ライブツアー
く……俺の提案はそんなにも難しいのですかな?
サクラちゃんを元に偽のフィーロたんを作るのが今の精いっぱい……絶対にあきらめる訳にはいきません。
俺もどうにかしてフィーロたんとサクラちゃんを同時に存在させる研究を始めますぞ。
レッツ錬金術ですな!
「まあ……このフォーブレイの国立図書館は元より、世界にはいろんな研究をした資料とか眠っているから、探してみるのが良いんじゃないかしら?」
「一応保留って事で……ラトさんにはフィロリアル達の健康チェックや研究を手伝ってもらっていこうよ。もしかしたらフィロリアルの外見を決める因子が特定できるかもしれないしね」
「そうね。そのあたりを課題に調べるのは研究者として興味があるから協力はするわ。これからよろしく頼むわね」
こうしてお義父さんが交渉をして主治医と契約を結べたのですぞ。
話を終えた俺達はその足でユキちゃん達と合流し、シルトヴェルトの方へと帰ることにしたのですぞ。
ああ、フィーロたん。この世界で君はあまりにも遠い場所にいるのですな。
そんなこんなで俺達はシルトヴェルトからシルドフリーデンに向かうことになりましたぞ。
「元康くんはシルドフリーデンのポータルは持ってない?」
「生憎滅多に行く事のなかった国ですからなぁ……」
ポータルスピアを作動させて履歴を調べますぞ。
スキルにポイントを振り込めるようになって登録個所が増えたと言っても限度はありますぞ。
俺が覚えているシルドフリーデンの記憶と言ったらフィーロたんIN全世界ライブツアーで立ち寄った程度の記憶しかありません。
他は出来損ないのゼルトブルみたいな町があった程度ですな。
マーライオンなどを飾ってあって中途半端にベガス感があった程度でしょう。
ちなみにベガスは略称で地球上の町ですぞ
昔豚と一緒に遊びに行ったのですぞ。
カジノに来訪したギャングのボスがアサシンに殺されたとか大騒ぎになったのが印象的ですぞ。
そのドサクサに豚を誘拐しようとした野郎のツルツルの頭から髪を握って抑え込んでやりました。
矛盾ではありませんぞ。
そう……後頭部にバーコードのような名残惜しい三つ編みがあったので掴んだのです。
そいつの仲間なのかわかりませんが後頭部に本当にバーコードなタトゥーを付けた奴がいましたがな。
バーコード……ピッとレジを通す便利なものですぞ。
近所に住んでいた歳の離れたお兄さん風の人が古いおもちゃを見せてくれた思い出が浮かんできました。
なんでもバーコードで対戦などができたんだとか。
あの後頭部のコードを通したらどんな強力な駒が手に入ったのか……豚の事を考えるのをやめてから思い出すとその事ばかり浮かんできますぞ。
おや? 記憶の中のお義父さんが『どうしてお前はそんなどうでもいいことを考えているんだ』と呆れている様に見えますぞ。
「シルドフリーデンのポータルはありませんな」
大体網羅していると思っていましたがとんだ盲点ですな。
「じゃあ直接向かうしかないか」
「シルトヴェルトよりも近くへのポータルはあるのでそこから出発しますかな?」
「それもいいかもね。俺か元康くんのどっちかが交代で目的地に向かえば時間も節約できるだろうし」
「勇者様方、少々お待ちください」
シルトヴェルトの者達が声をかけてきますぞ。
「どうしたの?」
「シルドフリーデンへの移動に関してなのですがタクト派閥から押収された飛行機の使用が提案されております」
「え? 飛行機? まあ……使えるなら使ってもいいけど大丈夫なの? 結構専門技術を必要とするんじゃない?」
「調査の結果、使用可能であることが証明されております。燃料関係も問題ないとの話です」
「じゃあ使わせてもらうけど……移動中に事故に遭ったら嫌だなぁ」
異世界で飛行機ですからな。
とは言っても大丈夫なのではないですかな?
「問題ないと思いますぞ、俺の知るループ内でもタクト派閥から接収した飛行機や飛行船は使われた覚えがありますからな」
「それなら大丈夫か」
「はい。今回、使用する飛行機はメルロマルクからシルトヴェルトへと移動した経緯のある物だと判明しています」
「樹達を乗っけてきた奴でしょ。なんか縁起悪そうだなぁ」
敵国に乗り込んで返り討ちですからな。
なんて感じで俺達の下にタクトから接収された飛行機……樹をメルロマルクからシルトヴェルトまで載せてきた物で一路シルドフリーデンへと向かったのですぞ。
飛行機は……ジェット旅客機かと思っていましたがもう少しコンパクトですな。
パラシュートとかで使う奴に似ていますぞ。
そんな飛行機での……優雅さが少々足りませんな。
「わーすごーい」
「景色は悪くありませんわね」
「たかーい」
ユキちゃん達が飛行機の外の景色を見ながら感想を漏らしていますな。
根本的にフィロリアル様は空を飛べませんから高い所は好きなのですぞ。
「飛行機なんて代物に乗せてもらえるのは良い経験だけど、何かあったら怖い場所だねぇ」
パンダが若干警戒気味に呟きますな。
「まあねぇ……」
「何かあったら俺が飛行機から飛び出し、お義父さんを担いで大車輪で地面に着地して見せますぞ」
「その光景を想像するとかなりシュールなんだけど……」
「背に腹は代えられませんからな」
パラパラパラ、ですぞ!
後で練習しておきましょう。
ハッ! それをサードモードに組み込むのも良いですな!
「出来れば無い方向で……サクラちゃん達は大丈夫なの?」
「羽を広げれば空気を掴めますからな。思ったよりもダメージは無いと思いますぞ」
「そういうもの?」
「後は風の魔法を使用して落下の速度を緩め、衝撃を逃がせば大丈夫ですぞ」
理論上可能ですぞ。
フィロリアル様なら軽々とやってくれると思います。
「魔法って便利だなー」
「そもそもさっきアタイが聞いた話なんだけどね。飛行機を運転するのに気をつけなきゃいけないのは空を飛んでいる魔物にぶつからない様にする事らしいよ。次に浮遊する岩礁だね」
「異世界の空って不便なんだね。だから飛行機の発展が中途半端なのかな?」
お義父さんがお疲れで遠い目をしておりますぞ。
「まあ、アタイからしたら大型飛竜に乗った旅の方がまだ気楽かねぇ……」
「そっちは元康くんが嫌がるからね。移動の速度とかは速くて便利だけど、タクトはよくもまあこんな代物を推進したものだね」
「転生者ですからなぁ」
「そう考えるとタクトの前世っていったいどんな人物だったんだろう。タクトの人生から余計な物を取り除くと見えて来たりしないかな?」
お義父さんは興味ありげに分析を始めました。
何分俺はこの手の推測があまり得意ではないですからな。
出来なくはないですが大体勘違いしてしまうのですぞ。
稀に的中しますが、それよりもお義父さんの方が当たりやすいので考えるのはやめておきましょう。
「女好きってのは外して……銃器の量産や開発はしていて……飛行機も作らせていた」
お義父さんは飛行機の窓から外を見つめて目を細めますぞ。
「ミリタリー趣味のオタクとかその辺りだったのかな? 銃とか世界法則的に非効率な技術をゴリ押ししていたみたいだし……世界規模で問題ないものは精々製紙技術くらいか」
「紙など容易く作れるのでないですかな?」
「その辺りはケースにもよるかもしれないよ。紙にするのに向いている植物とか色々とね。この世界では羊皮紙もかなりメジャーだったらしいし……」
「まあ紙に関しちゃ近代のフォーブレイが広めたのは確かだねぇ。お陰でその手の書類の値段が下がったのは確かだよ」
「生産性が向上した……って所かな? あとは酸性紙を中性紙に変えていった……とか?」
「俺も聞いた事がありますな。長年持つようになった紙が中性紙でしたな」
「うん。俺達の世界では昔の紙って劣化が早かったんだけど、最近は中性紙っていう長持ちする紙になったって話だね」
「……ん? そういえばループする前にそんな話があったような」
語る事もない、最初の世界が平和になった後の記憶ですぞ。
不機嫌なお義父さんが紙を見ながら愚痴っていたような。
「確か……タクトが推進した紙は長持ちしないとかなんとか……」
「……この世界で一般的に使われていた植物でできた紙が中性紙に性質が近くて、タクトが広めたのは酸性紙って事? コストは低くてもそれじゃあ保存には向かないんじゃ?」
本末転倒ですな。
やはりタクトは害悪ですぞ。
発明品一つにも色々と裏があったのでしょうな。
お義父さんは中性紙に例えましたが、未来のお義父さんは確か……粗悪量産品と仰っていました。
作ったばかりの頃は高品質低コストなのですが、通常よりも品質の劣化が早い……先取りの品質なんだとか。
逆にこんな物を作る方が難しいとお義父さん達は仰っていました。
「転生者達の発明は未来に情報を残す事を避ける傾向があるみたいですぞ」
そう言った意味でタクトは世界を既に荒らし回っていたのでしょうな。
叩けば無数に埃が出て来たそうですぞ。
「需要という意味では必ずしも悪い訳じゃないんだろうけど……そうなるとこの飛行機も問題を抱えて居そうだね」
「その辺りは各国の職人達が問題をある程度解決して行った……かと思いますぞ」
これも随分と曖昧なのですぞ。
ただ、お義父さんが色々と婚約者達と話し合って解決していたのを覚えております。
少なくとも飛行機械関連はその後もそこそこ需要がありましたからな。
ゼルトブルの技師等も協力して問題点の洗い出しをしたはずですぞ。
フォーブレイは元よりタクトが独占していた頃は名物にされてはいましたが、内部に関しての守りは硬かったみたいですからな。
まあ、自らの移動に使う乗り物だったのでタクトも手抜きはしなかったのでしょう。
アイデア等を形にしていたのは配下の豚だったとも聞きましたがな。
一応、タクトの資金援助があったからこそ、空を飛ぶ魔物によって衰退していた飛行機などが再現されたとかなんとか。
「最終的には一部の娯楽程度で収まった覚えもありますが」
「まあ……この世界では世話をすれば便利な乗り物になってくれる魔物がいるし……種族によっては飛べる人もいるしね」
「タクトが飛行機や飛行船を上手く運用できたのはドラゴン等を飼育して魔物避けもしていたのが理由だそうですぞ」
「あー……上位の魔物の放つ気配で魔物が近づかない様にする工夫か……その理屈だと俺達は大丈夫なの?」
「問題ないですぞ。仮に襲って来ても俺がドアを開けてエイミングランサーしますぞ」
デストローイですぞ。
経験値の足しにしてやりましょう。
「なんとなく意味はわかるけど……サクラちゃん達では魔物避けには使えないの?」
「フィロリアル様は慈愛を司る天使達。魔物避けは中々難しいでしょうな」
「色々と気になる所はあるけど、飛べる訳じゃないから舐められるのかもね……」
フィーロたんは飛べますがな。
確かお義父さんのお力で飛べるようになったのですぞ。
ああ……考えているとフィーロたんが飛べるようにしたあの時のお義父さんが居ればサクラちゃんとフィーロたんの両立の方法を教えてくれたかもしれません。
……このお義父さんもあの時のお義父さんみたいになってくれますかな?
ちょっと期待してしまいますぞ。
「元康くん? 俺の顔に何か付いている? 変な目で見てるけど」
「お義父さんがワシと自身を呼ぶような事態が起こらないか期待していますぞ」
「さすがにそれは無いんじゃない? 何キャラなのそれ?」
「悪の錬金術師キャラだったのではないですかな?」
「色々とあって捻くれたらしいしね。元康くんの知る俺って……だからってワシはどうかと思うけど」
なんだか話がずれてきたとお義父さんは仰いました。
確かにずれてきましたな。
……タクトの話をしていたはずですぞ。
「タクトの功績を探したら幾らでもボロと言うか、闇が出てきそうだなぁ……物語の主人公が解決した事件の裏側で起こっている悲劇とか、きっとあるんだろうね」
「それは俺達にもあった問題ですぞ。ゲーム知識で事件を解決していた俺が起こした問題、錬や樹が起こした問題等、それこそ無数に転がっておりました」
俺はバイオプラントの暴走、錬はドラゴンゾンビと生態系荒らし、樹は根本的な解決をしていない革命等ですな。
お義父さんの場合は……後にアクセサリーの高騰があったと知りましたな。
何でも神鳥の馬車……フィーロたんが引いた馬車の売り出すアクセサリーが一時期ブームになり、窃盗などの問題が起こったとか。
側面を見れば幾らでも転がっている問題なのでしょうな。
ただ……タクトの場合は抱え込んだ奴等しか得をしない事柄ばかりだったとの話を耳にしました。
タクト達が処刑された際、もろ手を上げて喜んだ技術者が居た……のでしたかな?
前のループでも判明していますが、ドケチなんだとか。
タクトの家からとてつもない金銭が見つかったなんて話もありました。
無駄に溜めこんでいたそうですぞ。
使いもせずに貯めるとは愚かも極まっていますな。
おそらく今回のループでも同様に没収されて被害者達に分配される事になるでしょう。
「うん……そうなんだろうね。俺達は全知全能の神様って訳じゃないんだ。出来る限りの解決はするけど、どうしようもない問題なら……どこかで切り捨てないといけないんだろうね」
難しい問題ですな。
結局、何をしても得をする者と損をする者が出て来ると言う事でしょう。
前回のお義父さんが話していたリソースの話ではありませんが、リソースが有限である以上、どこかで取捨選択をしなくてはいけない、という事ですな。




