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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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1馬車2馬車

「タクトの場合は搾取が多すぎるそうですぞ」

「貯蓄しておきたいって気持ちはわかるんだけどね……」


 まあ、奴は転生者ですからな。

 貧乏根性が染み付いているのでしょう。

 沢山稼いでも社員に還元されないブラック企業みたいな感じですぞ。


「金なんてのはね、貯め込んでいたって碌な事は無いんだよ。身になる様に使ってナンボなんじゃないかい?」


 とパンダが言いました。

 一理ありますな。

 俺も沢山稼いではフィロリアル様やその牧場、ランド、レース、フィーロたんグッズなどに還元してきました。

 実に有意義な使い方と言えるでしょうな。

 俺の記憶の中のお義父さんも笑っていました。


「それをラーサさんが言うの?」

「アタイは金は好きさねぇ。でもそれは使い道があるから良いんだよ。無駄に貯め込んだって後に残るのはドロドロした争いなんじゃないかい?」


 考えてみればパンダは金への執着が強いですが、使用先に関してはよく知りませんな。

 その日の酒代や食事代に使っているのは見ますが装備等の類さえ保障されても貯めている様に見えました。

 キールと一緒に行商していた姿が印象的でしたがな。


「なんだい? さっきからアタイをじろじろと見て」

「お前の金の使い先を思い出せないのですぞ」

「その日稼ぎの傭兵に決まってんだろ? 精々装備か飲食代、部下を養うのに使いきっちまうよ」

「いや……それ以上に稼いでいたはずなのに割と金欠気味だった覚えが……」

「ああ、そういや槍の勇者は別の世界のアタイを知っているって話だったねぇ」


 パンダ獣人が俺を見て眉を寄せますぞ。


「ラーサさんがお金に執着している理由ね……」


 お義父さんがパンダ獣人をじっと見つめますぞ。


「ありがちだけど、家族が難病とか患って居てお金が欲しいとか」

「ないねぇ」

「それはキャラ被りですな」


 虎兄妹達ですぞそれは。

 同じ様な事が無いとは言いませんが盛り上がりませんな。


「なんか激しく気になる事を元康くんが漏らしているけど、今回は保留するよ。家族関係での問題ならシルトヴェルトが保障してくれてそうだし……となると故郷の村へ送金してるとか……孤児院に寄付してるとかかな?」

「あ、アタイにそんな甲斐性がある様に見えるのかい?」

「ちょっと気になる反応かな? 聞いた話だとラーサさんってシルトヴェルトでも珍しい種族らしいし」


 ああ、そう言えばシルトヴェルトの連中が仰っていましたな。

 この世界でもパンダは珍獣という事なのでしょう。


 しかし……お義父さんは何と言いますか、目の周りが若干黒かったり逆に白かったりする獣人や魔物相手に良く構っている様に見えますぞ。

 お姉さんのお姉さん然り、パンダ獣人然り……お姉さん然り。

 その好奇心を少しでもフィロリアル様達に多めに分配して欲しいですぞ。


 おや? 俺の記憶の中のお姉さんが抗議している様な気がしますが……その前に出る様にお姉さんを元に作った生き物が自己主張しておりますな。

 ライダーが変身する様なポーズを取っていますぞ。

 まあ、気にする必要は無いでしょう。

 手を振って考えを散らしますぞ。


「アタイが守銭奴なのはどうでも良いんだよ。つーか槍の勇者のフィロリアル共はどうなんだい?」

「フィロリアル様に金銭欲などという下賤な欲望は存在しないのですぞ」


 みんな優しくて健気な子ですぞ。

 各々趣味趣向などがありますが、欲望に染まったりなどしないのです。

 そう……食欲以外は!


「この前、城の宝物庫の中でフィロリアル達が目を輝かせて遊んでいたけど?」

「光りモノに釣られて遊んでいただけですぞ。割れたガラスでも折れた剣でも同様に収集しております! むしろ馬車が大好きなのですぞ!」

「それって完全に鳥……お金の価値はわかってない訳ね。馬車に関してはよくわかんないけど」

「褒美に個人専用馬車を与えるとお義父さんが仰った時は我先にとフィロリアル様達は与えられた任務を達成しに行きました! 素晴らしいですな!」

「本気でその感性は理解できないからね?」


 くっ……まだこの頃のお義父さんはフィロリアル様への理解が追いついていないのでしょう。

 ですが、お義父さんの能力であればすぐに馴染んでくれると思いますぞ。


「ユキちゃん達もそうですな?」

「もちろんですわ。専用の馬車は夢ですわね」

「うん」

「ほしーい」

「ここは共通の認識なんだ……男の城ことマイホームみたいな感覚なのかな?」

「ちなみにフィーロたんもお義父さんに金属製の馬車をもらって楽しそうに磨いていました」


 カルミラ島に行った頃でしたな。

 まだ船酔いをする前ですぞ。

 フィーロたんが同じ船に乗船しているから会いに行った際、楽しそうに馬車を磨いている所に遭遇しました。

 タイミング良くお義父さん達もいなかったので、愚かな俺はチャンスとばかりにフィーロたんに近づいて壁ドンならぬ馬車ドンをしたのですぞ。


「やあ、こんな所で何をしているんだい? また尚文に重労働でもさせられているのかな?」

「あー! フィーロの馬車が汚れる!」


 次の瞬間俺は蹴り飛ばされて壁に叩きつけられました。


「ぐふ!?」

「フィーロはやりたくてやってるの!」


 そう言って俺が触れた所をフィーロたんは念入りに拭き取っておりました。

 その後、俺はよろめきながら好きでやっているならしょうがない、怒らせてしまったのだと判断してその場を去ったのですぞ。

 あれ以上フィーロたん……フィロリアル様の馬車を汚す行為をしたら、それこそ嫌われてしまいますからな。


「習性なのはわかるけど……サクラちゃん達へのお礼は馬車が良いわけね」

「そうですな! もちろん、希少な鉱石や宝石などを散りばめた馬車はより喜びますぞ」

「そうなの?」


 と、お義父さんがみんなに聞いていますぞ。


「んー? ボロいのは嫌」

「煌びやかなのは良いですが、下品な装飾は嫌ですわ」

「良い物が良いー!」


 つまり好みも沢山あるという事ですな。


「認識としてはあってるんだ。だけど、お金の価値がよくわからないのに馬車になると見分けられる感性はなんなの? 馬車を通貨に例えたら理解しそうだけど……いやだなぁ1馬車2馬車って単位で運用させるの」

「名案ですな」

「名案じゃないから。石のお金なんて目じゃない面倒臭さだよ」

「では木の馬車、鉄の馬車、銀の馬車ですな! どうですかな?」

「銅貨銀貨金貨みたいな単位にさせないからね? どの馬車を与えるかで命令の質が変わるとかなんかイヤだよ」


 フィロリアル様との取引に良いと思いますが、お義父さんがイヤなのなら秘密裏に行なう取引に使う事にしましょう。

 カスタムパーツなどについて考案するのも良いですな。

 前回のループで作ったセカンドモード専用タイヤの様に、馬車用パーツの開発を進めるのも今後の課題になりそうですぞ。


「微妙にお金に関しての話題を維持しつつフィロリアルの生態説明になっている様な……ラーサさんもよく考えてね」

「これはアタイの所為になるのかい?」

「フィロリアル達に金銭に関する事を聞いたのはラーサさんでしょ」

「そりゃそうだけどねぇ。魔物に金銭を尋ねる方がおかしいって事なのかね」

「食べて遊んで寝るが基本だからね。食欲の方が重要なんでしょ」

「アタイも食う飲むは好きだね」

「ラーサさんの稼いだお金がどこへ消えて行くのか興味はあるけど……また今度で良いか」

「好奇心は身の破滅を招くよ? 盾の勇者様?」


 何やらパンダがお義父さんを脅していますが、お義父さんは既にパンダの話を無視してますぞ。

 この辺りの距離感を掴むのがお義父さんは上手ですな。


「どうせパンダの事だから可愛いグッズや衣服の為に貯畜しているのでしょう」


 最初の世界でパンダはそんな感じでいろんな衣装等を集めていましたからな。

 俺の発見能力を侮ってもらっては困りますぞ。

 何ならお前の全てを暴いてやっても良いのですぞ?


「だーかーらー! アタイに妙な要素を盛るんじゃないってーの!」

「あはは……どちらにしてもこれから向かうのはタクト派閥だったシルドフリーデンって国なんだ。あっちの情勢を視察しないとね。生き残りの潜伏先も探さないといけないし」

「強引に話を変えてきたねぇ……別に良いけど、面倒な事にならない事を祈るばかりさね」

「ですな!」


 そんな訳で、暗雲立ち込めるシルドフリーデンへと俺達を乗せた飛行機は飛んで行きましたぞ。

 ヒューンですな。




 やがて空の旅はしばらく続き、目的地であるシルドフリーデンの発着場に着地しました。

 お義父さんが飛行機の窓から外を見ておりますな。


「なんか空港と言うより軍の基地って感じだね」


 俺もお義父さんに合わせて外を見ますぞ。

 自由な国の寂れた片田舎にある発着場の様な見晴らしの良さですな。

 既にタクトが用意した飛行機の類は俺達が撃破済みで、あまり残されていませんぞ。

 飛行船等の発着も出来るようですな。

 いろんな機材が積まれており、少し離れた所には金網の柵が用意されています。


「ここだけ見ると異世界に来たって感じが少し薄れるね」

「そうですな」


 金網の先を見ると……俺達の来国を歓迎しているのか旗を振った連中が声を上げていますぞ。

 中々殊勝な心がけですな。

 お義父さんをもっと崇め称えろですぞ。


「アレって歓迎してるのかな? 遠くからだとよくわからないんだけど」

「俺の元康アイが活躍する時ですな! むん!」


 思い切り目を凝らして、金網の前に居る連中を睨みますぞ。

 ……どうやら歓迎の意志は感じられますな。

 やや頬が引きつっているのはなぜですかな?

 お前等正義ぶった愚か者に慈悲を与えたお義父さんの来国ですぞ。

 にも関わらず不満があると言うのは愚かにも程があるのではないですかな?

 その後方では縄で縛られて連行されて行く連中が見えますぞ。


「歓迎はしてくれる様ですな。後方にいる連中は何故か縛られていますぞ」


 俺達が首を傾げているとシルドフリーデン側の係員が飛行機に入って来てこちらの係員と何やら話をしております。


「えー……盾の勇者様を歓迎する団体の中に反団体が紛れており、誹謗中傷する横断幕を広げようとしたとの話です」

「三勇教みたいな連中ですな」


 ちなみに三勇教は既に邪教認定されていますぞ。

 樹の死亡は元より、国の兵士達も私的に利用した名目でメルロマルクの国教は既に変わっております。


 女王がどさくさに紛れて帰国したお陰ですな。

 もちろん亜人奴隷狩りは禁止になり関係者達は罰せられ、奴隷たちは保護される事になったとか。

 エクレアのがんばり所ですな。


「それだけタクト派閥が根強いって事なのかな?」

「真実を知った国民達は盾の勇者様を歓迎しようと集まっているとの話です」

「とてもそうは見えないけどね」

「顔が引きつってるねぇ……どんな無茶ぶりや重税を課せられるのかって脅えてるんじゃないかい?」

「まあ……戦勝国の視察なんてそんなものだろうしね。あの長官もこんな心境で来国したんだろうか……」


 やがて飛行機から降りる準備が出来たのか係の者が俺達を誘導しますぞ。


「降りてから建物の中に入るまでが絶好のタイミングかな?」


 何が? と言うのは俺とお義父さんに不要ですぞ。

 タクト派閥の連中が行うであろう攻撃への対処ですぞ。

 あの手の姑息な連中は間違いなくして来るだろうとお義父さん達は分析しております。


 シルドフリーデン側の協力者も最大限警戒して事前に阻止をしようとしていますが、あの手の連中は幾らでも出てきますぞ。

 世界が平和になった後でもお義父さんの命を狙う連中と言うのはそれこそ星の数ほどおりました。

 都合の悪い勇者となれば抹殺を企む連中ですからな。

 もちろん、お義父さんや俺達はそんな連中にしっかりと報いを受けさせましたがな。

 HAHAHA。


「むしろ、しばらくはその手の奴の暗躍に注意を払わなきゃいけないんじゃないかねぇ?」

「そうだね」

「アタイが盾になるかい? その為に雇われた訳だし」

「俺を何の勇者だと思ってるの? ラーサさんはむしろ俺以外の周りに気を使ってくれると助かるよ」


 お義父さんの返事にパンダが肩を上げて軽い溜息をしますぞ。

 俺としてはお義父さんが少しでも危険な目に合うと思うと不安でしょうがないですが、お義父さんの防御能力が高いのは紛れもない事実ですからな。


「そりゃそうだったね。とはいえ、あんたの所でこの手の攻撃を対処出来ない奴なんているのかい?」

「んー?」

「なんかピリピリしてるね」

「下賤な者が私欲を満たそうとしているのですわ。奴等に隙など見せませんわ」


 ユキちゃん達もわかっておりますぞ。

 サクラちゃんは……まだ眠そうにしておりますな。

 ……本当に何度も思いますが、サクラちゃんが育ち方次第でフィーロたんになるなんて信じられませんぞ。


 実際に経験しているからこそ、このギャップが不思議ですぞ。

 ただ……そうですな。暖かな日差しの中で日向ぼっこをしている時のフィーロたんの様子と、サクラちゃんは本当によく似ておりました。


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