちゃんを見て呆れております。
ちなみにサクラちゃんはお風呂に入るとフィロリアル姿に戻ってしまうのですな。
一見すると裸体はユキちゃんだけですぞ。
「元康様が見てくださっている事を前提に優雅で雅なポーズを研究しているのですわ」
「あっそう……」
「んー……サクラ、ナオフミと一緒にお風呂入りたい」
「子供なんだから頼めば良いんじゃないかい?」
「エクレールにダメだって言われたー」
「盾の勇者なら頼めば入れてくれると思うけどねぇ……」
「そう? じゃあサクラお願いしてくるー!」
ととと、とサクラちゃんはフィロリアル姿から天使の姿になって行ってしまいました。
残念ですな。
いや、待てですぞ……サクラちゃんはフィーロたん。
つまり今、男湯に戻ればフィーロたんと混浴と言う夢が叶うのではないですかな?
ふぉおおおおおおおお!
……ですが、フィーロたんはフィーロたん!
サクラちゃんはサクラちゃんなのですぞ!
いえ、よく考えろですぞ。
フィーロたん……いえ、サクラちゃんとお義父さんの混浴姿……何かの間違いでお義父さんが娘に手を出してしまったらどうなりますかな!?
オロオロですぞ。
「元康様ー! ユキを見ていますかー!?」
ユキちゃんがここぞとばかりに辺りを探しておられます。
俺が見ているのか不安になっているのですな。
姿を隠していましたが、ユキちゃんの安心の為に見せるべきですかな?
……しょうがないですな。
俺は隠蔽状態を解除してユキちゃん達に発見されるように窓から覗きこみ続けますぞ。
「ったく、アンタもモノ好きだねぇ……見られる程度で魅力が上がったら苦労なんて――ヒィ!?」
パンダが俺の方を見て何故か悲鳴を上げました。
気付くのが早いですな。さすがは凄腕の傭兵ですぞ。
しかしその悲鳴はなんですかな?
ああ、見られたからですかな?
「ま、窓の上から顔が!?」
パンダがこれでもかと大声でこっちを震えながら指差しました。
騒ぎ過ぎですぞ! ばれますぞ!
「元康様ですわー!」
「え!? 槍の勇者!? あたいはてっきり悪霊の類かと思っちまったよ。髪が濡れて逆さなのが理由かね」
傭兵の癖に悪霊を信じているのですかな?
まあ幽霊赤豚などの例があるので一概に否定は出来ませんが。
敵から恨まれるのが傭兵だと思いますが、怖い物は怖いという事でしょう。
「俺はここですぞー!」
「どうやって……盾の勇者の苦労がわかるねぇ。いいからサッサと男湯に戻りな!」
そう言いながらパンダが魔法の詠唱を始めました。
何をする気ですかな!?
妨害魔法をするのも手ですが、俺は情緒のわかる男ですぞ。
見つかった場合、怒られるのがワンセットですからな。
「ツヴァイト・ベンドバンブー!」
ニューっとパンダの手から壁を伝って俺の隣にしなる竹が出現し、ベチンと俺を叩きつけますぞ。
力を込めればその場に留まれますが、これは罰ですからな。
「うおーですぞー」
棒読みで俺は飛ばされた風に竹のしなりを利用して男湯方面へと跳躍しました。
「ああ、元康様ー!」
「ではユキちゃん、さらばですぞー!」
ユキちゃんに手を振りつつ、俺は男湯方面のとっかかりに手を掛けて男湯に戻ったのですぞ。
ちなみにサクラちゃんはお義父さんに軽くシャワーで体を洗ってもらってからお風呂から追い出されてしまわれていた様ですぞ。
そんな優雅なお風呂の時間でしたな。




