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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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空中五回転

「ちょっと質問しても良いですかな?」

「ん? ああ、アンタは確か槍の勇者だったか。なんだい?」

「ゼルトブルの方に行く予定はなかったのですかな?」


 時期的にはゼルトブルの方にいるはずのパンダが何故シルトヴェルトの方にいるのかよくわからないので聞いてみました。

 コヤツも信用出来る存在である以上、居場所を知っておくのは後々役に立つかもしれません。


「妙なことを聞くねぇ。そりゃ面白い事がなかったら行こうかと思っていたけど、シルトヴェルトの争いの火種にもなりえる盾の勇者が向かってるなんて聞いてたら少しくらい様子を見るもんだろ?」


 つまりシルトヴェルトからゼルトブルに行かずに待っていたらシルドフリーデンとの戦争が勃発したのでそのまま傭兵として参加したという事ですかな?

 なんとも……傭兵というのは豪気な連中ですな。

 人生を楽しんでいる感じがして、共感出来る部分がありますぞ。


「ま、槍の勇者が敵の本隊を潰していた所をアタイは見てたよ。楽な戦いだったさ」

「そうだね。元康くんのお陰で楽勝だったのは間違いないよ」

「これからどんな戦いが来るかは興味があるけどねぇ……そういう訳で色々と頼むとするよ」


 なんて訳で挨拶を俺達は終えました。



 それからお義父さんが若干興味ありそうな様子で俺に声をかけてきました。

 一時解散といった様子でしたので俺はユキちゃん達、フィロリアル様のいらっしゃる庭に行こうとしていた所ですぞ。

 その廊下での事です。


「で、元康くん、あのラーサズサさんって何かあるの?」

「ループ時に稀にお義父さんと一緒に活動する事がある仲間ですな。場合によってはツメの勇者に選ばれることもありますぞ」

「へー結構優秀なんだ?」


 どうですかな?

 キールなど、適性のある者に犬に戻る方法を教えたりしていたのは覚えておりますぞ。

 戦闘能力に関しては弱くはないでしょうな。

 少なくともゼルトブルのコロシアムである程度活躍出来る程度には優秀のはずですぞ。


「マルチリンガルでいろんな国の言葉を話せる以外だと守銭奴ですな」


 財宝が大好きでお姉さんのお姉さんがサルベージ業で得た宝にご執心でした。


「それは昨日、直接話をした範囲でわかってるかな」


 そこはわかりやすい点ですぞ。

 まあ、アヤツは傭兵ですからな。

 金に目聡いのも当然と言えるでしょう。

 俺としてもその点で不満を述べるつもりはありませんぞ。


「後はそうですな。あれで実は少女趣味で可愛い恰好をすることに興味があるけど、世間体を気にして手を出せないのでしたな」

「なにそれ、ギャップ? かなり可愛い所じゃない?」

「その辺りをよくお義父さんが弄っておられましたな」


 お義父さんとお姉さんのお姉さんのおもちゃにされておりました。

 あのパンダも満更でも無さそうでしたがな。


「宴でもみんなを自然と盛り上げていたし、中々楽しそうな人なんだね。直接言ったら怒りそうだけど」


 なんて感想をお義父さんは漏らしておりました。


「俺が興味を持ったから勧誘されちゃった訳だけど……大丈夫そうだから良いかなー」

「ちなみに豚に変身する能力を持ってますぞ」

「元康くんのその言い方だと亜人姿も持ってるのかー。後で見せてもらおう」


 などと話していたらフィロリアル様のいらっしゃる庭に到着しました。

 俺はフィロリアル様達のお世話という素敵な一時を楽しみますぞ。


「ほーら! みんな!」

「「「わー!」」」


 お義父さんが木の枝を投げて取らせる遊びをしておりますぞ。

 それを見てシルトヴェルトの獣人達もそわそわしております。

 お義父さんの遊びはみんなの本能を刺激しますからな。

 もちろん俺の本能もフィーバーですぞ。

 俺も参加しますかな!


「しっかりキャッチするんだよ! えーい!」

「とう! ですぞ」


 お義父さんの投げた木の枝に向かって素早く接近し、空中五回転捻りを加えながら華麗に口でキャッチして着地して見せます。

 そして急いでお義父さんの下へ駆けつけますぞ。

 どうですかな? 俺の忠犬具合は。

 キールの数倍は忠義に厚いと思いますぞ。


「……」


 お義父さんが俺の方を見ながら沈黙しておりますな。

 きっと俺の溢れんばかりの忠誠に感動しておられるのでしょう。

 この信頼に応えられる様に今まで以上にがんばっていきますぞ。


「素晴らしいですわ元康様! 木の枝を取るにしても、ここまで優雅に取る事ができるのですわね」


 お義父さんの遊びに、あんまり関心を持っていなかったユキちゃんが、俺の取り方をとても気に入ったようですぞ。

 やはりユキちゃんは高貴な物に反応しますな。


「んー? 楽しそう?」

「普通に取るよりも面白いのかも?」

「少し飽きてたからやってみよー」

「ああ……なんか妙な遊びに発展して行ってる……」


 お義父さんが諦めたようにがっくりとした後に俺から受け取った木の枝を再度投げました。

 するとフィロリアル様達が挙って芸術的な飛び方を真似し始めたのですぞ。

 高度な技術を競う棒取りの歴史の始まりでしたな。


「しかし……戦争をやった翌日だというのにあまりにも平和っぽいのがなんとも不思議な感じだね」

「今までの周回だと戦後処理はありましたが生活自体にそこまで変化はないですぞ。というよりもこれからが色々と大変になる感じではないですかな?」


 ループ直後なので俺の認識は若干ズレているでしょうが、おそらくそんな感じになると思いますぞ。

 ですが俺とお義父さんが居れば怖いもの何てありませんぞ。


「……そうなんだよねー。タクトの残党を根絶できている訳でもないし、今は仮初の休暇って感じなんだろうね……というか、何をしたらいいのやら」

「俺達がすることなどそんなにないですぞ」

「まあね。結局は世界を破滅させかねない波へ挑む事なんだもんね。戦争とか政治的なやり取りなんて本来は勇者のやることじゃないんだ。だから波に備えて行こうね」

「もちろんですぞ」


 こうして俺達は波に備える決意をより固めたのですぞ。

 お義父さんの言う通り、波を乗り越えて世界を救って見せますぞ。




 三日後

 朝食を終えた俺たちにシルトヴェルトの者達がやってきたのですぞ。

 玉座の間に座らせられてお義父さんが話を聞くことになりました。


「え? フォーブレイから直々に俺達に召集?」

「はい。今回の戦争に関する事やタクトに関する問題、シルドフリーデンに関する事などを踏まえて、まずは盾の勇者様へ直々に話がしたいとフォーブレイからの伝言です」

「自国の勇者が問題を起こしておきながら……勇者伝説に胡坐を掻く国め」


 などと重鎮共は歯に衣を着せずに呟いております。

 その通りなはずですが、国家情勢などもあって直接言えないのでしょうな。


 なんだかんだ言ってフォーブレイの王族には盾の勇者の血筋も組み込まれているそうですぞ。

 宗教の規模や自由の度合いもあってシルトヴェルトの方が若干分が悪いのですな。

 しかもシルトヴェルト側も少し勘違いしておりますぞ。


 確かタクトはあくまでフォーブレイ出身の偽勇者であり、フォーブレイ専属ではなかったはず。

 このあたりの線引きが分かり辛いのが問題ですな。


 具体的にはフォーブレイで勇者召喚を行ってお義父さんが呼び出されたら盾の勇者はフォーブレイの勇者としてシルトヴェルトは認めますかな?

 その理屈ではメルロマルクに呼び出されたお義父さんの立つ瀬がないですぞ。

 まあシルトヴェルトの者達が言いたいのは話がしたいならお前が来い、ですな。


「まあ、フォーブレイならポータル位置を持っているので1日もかからずに行けますぞ」

「そんな訳だからあんまり気にしない方向で」

「おお……さすがは勇者様方。その慈悲深さに感謝します」


 お義父さんの言葉にシルトヴェルトの者達も頭を下げておりますぞ。


「とは言ってもフォーブレイはタクトが本拠地にしていた国でもある訳だしなぁ……何か罠が仕掛けられていないか、十分に注意していかないとね」

「そうですな。下手をすると第二第三のタクトと呼べる奴がいる可能性は否定できませんぞ」

「どういうこと? タクトの残党だけじゃないの?」


 おや? お義父さんにこの事を説明していませんでしたかな?

 ああ……確かこの情報はもっと後の世界で知るはずですぞ。


「お義父さんも薄々わかっているとは思いますが、タクトは波の黒幕が遣わした尖兵……日本人の前世を持つ転生者だとお義父さん達はおっしゃっていましたぞ」

「転生者……タクトの能力は七星武器を独占する事ができる……波の黒幕から授かった……なるほど、そんな奴がタクトだけだなんて言いきれないね」

「最初の世界ではタクトがほかの転生者を大体駆逐していたのですが、この世界ではまだできていないはずですぞ。そんな奴が台頭するにはいい機会なのではないですかな?」


 アヤツ等は根本的には敵同士ですからな。

 タクトがそうだった様に邪魔な奴は同郷の者でも平気で蹴り落とすのですぞ。


「確かに……あんまり時間を掛けすぎるとそれはそれで危なそうだね」

「勇者様方の話ですが、私共には何の事か……」


 俺達が真面目な話をしているのを察して周囲の者達が不思議がっています。

 まあループや転生者の話は面倒で複雑ですからな。しょうがないですぞ。


「雰囲気的に、今回の戦争を起こした原因であるタクトって奴に似た奴が出てくるって事くらいはわかるんだけどねぇ」

「大体間違いないかな……そういった連中が台頭する危ない土壌が構築されつつあるからどっちにしてもフォーブレイに行って世界規模で厳戒態勢は必要だって話だよ」

「なるほど。かの国の難題に応じるだけではなく、こちらからも提案する……大事な事です」

「どっちにしても必要な事だから、やっていこう」

「行きますかな?」

「うん。まあ少し危ないかもしれないから少数精鋭で行った方が良いね」


 そんな訳で俺、お義父さん、ユキちゃんにサクラちゃん、コウ、そしてパンダとシュサク種の代表がフォーブレイに行くことになりました。

 シュサク種の代表はフォーブレイ王への謁見補助ですな。

 最初の世界で言う所のメルロマルクの女王と同じポジションですぞ。

 他にも行きたいと駄々を捏ねる者達もおりましたが、話し合いの末に留守番してもらいました。


「姉御ー……」

「情けない声を出すんじゃないよ! 二度と会えなくなる訳じゃないんだからね!」


 パンダの部下などもそうですな。

 聞き分けは良いのですが、同行をしたがる弟分と言った感じですぞ。

 こやつ等の気分は少なからず理解出来ますな。


「ったく、あいつ等はなんかあるとアタイに付きまとうんだから……」


 パンダが愚痴っていますぞ。


「それだけラーサさんが慕われてるって事なんじゃない?」

「そりゃそうなんだけどねー。シルトヴェルトでこれだけの仕事を受け持っている立場になってもあんな声を出されたらねぇ……」

「気持ちはわかるような気がする。自立してほしいとは思うけど、なんかちょっとかわいい所があるなって俺は思っちゃうな」

「チッ!」


 パンダは若干不快そうですが、それ以上は言いませんでした。

 お義父さんはそんなパンダを見ております。

 そういえばお義父さんはお姉さんのお姉さんの様に、面倒見の良い守ってくれる女性が実は好みなのでしたな。

 この点でいうと今のパンダは十分に該当するのでは?


「では出発ですぞ。ポータルスピア!」


 転移スキルを使って俺はフォーブレイへの転移を作動させますぞ。

 一瞬で俺達はフォーブレイの城へと飛びました。




「おお……話には聞いていましたが、ここまでとは……」


 シュサク種の代表が驚きの声を上げていますぞ。


「俺の持ってるポータルシールドは元康くんのに比べて行ける範囲が少ないからね」

「転移位置の共有は可能ですぞ。しっかりと取っておけばお義父さんでも使用可能ですぞ」

「まあね。だけどなんか不思議な感じというか、元康くんがループして、また来てくれたんだって実感できる瞬間な気がする」


 そういえばそうですな。

 あの時の俺が行ける範囲はメルロマルクからシルトヴェルトまでの道だけでした。

 そこから考えれば随分と行ける場所が増えましたな。

 お義父さんからすると突然行ける範囲が増えたというのは間違いないかもしれません。


 そういう意味では俺はあの時の俺ではありませんぞ。

 よりパワーアップして来ましたからな!

 今の俺ならタクトの百匹や二百匹、束になって掛かってきてもデストロイできますぞ。

 それこそ前回の様に一捻りにしてやります。


「では早速フォーブレイ王への謁見を致しましょう」

「既に城内が占拠されている、なんて展開はないのですかな?」


 若干警戒は強めるべきですぞ。

 少なくともタクトならそういう手を使ってくる可能性がありますぞ。

 最初の世界の様に、ですな。


「確かにそうだね。タクトの残党ってLvだけは高い人が多いから……」

「まあ、速攻で返り討ちにしてやりますがな。ですが俺も全能ではありません。お義父さん達は注意するのですぞ」


 そういえば今のお義父さんは守りやすい結界を作るスキル、流星盾を習得していましたかな?

 アレは俺の知る範囲だとメルロマルクの武器屋か、もしくはゼルトブルでコピー可能な隕鉄の盾が元だったはず。

 後々行かねばなりませんな。


 まあ、タクトの様な奴がまた出てきて罠に掛ける……一斉射撃をされたって今の俺は全く怖くないですぞ。

 ぶっぱなされる前に皆殺しにしてやりますからな。


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